神社の夜
「夜の神社には妖かしが集まってくるから、行ってはいけない」と言われる。
しかし、俺は夜の神社が大好きだった。もちろん昼も好きだが、夜のそれは、何故だか不思議な魅力があった。冷たくて優しい風、静かで趣のある空気。神社特有の『包み込まれている雰囲気』が夜のほうが強い気がして、心地よい。
夜といっても、月の光や保安灯のおかげで、真っ暗ではなくうっすら明るいから不自由はない。境内でボーっとするのも良いが、境外のベンチで飲み物を飲みながら時間を潰すのも好きだ。
俺だけかと思ったが、案外そういう人は多いらしく、ここで友人が三人も出来た。夜の神社で語り合う男四人。俺はその時間がとにかく気に入っていた。
実は、俺は人間に化けた妖怪である。夜の神社の、その昼とは違う神々しさに魅せられて通うようになった。何より、俺は人間の友人が欲しかったから、今のこの状況は俺にとって、とても素晴らしいものである。
さすがに、友人である三人の人間には、俺の正体は言っていない。人間は、自分たちとは違う『特異』を嫌う傾向にある。素性を明かせば、この三人も俺から離れていってしまうのではないか…。そう考えてしまうのだ。
だが、嘘をつき続けるのも心が痛むと思っていた矢先、友人の一人からこういう提案があった。
「次の休みに、この四人でキャンプに行かないか?」
四人は盛り上がり、満場一致で可決した。しかし、ここまで親しくなると、自分の正体を隠していることにとてつもない罪悪感を感じる。俺は、全てを話してしまおうと心に決めた。この三人なら、受け入れてくれるだろう。
そして数日後の、全員が集合した日。
「なぁ、俺の話を聞いてくれないか」
「お。どうしたんだい改まって」
「なにかあったのかい」
「もしかして、彼女が出来たとか?」
「実は俺、人間ではなくて妖怪なんだ。でも、みんなと友人関係でいたい。許してくれるだろうか?」
俺は人間の姿から、正体であるタヌキに戻ってそう言った。みんなはぽかんとしている。みんなは怖がって逃げ出すだろうか。俺を受け入れて、今まで通り仲良くしてくれるだろうか。怖い。
空気の張り詰めた時間が過ぎていく。とても長い時間が経ったような気がする。ふいに、友人の一人が口を開いた。
「じ、実は俺も妖怪なんだ…」
そういってキツネの姿になった。
「実は俺も」
もう一人もイタチの姿になった。
「なぁんだ、人間の友達が出来たと思ったのに」
最後の一人も、猫の姿になった。
「ええ…」
結局、全員妖怪であった。
「夜の神社には妖かしが集まってくるから、行ってはいけない」と言われる。
遠くで「すねこすり」がきゅーん、と鳴いた。
ちなみにキャンプには行った。