第4話 学校祭前夜
時は少し飛び学校祭前夜へ
「今日もいないか。みんな忙しそうだなぁ」
初会議以来から生徒会メンバーは僕以外あまり生徒会室にきておらず、1ヶ月半以上もの歳月が立っていた。
集まっていない理由は劇のための自分の衣装を作るらしい。それに各クラスの出し物とか準備もあるため生徒会の活動自体あまりなかった。
僕には彼女達が何をそこまで奮い立たせるのか分からないが、記憶の整理をする時間でもあるので今は正直1人でいる方が楽だ。
「明後日か......文化祭」
生徒会室の窓を覗くと、それぞれの人が自分の仕事をしているのが見えた。
板に何か文字を書いている人もいれば、体育祭の自分が出る種目の練習をしているものもいる。
僕自身学校祭は味わっていないので、どんなふうなお祭りになるのか少し楽しみだ。でも、少し不安もある。
生徒会室のドアを開く音がして、そんな僕の考えは妨げられた。
「あ、先輩いたのですね」
鳴霞がカバンを持って生徒会室に来た。
久しぶりにみる彼女の顔は少しだけ疲れているようで、日々準備などであまり眠れていないのだろう。彼女の綺麗に整えられていた目には少しクマが見えて。
「今日は来れるんだね。衣装は完成したの?」
僕がそういうと彼女は首を縦に振った。
「そういえば、先輩は学年の劇は何に出るのですか?」
学年の劇。それは学年が一体となって劇を作るのだが、僕はそれに大きな仕事を任された。
「僕達2年生は桃太郎をやるんだけど、僕は桃太郎をすることになったんだ」
桃太郎の主役役だ。
僕が記憶を失ったからそういった特別な立場になったのか。最初はそう思ってはいたが、みんなの話によると僕は元々は学年の中でも有名というか人気者だったらしく友達も多いとのこと。その人脈があったからか記憶喪失の後でも主役をやってほしいという意見が多く僕は反対はできなかった。
でも、僕に無理強いはできないということで僕自身のセリフはほとんどなく主役でありながらもそこまで大変な役にはならなかった。そんなところはみんなに感謝はしている。
「すごいですね、やっぱり先輩は憧れます。」
彼女は僕の目をじっと見つめニコッと微笑みそう言って。そんな目に嘘はない。そう思えた。
でも、憧れるか......それは今の僕?それとも、記憶を失う前の僕なのか?僕が主役になったことなんて前の僕の力だけだ。今の僕は何もしていない。
そう言いそうになったが、喉の奥で何とかとどめた。
これは言ってはいけない気がした。
「でもさ、少しオリジナリティも入ってるんだ。桃太郎は旅の途中で記憶を失うけど、桃太郎の仲間達の頑張りで記憶が戻って鬼を退治するって話だよ」
何だろう、鳴霞の目が少し怒っているような気がする。
何か変なことを言ってしまったか?
「先輩は......自分が記憶喪失のせいでその役をやらされているんですか?」
鳴霞が力強い声で僕に尋ねた。
「多分そうだろうね。でも、僕はそれでもみんなの役に立てればいいと思っているから。さらに、みんなも自分の役割をちゃんと果たしているし良いと思うよ」
僕は鳴霞に心配して欲しくないので、出来るだけにっこり笑うように言った。
それでも、鳴霞の不安の目は消えなかった。
だめだ......これ以上鳴霞と一緒にいると彼女を傷つけてしまう。
そう思いこの話はなんとかやめようと別の話題を切り出していく。
この日は何とか僕の劇の話はすることはなくただ2人で仲良く話をしながら生徒会室で過ごした。
家に帰り僕は自分のベッドへと体を倒す。僕自身事故を起こしてまだ日は浅いということで準備などの仕事自体はあまり割り振られていない。劇の少ないセリフを覚えるくらいだ。それもすぐ覚えてしまい僕は今手が余っている状態。
そんな時間があったからか僕は色々と生徒会メンバーのことを考えるきっかけができた。
何か彼女達は闇を抱えている。
そして、前の僕はそれを解決している。でも、前の僕はいなくなった。そのせいで、彼女達はまた不安がっている。
根拠はない。でもそんな予感はする。
彼女達の目を見ると何となくわかってしまう。
僕はそっと目を瞑りそのまま精神的な疲れからか眠ってしまっていた。
学校祭の前日の僕は何も仕事がなく、手伝おうとしてもみんなからは休んでてほしいと言われてしまい暇になっていて僕は学校内を歩くことにした。
みんな忙しそうだなぁ......
