罰ゲーム二個目⑧
「うん、残念だけど、今、キララちゃんは世界で一番、幸せじゃないよ」
アタシはショックを隠せず、プルプルと震えてしまう。
そんなアタシの動揺に気付いているのかいないのか、背中からは全然、読ませてくれないギンちゃんは、自分の朝ご飯を作る、無駄なく、スピーディーに、でも、適当だ、とは感じさせない手を止めたりしない。
何だか、ムッと来てしまったアタシは、トゲトゲしい声で、ギンちゃんの大きくて、逞しくて、おんぶしてもらうと温かい背中にぶつけるような勢いで聞き返した。
「じゃあ、今、ギンちゃんが作ってくれたパンケーキを食べて、幸せでオッパイの中がイッパイになってるアタシより、世界で一番、幸せなのは誰なの!?」
「そりゃ、俺に決まってるよ」
「・・・・・・・・・は?」
反応が出来るまでに、かなりの間を置いてしまうアタシ。
きっと、その十秒間くらい、アタシは大マヌケな面構えだったに違いない。
もし、この場に、マリアたちがいたら、その顔を撮られてたかも。危ない、危ない。
それに後で気付いて、オッパイをアタシは安堵で撫で下ろすんだけど、この時のアタシは、ますます、混乱してしまっていた。
「え、ギンちゃんが、アタシよりも幸せなの?」
「うん、悪いけど、キララちゃんは、世界で二番目に幸せだね、今。
まぁ、女の人に限定したら、一番だろうけどね。
人って広げたら、やっぱり、俺だよ」
「何で、ギンちゃんが、アタシよりも今、世界で一番、幸せな人になるの?」
もう、ギンちゃんが、何を言いたいのか、アタシにはサッパリだったもんだから、さっきまで、あれだけ、腹の底から巨乳まで届くほど、グツグツ沸いていた憤怒りなんて、どっかにすっ飛んでいた。
「アタシは、こんなに美味しいパンケーキを食べられているんだから、世界一、幸せだと思うんだけど」
「そりゃ、キララちゃんみたいな可愛いギャルに、自分の作った料理を食べて貰えて、その子が笑顔で『凄く美味しい』って言ってくれるんだよ?
なら、その料理を作った俺が、今、世界で一番、幸せに決まってるよ」
「・・・・・・可愛いアタシが、笑顔で、美味しいって感想を言ってくれるから、ギンちゃんが今、世界で一番、幸せな人なの?」
「そうだよ」
ここで、ギンちゃんは、まさかの答えに、呆気に取られてしまっているアタシの方を振り向いて、ニッコリと笑った。
「俺の作った料理を、今日も美味しく食べてくれて、ありがとうね、キララちゃん」
「!!!!」
ギンちゃんの笑顔は、本当に破壊力が凄い。
「好き」には絶対、収まり切らない、「大大大大大好き」が、体を内側から突き破るような勢いで爆発したアタシは、衝動的に、ギンちゃんの背中に抱き着こうとしてしまう。
けど、アタシが腰を浮かせたタイミングを、まるでドンピシャで狙ったように、ギンちゃんは朝食を作り終えた。
そして、妙な体勢で固まってしまっているアタシに、ギンちゃんは怪訝な表情を浮かべながら、自分の朝食をトレーに乗せ、こっちへ歩いて来てしまう。
(くぅ、あともうちょっとだったのに!!)
ギンちゃんのニブさと言うか、妙なタイミングの悪さの所為でギンちゃんに抱き着けなかった悔しさが、アタシのGカップの中で荒れに荒れる。
そんな悔しさを掻っ消すには、ギンちゃんがアタシの為だけに作ってくれたパンケーキを食べるしかない。
さっきは、リンゴジャムを乗せたので、今度は、オレンジマーマレードを乗せる。
もちろん、このオレンジマーマレードも、ギンちゃんが自分で作った。
酸味は強めなんだけど、後味はスッと引く爽やかな感じで、口の中に残らない。
パンケーキに乗せると、酸味がほのかな甘さで良い具合に調和され、リンゴジャムと一緒に食べた時とは違う、でも、負けてない甘酸っぱさが広がっていく。
「あぁ、美味しいなぁ」
「やっぱり、俺は今、世界で一番、幸せだね」
ニコニコ顔のギンちゃんに、両頬をプクッと膨らませたブス面は見せたくなかったから、アタシは負けん気を発揮する。
「アタシは、世界で一番、幸せな女だから良いんだもんね」
自分でも負け惜しみが過ぎるとは思ったけど、それをギンちゃんに悟られるのも、「キィィィ」ってなるから、アタシは女優力をフルに発動させる。
再び、アタシは一口大に切ったパンケーキをハチミツに浸し、口の中へ押し込みながら、ギンちゃんの朝食を観察する。
今朝、ギンちゃんが、自分で作った朝食は、目玉焼き入りのトーストに、ベーコン、法蓮草、玉葱の炒め物、レタスとトマトのサラダ、インスタントのコーンポタージュ、そして、ブルーベリージャムを入れたヨーグルト。飲み物は、無糖のアイスティーだった。