罰ゲーム一個目⑫
「・・・・・・何、これ!?」
箱を慌てて確認したアタシの顔は、きっと、真っ青を通り越して、真っ白になっていただろう。
もしかすると、人生で一番、ブサイクになっていたかもしれない。
けど、この時、アタシは、そんな事を気にしている余裕もなかった。
だって、そうでしょ、好きな人に引いて貰ったカードに書かれていた罰ゲームが、よりにもよって、下着を見せろ、だったんだから。
アタシじゃなくたって、女の子なら、誰でもパニックだ。
アタシは、残りのカードを戻した箱の表面を見て、愕然としてしまう。
「こ、これ、成人向けだ」
よくよく見たら、箱の表面には、「大人の~」と書かれていた。
ギンちゃんに、アタシを女の子として意識して貰う、そこを考えていたアタシは、しっかりと確認しないで、ボタンをポチってしまったようだ。「大人の~」と書かれてはいるが、18歳以下は買えない商品じゃなかったのも、アタシが気付かなかった理由の一つだろう。本当に、今更だけど。
自分に「落ち着いて」と言い聞かせながら、改めて、箱に書かれている説明文を読むアタシ。
この箱には、300枚のカードが入っており、三分の一は一般的、三分の一は恋人向け、そして、残りが成人向けの罰ゲームが書かれているらしい。
褒めるような事じゃないのは、アタシも重々承知してたけど、ギンちゃんは、その300枚の中から、成人向けの1枚を引いたようだ。
(ど、どうしよう)
アタシは、今の今まで、アタシの中にあった、どんな罰ゲームであっても、敗者として従う、そんなチャチいプライドが、ヒュルルルルルル、と音を上げて萎んでいくのを感じていた。
確かに、アタシは、いつ、その時が来ても大丈夫なように、今日も、勝負仕様の下着を履いてきている。
でも、覚悟を完了させる空気にもなっていなかったのに、こんな状況になるなんて、アタシはこれっぽちも予想していなかったから、完全に、ギャルとしての自信が揺らいじゃっていた。
だから、アタシは、ビクつきながら、ギンちゃんを見た時、ハッとさせられた。
アタシは、優しいギンちゃんなら、「こんな罰ゲームに従わなくていいよ」と言ってくれるのを、多分、心のどっかで期待していたんだと思う。
でも、この時、ギンちゃんは、その罰ゲームが書かれたカードで口元を隠していたけど、幼馴染としての付き合いが長くて、ギンちゃんへの「大好き」が誰にも負けていないアタシには視えていた、ギンちゃんの微笑みが。
その微笑みは、いつもと見た目は同じでも、普段の柔らかさなんか微塵も宿ってなくて、逆に、背中に氷を押し当てられるような冷たい鋭さが宿っているものだった。
しかも、ギンちゃんの、アタシに向けている眼、そこも冷たかった。
もちろん、こんなものを持ってきちゃったアタシへの軽蔑は全く無かった。
でも、そんな色が浮かんでくれていた方が、アタシは、むしろ、ビックリしなかったと思う。
ギンちゃんの、寝ているのかな、と思うくらい、細い目、そのわずかな隙間に灯っているものは、まるで氷だった。
ゴツゴツとした塊の氷じゃなくて、ちょっと触れただけでも肌が切れてしまい、先っぽも凄く尖った氷。
相手が、自分からどれほど遠い場所に立っていようと、伸ばす、もしくは、投げて、必ず、心臓を貫いてやるぞ、そんな狂気じみた信念が宿っている氷の槍を思わせる、冷たい視線を自分に向けられたアタシは、ビビってなかった。逆に、興奮していたの。
だって、今、ギンちゃんは、アタシを、間違いなく、友達、クラスメイト、幼馴染じゃなく、一人の女、ううん、牝として見てくれていた。
アタシには、しっかりと感じ取れていた、ギンちゃんの雄としての部分を。
「キララちゃん」
「は、はい」
アタシは思わず、丁寧に返事をしてしまう。
「罰ゲームは読めた?」
「読めました」
「じゃあ、どうするか、解るよね?」
「今から、ギンちゃんに、アタシが履いている下着を見せます。
アタシの下着を見て下さい」
そう頭を小さく下げてから、アタシは立ち上がって、スカートの裾へ手を伸ばす。
アタシの体感としては、いつも通りだったけど、後で、ギンちゃんから見たら、随分とゆっくりで、焦らしテクかな、と思った、そう言われた。
でも、アタシのスカートの裾を摘まみ、たくし上げた手は、全く震えていなかった。
そして、アタシは、ギンちゃんに下着を見せる。