罰ゲーム1個目①
「はい、俺の勝ちね」
「もうっ、また負けたぁ」
プクッと頬を膨らませたアタシは、自分の手の中に居座り続けたジョーカーのカードを、机の上の捨て札へ放り投げる。
「ギンくん、強すぎ」
アタシのそんな言葉に、ギンくんは薄ら笑いを浮かべる。
アタシは、周りが言うほど、ギンくんが他人を常に見下している、冷血な奴じゃない、と知っている。
でも、そんなアタシだからこそ、この薄ら笑いは、アタシを小馬鹿にしている、と察知った。
「キララちゃんが弱過ぎるんじゃないかな」
「!!」
「いちいち、顔に出過ぎなんだよ、キララちゃんはさ」
ポーカーフェイスが全然、出来ないアタシへ、嘲りの微笑みを浮かべるギンくんに、アタシは悔しくて、「キィィィ」と喚きたくなってしまう。
「ギンくんが、考える事、読めな過ぎなんだからね!!
その細い目がいけないんだよッッッ」
「人気者なギャルの負け惜しみは、聞いてて気持ちが良いなぁ」
ニタニタと笑いながら、ギンくんは机の上のトランプを片付け、箱へ丁寧に戻す。
本当に、几帳面だ。
こういうちょっとした面倒事を後回しにしないのが、ギンくんの良い所だな、とアタシが思ってしまい、怒りを持続できなくなっていると、ギンくんは机の上にあったお菓子の箱を手に取った。
そもそも、アタシとギンくんが、ババ抜きをしていたのは、友達から貰ったお菓子、その最後の一個をどちらが食べるか、を決めるためだった。
やはり、外国で買ってきたモノで、なおかつ、外箱を見ただけで高級だ、と一目で分かるだけあって、その味は、これまで食べてきたものとは別格だった。
つい、パクパクと食べ進めてしまい、気付いたら、最後の一個になってしまっていた。
いくら、ギンくんが相手でも、この最後の一個は譲りたくない、とアタシは彼にババ抜きで、最後の一個を食べる者を決めよう、と持ち掛けたのである。
「よし」と、ギンくんは二つ返事で私の挑戦状を受け取ってくれ、結局、私が敗北を喫したのである。
(最後、右のクローバーのKを取られなかったら、首の皮が一枚繋がってたのに・・・)
だけど、ここで、負け惜しみを繰り返したら、ギンくんに面倒臭い、ネチネチとした女だ、と思われてしまいかねない。
ギンくんに、そんな嫌なイメージを持たれるのは、アタシとしては絶対に嫌だった。
今後、自分じゃ買えないであろう、美味しいお菓子を食べられない悔しさをグッと堪え、ギンくんに嫌われないようにしなきゃ、と自分に言い聞かせていると、突然、そのお菓子を摘まんでいるギンくんの指が、私の口元へ差し出された。
「え?」
「はい、どうぞ、キララちゃん」
「え?」
「キララちゃん、食べたかったんでしょ?」
「いや、でも、勝ったのはギンくんだよ」
「そうだね、俺が勝った。
だから、このお菓子を、俺は好きにしていい。
つまり、キララちゃんにあげるのも、俺の自由じゃないかな。
俺に食べさせられる、それが、今回の罰ゲームってことで」
その言葉を聞いたアタシは、憤慨してしまう。
「それなら言ってくれればいいのに」
「欲しそうだったから、キララちゃんに譲るつもりだったのに、ババ抜きで決めようって言われたんじゃ、勝負を受けるしかないじゃん」
「ッッ」
そう言われてしまっては、アタシはぐうの音も出ないではないか。
「で、食べるの、食べないの、どっち?」
「食べたい」
「素直でよろしい。
はい、あーん」
ギンくんは、そのお菓子に負けないくらい甘々な笑顔を浮かべ、指で摘まんでいるお菓子をアタシの唇へそっと押し当ててくる。
ほんの一瞬だけ、アタシは躊躇った。
でも、女だって、度胸なので、えいやっ、と自分に気合を入れたアタシはお菓子を口にした。
勢い余って、ギンくんの指まで口に入り、しゃぶるように形になってしまう。
アタシの口から指をキュポンッと引き抜いたギンくんは、「危なかった」と苦笑いする。
「・・・美味しい。
ありがと、ギンくん」
「どういたしまして」
アタシがお菓子を美味しそうに食べるのを嬉しそうに見ながら、ギンくんはアタシの唾液塗れになっていた指をウェットティッシュで拭いていた。
(さっきよりずっと美味しい)
それは、きっと、ギンくんが「あーん」してくれて、なおかつ、ギンくんの指の味もプラスされていたからだろう。
やっぱり、アタシはギンくんが好き、ううん、大好きだな、と自分の素直な気持ちを再認識しながら、アタシはお菓子をゴクンッと飲み込んだ。