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俺が護ります

「――本当に今は一八〇四年なんですね」


 落ち着いた様子になったヴェンデルガルトを名残惜しそうに離したカールは、再び彼女をベッドに座らせた。あまり女性のドレスに詳しくないカールだったが、レースやフリルが多く胸元を強調したドレスの女性を城やパーティーでよく見ていた。だが沢山の刺繍で飾られた豪華で少し重い、そしてレースが少なく露出が少ないドレス姿のヴェンデルガルトは、カールには珍しく見える。

 むしろ、この姿の方が彼女に似合っていた。


 カリーナは直ぐにお茶とサンドイッチ、ケーキを持って来てくれた。手伝おうとしたビルギットだが、今の作法を知ろうとしたのか、そっとヴェンデルガルトの手を握りカリーナの動きを眺めていた。


「私とビルギットは一六〇〇年に古龍の元に行って、二年過ごしていました。それから、二百と二年寝ていたんですね――今この国にある文献によると。ですが、二年合いませんね?」

「実は、輝く卵のような封印を見つけたのは、二年前でした。調べる事があると青薔薇騎士団が東との国境付近に向かったところ、山が崩れて崖になっていたところで見つけました。王都に持ち帰ったものの、王女たち二人が覆われていた殻を割るのに二年かかったんです。古龍が使っていた言語で封印されていたので、今は廃れてしまい調べるのに時間がかかりました。姫たちが眠る殻を見つけたのは、一八〇二年です。二年合わないのは、その為です」


 温かい紅茶の香りが部屋に漂う。それに、ヴェンデルガルトは落ち着いたようだ。

「まあ! これはローズティーね? 私の大好きな茶葉だわ。今の時代でもあるのね」

「ヴェンデルガルト様のお世話を承った時に、研究員に頼んで文献から王女の好みを調べておきました」

 カリーナは微笑んで嬉しそうに頭を下げた。ヴェンデルガルトの願いで、カールとカリーナにもお茶が用意されている。


 喋ることに夢中でお上品に少ししか食べない他の令嬢たちと違い、ニコニコとヴェンデルガルトは美味しそうに大きな口でサンドイッチを食べた。ビルギットも、遠慮しながらヴェンデルガルトと同じくサンドウィッチを食べていた。「美味しいわ」と嬉しそうな彼女の笑顔に、カールもカリーナも笑顔になる。


「それで――バッハシュタイン王国は滅んだと聞きましたが……私が寝ている間に、何があったのでしょう? 災害でも起きたのでしょうか?」

 至極当然な言葉だったが、それを聞いたカールとカリーナの表情が強張った。


「――一六〇二年。東で貴女と暮らしていた古龍の亡骸が見つかりました。龍の加護がなくなった時に、バッハシュタイン王国のゲープハルト・ハイノ・フンベルト・アインホルン辺境伯が突然挙兵して王都を攻撃しました。その年にバッハシュタイン王国は、滅びました。そして、アインホルン辺境伯が新しくバルシュミーデ皇国を作られました」

 カールは言葉を選びながら、ゆっくりとヴェンデルガルトに説明する。今の国は、彼女の国を侵略して作られた国だからだ。彼女が悲しんで苦しむかもしれない、とカールの気持ちは沈んでしまった。


「――そう。アインホルン辺境伯が……姉様との婚礼だけでは不満だったんですね」

 彼は、二番目の姉が嫁いだ先だ。調べれば分かるだろうが、ヴェンデルガルトの二番目の姉以外の王族は全て処刑されている。しかし、二百年経っているのだ。彼女が知っているものはもういない筈だ。カールは、それを敢えて話はしなかった。ヴェンデルガルトが望めば、それにはきちんと答えるつもりでいる。


「そうなると……私は、いつまでもここにお世話になる訳にはいかないわね。いつ頃出て行けばよろしいかしら? 出ていくときに、少し衣服や食料を頂けれるとありがたいのですが……」

「そんな! 王女を放り出すなんてことできませんよ!」

 ヴェンデルガルトの驚く言葉に、カールが思わず声を上げた。

「ヴェンデルガルト様の姉君は、バルシュミーデ皇国の最初の皇后です! 国は変わってしまいましたが、今の皇族は貴女と同じ血族です。皇帝がそのような判断をするとは思いません!」

「でも――私は、今は貴族でも何でもないわ。ただのヴェンデルガルトよ?」

「いいえ、あなたが高貴なお方であることは間違いない事です! もし城を出すような采配を皇帝が指示されたなら、俺があなたを引き取りお護りします!」


 カールの突然の言葉に、三人の女が動きを止めた。

「カール様、恐れながらそれはヴェンデルガルト様に求婚するというお申し出ですか?」

 カリーナがそう尋ねると、カールは思わず自分が大胆な発言をした事に気が付いて、一瞬にして真っ赤になった。

「いやいや、そう言う訳では!」

「女性に奥手のカール様の発言とは思えませんね」

 揶揄(からか)うようなカリーナの言葉に、カールは恥ずかしそうに顔を手で覆った。彼女を放り出すなんて、そんな事をしたくない。カールは無意識にそう思っていたのだ。


「カール様、落ち着いて下さい。これでもいかがですか?」

 ヴェンデルガルトが、フォークにケーキを乗せてカールの口元に寄せた。自然な仕草だったので、カールは思わずそれを口に入れた。

「まあ。ふふ、可愛らしい。ひな鳥のようですね」

 ビルギットが、思わず笑った。カリーナも吹き出して、ヴェンデルガルトが小さく笑う。恥ずかしさにカールは、ヴェンデルガルトのベッドの端に顔を押し当てて自分の顔を隠した。


「とにかく、俺はあなたの味方です。何時でも必ずお守り致しますから」


 ベッドの端に顔を隠したままのカールの言葉に、「ありがとうございます」とヴェンデルガルトは花のように微笑んだ。

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