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あとがき

青海夜海です。

悲願の花が手を振った。

 

 そこは彼岸花に囲まれた世界。


 青空は夕暮れで雲が風に流れていく。揺れる花々の紅は地平線の彼方まで広がる壮大で美しい世界だった。

 美しくて眼を離せないのに、どうしてか終わりの世界を彷彿させる。

 きっと世界が終わるその瞬間は、こんな世界の『彩』をしているのだろう。


 呆然と佇むリリヤを呼び掛ける声が後ろから聞こえた。

 懐かしい忘れることのない大切だった人の声音。

 振り返ったリリヤの紺青の眼と彼女の紅の眼がお互いを見つめた。

 そして、彼女はもう一度、彼の名前を呼ぶ。


「――リリヤ」


 優しい彼女の声は儚い。どこまでも切ない。

 紅花の髪に紅の瞳。佳麗な女性は彼岸花の中、組んでいた手を解いてリリヤに手を振る。


「久しぶりだね」

「…………」


 微笑んだ彼女を忘れた日はない。忘れるはずがない。

 だって、誰よりも大切で愛おしくて離したくない人で、そして――


 彼女は彼岸花の絨毯を歩み、リリヤの三歩手前で立ち止まった。どこまで見ても変わりない彼女の姿。変わることのない彼女がいる、想い出に残る四年前の姿のまま。


「そんな悲しそうな顔をしないでよ。私が困るでしょ」

「してない。……そんな、顔……してない」


 まるで昔に戻ったような感触が己を襲う。けれどどこまでも心地よくて涙が溢れそうだ。


「しているよ。泣きそうだね。ついでに嬉しそうだ。……だけどやっぱり悲しそうだね」


 そう彼女は微笑んだ。


「嘘だ。……俺は君に会えてうれしい。だから、悲しくなんて……あるわけないんだ」

「…………そうだね。なら、私も嬉しいよ。君とこうして再び出会え嬉しい」


 彼女は笑う。だからリリヤも笑う。笑ってやる。


「大変だったね」

「全然」

「辛かったね」

「まったく。だって俺が決めた事だから」

「寂しかったね」

「……別に」

「間が怪しいね」

「笑うな!」

「ふふっ。じゃあ、今は嬉しい?」

「…………どうだろう。でも、きっと今までと違う旅が始まりそう。そんな気がするよ」


 その言葉を聴いた彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。

 彼岸花なんて似合わない向日葵のような笑顔をリリヤに向けた。

 彼女は一凛の花を掴んでリリヤに差し出すように花びらを見せた。


「貴方は見つけたんだね。貴方自身を支えてくれる良き人たちに」

「わからない。……俺には――」


 君だけで良かった。


 なんて言葉を伝えられたらよかった。でも、そんなことは愚かだ。出来ようがないし、してはならない。


 悲愴に暮れるリリヤを悲しげに見つめる彼女は、口元を笑みに変えて彼岸花をリリヤへ渡した。一凛の花は魔法のように浮かび上がり、リリヤの手の中へと納まる。


「貴方が前に進むことができてよかったよ。それだけが心残りだったからね」

「…………」

「貴方がこの先の未来を生きてくれないと、私は不安で仕方なかったんだ」

「…………うそだ」

「ほんとだよ。……ほんとなんだよ」

「…………」

「だから――さようなら、だね」


 その一言は心を惑わす。その一言がリリヤの欲望を弾き飛ばす。

 けれど、知っている。わかっている。始めから理解していた。


 これは『夢』。これは『追憶』。これは彼女が残したリリヤへのメッセージ。最期の『標』。


 だってこの世界に彼女はもういない。

 彼女はもう〝死んでいる〟のだから。


「さようならリリヤ。どうか生きて」

「――また、いつか……いつか逢おう。いつか来るその日まで――。だから、また……。紅花の王姫(ラジアータ)


 微笑んだ彼女を忘れた日はない。忘れるはずがない。

 だって、誰よりも大切で愛おしくて離したくない人で、そして――俺が殺した最愛の人なのだから。


 彼岸花が風に流れ舞い散っていく。

『彼岸』と『此岸』を隔てる理が世界を紅く塗りつくした。

 埋もれていくはなびらの隙間から覗く、ラジアータは最期に『本当の願い』を呟いた。

 決して届かない、夢の奥底で。


「——————」




 *




 これは一人の『旅人』が書き残した物語だ。


 それは救われない救えない、唯々に悲しい惨劇。幾度の死が交わる誰も救われない悲劇。

 そう、これは悲劇の物語。誰も救われない哀しく虚しい物語。


 けれど、『旅人』をこう残した。


 ――この物語は終わることはない。

 ――悲劇に殺される彼らの物語はまだ続いていく。

 ――ここからは僕も知る由がないだろう。けれど、これだけは書き残させて欲しい。

 ――これは、決して悲劇だけではないと。悲惨があり、葛藤があり、残酷があり、死がある。けれど、確かな光が覗く物語である。

 ――どうか見守っていてほしい。彼らが辿り着く物語の結末を。


 そう、これは悲劇から一筋の光を辿る、淡く儚いけれど足掻いて抗った未来(さき)の、小さな希望を掴み取る物語。

 いつか始まる悲劇に、抗う人間の愚直な人類譚。



 これはそれだけの物語。


これいにて第一章は終わりです。

第二章は炎と英雄の物語。

しばらく更新はできないと思いますが、必ず更新しますのでしばしお待ちを。

それでは。

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