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【改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!  作者: 七海美桜
陰謀

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忘れた方がいい

 七日ほど経つと、ヴェンデルガルトの容態は随分良くなった。少しだが自分で食事を食べる事が出来るようになったのだ。変わらず薬とアヴァッケラー茶は飲んでいる。

「今日はいい天気ね。外に出たいけど……迷惑をかけてしまうわね」

 ベッドで上体を起こしたままのヴェンデルガルトは、窓の外に広がる晴れた空を見て残念そうに呟いた。

「俺が抱えて行きましょうか?」

 ロルフがそう言ったが、まだヴェンデルガルトの所在は城の中でも秘密にされている。ビルギットがそう説明をすると、ロルフはすまなそうに頭を下げた。


 部屋を変えてから、異臭もしなくなり順調にヴェンデルガルトは回復をしている。お茶を買いに行くビルギットは、時折東のお菓子も買ってくる。それも少し食べれるほど元気になったので、メイドたちもロルフもヴェンデルガルトを外に出してやりたかった。



 その夜。コンコンと窓を叩く音が聞こえた気がして、ヴェンデルガルトは目を覚ました。ゆっくり体を起こすと、久し振りに支えられずに自分の足で歩いて行く。そうして音がした窓に向かって歩いて行った。


「こんばんは、お姫様」

 窓の外には、いつか見た時の様な三日月が広がっていた。そうして、見知らぬ男。漆黒の長い髪に、龍の目の赤い瞳。東の国風の衣装の、見た事が無い人だ。

「こんばんは――あなたは、誰?」

 不思議そうなヴェンデルガルトの問いに、男は何も言わず微笑んだ。ヴェンデルガルトが窓を開けると、その男は宙に浮いているのが分かった。

「おいで、久し振りに外に出してあげる。綺麗な三日月だし――見ないと勿体ない」

 言われるまま、ヴェンデルガルトは差し出された男の手を取った。男はその手を引きヴェンデルガルトを抱き上げると大きな木の枝まで飛んだ。そうしてそこにヴェンデルガルトを座らせて、自分も横に座った。

「毒消しの薬が効いているようだね。もう少しで、毒も出て君の身体は良くなる。今まで通りの生活に戻れる」

「あの薬は、あなたが?」

「そうだよ。ビルギットに渡した。欠かさずに飲んでいるんだね」

 「少し苦いわ」と小さくヴェンデルガルトが言うと、男は小さく笑った。

「やっぱり、ちゃんと様子を見ないと気になってね。大丈夫そうだ、これで安心して私は東に戻れる」

 名乗らない男の服の裾を、ヴェンデルガルトが掴んだ。

「あなたは、龍? ――コンスタンティンなの?」

 それは、ヴェンデルガルトの願いでもあった。男は驚いたような顔をしてから、困った様な笑みを浮かべる。


「コンスタンティンは死んだんだよ? 生まれ変わっても、コンスタンティンじゃない。彼の我儘に付き合わせてしまって、すまなかった。君の解毒に力を貸したのは、その謝罪もある。彼の遺言を果たそうにも――君は、この国に馴染んでいる。幸せになりなさい、それでも東に来るなら受け入れよう。でも、コンスタンティンには二度と会えない事を理解してくれ」

「どういう事なの……? コンスタンティンは、甦るって……」

 不安そうな声音で、ヴェンデルガルトは呟いた。あんなに幸せだった二年間は、夢だと思えと言われたようだ。


「私は、コンスタンティンの生まれ変わりだと言われて育った――しかし君を見ても、生涯の伴侶だと思えない。可愛いお嬢さん、それだけだ」


 その言葉は、ヴェンデルガルトには衝撃的な言葉だった。大きく瞳を開いて、何も言えなかった。コンスタンティンの生まれ変わり? ――でも、私を愛していない……?

「君にとっては、辛い言葉だと分かっている。でも、私にはコンスタンティンの記憶がない。だから、君を幸せには出来ない」

 ボロボロと、ヴェンデルガルトの瞳から涙が零れた。男は困った様に、ヴェンデルガルトの頭を撫でた。

「泣かないで――かつて、私が愛した人。だから、今は心から君の幸せを願っているんだ。ああ、やはり会うべきではなかったね」

 男は、本当に心配した声でヴェンデルガルトの頭を撫でる。色々な感情が、ヴェンデルガルトの中で乱れていた。

「今は、身体を治すことに集中するんだ。今この国では、不穏な動きがある。元気になって、薔薇騎士団を手伝っておあげ。彼らには、君が必要だ」

 泣き過ぎたヴェンデルガルトは、まだ体が不調なので意識が薄れていく。

「あなたの名前は……?」

「――ラファエル。レーヴェニヒ王国の王だよ。ゆっくりおやすみ」

 ラファエルはヴェンデルガルトの額にキスをすると、そこでヴェンデルガルトの意識は無くなった。


「――ごめんね、これでいいんだ」


 ラファエルはそう言うと、ヴェンデルガルトを抱えて部屋に戻った。



 朝目が覚めた時、ヴェンデルガルトは何か夢を見たような気がした。だが、思い出せない。綺麗な三日月だけが、記憶に残っていた。そうして――何故か、心にぽっかり穴が開いた気がしていた。


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