何もしていない自分が少しだけ嫌になる。僕はもう元気なはずなんだけどね。
そんなふうに静かに愚痴を呟いていると変な教室を見つけた。
「何だこの部屋?」
3階の端にある教室の入り口に、黒色の暗幕がかけられていて、窓から中が見えないようになっていた。
僕は好奇心でその教室のドアをノックした。
そうすると、中から空いてるから入ってきなと声がしたので僕は失礼しますと言い、中に入った。
「おお、久しぶりだね秋紗氏。夏休み前以来だっけ?」
中には背が小さく、黒髪でどこか人形のと見間違うような美しさがあり少し幼い顔をした少女が結構高価そうな皮のソファによしかかり、座っていた。
その服装は制服とは違い、黒色のドレスだった。
「えっ?あの、僕の知り合いですか?」
誰だろう。僕はこの人を知らない。もしかして.....記憶を失う前の知り合い?この人と関わればまだ僕のわかっていない記憶がわかるかも知れない。
そう思っていると、彼女はキョトンとした目で僕の顔を見つめた。
「ああ、そうか、君は記憶がなくなったのだね。最近は君と会っていなかったから忘れていたよ。まあ、腰をかけて座っていな。お茶を持ってくるよ」
そう言い、彼女は立ち上がりポッドからお茶を出し、僕に差し出した。
僕は近くにあった椅子に腰掛け、彼女を見つめた。
「あの、あなたについて教えてください」
「君が初めて私のところに来たのは、今日みたいな時だったな」
彼女は窓の方を向き少し遠い目をしては語り始めた。
「あの時の君も今の君と同じように気まずそうな顔をしていたね。あっ、名前を教えていなかったな。私は3年1組の黒鷲涼音だ。覚えていてくれ」
「この人先輩なのかよ!」
僕はつい驚いて、口に出してしまった。
「はっはっは、君は私と初めてあった時と同じ反応だな!やっぱり、君は君だな」
「あの、すみません。後輩かと思ってました」
彼女はいいよいいよと言い、話を続けた。
「ここは占い部だ。部員は見ての通り私1人だ。こんな広い部室を1人で使えるのはいいご身分だろう?多分私が卒業したらこの部活は無くなるだろう。そして、君はなぜここに来た?」
占い部......そんな部活があったのか。
そういえば、この学校マニアックな部活多いよな。
オカルト研究会とか料理部の他にパティシエ部とか分けられてたり、新聞部とか釣り部とか。
「たまたま目に付いたんです。ここが」
俺は正直に彼女に言った。
彼女は真っ直ぐ僕の方を見ているせいなのか、嘘をつくことはできない。
嘘をついても見透かされるような気がして。
「君はさすがだな。私の前では嘘をつけるものなどいない。でも、君は違う。伝えたいことは伝えず、嘘をつかない程度で伝えたくないことを言わない。さすがだ」
だが、それも見抜かれていた。
「まあ、君が初めて来た時は君の所属している生徒会メンバーについて相談を持ちかけられたね。そんなふうにして君は何回か私のところに来ては茶を飲み一緒に話をしたりしたね」
僕はこの人のことをとても信頼していたのか。
でも、その気持ちは分かる。この人はとても良い人だ。ただいまのちょっとした時間の付き合いなのにそう思える自分がいた。
何となくだが僕の心がそう言っている。この人は信用してもいい人だと。
「私はとても良い人だと思っているだろう?それは違う、私はとても悪い人間だよ。だから、私は嫌われている」
「えっ、嫌われているって、3年生全員にですか?」
涼音先輩は黙って首を縦に振った。
まあ、この人少し怖い感じも出てるけど、中身はこんな良い人だ。
だから僕にはにわかには信じられない話だった。
「あの、涼音先輩と話していたら少し落ち着いて来ました。今はもう遅い時間なのでまた来てもいいですか?」
「ああ、また困ったら来るんだぞ。私はいつでも君の力になると誓っているからな」
頼りのある先輩だ。
でも、僕の記憶には何も反応はなかった。心には少し違和感を感じる部分はあったが......
下駄箱から自分の靴を取り出し家に帰ろっとすると後ろから僕を呼ぶ見知った声がした。
「あの、秋紗君。ちょっといいかしら?」
後ろを振り向くと純恋が少しだけ気まずそう?いや、何か少し不安そうな顔をして立っていた。
「どうしたの?」
「明日の午後の自由時間は私とデートして欲しいの」
それは予想外の言葉ではなかった。
普段なら驚くだろう。でも、僕は彼女がこう言うのを大体察していた。
「ええと、1日目は詩織と佳織で交代して回る予定があって、2日目は鳴霞と回る約束があるから、鳴霞の後でいいかな?」
僕は事前に他の3人から一緒に回ろうと言われていたのだ。
だから、純恋が言ってくるのではないかと思っていたら、案の上だ。
なんでみんなが僕を誘ったのかはわからない。でも、2人きりじゃなくてみんなで回った方が楽しい気はするけどなぁ......
「え、本当かしら?私が出遅れたのね。じゃあ、それでいいかしら?」
「うん、いいよ。俺も純恋と2人きりで話したいことあるし」
こうして僕の学校祭の自由時間のスケジュールはほとんど埋まり学校祭が始まる。
僕の運命を変える......学校祭が
次回から展開していきます