罰ゲーム二個目⑬
ほんと、マリアの言っている事に同意するのは癪なんだけど、アタシはライバルの意見も、正しければ素直に認められる器もデカい女だし、何より、ギンちゃんに関する事なので、ここは悔しさを飲み込もう。
「これで、今日はゆっくりできるよ」
疲れたアピールをあからさまにするように、アタシが肩をクルクルと回しながら言うと、ギンちゃんはアタシの頭を撫でてくれる。
「お疲れ様」
「子供扱いしないでほしいなぁ」
「ごめん、ごめん」
「でも、アタシはまだ、未成年なので、もっと、頭を撫でられる事を望みます」
アタシの言い様に、「ぶはっ」と、ギンちゃんは珍しく、可笑しそうに噴き出す。
「ちょっ、ヒドくない!?」
「いや、掌返しが凄すぎて。
そうか、未成年なら仕方ないね」
くくくっ、と笑いながら、ギンちゃんはアタシの頭を優しく撫で続けてくれる。
ギンちゃんの大きい手の感触を頭全体で堪能して、アタシは幸せな気持ちになるけど、笑われた屈辱をそのままには出来ない。
五分ほど、ギンちゃんに頭を撫でさせ、「もういいよ」と解放してあげる。
「よし、ギンちゃん、勝負だよ!!」
「え?」
「せっかく、こんな早く、課題を終わらせたんだから、遊ばなきゃもったいないじゃん」
「課題が終わったなら、復習か予習をするって手もあるけど」
「!? 今日は、もう、勉強はしたくありませんっっ」
泣きそうな顔でアタシが叫ぶと、ギンちゃんは困ったように笑いながらも、肩を竦める。
「そうだね。無理に詰め込んでも、身にならないか」
「その通りだよ、ギンちゃん」
「遊ぶと言うか勝負は良いけど、何で勝負するの?」
「戦争」
アタシが物騒な単語を口にしても、ギンちゃんは、さほど動じず、「了解」と頷いて、棚からトランプを持ってきてくれた。
トランプゲームの一種である「戦争」の遊び方は、とてもシンプルだ。
まず、ジョーカーを抜いた52枚を丁寧にシャッフルし、一枚ずつ、裏向きで配っていく。
配り終えたそれを二つの山とする。この時、山の中身は両方ともチェックしちゃいけない。
お互い、上の一枚を場に掛け声と同時に出して、数が大きかった方が勝ちだ。
勝った方が、場に出した2枚を貰える。
当然、同じ数が出る事はある。そしたら、もう一回、山の一番上のカードを出し合う。
この時、数が大きかった方は、場に出ている4枚をゲットできる。
つまり、同じ数が続くほど、場にカードは溜まっていき、勝てば総取りできる仕組み。
互いの山が無くなった時に、取ったカードが多い方が勝者ってゲームだね、この「戦争」は。
(この運任せのゲームなら、アタシでもギンちゃんに勝てる!!)
身体能力では、性別云々の前に、鍛えているギンちゃんに、アタシが勝てる可能性は0だ。
リバーシや将棋みたいに、先の展開を読む頭の良さが大事になるゲームでも、勝てる気がしない。
だけど、運の要素が大事になってくるタイプのゲーム、つまり、「戦争」なら、勝ち目はあった。
少しでも勝てそうな方法で挑む、これは、決して卑怯じゃない。
マリアには蔑みの視線を向けられ、翡翠には溜息を吐かれ、瑠美衣には大笑いされそうだけど、アタシは何が何でも、ギンちゃんに勝ちたい。
ギンちゃんは、いつものように、惚れ惚れとする手捌きでトランプをシャッフルし、カードを自分とアタシに配っていく。
アタシの所へカードをピッと投げてくる仕草は、マヂにカッコイイ。
もちろん、その様を、アタシは撮影している。
イカサマを疑っている訳じゃなく、ちょっと、メンタルが落ちそうな時に見返して、元気を出す用のストックにする為。
「はい、配り終えたよ」
「ギンちゃん、正々堂々と勝負だよ。手抜きしたら、許さないからね」
「この『戦争』で手を抜くって難しいよ」
「い、いいの、ノリで言っただけなんだから!!」
プクゥと頬を膨らませたアタシに、ギンちゃんは微笑む。
慈愛に満ちたギンちゃんの表情に、アタシは顔が上気するのを感じたけど、気を抜いちゃダメ、と頬をパシパシ叩いて、喝を入れる。
「じゃあ、始めるよ、ギンちゃん」
「「せーのっ」」
最初の一枚は、アタシがハートの9で、ギンちゃんがスペードの5だった。
「アタシの勝ち!!」
「ありゃ、幸先が悪いなぁ」
さほど悔しそうにせず、ギンちゃんは自分のカードをアタシの方に押してきた。
(うん、やっぱり、これなら、アタシでもギンちゃんに勝てるかも・・・)
アタシは勝利を確信しながら、二枚目を取るべく、山に手を伸ばす。
でも、アタシは失念していた、勝利を確信した時、人は敗北しているって事を。