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其の魂血を監獄と呼ぶ

青海夜海です。

悪魔の儀式が惨劇を呼び寄せる。嗚呼、そこは命の冒涜の墓標だ。


 ――カチャリ。


 金属が重なるような引っ張り合うような、どこか鍵穴に鍵が回るような音が国中に鳴った。

 それは世界羅針盤(ワールドクロック)の時針が今宵を告げる始まりか終わりへの誘いのようで、けれどそんな優しく気持ちのいいものではなかった。


 『合図』であって希望ではなかった。始まりと終わりを意味する音。


 空を眺めていた一人の男――【轟震】ドランガル・ガルズ・フランガは目にする。

 正しく国の最期の宴を。


「……なんだ、あれは?」


 ドランガルの声につられるように、みな顔を空へ仰ぎ目を見開いた。


 どこか遠くで見ている【水脈】ミラーダ・テルミスも、【蒼炎】ルベル・ピオニィスも、住民たちの避難を手伝っている【フェーアルヴァーナ】のレェムファやピエリス、キャロやアリシブも、破片の処理をしていたミミルとバレリッタも、家の窓から見上げたアムネシアとヴァーネも驚愕と不安、不気味さと何よりも嫌な予感が背筋を凍らされ息を詰めた。


 見上げるは空。そこに浮かぶは赤き星。


 ずっとなかった『それ』は元から存在していたかのように、己の血のような赤をご照覧させる。


 それは『死』に似ていた。

 それは『血』に似ていた。

 それは『絶望』に似ていた。

 それは歪んだ『魂』に似ていた。

 嗚呼、それは浅ましくも愚かで冒涜的な魂血(あか)だった。


「あれは……(ほのお)?違うわ」


 生を司る魂の炎を知るアムネシアの真意は見極める。


「あれは命か……終わり果てた魂血(けつまつ)。記憶の汚染からなる神造の呪縛ってとこか……」


 広間から見上げていたグランダルナは直感的に、否、どこかでの記憶でそう零した。赤い星の赤。それは魂の血片。魂そのものではない。魂の残骸からなる記憶だ。


「私たちの国に何が起ころうとしているのですか?」


 ルベルもまた、不安な気持ちで仲間の死を見送る暇などなく懇願した。

 そして――その声が鳴り響いた。


「ここに力は集まった!儀式は産声を上げる!ボクの『明星』が光だす」


 青年の声音だった。狂気的で穏やかな狂わす声音。

 誰もがその姿を見て、恐怖を真髄から覚えた。否――思い出した。



 ――悪魔とは絶対悪であると。



「キミたちは実に愚図だァ‼けれどそれがボクを愉しませる。いいよいいよ、いいよ‼絶望と恐怖に染まったその醜き悪鬼の瞳!ボクという一人の人間を魔族をみるその揺れる瞳!素晴らしい!これは欲望!ボクが支配したいゲーム!そして、キミたちは盤上の駒でしかない。いいや、駒でなく生贄とでも云おう。キミたちは死ぬべき運命にある!このボクがァ!この世界の支配者となる――!故に!もっともっと!ボクがキミたちを地獄へ堕としてあげるさァ――ッ‼」


 正しく悪魔は背中から天使のような白と赤の羽をはためかせ、くすんだ金の髪と赤い瞳で嗤い、両手を広げて名を世界に示した。


「ボクの名は【明星】ルシファー!キミたちの恐怖の根源たる悪魔の一人にして、天使失墜の堕天使さァ‼」


 嗤う嗤う、笑う。愉快に享楽に娯楽に狂瀾に笑う。


「ルシファー⁉それって、悪魔の……」

「なに?なんなのあれ……?」

「意味わかんねー……!」

「嘘ですわ……悪魔だなんてありえませんわっ⁉」

「ヤバいです!早く逃げないと……っ!」

「あれが……悪魔であるか……」


 レェムファ一同は恐怖に固まり、ルベルは直観的に逃亡に脳をフル回転させ、ドランガルは未だ見たことのなかった世界の凶悪に目を眇めた。


 赤き星を繋ぐ楔の血たる魔力が輝きだす。それに従って、楔が地面に幾何学を描いていく。外壁を沿うように円を描き、中央へと赤い星の下へと繋がるように赤い模様が走る。


 それは魔法陣。天空から見上げるルシファーだけが知る彼の〈権能〉が作り出した魔法の儀式。


 直感があった。これはダメだと、絶対に触れてはいけない、見てはいけない、考えてはいけない。そう言った代物だと、魂の覇気(せいめい)だと……。気づいた一握りの彼らだけが動き出した。


 楔によって囚われたこの国に逃げる術はない。

 彼らアーテル王国の人間は死人の監獄に囚われたのだ。


「さあ!〝明星よ、魂血の呪いに支配しろ〟!――〈精髄の聖名(ヴェスペリア)〉」


 紅き魔法陣が炎のように輝いて、赤き星へ繋がり、世界を縛りあげた。


「宴を始めよう」


 紅き閃光がばら撒かれ、その瞬間アーテル王国の人間は魂を穢された。




 ………………………………




「始まってしまうのか……」


 屋根上から見下ろしていたヘルマ・メルクリウスは悲し気に呟いた。


 今から始まる惨劇を知っていたかのような口振りであり、同時に自己嫌悪と無力さに打ちひしがれているかのように己を悔いていた。白髪を燻り、青色の瞳は悲愴に囚われる。


 彼は『旅人』。

 この世界に介入することが出来ない使徒。

 永遠に受け継がれる神の呪縛(アナテマ・リガー)だ。

 けれど、それは己の使命であり、運命で宿命。自らの運命をもって、世界の運命を伝える神々の使徒。


【旅人】は懐中時計に眼を落とし、落胆した。


 囚われの世界は創造された。魂が穢され、意志が曲げられ、命さえ冒涜させられる。醜悪で汚染的、忌むべき世界の誕生は、非道の上に成り立つ悪魔だけの倫理によって導かれる。

 赤き星が浮かび、魂血の楔が監獄となすその地。そこは正しく地獄へと成り果てた。


「………………キミは、この地獄を見て、どうするのかな?この地獄を覆すことは出来るのか?」


 ヘルマは始まった惨劇に背を向けた。


「『正義』と『復讐』は何を見せてくれる――――」


次の更新は22日あたりにします。

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