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記憶を失った俺とそれを取り戻そうとするヒロイン達の物語  作者: おはなみ
第2章 帰還する約束
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第29話 屋上

「いたい……」


熱を帯びるように自分の左頬に手を当てながら、擦るようにして癒していく。その左頬は赤く翌日になってももしかしたら後は消えないかもしれないほどで。

自分のベッドに横たわりながら妹でもある春音の顔を思い浮かべる。


僕とメルトの状況を見た瞬間春音は僕の左頬目掛けて力強くビンタをしてきた。

言い訳を言う時間もなく。


いや、言い訳なんて言えない……背中を流すことを了承したのだから。


それからは春音の部屋の扉をノックしても反応はなく部屋に閉じこもっていた。

メルトも同じように声をかけていたみたいだが、それでも反応はなくて。



「明日朝謝るしかないか……」


この状態を明日に持ち越すのは嫌だったが、春音が僕に会おうとしないのだからどうしようもない。

今は明日朝早く起きれるように今は休もう。




「おはよう、春音」


重たい瞼を無理やり開けながら目を擦りリビングへ行くと、制服にもう着替えていて朝のトーストと味噌汁を食べている春音がいて朝の挨拶をする。


「……」


そんな僕の言葉にジト目で睨みつけるように見た後、そっと目線をテレビへ逸らし何も言わない。


「……昨日はごめんね?メルトに背中を流してもらってたんだ。ご飯のお礼ってことで……でも、別にやましいことをしていたわけじゃない。それだけは信じて欲しい……アレは事故だから」


事故、それは事実だ。

やましいことをしようとしていたわけではないはず。いや、少しは考えてしまう。それでも決して妹の友達に手を出そうなどとは思ってはいなかった。


「はぁ……もういいよ、怒ってないから」


僕に目を合わせようとせず、ため息を軽く吐きながらテレビの方を見て春音はそう言う。

そんな彼女の言葉は僕の言葉はどこか的外れと言わんばかりのような感情で。



「それと……僕、記憶喪失してるんだ」


「……知ってる、いいから。それだから……いや、なんでもない。先に学校行くから。メルトも起こしといてよ」


そう言って春音は逃げるように椅子に置いておいた鞄を手に持ち、食器を洗面台に置けば学校へと向かっていく。

そんな春音の行動を僕は止めることはできずただ見送ることしかできていなくて。




「おはよう、春音ちゃんは昨日帰ってきてたんだな」


いつも通りの教室。僕はいつも通り自分の席につきカバンを置くとまさやが僕の方へ寄ってきて


「そう、びっくりしたよ〜……それもアメリカから来る子も僕の家に住むことになってさ」


「え、おまえ……何そのハーレム状態」


「いやいや、そんなんじゃないし……そんないいものでもないよ」


どこか機嫌の悪い春音、可愛くて甘えさせたくなる後輩のメルト。それでも今までずっと1人で暮らしていたからどこか自分の家だと言うのに窮屈さを感じてしまう。

決して3人で暮らすのが嫌だと言うわけではない。でも、息を休める暇はなくて。


「へぇ……いろいろと苦労してるんだな」


そんなこんなで朝のHRの時間となったため雅也は自分の席へと戻る。

妹の春音が家に帰ってきて、3人で暮らすことになっても僕の学校での生活は何一つ変わらない。


いや、変わってほしくない。



でも春音が帰ってきたということでそんな思いはそう簡単に叶うわけもなくて……




「秋紗、大変だ!」


昼休みが後5分ほどで終わるだろうか。

僕はトイレに寄ってそこから教室に戻ろうとした時に雅也がどこか大変なことでもあったかのように僕を見れば駆け出して話しかけにくる。


「ん?どうかした?」


「お前の妹、春音ちゃんが……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「全く……あの兄貴は……」


昼休みの中、久しぶりに学校に帰ってきたというのもあって周りから、アメリカの学校はどうだったとか話しかけられるのにうんざりで人があまりこなさそうな屋上でのんびりと昼食をとっていた。

そんなゆっくりとした時間を過ごしていると、どうしてもとある人のことが頭に浮かんでしまう。

自分の兄でもある東雲秋紗だ。


記憶喪失になってしまったというのは最初聞いた時は俄には信じられなかった。でも家で言って実際に話してみると自分の知っている兄では全然なかった。

それに追撃するようにお風呂でのメルトとのやり取り。

記憶を失う前の兄だったらあんなことは絶対しないはず……


もう前の兄は帰ってこないかもしれない。そんな思いが心の奥深くから湧き上がってくると、胸が締め付けれるような辛さが芽生えてくる。


会いたい、前の秋紗に会いたい。

でももうそれは叶わないかもしれない。




「……って、何考えてんのよ馬鹿馬鹿しい……あんな兄貴なんてどうでもいい」


まるで自分に言い聞かせるように少し大きな独り言を呟けば、屋上の扉を開けて出ていく。

そして一歩ずつ階段を下っていく。その時何者かが自分の背中をグッと押してくる感覚に襲われる。


「えっ……?」


背中を押されバランスを崩していきながら、階段から落ちていく。その時咄嗟に後ろに向いた顔から、何者かの顔を見た。


「あんたは……」


そして体は崩れ落ちるように階段から倒れて。



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