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【改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!  作者: 七海美桜
南の国の戦

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王女の正体

 宮殿の奥まで走っていくと、次第にヴェンデルガルトの見覚えがある通路に出た。ツェーザルの部屋は、ヴェンデルガルトの部屋より奥にあった。

「こちらです、ジークハルト様!」

 バルドゥルが何処に向かったのか分からない。一先ず、先にツェーザルの部屋に向かう事にした。


「いやぁ! ベルト!」


 ツェーザルの部屋に彼はおらず、代わりに腹を刺されたベルトが血を流して倒れていた。傷は浅いようで、血は床までは流れていない。ヴェンデルガルトが慌てて治癒魔法をかけた。そうして、彼女を抱き起す。

 しかし、ジークハルトは何か違和感を覚えた。何かがおかしい、そう思った時背後で荒い息が聞こえた。

「死ねぇ!」

 背後から、バルドゥルが剣で襲い掛かって来た。しかし、ジークハルトは先に気付いていた。抜き身のまま持っていた剣で、バルドゥルの剣を受け止めた。ジークハルトの強い剣の勢いは、普段剣を持たないバルドゥルの剣を飛ばすのに十分だった。

 金属音を響かせて、剣がカラカラと床を滑っていく。バルドゥルが腰を抜かして、床に座り込んだ。

「いや、止めて!」

 突然、ヴェンデルガルトの悲鳴が上がった。ジークハルトが慌てて振り返ると、傷が治ったベルトがヴェンデルガルトの首元に短刀を押し当てていた。

 それは、彼女がアヤーの籠に入れていた短刀だった。ヴェンデルガルトには、見覚えがある。あの時は、必死にヴェンデルガルトを護ろうとしていた。

 それなのに、今彼女はそれでヴェンデルガルトを傷付けようとしていた。

「――まさか、君がアンゲラー王国の王女なのか?」

「そうです。ベルトと名乗って、バルドゥルのハーレムに入りました。そいつは、小さな私でも気に入ってハーレムに入れてくれましたからね。アンゲラー王国だけ滅びる事は許さない。バーチュ王国も道連れにします」

 ベルトの言葉が、いつものか弱い甘えたなものと違っていた。冷たい、大人びた声だった。

「親に売られ、宮殿の女たちにいじめられている可哀想なベルトを、ヴェンデルガルトが信じてくれたから、アロイスもツェーザルも信じてくれて助かりました。彼らは、ハーレムにいる女を良く知らない」

 ヴェンデルガルトは、信じられない思いでベルトーーいや、アンゲラー王国の王女の言葉を聞いていた。

「ツェーザルは、隣の部屋で寝ています。私が眠り草を入れた、チャッツを飲んで」

 王女は、背後に続く部屋を片方の手で指差した。取り敢えず、ツェーザルは生きている。そう安心したヴェンデルガルトだが、より王女はヴェンデルガルトの首筋に短刀の刃を押し当てた。うっすらとヴェンデルガルトの首から血が流れた。

「ヴェンデルガルト嬢を離せ!」

「剣を捨てなさい。私は迷わずヴェンデルガルトの首に剣を刺しますよ? バルドゥル、いい加減立ち上がりなさい。折角あなたの憎い弟を殺してあげたんだから、仕事をしなさい。剣を手にして、この北の男を殺しなさい」

「あ、ああ……」

 バルドゥルが、慌てて立ち上がって転がった剣を取りに行く。ヴェンデルガルトが人質になっている今、ジークハルトは動けない。ジークハルトが動けば、ヴェンデルガルトは斬られる。

「折角私が傷を負って迄演技をしたのに、仕留め損なうなんて。どれだけあなたは無能なのかしら?」

「す、すまない」

 十二の少女の言いなりのバルドゥルの姿は、滑稽さを越えて憐れだった。ジークハルトは、動かない。ヴェンデルガルトを護る為に、斬られる覚悟をしたように見えた。

「心配しないで、ヴェンデルガルト。すぐにこの男の後を追わせてあげるから」

 ベルトの声で、ベルトと思いたくない言葉を囁かれる――ジークハルトが危ない目に遭っているのに何も出来ない。

 ようやく剣を拾ったバルドゥルは、王女に視線を向けて――驚いたように目を見開いた。

「死ぬのは、あなたよ」

 王女のすぐ後ろで、ツェーザルの声が聞こえた。振り返ろうとした王女の後ろに、剣を構えたツェーザルが居た。そうしてベルトが動く前に、彼女を斬った。

「あ、あ、兄貴……!」

 斬られたベルトの血を浴びるヴェンデルガルトに、ジークハルトが慌てて駆け寄った。そうして彼女を抱き締める。

「な、何故……確か、に……飲んだ……」

 王女の言葉に、ツェーザルが冷たい視線を落とした。

「あなたが淹れてくれたチャッツは、ラズナーが入っていなかった。代わりにエデルの香りがしたわ。エデルの粉を入れるのは、アンゲラー王国。だから、飲んだふりをして寝たように見せたのよ」

「……流石……知将……ね……」

 そう小さく笑うと、王女は崩れ落ちて事切れた。

「アロイスを殺したと言ったわね。バルドゥル、話を聞かせて貰おうかしら」

 ヴェンデルガルトが知らない、冷酷さを滲ませた顔のツェーザルがそこに居た。



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