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建国祭2

 その後も王子のことを追及してくるエリンから逃げるため、エリーゼはお花を摘みにと適当な理由をつけて彼女たちから少し離れた。少し経てばエリンも落ち着くだろうと考えて。


 せっかく一人の時間ができたので、ついでとばかりに何か面白いものはないかと少し周りを見て歩いていた。


 すると人ごみの中で、自分の知っている人物の後姿を見かけた。その人物へ気付かれないようにゆっくり近づいていく。


「何してん、のっ!」


「きゃっ!」


 パレードを見ていたその人物の背中を軽く叩くと、彼女は驚いたのか可愛らしい声を上げた。


「いきなり何するのよ!」


 慌ててこちらを向いたレナは、姿を確認すると表情を驚きから険しいものへと変えていった。


「レナを見つけたから気付かせようと思って。……にしても、きゃっ!って」


 ニマーっといたずらが成功したような笑みを返す。


「そ、そりゃ驚いたらそんな声も出るでしょう」


 彼女にしては珍しく、おたおたした様子を見せた。普段の彼女の姿からは考えられない貴重な姿だ。


「それにしても、一人でこんなところにいるのは珍しいね。ロバートさんは?」


「ロバートは一人で店番してるわ」


「じゃあレナだけ?」


「そうよ」


「これまた何で?」


「ロバートがせっかくの建国祭なんだから楽しんできなさいって。お店くらい休みにすればって言ったんだけど、自分が店番をしておくって聞かなくて」


 確かにせっかくのお祭りの日に店を休むのはもったいない。人ごみに疲れた客などは、喫茶店に入って休憩をと思うだろうし、普段よりは稼ぐことができる。


 その機会を逃せないと思ったのか、あるいは自分を気にせずレナには楽しんでほしいと思ったのか。それは定かではない。


「で、どうよ? お祭りは」


「よくわからないわ。名物のパレードには知り合いが乗ってるだけし、人が多すぎてうんざりするしで、何が楽しいのかわからないわね」


 他の人にとったら楽しみなのかもしれないが、エリーゼたちの場合はただ知り合いを見ているだけだ。何の珍しさもない。


「……けど、こうして人々が楽しそうに、馬鹿みたいに騒いだりするのを見るのは嫌いじゃないわ」


「……そうだね」


 国を出てからは、こうした催しにあまり参加してこなかったレナ。当時塞ぎ込んでいた彼女が今こうしていることに、エリーゼは嬉しく思った。


「せっかくだし、他の場所にも行こっか」


「そろそろ店に戻ろうかと思ってたんだけど……」


「いーの! こんな早く帰ったらロバートさんも悲しむって」


「そうかしら……」


「そうだよ。ほら、行くよ」


「ちょ、ちょっと!」


 レナの手を取り、エリーゼは歩き出す。戸惑う様子は見せるものの、そこに嫌がる様子はなかった。エリーゼがいきなり何かしだすのは初めてではないため、仕方ないと諦めているのかもしれない。


 わがままをいう妹と、仕方なく付き合う姉。周りから見ると、二人は仲のいい姉妹のようだった。



 エリーゼに街を連れ回され、レナはヘトヘトになっていた。彼女はエリーゼほどの体力もないため、二人は人のあまりいない公園で休んでいた。


「ほんと、元気ね、あなた……」


「なんだ、喋れる元気あるじゃん」


 息を切らしながらも恨み言を言うレナ。


「あなたほどの、元気はないわ。本当に体力バカね」


「人に向かってバカとは失礼な。私はうら若き乙女なのに」


 レナから鋭い視線が飛んでくるが気にしない。もう慣れた。


「というか、体力なかったらダメでしょ」


 こんな仕事をしている以上、体力がないと困る場合もある。ターゲットに近づくため素早く適した場所へと移動する必要があるし、社交場で何度もダンスを踊る場合だってある。体力がないせいで依頼を失敗したとかは話にならないのだ。


 二人はしばらく何も話さず静かにしていた。遠くでは人々の喧騒が溢れているのだろうが、ここには小鳥のさえずりや木の枝を風が撫ぜる音しか聞こえない。周りの風景を眺めていると、丁度二匹の小鳥が地上に降りてきて、片方がもう片方を追いかけ回していた。


「そういえば……」


 ようやく息の整ってきたレナが、思い出したかのように言う。景色を眺めていたエリーゼが振り向くと、彼女は一枚の紙を取り出していた。


「もしかして依頼?」


「そうよ」


 彼女から受け取り中身を確認する。依頼者の欄に書かれていた名前を見て、エリーゼは意外に思った。


「へぇ、こういうの珍しいね」


 エリーゼは面白そうに笑う。


「どうするの? どう見ても……」


「そうだね。何か訳ありっぽいね」


 普通婚約破棄の依頼者は、ターゲットの男と婚約している女性がほとんどだ。なぜなら、そのターゲットと一緒にいることを苦痛に感じても、婚約を破棄することができない。だからこそ、婚約の破棄を依頼するわけで……。


 けれど、そこに書かれていた名前は婚約者当人ではない。見ただけでそう言い切れるのも当然だ。なにせ、書かれていた名前は男性のものだったから。


「一筋縄じゃいかなそうだけど……」


「私には関係ないね。レナもわかってるでしょ?」


 地面に落ちていた石を拾って、目の前で片方を追いかけ回している小鳥へと投げつける。


「私は婚約破棄の代行者。依頼されたのなら、それをただ達成するのみ」


 その小鳥は急に飛んできた石に驚くと、慌ててどこかへと飛び去って行った。

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