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宇津路くん、アソびましょ  作者: 『黒狗』の優樹
罰ゲーム二個目
29/110

罰ゲーム二個目⑬

 ほんと、マリアの言っている事に同意するのは癪なんだけど、アタシはライバルの意見も、正しければ素直に認められる器もデカい女だし、何より、ギンちゃんに関する事なので、ここは悔しさを飲み込もう。


 「これで、今日はゆっくりできるよ」


 疲れたアピールをあからさまにするように、アタシが肩をクルクルと回しながら言うと、ギンちゃんはアタシの頭を撫でてくれる。


 「お疲れ様」


 「子供扱いしないでほしいなぁ」


 「ごめん、ごめん」


 「でも、アタシはまだ、未成年なので、もっと、頭を撫でられる事を望みます」


 アタシの言い様に、「ぶはっ」と、ギンちゃんは珍しく、可笑しそうに噴き出す。


 「ちょっ、ヒドくない!?」


 「いや、掌返しが凄すぎて。

 そうか、未成年なら仕方ないね」


 くくくっ、と笑いながら、ギンちゃんはアタシの頭を優しく撫で続けてくれる。

 ギンちゃんの大きい手の感触を頭全体で堪能して、アタシは幸せな気持ちになるけど、笑われた屈辱をそのままには出来ない。

 五分ほど、ギンちゃんに頭を撫でさせ、「もういいよ」と解放してあげる。


 「よし、ギンちゃん、勝負だよ!!」


 「え?」


 「せっかく、こんな早く、課題を終わらせたんだから、遊ばなきゃもったいないじゃん」


 「課題が終わったなら、復習か予習をするって手もあるけど」


 「!? 今日は、もう、勉強はしたくありませんっっ」


 泣きそうな顔でアタシが叫ぶと、ギンちゃんは困ったように笑いながらも、肩を竦める。


 「そうだね。無理に詰め込んでも、身にならないか」


 「その通りだよ、ギンちゃん」


 「遊ぶと言うか勝負は良いけど、何で勝負するの?」


 「戦争」


 アタシが物騒な単語を口にしても、ギンちゃんは、さほど動じず、「了解」と頷いて、棚からトランプを持ってきてくれた。

 トランプゲームの一種である「戦争」の遊び方は、とてもシンプルだ。

 まず、ジョーカーを抜いた52枚を丁寧にシャッフルし、一枚ずつ、裏向きで配っていく。

 配り終えたそれを二つの山とする。この時、山の中身は両方ともチェックしちゃいけない。

 お互い、上の一枚を場に掛け声と同時に出して、数が大きかった方が勝ちだ。

 勝った方が、場に出した2枚を貰える。

 当然、同じ数が出る事はある。そしたら、もう一回、山の一番上のカードを出し合う。

 この時、数が大きかった方は、場に出ている4枚をゲットできる。

 つまり、同じ数が続くほど、場にカードは溜まっていき、勝てば総取りできる仕組み。

 互いの山が無くなった時に、取ったカードが多い方が勝者ってゲームだね、この「戦争」は。

 

 (この運任せのゲームなら、アタシでもギンちゃんに勝てる!!)


 身体能力では、性別云々の前に、鍛えているギンちゃんに、アタシが勝てる可能性は0だ。

 リバーシや将棋みたいに、先の展開を読む頭の良さが大事になるゲームでも、勝てる気がしない。

 だけど、運の要素が大事になってくるタイプのゲーム、つまり、「戦争」なら、勝ち目はあった。

 少しでも勝てそうな方法で挑む、これは、決して卑怯じゃない。

 マリアには蔑みの視線を向けられ、翡翠には溜息を吐かれ、瑠美衣には大笑いされそうだけど、アタシは何が何でも、ギンちゃんに勝ちたい。

 ギンちゃんは、いつものように、惚れ惚れとする手捌きでトランプをシャッフルし、カードを自分とアタシに配っていく。

 アタシの所へカードをピッと投げてくる仕草は、マヂにカッコイイ。

 もちろん、その様を、アタシは撮影している。

 イカサマを疑っている訳じゃなく、ちょっと、メンタルが落ちそうな時に見返して、元気を出す用のストックにする為。


 「はい、配り終えたよ」


 「ギンちゃん、正々堂々と勝負だよ。手抜きしたら、許さないからね」


 「この『戦争』で手を抜くって難しいよ」


 「い、いいの、ノリで言っただけなんだから!!」


 プクゥと頬を膨らませたアタシに、ギンちゃんは微笑む。

 慈愛に満ちたギンちゃんの表情に、アタシは顔が上気するのを感じたけど、気を抜いちゃダメ、と頬をパシパシ叩いて、喝を入れる。


 「じゃあ、始めるよ、ギンちゃん」


 「「せーのっ」」


 最初の一枚は、アタシがハートの9で、ギンちゃんがスペードの5だった。


 「アタシの勝ち!!」


 「ありゃ、幸先が悪いなぁ」


 さほど悔しそうにせず、ギンちゃんは自分のカードをアタシの方に押してきた。


 (うん、やっぱり、これなら、アタシでもギンちゃんに勝てるかも・・・)


 アタシは勝利を確信しながら、二枚目を取るべく、山に手を伸ばす。

 でも、アタシは失念していた、勝利を確信した時、人は敗北しているって事を。

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