罰ゲーム二個目④
そんなアタシの、お風呂上り開口一番の台詞を、マリアに聞かれたら、絶対、不快さ丸出しの表情と、氷像にされそうなほど圧が強い視線で、こう言われちゃう。
「良い女は、そんなだらしない事を言いませんわよ」
でも、そんなアタシに甘々なギンちゃんは、ちょっとだけ苦笑いを浮かべるだけ。
「ちょっと待っててね、キララちゃん。って言うか、ちゃんと、髪乾かしてきた?」
「ギンちゃん、拭いてぇ」
「今、お腹空いたって急かさなかったっけ!?」
「それはそれ、これはこれ。
アタシは今、ギンちゃんに髪を拭いて貰って、セットして欲しいのッッ」
朝から我儘をかますアタシを、翡翠が見たら、間違いなく、アタシのお尻は二つに割れかねない威力で蹴られちゃう。しかも、そこに、瑠美衣がいたら、鼻の穴にワサビとカラシのチューブを突っ込まれて、中身をブビョッって、鼻の奥に出されてたかも。
だけどっ、今、ここには、アタシとギンちゃんしかいない。
だからっ、何の問題もないし、ビビる必要もナッシング!!
堂々と、ギンちゃんに我儘を言えちゃうもんね。
もちろん、アタシだって、付き合いが長いから、ギンちゃんが笑って許してくれるラインは、しっかりと見極めてるんだな、これが。
予想通り、ギンちゃんは、しょうがないなぁ、と苦笑いを深めながら、アタシの方にドライヤーとタオル、ブラシを持ちながらやってきてくれた。
ほぼ毎朝、アタシの髪をセットしてくれているから、ギンちゃんのテクニックは、プロに匹敵している。
無駄なんか、1mgもない動作で、ギンちゃんは、アタシの可愛さをドワッと引き出してくれる髪型にセットしてくれた。
「これで良し」
ギンちゃんが目の前に置き、なおかつ、手に持ってくれている鏡に、自分の顔や髪を映すアタシ。
いつも通りに、アタシは、これをギンちゃんに確認する。
「ギンちゃん、アタシ、今日も可愛い?」
「うん、今日も、キララちゃんは、凄く可愛いよ」
その辺の男は、アタシみたいな可愛いギャルに、こう聞かれたら、一瞬、面倒臭そうな顔をして、それと下心を隠した上で、「うん、可愛いよ」と答えるだろうね。
まぁ、そもそも、アタシは、ギンちゃん以外に、髪も体も触らせないし、わざわざ、その辺の男に、自分が可愛いか、なんて確認しない。アタシが、可愛いのは、アタシ自身が、一番、知っているんだから。
その辺の男に、「可愛い」なんて言われても、アタシ云々の前に、女の子は、ちっとも嬉しくない。
けど、ギンちゃんは、本気で、心の底から、一切の偽りなく、答えてくれるんだ。
おざなりでもなく、その場しのぎ感も感じさせない、イケメン、なおかつ、自分の好きな、幼馴染の男の子から言われる、「可愛い」は、マヂに、ギャルの可愛さを120、ううん、200%にしてくれる。
「そっか、今日も、アタシは可愛いか!!
おしっ、今日も、可愛いアタシは頑張っちゃうぞ。
じゃあ、ギンちゃん、パンケーキを特急でおなしゃすっ」
「はいはい」
「ハイ、は一回でしょ、ギンちゃん!!
ママは、ギンちゃんを、そんなお行儀の悪い子供に育てた覚えはありませんよ。
悪い坊やには、ママのパイパイをあげませんよッッ」
マリア、翡翠、瑠美衣だったら、無言で頭を引っ叩いてくるであろう、アタシのウザい絡みに対しても、ギンちゃんは、決して、イライラしない。
「キララちゃんに育てられた覚えはこれっぽちもないし、さすがに、もう、おっぱいを欲しがるような年齢じゃないよ、俺」
「いやいや、男の子は、何歳になっても、オッパイが好きでしょ?」
「・・・・・・否定できないのが悔しい限り」
カラカラと笑いながら、ギンちゃんはキッチンに戻っていく。
さすがに、アタシも、これ以上、フザけるのも気が咎めたから、軽口を叩くのを止めておく。
「何か、お手伝いする?」
「じゃあ、スープを作りたいから、電気ケトルに水を入れて、スイッチを入れておいて」
「了解」と、アタシは敬礼し、作業をこなす。
約5分くらいで沸くから、その間に、アタシはスープ用のマグカップに、粉末スープの素を入れておく。
「今日は、何にしようかな。
パンケーキだから味噌汁は合わないし、やっぱり、コーンスープかな」
そんな事を口に出して考えながら、アタシは引き出しの中を探る。
ギンちゃんは卵を割って、黄身と白身を分け、慣れた手つきでメレンゲを作っていく。
その作ったばかりのメレンゲを、焼く間際にパンケーキミックスの素に潰さないように、細心の注意を払って、さっくり混ぜる。
そして、温度の均等さも意識して焼くと、そりゃ、もう、見事に、ふわっふわっなパンケーキが出来上がるの。