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【改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!  作者: 七海美桜
赤薔薇 ジークハルト

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温かな光

「ジークハルト様が、微笑んでいる……」

 テーブルに二人のお茶と菓子を用意しながら、小声でカリーナが驚いたように小さな声でそう零した。

「珍しいのですか?」

 あまり大きな声で話してはいけない事だと悟り、ビルギットも声を殺して訊ねた。

「ええ、特に女性に微笑まれるなんて、私はこのお城で働いてから初めて見ました」

 二人の視線の先で、二人がぎこちないながらも会話をしていた。


「ジークハルト様、少しお疲れではありませんか?」

「……君にはそう見えるのか?」

「はい。ジークハルト様の光が、少し陰っています」


 ヴェンデルガルトは、その意味を簡単に説明した。

「疲れや怪我をしていると、その人から放たれる光がおかしく見えるんです。ジークハルト様は、お怪我や病気をされているようには見えません。そうなると、お仕事でお疲れなのかしら?」

「君には、その光が見えるのか?」

「はい。すぐに終わります――癒し(ハイルング)

 ヴェンデルガルトは、ジークハルトの額辺りに手をかざした。ぽわ、と光がその白い手から産まれて、光が自分の身体を走り抜けるような感覚がした。

「いかがですか?」

 少し窺うようにヴェンデルガルトが自分を覗き込む。頭がスッキリとして、心なしか身体が軽くなったような気がする。何より、彼女から産まれた光はとても気持ちが良かった。


「――有難う。身体が軽くなった」

 初めて、魔法を体験した。イザークの言葉は、間違ってはいない。ジークハルトに礼を言われると、安心した様にヴェンデルガルトは笑みを浮かべた。

「ジークハルト様、温かい内にガヌレット……食べませんか?」

 甘い香りが、ヴェンデルガルトを誘っているようだった。ドレスや宝石を望まず、素朴なお菓子をねだる少女は新鮮だった。

「そうだな、折角だから頂こう」

 ジークハルトは椅子から立ち上がると、ベッドから降りようとしたヴェンデルガルトに手を差し伸べた。昨日気を失っていたので、ドレスのままだった。それに気付きもせず、また寝ぐせの様にくるりと撥ねた髪も可愛らしい。自分の手を取りベッドを降りたヴェンデルガルトの手を握ったまま、テーブルにエスコートする。

「これは、ビルギットが作ったのね?」

「勿論です。ヴェンデルガルト様のガヌレットは、私が作ると決まっていますから」

 二人が席に着くと、カリーナがお茶をカップに注いだ。爽やかな香りのお茶らしい。

「この茶葉は?」

「ジャバか? もしそうなら、俺の好きな茶だ」

「そうでございます」

 酸っぱい実のなる葉で作られたお茶だ。葉にもその爽やかさが移るので、甘いものと一緒に食べるのに相性がいい。

「ジークハルト様、ビルギットが作るガヌレットはとても美味しいんです。カリーナさんも、是非食べて欲しいわ」

「ヴェンデルガルト様、ご安心を。先に味見をさせて頂きました。とても美味しかったです」

「まあ! ふふ、なら良かったわ」

 もう一人のメイドは、彼女が目を覚ましてから付けたメイドの筈。こんなにも仲良く、楽しげに話している様子を、ジークハルトは少し驚いて眺めた。茶会などでメイドに親しげに話す淑女(レディ)を、見た事が無い様な気がする。メイドが主に親しげに話すこと自体珍しいのだが。

「さあ、ジークハルト様」

 ヴェンデルガルトは、どうしても自慢のメイドが作るお菓子を、ジークハルトに食べて貰いたいらしい。促されて、「では」と口に運ぶ。

「……美味い」

 素朴な食べ物なのに、ジークハルトはそのお菓子は今まで自分が食べてきたものと違うような気がした。なにか、香辛料のような香りがする。

「今の時代は、ラズナーを入れないみたいですね。ヴェンデルガルト様の時代は、ラズナーを入れていたんです」

 ビルギットが頭を下げてジークハルトに説明をした。確か、ラズナーとは木の皮から採れる香辛料だ。独特の風味があり、料理にも多く使われる。バターと砂糖だけでは甘いだけでその甘さにすぐ飽きが来るが、これならスッキリ食べられる。

「気に入ってくださってよかったです――うん、美味しい」

 ジークハルトの感想に満足したのか、ヴェンデルガルトもガヌレットを食べ始める。

「これを食べ終わったら、ヴェンデルガルト嬢に頼みがある」

 お茶を一口飲んで、ジークハルトはすまなそうに口を開いた。

「何でしょう?」

「昨夜負傷した騎士に、治癒魔法をかけて欲しいのだが……」

 魔法は、使いすぎると身体に負担がかかると聞いていた。ジークハルトはこんな小さなか細い少女に負担をかける事を願うのは、心苦しかった。

「まあ、大変! 分かりましたわ、私はお世話になってるのですから、必要な時は遠慮なさらず言ってくださいね」

 ジークハルトの気持ちを理解したのか、ヴェンデルガルトは彼を安心させるように微笑んだ。


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