学園での生活
ストック一週間分くらいしかないので、なくならないよう頑張ります
目を閉じて、ゆっくりと意識を集中させる。自分の世界へと入り込むように、どこまでも深く、深く潜っていく。すると、だんだんと周りの喧噪が消えていき、耳障りな音は消え去っていた。後に残るのは、時計の秒針を刻む音のみ。
カチ……コチ……カチ……コチ……。秒針は止まることもなく、その一秒一秒を刻んでいく。やがて訪れる、その時に向かって……。
カチ……コチ……カチ……コチ……。どれだけ待っただろう。悠久にも思える長い時間に、ようやく終わりが訪れた。
カーン、コーン。
授業の終わりを告げる鐘が鳴ると同時に座っていた席を立ち、クラスの外へ勢いよく走っていた。
「今日はここ――」
教師が何か言っていたようだが、その人物には聞こえるはずもない。もっと早く、もっと早く。その願いが叶ったのか、ついに音を置き去りにした。そう――彼女の速さは音を超えたのだ。
「エリーゼさーん、廊下は走らないように」
すでに彼女はいなかった。
ウィット―リア学園は、貴族・平民関係なく通える学園だ。そのため、貴族にも平民にも配慮した施設がいくつかある。その中の一つが食堂だ。
食堂には貴族向けの食事と平民向けの食事が用意してあり、貴族だから、平民だからとそれぞれの食事を食べる必要もない。食べたければ貴族でも平民の食事を食べてもいいし、平民だって貴族の食事を食べてもいい。
そんな食堂だが、今日はいつもとは違うことがあった。それは、一人一個、100人限定の特別スイーツを販売するということ。どうやら王都の有名なお店から仕入れることができたようで、昼休みの時間のみに販売すると書かれていた。店で食べるとなれば、行列に長時間並んで待たないと手に入らないような代物。
少し高価ではあるものの、スイーツ好きのエリーゼとしてはこのチャンスを逃すことはできない。他の生徒たちも恐らく同じ気持ちだろう。授業が終わり次第、駆けつけてくるのは見て取れる。ならば、一刻も早く。誰よりも早く。何としてもそれを手に入れなければ。
そんな思いを胸に猛ダッシュしてきたエリーゼだったが、食堂を見て呆然としていた。
すでに人が溢れているっ……。
急げ……急げ……。内心は焦りつつも、少しずつゆっくり、ゆっくりと生徒たちの合間を抜けて距離を詰めていく。
もう少し……。あとちょっと……。
そんな苦難の時がようやく終わる。人ごみを抜け、ついに彼女は販売員の前までたどり着いたのだ。
勝ったっ……。
彼女はスイーツを購入せんと視線を前に向けると――
『完売』
その二文字を見て、エリーゼは足から崩れ落ちた。
「エリーゼさん、足早かったねぇ」
「めちゃくちゃ早かったな、あれ。王都一じゃないか?」
先ほどの光景を見て、エリンとキリカはそんな感想を漏らす。
「でも、結局手に入れられなかったから意味ないし」
エリーゼたち女子三人組は食堂で昼食を取っていた。
三人とも平民向けの定食を注文している。エリーゼとしても食事には特に拘りはないため、無難に二人と同じものにしていた。
「で、結局何だったんだあれは?」
「キリカさんモンフォアを知らないのぉ? 王都で有名なスイーツのお店よ」
「そうなのか?」
「そうだよ。王都で行列ができるほどのお店だからね」
「ふーん」
二人で説明するが、キリカは興味なさそうな感じだ。
「興味ないんだね」
「あまり甘いものは食べないからな」
「なら、何で聞いたの?」
「いや……。お前があんな必死になってるから、何なのかなと」
その場に沈黙が流れる。それを遮るように、エリンがパンッと手を叩く。
「それじゃあ、キリカさんに教えるためにも、放課後にそのお店に行かなぁい?」
「お、それいいね」
「えー、その店って結構並ぶんだろ? 私遠慮したいんだけど……」
「何言ってんの。キリカのためでもあるんだからね」
「……絶対、お前が行きたいだけだろ」
「うっ……」
図星だった。
「はぁ……。仕方ない、お前らに付き合うよ」
「え? いいの?」
「せっかくの機会だしな。一度くらい行ってみてもいいかな」
「まぁ」
エリンは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
急にエリーゼは立ち上がる。
「よし! じゃあ放課後にモンフォアへ行くのけってーい!」
「あらあら、エリーゼさん楽しそぉ」
エリーゼの周囲には、炎がメラメラと燃えているようだった。
「絶対に必ず食べてやる。だから待ってろ、モンフォア」
決意に燃えるエリーゼであった。




