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初めてのプレゼント

 サンドイッチとケーキを食べ終えてお茶を飲むと、カリーナがヴェンデルガルトに提案をした。

「湯殿へご案内します、二百年魔法で時が止まっていたようですが、湯浴みをされてさっぱり致しませんか? きっと、心がもっと落ち着くと思います」

「まあ、いいのかしら?」

 ヴェンデルガルトは、その言葉に嬉しそうな声を上げた。

「ビルギットさんも、是非。まだ不慣れな城内では、ヴェンデルガルト様はご不安でしょうから。勿論、私がお二人と共に参りますよ」

「姫様と一緒に入浴するなんて、とんでもない!」

「お願い、ビルギット。カリーナさんの言う通り、まだこの国の事が分からない私は、一人では少し怖いわ。ビルギットが居てくれれば、安心なの」

 敬愛するヴェンデルガルトに頼まれると、ビルギットは断れない。困った顔をしたが、「ヴェンデルガルト様がそうおっしゃるなら」と、頷いた。


「カール様」

 話がまとまると、カリーナがカールに歩み寄った。

「ヴェンデルガルト様が湯殿を使われている間、ドレスを何点か用意して頂けませんか?」

「は? え、そんな、俺はそんなこと疎いから……同じ女性に用意して貰った方がいいと思うんだけど」


 二人はこちらの話に気が付かずに楽しそうに話しているヴェンデルガルト達に隠れてこそこそと話を続ける。

「ヴェンデルガルト達のサイズは、私が手配をして店に連絡しておきます、そのドレスは、『カール様からのプレゼント』としてヴェンデルガルト様に送ってください。きっと、ヴェンデルガルト様はお喜び頂けるのではないのでしょうか?」

 カールは、自分がヴェンデルガルトに気になっている事にカリーナが気が付いて、応援してくれているのだと理解した。

「そ、そうだな……ドレスも今着ているものだけでは、不便だろうし……」

 自分への言い訳のように、カールはそう呟いた。それを聞いたカリーナがにっこりと笑った。


「それでは、お二人を湯殿にご案内しますね。カール様、では後ほど」

 綺麗なお辞儀をして、カリーナはカールを外に追い出した。部屋の外に出ると、部屋の前に立って護衛をしていた部下が少し驚いた顔をしている。

「団長? 顔が赤いようですが、何かありましたか? それに、メイドがケーキやお茶を運んでいたようですが」

「まさか、王女が無事に目覚められたのですか?」

 護衛の二人は、興味津々と言った感じでカールに尋ねる。黄薔薇騎士団の中でも、ヴェンデルガルトの存在は一部にしか知られていない。その護衛を任された事が、二人には自慢でもあるのだろう。


「ああ、王女は意識もはっきりしている――俺は少し街に行く用事が出来た。ヴェンデルガルト王女とメイドのビルギットさんは、これから湯浴みに行かれる。城のメイドのカリーナが付き添うので、彼女たちの護衛を頼む。大丈夫だとは思うが、俺がいない間は王女を絶対に守ってくれ」

「勿論ですよ! 団長の名を汚すような真似はしません! 全力で王女をお守りします!」

 その言葉を聞いたカールは安心したように、二人の背中を叩いた。そうして、街の貴族御用達のドレス店に一人で向かった。


「おや、カール様。あなたがここを訪れるなんて珍しい」

 店の店主は、黄薔薇騎士服にマント姿のままのカールが店に入ってくるのを見て、少し驚いたようだ。

カールが店に来たことは、一度くらいだろう。それも、先代の薔薇騎士団長の成人を祝う宴のドレスを送るときに、部下を連れてきた時以来だった。

「その……ドレスを、ある方にプレゼントしたくて……」

 恥ずかしそうに頭を掻くカールに、店主はにっこりと微笑んだ。

「カール様も年頃ですし、素敵な淑女(レディ)と出逢われましたかな? さて、どのようなドレスがお似合いの方でしょう」

 店主は面白がって聞く事なく、カールを微笑ましく見ながら若い女性用のドレスの展示場所に向かう。


「濃い金色の瞳で――同じく金の髪の十五、六歳のとても可愛らしい人なんだ」

「おや、金の髪に金の瞳ですと? それはなんとお珍しい。その様な方が、社交界にいらしたでしょうか? どこの貴族のお嬢様でしょう?」

 ドレスを広げる店主は、カールの言葉に不思議そうに訊ねた。王都であるこの街にいる大半の貴族の淑女たちは、ここでドレスを買ったり仕立てている。自分の代で、今までその様な客がいなかった。どこの令嬢か分からない店主は、首を傾げた。

 金の髪など聞かないし、まさか瞳も金の女性。そんな女性が社交界にいれば、噂になっているはずだ。


「事情があって――これから、城で生活されるんだ。ドレスも、今着ているものしかない。城内でドレスがなくては、不便だろう? だから……その、送ろうかと思って……」

 普段、騎士団を率いて魔獣と戦っている勇ましいカールではなく、初恋に戸惑っているあどけない初心な少年のような姿だ。店主は、そんなカールを好ましく思っていた。


「それはそれは。では――そのお方の為に素敵なドレスを、是非選ばなければいけないですね」

 より笑みを深くした店主は、カールに様々なドレスを広げてみせた。カールは自分が女性用のドレスを選ぶ事になるとは思わなかったので、どれがヴェンデルガルトに合うのかさっぱり分からなかった。


「あ、それは」

 カールが目に留めたのは、薄桃色の可愛らしさを表現したレースが目立つドレスだ。胸元を強調しない、可憐なヴェンデルガルトに良く似合う様にカールには思えた。

「ふむ、このデザインが似合うお方なのですね。それでは、こちらとこちらはいかがでしょうか?」

 店主は、そのドレスの横に同じように胸元を強調しない、可憐でレースが多い薄い青のドレスと薄い緑のドレスを並べた。


「う……どれも似合いそうで……」

「懐の広い男性は、女性にモテますよ?」

 「カール様の為に、お値段は考慮いたしますよ」という店主に、カールは赤い顔のまま頷いた。

「その三着を、プレゼント用に。サイズは、後ほど城から知らせが来る事になっている」

「かしこまりました。綺麗に包んでお届けいたしますよ。急いで、が都合よろしいでしょうか?」

「ああ、出来るだけ急いでくれると嬉しい」


 代金も後ほど届けにくる、と店主に告げてカールは急ぎ足で城に戻った。生まれて初めて、女性にプレゼントをする事になった。


「――気に入ってくれると良いんだけど」


 赤い顔を何とか冷やそうと手で仰ぎながら、カールはヴェンデルガルトが目覚めた事を報告する為、ジークハルトの執務室へと足早に向かった。

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