後方援護
国王と王妃である火龍のカサンドラ、宰相などが数人の兵を連れて城の奥に向かった。それを確認すると、ヘートヴィヒが口を開いた。
「レーヴェニヒ王国の援軍の後に、バルシュミーデ皇国の騎士団の部隊が来ます。この部隊は、手薄になっているはずのアンゲラー王国に攻撃して貰うと大将軍から連絡が来ました。私が今から、薔薇騎士団のイザークに連絡をします」
「イザークに? 龍の姿で向かうのですか?」
ジークハルトは、水龍のヘートヴィヒに訊ねた。すると彼女は首を横に振った。
「イザークに、魔法をかけていました。あなたも見たでしょう? 大将軍コンラートにも同じ魔法をかけています。私の声が直接届き、彼らの言葉も私に直接聞こえる様に」
「祝福を」と言いながら、古の言語を唱えていた。あれが、龍の魔法だったのか。ジークハルトは別れ際の時の事を思い出して、納得した。
「聞こえますか? イザーク。私は水龍のヘートヴィヒです」
水龍は、敢えて声を出してイザークに話しかけた。ここにいる者に、直接馬が砂漠を駆ける音が聞こえた。
『え? 声が? さっきの龍なのか?』
確かに、イザークの声だ。ジークハルトを始め薔薇騎士団とアロイスとその部下達も驚いた声を上げた。
「アンゲラー王国の多数の兵は、ヘンライン王国に攻めてきています。あなた達はバーチュ王国を通らず、手薄になっているアンゲラー王国に直接攻め込んで下さい。こちらは、バーチュ王国を通過したレーヴェニヒ王国の援軍が来るまで何とか耐えます。頼みます、アンゲラー王国の王を捕らえて下さい」
『分かった、急ぎ南東に方角を変えるよ。ねぇ、ヴェンデルガルトは大丈夫なの?』
「彼女はアンゲラー王国の罠によって攻撃を受けた兵士たちを治療して下さいました。安全です、目的を忘れず向かってください」
『分かったよ、彼女を助ける為にもアンゲラー王国の国王を捕まえる。了解した――ねえ、カール!』
そこで、声は途切れた。
「隣町、撃破されました! アンゲラー王国の軍は、止まらずこちらに向かって来ています!」
再び激しい鐘の音と共に、物見兵の声が大きく城に響き渡った。
「皆様、武器を手に」
ヘートヴィヒの言葉に、全員が剣を手にした。大きな盾を手にした兵たちが、門の前に並ぶ。
「火を使う魔法使いも合流しているかもしれません。私が水で消します、恐れずに戦ってください」
「あなたは龍の姿にならないのか?」
「龍の姿で人間と戦う事は許されていません。これは、あくまでも人間同士の戦いです。東の国の民以外の人間の為に戦ったと他の龍たちに知られると、龍との争いになるかもしれません」
アロイスの問いに、ヘートヴィヒが静かにそう話した。龍や東の国の決まりなのかもしれない。そういえば、レーヴェニヒ王国の大臣たちも剣を手にしていた。
「あなた方も戦うのですか?」
「大臣でありますが、武人でもあります。我々も戦う為に参りました、お気になさらず」
赤色のリボンの青年が答えた。それなら守らずにいいと、アロイスは安心した。
「アンゲラー王国は、刃に毒物を塗る事も多い! 傷を受けたら、気を付けてくれ!」
アロイスは、アンゲラー王国が育てている毒草の事を思い出した。確か、バルシュミーデ皇国の騎士も斬られたはずだ。効果は知っているだろう。
「ランドルフのあれか……分かった、アロイス王子有難う」
毒の効果は報告を受けているのか、ジークハルトが頷いた。そう会話をしている間にも、駱駝が疾走する音が次第に聞こえて来た。
「我々に勝利を!」
ジークハルトが、大きな声でそう言った。その声に、薔薇騎士団たちが同じように「勝利を!」と繰り返して士気を高めた。そうしてそれは、レーヴェニヒ王国の大臣たちも繰り返し、アロイスも「勝利を!」と声を上げた。
次第に明るくはなってきたがまだ暗い空の下、所々に置かれた篝火が迫って来たアンゲラー王国の軍の姿を映し出す。
「おおおお!! 攻め込めー!!」
戦闘の駱駝に乗っているのは、アンゲラー王国の王子でランドルフを斬った男だ。門は、鉄の扉で封じられている。用意して来たらしい破城槌という門を壊す丸型の大きな木を真っ直ぐに門にぶつけて衝撃で門を壊す道具で、何度も門を壊そうとぶつけて来る。
その合間にも、火の塊が飛んでくる。ヘートヴィヒが、水の魔法でそれらを消している。
門が、破壊された。わっとアンゲラー王国の兵士たちが攻め込んで来る。
「向かい打て!」
ジークハルトの言葉に、ヘンライン王国を護る男たちが門前で剣を振り上げた。夜明けまで、後僅かだ。
援軍が来るまで、持ち堪える――それを胸に、アロイスも門を潜ろうとした兵士に斬りかかった。




