第28話 初めての感触
「えっと……お茶とか飲む?」
春音が自分の部屋に逃げ込むように帰ってしまえば、リビングにたった今出会ったばかりで、しかもこれから一緒に生活しなければならない僕とメルトだけただ残されて。
なんで話せばいいのかわからず沈黙の中、時計の針だけがチクチクと動く音に、まるで自分の心臓が針で刺されているような重い雰囲気で、そんな空気を変えようとお茶を入れると提案し立ち上がって
「ありがとうデース、えっと……聞いていいデスか?」
湯呑みにお茶を入れ彼女の正面にそっと置く
僕は彼女の正面に座るように椅子に座って。
「何かな?」
「記憶喪失ってどういうことデスか?」
「あー、それは……たしか9月くらいだったかな。交通事故にあって記憶を全部無くしてしまったんだ」
そんな僕の言葉に彼女はアメリカンっぽくよくドラマで見るようなohと反応していて。
その反応に思わず笑みが溢れ、そんなふうに笑う僕に彼女もまた笑って。
初めはアメリカの人ということで話が通じるのかどうかという不安や、初対面で何を話したらいいのかわからないといった迷いはあったものの話してみれば、そんな不安もすぐに消え彼女は日本に憧れを持っていたらしく日本語もそれで勉強していたとのこと。
「それで……一つ大事なこと聞いていいデスか?」
「ん?大丈夫だよ」
「どうして……春音に連絡しなかったんデスか?って……もしかして記憶喪失が関係あります?」
メルトは僕に質問しながらも、その質問に答える前に自分自身で仮設になるような答えを見つけたそうで、改に質問を付け加えて。
そう、僕は今日まで春音の存在を認知できていなかった。これは僕が自分のことに対して鈍感だったせいはあるが知らなかったということは事実で。
「そう……スマホにも連絡先はないみたいだし、今まで僕は春音どうやって連絡を取っていたのかわからない……」
「でも、私は秋紗さんと電話している春音を何回かみたことありますよ」
それはきっと前の僕だろう。
でも前の僕はどうやって連絡を取っていたんだ?
「まぁ、そこは春音の機嫌に合わせて聞いてみるよ。それにもう帰ってきたんだしその心配はいいんじゃないか?」
「それはそう……デスが……」
どこか煮え切らない表情で彼女は自分の思考の中へと染まっていった。
顎に指を当て首を横に捻っては何か考えているようで。
「……まぁもう帰ってきましたし気にしなくて良さそうデスネ!」
話はもうここで終わりと区切りをつけるような彼女の言葉に僕はそれ以上追求することはしなかった。
だってもう春音は帰ってきたのだからもうこれ以上聞いても意味はないだろう。
……そうなはずだ。
「メルト、せっかくだし春音との出会いを聞かせてくれないか?」
これからは4ヶ月間の間一緒に住むんだ。
まずはメルトの事をよく知ろう。
「えっとデスネーーー」
こうして僕はメルトと妹である春音の馴れ初めについて話を聞いた。
留学したとき馴染めなかった春音をメルトが話しかけて、それ以来2人はすぐに仲良くなったそうだ。
それでもちろん春音はメルトを指名して帰ってきたというわけで。
「ごちそうさまデース、秋紗お兄さんはお料理がとってもお上手なんデスネー」
僕は昨日の残り物であるカレーをメルトに皿に分けてあげる、一応春音の分も作り部屋の扉の前に置いておくと扉をノックし伝えておいた。
メルトの食べっぷりはすごく、どこかみているだけでこっちが満腹になるくらいの食べっぷりだった。でも、そんな姿を見ているととても嬉しく残り物ではあるものの出した甲斐があったってわけで。
そしてご飯を食べ終わり、メルトは日本のお笑い番組に興味津々になっていて、ただでさえ日本人だと日本のお笑いを理解するのは難しいこともあるのに、言語が違うのにわかるのだろうか。そんな疑問はあったものの、嬉しそうに見ているため問題ないのだろう。そう思ってクスッと笑みが溢れる。
そんなメルトを見ながら僕は今日出された宿題をすることにして。
リビングにはまだ今日の夜ご飯のカレーの匂いが残っておりどこか集中できず、30分ほど経っただろうか。それくらいすれば集中力は完全になくなり後からすることにして、お風呂に入ろうと湯を沸かす。
「秋紗お兄さん、せっかくなので私がお背中流すデスヨー?」
お背中流す?
