罰ゲーム一個目⑩
「はい、お粗末さまでした」
アタシより早く食べ終えていたギンちゃんは、アタシが笑顔で、パクパクとオムライスを食べているのを、ずっと、ニコニコしながら見つめていた。
好きな人に食事している所を見つめられるのは、アタシでも、さすがに、ちょっと恥ずかしいんだけど、アタシが美味しそうに食べると、ギンちゃんがホントに嬉しそうにするから、気にしないで、食事をする事にしている。実際、ギンちゃんの作るものは、何でも、ほっぺたが落ちそうになるほど美味しいから、わざわざ、お芝居をしなくてもいいしね。
「キララちゃんは、いつも美味しいって言ってくれるから、作り甲斐があるよ」
「ホントに美味しいんだから、美味しいって言うよ」
ギンちゃんに、頭を優しく撫でられたアタシは、「えへへ」と照れ臭くなって、つい、笑っちゃう。
そんな、おっぱい、じゃなくて、胸の中が嬉しさでいっぱいなアタシを、ガーンッ、とさせるのも、やっぱり、ギンちゃんなのだ。
「じゃあ、洗い物をしたら、課題をやろうか」
「えっ」
「ちゃんと持ってきたよね?」と、ギンちゃんは、アタシがソファの上に放り出していた課題を見ながら、聞いてきた。ここで、誤魔化すのは悪手なことくらい、アタシでも理解っているから、「うん」と頷くしかなかった。
「て、手伝うよ、洗い物」
「ありがとう。じゃあ、キララちゃんは、俺が洗ったお皿とか拭いて、棚に入れてね」
きっと、ギンちゃんは、アタシが洗い物を手伝って、ポイントを稼ぎ、少しでも、指導を厳しくしないでもらおう、と考えているのを見抜いていたんだろうけど、それをおくびも悟らせずに微笑んでいた。
「お、終わった~」
(本当に半分、終わっちゃったよ)
どこか心地良い疲れを、脳味噌に感じながら、アタシは後ろに倒れ、両腕を大きく広げた。
「頑張って偉かったね、キララちゃん」
アタシと違い、まるで疲れた感じのないギンちゃん。
アタシに、躓きそうになっている問題の解き方をさりげなく誘導しながら、ギンちゃんは、自分の課題をサクサクと進めていて、恐るべきことに、もう、全てを終わらせていた。
適当に回答を埋めたのではない。間違いなく、全問正解している。それが、常に、テストで五位以内に入っている宇津路白銀なのだ。
「今日は、もう、勉強したくない・・・」
「俺も鬼じゃないよ。でも、残った分は、明日の朝から片付けようね」
「うげー、朝からやるの」
「お昼前に終わらせれば、午後は遊べるじゃない」
「・・・・・・わかった、頑張る」
「俺もちゃんと、手伝うから」
「明日の晩御飯は、親子丼にしてくれる?」
いいよ、と微笑んだギンちゃんが両手で、頭の上に大きな丸を作ってくれたから、アタシは、ひとまず、ホッと安心する。
そのタイミングで、アタシは思い出した、課題と一緒に持ってきたアレの事を。
「ギンちゃん!!」
「なぁに、キララちゃん」
勢いも良く、おっぱいがバルンッと揺れるほど起き上がったアタシが、大声を出したのに、ギンちゃんは、いつもの飄々とした感じを微塵も崩さなかった。
「放課後のリベンジしたい!!」
「いいよ。ババ抜きで良いの?」
「うんっ。当然、罰ゲームアリだからね」
「OK」と首を縦に振ったギンちゃんは、引き出しからトランプを出すと、プロも「おおっ」と唸りそうなくらい、綺麗な動作でカードをシャッフルして、自分とアタシの前に配っていく。
「一回勝負?」
「もちろんっ。ギンちゃん、手加減はなしだからねッッ」
「ババ抜きで手加減って、どうやるのさ」と苦笑いしながら、ギンちゃんは、アタシの手札から一枚をスッと引き抜く。
運よく、いきなり、ペアが出来たみたいで、ギンちゃんは、山場へそれを出す。
(フフフフ、今回こそ、アタシが勝つよ、ギンちゃん。
でも、今は作戦があるから、次は負けてあげるね)
そんな事を、アタシは考えながら、ギンちゃんの手札から一枚、抜いた。
残念ながら、ペアは出来なかったけど、まだ、勝負は始まったばかり。焦る時間じゃない。
ともかく、今は、ギンちゃんに、ジョーカーを上手く引かせる、それを考えるべきだった。
「ウッギャアアアアア」
アタシは悔しさに絶叫し、最後まで手元に残り続けやがったジョーカーを、テーブルに叩き付ける。
「どうして、勝てないの!?」
「だから、キララちゃんは顔に出過ぎなんだって。
ジョーカーを見ないように気を付けているつもりなんだろうけど、逆に、それで判っちゃうんだって」
「アタシ、そんなに顔に出てるのかな?」と、アタシは自分のほっぺたをむにゅむにゅと揉む。