お茶と薬
「まあ、本当に綺麗な緑色なんですね。ハーブティーの緑より、濃いです」
お茶を淹れて、カリーナが不思議そうにカップの中のお茶を覗いた。
「苦くないし、甘いくらいですよ。普段飲むお茶より、低い温度で淹れるんです。高級なんで、俺は東にいる時も滅多に飲めませんでした。年明けの祭りの時や、祝い事の時くらいですね」
「普段飲んでも大丈夫なんですか?」
「うん、飲み過ぎるとトイレが近くなるってだけで、普通のお茶なんだ。作るのに手間がかかるから、高いんだよ――飲んでみる? 一応、毒見も兼ねてさ」
「そうですね」
カリーナとビルギットは、顔を見合わせて頷いた。空いているカップにも入れて、三人で飲んでみる。
「本当だ、甘いくらいですね」
「不思議な味わいです」
メイド二人は、思っていた以上に飲みやすいお茶にびっくりしたようだ。ロルフも飲んで、懐かしそうな顔になった。
「さ、ヴェンデルガルト様に飲んで貰いましょう。沢山飲んで頂いて、悪いものを出しましょう――ヴェンデルガルト様、お薬です。飲んで下さい」
ヴェンデルガルトの身体をカリーナが支えて、ビルギットがゆっくりヴェンデルガルトに飲ませる。最初は、カップに半分くらいしか飲めなかった。
「無理に飲ませなくてもいいんで、ゆっくり量を増やしましょう」
ロルフが浮かない顔のメイド二人にそう言って、励ました。すると、ビルギットがスカートのポケットに手を入れてあの謎の男に貰った紙包みを取り出した。
「それは?」
ロルフが不思議そうな顔になった。彼の出身の国である東の国では、緑色の紙に包んだものは『薬』だからだ。
「市場で、東の国の高級そうな服を着た男性に渡されました――この薬を全部飲み終えた頃に、病が治ると」
「高い薬を買わされたの?」
ロルフとカリーナは、心配そうにビルギットに尋ねた。しかし、ビルギットは首を横に振った。
「私に渡して――消えたんです。赤い目をした、不思議な人でした」
「赤い目!? それって、龍なんじゃ?」
ロルフは驚いた顔になる。ビルギットは「分かりません」とだけ呟いた。カリーナがその包みを開けると、緑色の葉を固めたような薬が十四粒入っていた。
「東の薬だ――もしかして、毒消し草なのか? でも、あれはものすごく高級なもの……」
ロルフは、東の薬を知っている。しかし、高級な毒消し草は王族しか使う事が無い。高い山に生えているので、採れる数が少ないと聞いた。
「ヴェンデルガルト様に飲ませても大丈夫なの?」
カリーナは、最もな事を口にした。ロルフとビルギットは見つめ合った。しかし、ビルギットはあの男を信じようと思った。
「飲んで頂きます。私は、これを下さった人を信じます」
ロルフは複雑そうな顔をしていたが、ビルギットの言葉に頷いた。
「分かった――これ以上こんな状態が続くなら、俺は耐えられない。ヴェンデルガルト様が気の毒だ。飲ませよう」
「二人がそう言うなら――私も賛成だわ。早く良くなって欲しい」
カリーナも頷き、三人はベッドで苦しそうに眠るヴェンデルガルトを見つめた。彼女が笑うだけでその場が華やぎ、明るくなる。ヴェンデルガルトが臥せってからは、暗く寂しい部屋になった。それを元に戻そうと、三人はその薬に願いを込めた。
「屋敷の中から、毒物らしいものは見つかりませんでした。一番怪しいズックの残りも調べましたが、毒の痕跡はありません」
調査した研究員の言葉をギルベルトは城に戻りジークハルトに報告した。イザークは屋敷に残り、怪しい書物などがないかを調べていた。
「怪しいのは、ズックの筈なんだ……俺が口にしたのは、あれだけだ。そうでないなら、何処に毒物があるというんだ?」
彼自身答えが分からないので、ジークハルトは眉を顰めて小さく呟いた。
「残っていたズックを城に運び、念のため私も焼いて食べました。特に変わりはないので、残念ながらあれは排除していいでしょう。しかし屋敷に着いた時、ヴェンデルガルトの部屋の異臭と同じ香りがしましたが」
「そうなのか?」
はっと顔を上げたジークハルトは、ギルベルトの灰色の瞳を見つめた。
「ああ、ジークハルトはあの匂いを嗅いだことはなかったのですか? 念のため、部屋で炊かれていた香も確認しましたが、毒物のようなものは確認できませんでした――ですが、幻覚や神経を麻痺させる成分は見付かりました。フロレンツィアは、西からの商人から買ったばかりの香だから、成分は知らなかったと言っていました」
「よく言う――あの香の匂いは、パーティーで何時もしていた。買ったばかりなんて嘘だ。庭には毒草などなかったのか?」
「はい、観賞用の花ばかりでした。ヴェンデルガルトに持って来た、桃色の花も見つかっていません」
「屋敷が調べられる事を知って、全て隠したのか――相変わらず、狡猾な奴だ」




