罰ゲーム二個目①
「・・・・・・んぅ」
厚手の毛布に包まっていたアタシは、かすかに聞こえてきたシャワーの音に身を捩った。
「ギンちゃん、帰ってきたのかな」
ギャルだけど、アタシは寝起きが良い方なので、むくりと体を起こし、軽く目を擦る。
そのタイミングで目覚まし時計が鳴ったから、アタシはスイッチを切って、リビングに向かった。
やっぱり、今、シャワーを浴びているのは、ギンちゃんらしい。
「お帰り~、ギンちゃん」
湯気で曇っているガラス越しに、アタシが少し張った声で朝の挨拶をすると、ギンちゃんはガラスを軽く叩いた。
「おはよう、キララちゃん。
すぐ汗を流すから、待っててね」
「いいよ、ゆっくりで」
ギンちゃんは休みの日、毎朝、一時間、ランニングしている。
体力はあって困るものじゃないし、健康であれば、病院に行かずに済むから節約になる、と適度な運動を欠かさないのだ。
なので、ギンちゃんは、運動部に所属していないけど、がっしりと体が引き締まっている。
見た目は細っこいけど、脱ぐと、男らしい筋肉がしっかりと付いているのだ。
腹筋もハッキリと6個に割れていて、まるで、男の子達に大人気の、バイクを駆る特撮ヒーローのようだ。
まぁ、ここ最近は、腹筋を強調していないデザインだけど、ギンちゃんの腹筋の凄さを、言葉で表現するなら、それが特にしっくり来る、とアタシは思ってる。
実際、ギンちゃんの鍛えられている腹筋を見た人は、「〇面ライダーかよ」と言うので、やっぱり、そういうイメージがあるのだろう、あのヒーローには。
アタシは、そんなギンちゃんのバッキバッキな腹筋が、お気に入りのパーツの一つで、時々、顔を埋めさせてもらっている。
ギンちゃんは、アタシがコロコロと顔を動かすと、くすぐったそうに笑い、「楽しいかな?」と不思議そうにしているが、一回も拒まないでくれる。
楽しい、とは違うんだよねぇ。
ガッチガッチの腹筋に頬擦りをする、それは、気持ちいいの。
好きな人の割れた腹筋で頬擦りする事で発揮される引き締め、それは、安物の美容ローラーを使うより、絶対に、効果があると思う。
また、ギンちゃんは背筋も力をグッと入れれば、雄々しく隆起して、色っぽさが増す。
腕力もあって、なおかつ、体の使い方をしっかりと把握しているから、アタシをお姫様抱っこできるのだ。もちろん、アタシが重くないってのもある。
太腿も、ビックリするくらい太いって程じゃないけど、少なくとも、アタシの両手じゃ、指が届かないくらいの筋肉で固められている。
お尻もギュッと引き締まっていて、腹筋にはない心地いい弾力をほっぺで堪能できる。
これと言って、特別なトレーニングを、ギンちゃんはしていないけど、やっぱり、立ちっぱなしの時間が長いから、自然と下半身も逞しくなるみたい。
だから、ギンちゃんの体幹、バランス力は、結構、凄い、とアタシは自慢している。
「本当に、ゆっくりでいいからね」
「うん、ありがとう、キララちゃん」
そう返って来たけど、きっと、ギンちゃんは3分もしない内に、浴室から出てくるだろうから、アタシはリビングに戻り、スマフォを取りに行く。
ギンちゃんの風呂上りショットは、毎日、撮っているので、一回たりとも逃す訳にはいかない。
ギンちゃんは、写真を撮られる事を拒まないけど、「そんな変わり映えしないと思うけど」と戸惑いを、顔に浮かべる。
アタシの中じゃ、毎日、ギンちゃんへの「大好き」が膨らんでいるから、昨日よりも、カッコよく視えるのだ。特に、お風呂上りは、名の通りに白銀色の髪の毛が色っぽい湿り方をしていて、より、セクシーなのだ。
我儘を言っていいなら、シャワーを浴びている姿も動画で撮影したいんだけど、さすがに、それは、ギンちゃんに「ダメ」と断られてしまった。
盗撮、その手段も、アタシの頭には過ったけど、アタシ自身が盗撮されるのは嫌だし、ギンちゃんに軽蔑の視線を向けられるのも最悪だから、「盗撮」の二文字はしっかりと黒で塗り潰した。
だからこそ、余計に、最高のシャッターチャンスはゲットしなきゃいけないの。
「お待たせ、キララちゃん」
予想通り、ギンちゃんは2分くらいで、まだ乾ききっていない髪をバスタオルで拭きながら、ズボンだけを履いて、つまり、細マッチョな上半身を魅せる状態で、リビングにやってきた。
思っていた以上のカッコ良さに、頭がクラァッと来てしまうけど、アタシは何とか、気力を奮って、ギンちゃんの風呂上り姿を撮った。
(こんなに、ギンちゃんが、いつもより、カッコよく視えるのは、昨日の罰ゲームが理由?)
ぼんやりと、そんな事を考えながら、アタシはギンちゃんがシャツを着ちゃう前に、もう一枚、撮っておく。