旅人の日々~アルカの冒険記録~
暖かな日差しが差し掛かる春の正午。
広大な緑色の草原の中で大きなバッグを背負い、鼻歌交じりで歩く一人の青年がいた。青年の名はアルカ。
歩いているとアルカの腹の虫がぐぅっとなり始め、自分の腹の音に気づいたのか足を止めて腹に手を当てていると歩いた先にある大きな森を見つけた。
森の中なら食料があるかもしれないと閃き、アルカは森の中へと足を運ぶ。
辺りを見渡すと木々には沢山の赤い木の実が実っているのを見つけた。それを10個ほど採取する。
そのうちの3個は罠を仕掛けるためのエサとして使おうと考えた。それは小さな竹笊を使った古典的な罠のやり方だ。
木の棒を長い紐で括り付け竹笊で固定し設置する。
その下に先ほどの木の実を置いた後にアルカは紐を持ったまま茂みに隠れてじっと待った。
するとすぐに短い二本角の生えたリスらしき生物が罠の方へと向かった。
タイミングを見計らい今だと紐をぐっと引っ張ると木の棒はパタンと倒れ、竹笊はリスを包むように捕らえた。
ガサガサと抵抗し始めたリスは暴れた拍子か、自慢の角が包まれた竹笊をブスリと貫通したのだ。
これはまずいとすぐさまリスの捕獲を急いだ。
竹笊を持ち上げリスを軽く引っ張るとそのままスポッと抜けた。
いざ調理を開始しようとリスの体を先ほどとは違う細い紐をポケットに取り出し、ぐるぐる巻きにしようとしたそのとき、リスは自分が食べられると悟ったのか、うるうると涙袋を流す。
それを見たアルカはそんな目で見ないでくれと紐を持った手を自分の顔にかざす。
申し訳なさそうに野生に帰そうと紐をほどき、リスを帰そうとした瞬間、突如、大きな鷲が颯爽と現れては帰そうとしたリスをガッとつかみ、そのままどこか遠くの空へと羽ばたいた。
あまりの出来事に消えたリスをキョロキョロと探すも、気づいたころにはすでに鷲とリスの姿は小さくなっていた。
慌てて追いかけようとするも当然ながら見つかることなく、気が付けば夕方に差し掛かっていた。
リスの墓を建てており、昼間に採取した木の実をすべて供え、アルカは泣きながらリスに対して謝罪を繰り返す。
するとズシンズシンと地響きが鳴り、ガサガサと草木の音が不安感を煽らせる。
何事だと辺りを見渡すと彼の後ろに立っているのは赤い目をしている巨大なイノシシの姿だった。
リスによる祟りなのか、木の実の匂いに釣られてやってきたのか、それともアルカという獲物を見つけたのか、いずれにしてもイノシシの口から涎があふれていた。
ガタガタと震え始めたアルカはすぐさまこの場から離れようと全力疾走で走り始める。
イノシシもまた彼を追いかけた。
木々を避けつつ走り続けるアルカだが、イノシシは自慢の突進の力で木々を次々とへし折り、徐々にアルカの距離を詰めていく。
これはまずいとアルカは方向を変えて進むが、イノシシはそれに気付いたのか、カーブを描くようにアルカのいる方向へと進み、また距離を詰める。
息切れし始め、もうだめなのかと半ば諦めかけた時、大きな岩壁の前にたどり着いた。
アルカはハッと閃き、岩壁の前で足を止め視線をイノシシに向けた。
当のイノシシは岩壁に目もくれずアルカだけを見て走り続ける。
ぶつかるギリギリのところで彼は左に避け、イノシシは彼が方向を変えたことと、岩壁にぶつかることの焦りで急ブレーキをかけようとするも、時はすでに遅くそのままドォンっと岩壁に強くぶつかり、そのまま気絶した。
ふうっと一息ついたアルカはどこからかナイフを取り出し、くるくると回しながらイノシシに近づく。
おそらく夕飯の調理の為にイノシシを解体するのだろう。
気が付けば夜がふける頃、緑色のテント、木製のテーブルとイス、テーブルの上にはおしゃれにテーブルクロスとスプーンとフォーク、その後ろには小さな釜戸とその上にコトコトと鳴る小さな寸胴鍋が一つ。
ふたを開けると鍋いっぱいのイノシシのビーフシチューがあった。
皿を盛り付け、鼻歌交じりでテーブルに持って行ったあとゆっくりとイスに座る。
熱々のビーフシチューにしみ込んだイノシシの肉は、フォークを刺すと崩れそうなほど柔らかく、いざ食べようと口を運ぼうとしたその時、ひゅーっとなにか落ちる音が聞こえる。
その音はやがてアルカの方、いや正確に言うと彼が今食べようとしているビーフシチューの方に落ちてきている。
そのまま海に飛び込むかのように勢いよくダイブし、熱々のシチューの飛沫はアルカの顔にこれもまた勢いよく飛び散った。
落ちてきた物の正体が昼間に鷲にさらわれた二本角のリスだったことに気づいたのは、約数秒後の事である。
これはアルカが自由気ままに旅をするちょっとした物語
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今回が初投稿となります。
感想など頂けると大変励みになります。
これから宜しくお願い致します