死神
初めまして青海夜海です。
此度、アウズ・イン・リコレクションを投稿しました。
復讐者と正義の冒険譚です。
どうか楽しんでください。
「また、いつか逢おう。いつか……君に会いにいく。だから――――」
俺の言葉が届いたのか知らない。君は最後まで笑っていた。泣いて笑って彼岸花に包まれていた。
そして、紅花のような彼女は、静かに散って逝った。
序章『救われないその者』
誰かが言った。その者は『悪』だと。
残酷なまでに血を散らすその姿、背中から生える漆黒の龍の翼、その蒼月の眼が宿し殺意の限り。
誰もが畏怖を抱いた。誰もが嫌悪を感じた。誰もが忌避感に吐いた。誰もが――『彼』を人類の『悪魔』だと、すべての人間は彼を異端と迫害した。
十を過ぎた子供を人間は恐れた。――悪魔の子だと、竜の怨念だと。
助けてもらったのにも関わらず、要らないものを、使わなくなった物を捨てるかのように、少年を追い出した。少年の殺そうとした。
――死ね、消えろ。そんな言葉だげが浴びせられた。
決して『英雄』と呼ばれることのない『救世主』は世界からも居場所を奪われた。
かの者の名はリリヤ。
家族を魔族に殺され、愛した人を喪い、『復讐』と『悲願』を誓った、誰からも愛されない、殺された少年。
悲願を胸に非情の世界に身を落とした哀れな救われない龍の子。
少年を畏怖し恐怖し、また救われた確かな命に敬意を称え人々は彼にその名を与えた。
この世界で唯一の死の神。死を導く者――『死神アウズ』。
そう『名』をつけた。
これは、心を捨て復讐と悲願を誓った少年と、正義を貫き剣を掲げる正義の少女が歩む――終りと始まりの救いのない哀しい悲劇。
世界は魔物によって脅かされている。
人類の大陸の今や半分以上は魔物たちにより征服され、人類の砦は極僅かだ。
悪魔に従う魔族によって人々は蹂躙され、無限に魔物が湧き出るダンジョンにて人の生存権は奪われていく。
神は天へ帰り、精霊は眠りにつき、竜はその身を居所に預けた。
神話の彼方、とある二神の邪神によってもたらされた天地変動の禁忌の法廷――【禁忌の禍々実】。世界に満ちるマナを媒介として、生命の力の源である魔力とは違う法則紛いの理外のエネルギーである『魔素』。
魔素によって動物は『魔物』に、人間は『魔族』に。
知性も理性も自己も存在しない殺戮の化身は世界に仇名し、それは破滅のみを連れてくる。
すべては数千年前の惨劇により覆された。
時代は巡る。
英雄や神々によって守られた世界は再び蹂躙を味わう。
世界は決まって破滅へと向かっていた。
この世界で、魔族は人類の敵だ。誰もが忌み嫌う狂った狂楽者にして殺戮者こそが奴ら。
魔物は生物体の異分子。生命の種を冒涜するいるべきでない気色の存在にして奴等もまた殺戮のみを好み狂戦の怪物。
そうして世界は何千年の時を流れ、神聖紀から人類紀に移り変わり、英雄が存在しないこの時代。
――そこに魔族の死体の山が出来上がっていた。
血と屍のみの見るに堪えない残忍の地。残酷に惨劇を名に死のみを与える凄惨の山。
その頂上には、ひとりの少年が立っていた。
白髪を血に濡らし、ボロボロの外套から濁流の如き出血の赤。その手には一振りの蒼月の剣が逢魔が時の闇に光輝く。
その異常な情景を見て知る。彼が魔族を殺戮した正体だと。
嗚呼、彼は悪魔たちに家族を殺された『被害者』。
嗚呼、彼は悪魔に復讐を抱き、殺戮を誓った『殺戮者』。
嗚呼、彼はただ求めるものの為に力を求め殺し続ける悲願に哭く『悪人』。
その魔族の山の中、よく見れば只人も混じっていた。
その森は火を灯し、逃げ纏う人間たちの叫喚が木霊してくる。星の僅かな輝きは哀れと嘆いているよう。冷風の煽りは痛切に世界を切り離す。火の焦げるにおいが嫌に死臭と混ざる。
すべてが彼を咎めていた。すべてが彼を悪と責めていた。すべてが彼に罪を与えていた。
彼は己の邪魔をする者は赦さない。道を阻むものはすべて殺す。
そうだ。すべて殺すのだ。世界の敵である悪魔も魔族も、悪人も善人もすべて。
少年に心は存在しない。強さのために捨てたから。
少年に優しさはない。そのすべてを偽りと知れ。
少年に救いはない。ただ復讐のために、悲劇を生み出さないために、彼は剣を振るう。
屍の山の頂、蒼月の瞳が世界を見渡した。
「まだ足りない……もっと。もっと、力を!――力をッ‼」
後に彼は【死神アウズ】となる復讐者。
誰よりも強さを求め、誰よりも希望を捨て、誰よりも孤独な少年。
それでも、過去を激情に今を憎悪に未来を殺意に、ただ悲願を為すために少年は血に濡れ死を振り撒く。
「君を取り戻すための力を――」
彼は『復讐者』――ただ、それだけの存在だ。
二話以降からリリヤの視点において物語は続きます。
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