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【改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!  作者: 七海美桜
南の国の戦

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心配のヴェンデルガルト

 ツェーザルは、自国の兵に食料用の肉を狩りに行くように命じた。戦闘が長引いた場合、ヘンライン王国へ送る分とバーチュ王国の備蓄の食糧の確保だ。レーヴェニヒ王国の預かった五千の兵は半分に分けて、隣り合うアンゲラー王国との国境とヘンライン王国との国境を護らせた。

 本来なら第二王子も手伝うべきだ。だが彼は今夜もハーレムに(こも)って酒と女に溺れている。王も自分の息子であるが半ば呆れて、秘密裏に「首を落とせ」とツェーザルに命じていた。ツェーザルは、その時期を窺っているのと同時、実行を迷っていた。ツェーザルは、まだ非道になり切れていなかった。バーチュ王国を護る為に、危険分子は排除すべきだろう。だが、どうしても小さい頃泣きながら自分の後を追いかけて来た弟を(あや)める事は出来なかった。


 ツェーザルが悩んでいる頃、ヴェンデルガルトもアヤーを編みながら悩んでいた。コンスタンティンの残した言葉が、どうしても気になっていたのだ。『時が来ればヴェンデルガルトとビルギットの封印が現れる』という言葉だ。

 その時が来たから、封印が見つかったのだろうか? そうなると、コンスタンティンは生まれ変わっているのだろうか? そう考えると、アロイスの赤い瞳が浮かんだ。もしかすると、彼が生まれ変わりなのだろうか?


 しかし、自分を護り愛してくれている五人の騎士団長の顔も浮かんできた。彼らも心から、ヴェンデルガルトを愛してくれている。誰かを比べる事はしたくない――だが、選ばなければならないのだ。

「痛っ!」

 ぼんやりしながら編んでいたので、針の先で指を刺してしまった。ヴェンデルガルトの白い指先に、赤い血が滲んだ。


「そそっかしいですね、ヴェンデルガルト様」


 ビルギットの声が聞こえた気がして、ヴェンデルガルトの大きな瞳に涙が浮かぶ。こんなにもビルギットと離れているのは、初めてだ。ビルギットは、ヴェンデルガルトが十歳の時に専属のメイドになった。ビルギットは、その時まだ十三歳だ。メイドというよりは、遊び相手の延長の存在だった。

 アロイスが傍にいない今、ヴェンデルガルトは寂しさで胸が一杯だった。どれだけ皆に愛されていたのか、身に沁みて分かった。自分一人では、生きていけない弱い存在だと思い知らされる。

「戦に参加するのは、三人の薔薇騎士――カール様とイザーク様の様な気がする……」

 あと一人が分からない。ランドルフは長旅の上、大怪我が治ったばかりだ。彼ではないだろう。ギルベルトも、長旅の後だ。そうなると、ジークハルトしかいない。

「駄目よ、ジークハルト様はバルシュミーデ皇国の第一王子。他国の争いで何かあれば、また大きな戦が起こるかもしれない!」


 ヴェンデルガルトは血の滲む自分の指先に魔法をかけて、編み終えたアヤーに耳飾りの金具を付けてそれを胸に抱いて立ち上がった。


『あなたが、ヴェンデルガルトね』


 頭に直接声が響いた。これは、龍の言葉だ、とヴェンデルガルトは窓に視線を向けた。そこには、赤い龍が窓を片目で覗き込んでいた。


『私は、火龍のカサンドラ。コンスタンティン様の力を持つあなた……ヘンライン王国を助けて』

「私の力が……役に立つの?」

『あなたしか、出来ない事です。兵力の差が大きいのです……傷付いた兵を、助けて下さい』

 ヴェンデルガルトは、窓辺に歩いて行った。色は違うが、懐かしい龍の姿だ。ヴェンデルガルトを愛して護って、共に生きる喜びを教えてくれたコンスタンティンと同じ龍族。恩返しがしたかった。


「ヴェンデルガルトちゃん、起きてるかしら?」

 そこに、ツェーザルが部屋のドアをノックした。龍の大きな呼吸が響き、異変を感じたようだった。

「ヴェンデルガルトちゃん!」

 返事がない事をおかしく思った彼は、ドアを開けた。窓の傍に立つヴェンデルガルトと――初めて見る龍の姿だった。

「危ないわ、こっちに!」

「私が行かないと、兵が沢山傷付くんです!」

 駆け寄ろうとしたツェーザルを、ヴェンデルガルトが止めた。初めて彼女の強い意志を感じたツェーザルは、驚き立ち止まる。

「ヘンライン王国に向かいます。でも、戦いの邪魔はしません――お願いします、行かせてください!」


 その時龍が、何かを唱えた。

『遠くにいても、私とあなたはこれで会話が出来ます。ヴェンデルガルトに危ない真似はさせません。援軍が付くまで、彼女の力を貸して欲しいのです』

 それが目の前の龍の言葉だと分かった。確かに、まだ援軍は追いつかないだろう。龍ならば、すぐに彼女を運べる。自分はこの場を離れられない――ツェーザルは、頷くしかなかった。アロイスも、ヘンライン王国には居る。彼女を護ってくれるはずだ。


「分かったわ――でも、絶対に無茶をしないで。あなたを必要としている人は、多いんだから」

「有難うございます! 大丈夫です、私は必ず戻ります!」

 ヴェンデルガルトは、窓の外に降りた。龍が彼女を受け止めた。大切に彼女を手で包み、龍は大きく羽ばたいて空に飛んだ。


「気を付けて――ヴェンデルガルトちゃん……」


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