罰ゲーム二個目②
「ギンちゃ~ん」
「・・・なぁに、キララちゃん」
アタシが、わざとらしく猫撫で声を出すと、ギンちゃんは、アタシが今からするお願いに、ピンッと来たみたいで、ちょっとだけ警戒するような表情になった。
「今、撮ったの、グループで共有していい?」
私が、いつも通り、そう尋ねると、やっぱり、ギンちゃんも困ったように微笑みながらも、「いいよ」と頷いてくれた。
「ありがと。三人とも、喜ぶだろうなぁ」
「俺の体を見ても、楽しくはないと思うんだけどなぁ」
そうボヤきながらも、ギンちゃんはアタシがスマフォを操作するのを、決して止めない。
最初、アタシはインスタに、ギンちゃんの美しい肉体を撮ったベストショットをアップしようと思ってた。
でも、アタシがアップしていいか、を聞いたら、ギンちゃんは「さすがに止めて」と言った。
ギンちゃんが、あまり目立ちたくないのを、アタシも知っているので、ちょっと残念だったけど、アタシはインスタにアップするのは止めた。
それを言ったら、ギンちゃんは、とってもホッとして、「ありがとう、キララちゃん」とお礼を言ってくれた。
ただ、それだけでお礼を、ギンちゃんに言われてしまって、むしろ、アタシの方が気まずくなっちゃう。
「じゃあ、これ、クラスのグループれいんにアゲていい?」
そう尋ねると、ギンちゃんは悩んでしまった。
うちのクラスは、割と仲間意識が強くて、クラス全員が同じグループに登録している。つまり、ギンちゃんも登録しているのだ。
ギンちゃんは、あまり、れいんを使って、クラスメイトとコミュニケーションを取る方じゃないけど、そこに自分の写真、しかも、上半身が裸の状態で、がアップされたら、次の日に、クラスメイトから揶揄われるって想像しちゃったみたい。
クラスメイトと険悪な雰囲気って訳ではなく、あえて、皆から一歩引いた立場を保っているギンちゃんは、クラスの話題の中心が自分になる事に抵抗があるみたいだった。
ぶっちゃけ、ギンちゃんは良くも悪くも目立つ見た目だし、クラスや同学年どころか、学校でも知らない者がいないってレベルなのに、今更、そこは気にするらしい。
そういうシャイなギンちゃんも、アタシは大好きなんだけどね。
さっき、インスタにアップするのを拒んだ手前、ギンちゃんは、これにも「NO」と言うのに罪悪感を抱いちゃってるみたい。
「うーん」と渋い表情で唸っているギンちゃんに、アタシの方が、くだらない我儘を言っているような気がしてきた。
でも、こんなにもカッコいいギンちゃんのベストショットを、アタシのスマフォだけに入れておくのも嫌だった。アタシは、もっと、ギンちゃんの素晴らしさを、皆にアピールしたかったの。だから、アタシはこう言った。
「クラスのれいんにはアゲないから、親友オンリーのグループならいいでしょ?」
「親友オンリーのグループって、誰を入れてるの?」
アタシが、グループに入っている三人、マリア、翡翠、そして、瑠美衣の名前を告げると、ギンちゃんは「その三人だけなら、まぁ、いいや」と、どこか諦めるような面持ちで折れてくれた。
何だか、無理強いをしてしまったような気もしたけど、アタシもアタシで曲げられない意地があるので、遠慮なく、ギンちゃんの言葉と優しさに甘える事にした。
「こういう言い方は失礼かもしれないけどさ」
その時のやりとりを思い出していたアタシは、ちょうど、写真をアップし終わり、メッセージも三人に贈ったから、ギンちゃんの方を「ん?」と見た。
「三人とも物好きだねぇ、俺の裸が見たいなんて」
「ギンちゃんの裸は芸術的だから、女子にとっては眼福だよ」
「悪い気はしないけど、ちょっと、複雑だなぁ」と苦笑したギンちゃんは、壁のハンガーにかけていたエプロンを手に取った。
「じゃあ、朝ご飯の用意してるから、キララちゃん、シャワーをサッと浴びてきて」
「パンケーキ希望!!」
「貴女の望むがままに、キララ姫」と、ギンちゃんは恭しい一礼をした。
その動作が、あまりにも洗練されていたから、アタシがプレゼントした、高校生に人気で、ちょっと値の張るブランドのロゴが入った赤が基調のティーシャツと、顔は三枚目だけど、演技力で不動の人気を誇る俳優が愛用しているデニムのジーパンなのに、ギンちゃんはガチでイケメンの執事に幻視えちゃった。
「しゃ、シャワー浴びてくるね」
アタシは、まず、この火照った顔に冷水をぶっかけよう、と思いながら、浴室の方に小走りした。
そんなアタシの興奮を知ってか知らずか、ギンちゃんは、今、人気の刑事ドラマで、主役が犯人と肉弾戦を繰り広げる際に使われているBGMを口ずさみながら、朝食の準備に取り掛かっていた。