罰ゲーム二個目⑤
「はい、お待たせしました、キララちゃん」
「やった~」とアタシは、イン〇タにアップしたいくらい、最高の笑顔で、パンケーキの完成を喜んでしまう。
そんなアタシのリアクションに、ギンちゃんは苦笑も嘲笑も浮かべず、アタシが喜んでくれる事を心から喜んでいるのが丸判りの笑顔で、二枚のパンケーキが乗った皿をテーブルへ持っていてくれた。
「いただきます!!」
ギンちゃんの朝ご飯はまだ出来上がっていないけど、ギンちゃんが「先に食べていい」と言ってくれたので、アタシは遠慮なく、パンケーキを先に食べさせてもらおう、と椅子に腰を下ろした。
何より、ギンちゃんの作ったパンケーキの「寿命」は短いんだから、一秒でも早く食べなきゃ、作ってくれたギンちゃんに失礼なんだよ。なので、アタシは堂々と手を合わせるの。
「よしっ、食べちゃうぞ!!」
「そこまで気合を入れて貰えると、作った側としては嬉しいなぁ」って嬉しそうに言いながら、ギンちゃんは、自分の朝ご飯を作り出す。
ほんのちょっとだけ申し訳ない気持ちはあったけど、アタシは、その罪悪感を振り切って、目の前のパンケーキと真摯に向き合う。
むしろ、ギンちゃんは、アタシが気を遣って待っているのを嫌がるんだよね。
美味しく作ったモノを最高のタイミングで食べて欲しいってのもあるみたいだけど、それ以上に、アタシがお腹が空いた状態で、自分を待っているのに耐えられないみたい。
隙あらば、アタシのお弁当から、ギンちゃんの作ってくれたおかずを奪おうとする翡翠や瑠美衣の図太さを見習っても良いくらいじゃないかな。
アタシとしても、ギンちゃんの胃に穴が開いちゃうのは本意じゃないからね。
早速、アタシはスマフォで、目の前のパンケーキを撮る。
ギンちゃんにパンケーキを作って貰うたびに撮っているんだけど、毎回、ベストショットになるポジションが違うから、大変だけど、撮り直している時間もないから、直感に身を任せるしかない。
「よし・・・次は、目で楽しむ」
「寿命」な時間が、わずかであるのは、アタシも承知している。
だからこそ、その短い時間で、まずは、パンケーキを眼で愉しむ、それがマナーだ。
アタシは、視線で、パンケーキを一口大にカットするような圧を放ち、しっかりと、ありとあらゆる角度から凝視する。
駅前のお洒落カフェ「バキ・ドゥ」の看板商品、パンケーキセット(¥2000)は、月に一回はテレビで紹介されるくらい、とっても有名。
そのパンケーキの見た目は、もはや、芸術的。美術館に飾ってもいいくらいだ、とアタシは思っている。
そんなパンケーキに、ギンちゃんのそれは、絶対に負けてない、とアタシは断言している。
パンケーキに限らず、どんな料理でも、やっぱり、見た目が大事だよ。
味が最高であるなら、見た目も最高でなきゃ。見た目が最高なら、食べた時に感じる「美味しい」は、見た目が最低のモノよりも、凄く強くなる。
ギンちゃんのパンケーキは、もう、見た目からして美味しいの。
見ているだけで、美味しいって解って、なおかつ、食べたいってお腹が空いてくるんだ。
けど、視ていられる時間は、30秒しかない。一日中、視ていたいのに、30秒しか視ていられない。
写真には撮っているけど、肉眼で視ている時の感動には、ちょっと足りない。
アタシの撮影テクニックが低いのもあるんだろうけど、悲しいよぉ。
まじぴえんって、こうゆうことだね。でも、そのカタルシスが、アタシの食欲を刺激してくれる。
「次は、鼻で楽しむ」
残り時間を気にしつつ、アタシはお皿をそっと持ち上げ、パンケーキを鼻に近づけていく、慎重に。
持ち上げずに、テーブルの上のお皿へ顔を近づけるなんて、お行儀の良い真似は、立派なレディなアタシはしない。
ドキドキとするアタシはパンケーキの表面で、ゆらゆらとセクシーに踊る白い湯気を軽く吸い込んだ。
「ッッッ」
その瞬間に、アタシは、色とりどりのお花畑に立っている自分の姿を幻視ちゃう。
前回は、もこもこの兎に囲まれているアタシ、その前は、商店街の福引でブランドモノのバッグを当てたアタシが幻視えた。
このイメージ映像は、パンケーキから立ち昇る甘く、香ばしく、エロい芳香が、脳にダイレクトで激突するからこそ見える代物。
次は、どんな映像になるんだろう、と楽しみ半分、不安半分に感じながら、アタシは、もう一嗅ぎする。
寝室のフレグランスにしたいほど、最高な香りが、アタシの学校の勉強だけはノーセンキューな脳味噌から、幸せを感じる物質をダバダバと出す。
あまり嗅ぎ続けると、蛇口が壊れたみたいに出まくって、アタシはアヘ顔を晒す羽目になっちゃうから注意は必要なんだけど、せめて、三嗅ぎくらいはしたい。