ということはつまり……一緒にお風呂に入るってこと⁉︎
「いやいやいや、それはいいから」
俺は手を横にブンブンすごい勢いで振りながら流石にそれはまずいと好意を拒否しているも
「ダメです、さっきの夕ご飯のお礼デース。ジャパニーズではそういう文化があるんデースよね?」
「いや、ないと思うが……まぁ、いいよ少しだけね?」
妹も一緒に住んでいるのに妹の友達と一緒にお風呂に入って背中を流してもらうなんていいのだろうか。
そんな葛藤に悩まされながらも、彼女の圧に負け渋々と了承する。いや、渋々なんていうのは自分の嘘だ。
こんなの一緒にお風呂に入りたいに決まってる!!!
そして脱衣所に着くと……
「あ、あんまりみるのはダメデスヨ?恥ずかしいデスカラねー?」
脱衣所に着くも僕は服を脱げずにいて。少しずつ自分の今の置かれている状況を整理していく。
妹の友達に間違った日本の文化を訂正しないまま、お風呂で背中を流してもらおうとしている。
でも、自分の欲が勝ってしまう。
いつまでも服を着ていても埒があかない。僕は勇気を出して服を脱いでいく。
そしてタオルで大事な部分だけは隠そうと覆うように隠しながら、浴室の椅子に座る。
座った僕の後ろに、バスタオルで自分の体を隠したメルトが後ろにしゃがみ込むようにして位置取って。
たとえ後ろに座ったとしても、翌日であるため目の前に鏡がある。鏡は煙で曇ってはいるものの、曇っていないところから見える彼女の姿に興奮を抑えられなくて。
バスタオル越しにもわかる彼女のダイナマイトなボディに思わず生唾を飲む。
「それじゃ洗っていくデスー」
シャワーを手に当てお湯の温度を確認すれば彼女は俺の背中をシャワーのお湯で流していく。
そしてタオルに泡をつけ彼女は僕の背中を必死に擦って洗い流していく。
彼女の動きに合わせてタオル越しに上下に動く胸に思わずリズムを合わせるように首を動かしてしまう。
「あ、あんまり動かないでデーズ。じっとしとくデスヨ?」
いくらタオルで洗っているとはいえ、泡がついているとどうしても滑りやすくなるだろう。
そのせいか彼女は俺の背中を拭いている途中で泡で滑りバランスが取れなくなってしまい、後ろから俺の方に倒れてくる
「っっっ、大丈夫?」
「い、いたいデース……」
浴室に置いてあったシャンプーやいろいろな掃除道具などさまざまなものが倒れ、僕たちが倒れた音で浴室内は大音量で響き渡った。
その音に耳が思わず麻痺しながらも、手に今まで味わったことのない感触があって。
ムニムニと触ってもそれはなんなのかはわからない。
片手だけでは全て覆えないくらいの大きさで、それはとても柔らかくて。お風呂場にそんなものあっただろうか。
そこで僕は一つの仮説にたどり着く。
これってもしかして……
「恥ずかしいデスよ〜……」
彼女の大きな胸で。
今まで触ったことのない感触で、何回もその感触自体は想像したことはあったものの、それは想像を超えるものだった。いや、そんな事を考えてる場合じゃない。まずは謝らないと……
「ご、ごめ……」
そんな僕の謝罪を遮る声が脱衣所の方から聞こえてきて浴室内ないるはずなのに僕は背筋が凍りつくような寒さを感じる。
「あんたたち……何してんの?」
脱衣所には仁王立ちし、僕たちを睨みつけるように、軽蔑するような目で見てくる妹の春音が立っていて。




