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第26話 幕引き/エピローグ

「スマホは夜宮さんは持っていた。それならば助けを呼ぶことができたんじゃないか?」


スマホを持っていたという真実が出た以上ここからボロを出させていくしかない。


「それは……いきなり東雲副会長が襲ってきたから、助けを呼べなかっただけです」


まぁそう返すだろうな。

俺はそんな返事が来ることは予想はしていた。

だからこそ……


「ほんとに助けを呼ぶ隙はなかったのか?」


「お、おい……夜宮さんにあの時の状況を聞くのは野暮じゃないか?」


状況を詳しく説明させようと俺は彼女にその時あったことを聞いていく。

それを遮ろうと横から灰崎は口を挟んでくるも……


「じゃあ、語らないってことでいいよ。そのかわり、その時の状況はわからないってことで」


「つまり東雲副会長は何が言いたいんだ」


「助けを呼ぶことができたかもしれないし、できないかもしれない。彼女が状況を語らないってことはそう真実が二極化するってこと」


「それは……」


そう、彼女が語らないと言うならその時の状況を予想するしかない。でもそんな予想をしても真の正解には辿りつかない。彼女が語らないのだから。

それにこれ以上彼女に語らせるのを野暮だと言ったのは今灰崎だ。

だからこれ以上彼女は語らないし、語れない。そして真実は謎のままで。

でも、実際体育倉庫で起きた状況が謎のままなのはこの学校総会が始まった時とは変わらない。ただし、どちらが優勢であるかどうかは変わる。


学校総会が始まった時、証拠の写真しか語るものがなかった。

でも今は違う。彼女はスマホを持っていることが分かり助けを呼べた状況かもしれないという仮説が出来上がったこと。それだけで充分だ。



「まぁ、そんな仮説の話は置いといて……本題に入ろうか」


俺は目の前の机にドンと音を鳴らすように体重を乗せて手を置く。

他の生徒たちの話し声でざわついていた体育館に一時の静寂が訪れて。


「本題って…?」


隣に座る純恋が俺のさっきまでの発言に驚くよう表情をしながらも話しかけてくる。

そんな純恋に俺は笑って返す。


「大丈夫、この学校総会を終わらせる」


そんな俺の言葉に純恋は安心したかのように笑顔になって。

俺のこんな言葉で簡単に信じてくれるなんて、さすがは純恋だ。俺のことを純粋に信用してくれる人を助けないわけにはいかないよな。


「終わらせるって……何をするつもりですか?」


俺の言葉に灰崎は警戒心を高めるように俺を睨みつける。

そんな睨みつけるなよ、灰崎、お前がいかに警戒したとしても俺がおわらせてやるから。


「じゃあ俺が仮説。いや、これはもう真実に違いないだろう。俺が話してやるよ何があったかを」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まず、俺東雲秋紗は体育委員長に綱引き用の綱を依頼される。そして体育倉庫に向かう。でも、夜宮さんは俺に荷物を一緒に取ってきて欲しいと言われたらしいな。まぁそこはひとまず置いとこう。

夜宮さんはそこで俺に襲われたらしいな。その時夜宮さんはスマホは持っていた。

そして約2時間ほど経った頃、夜宮さんを探していた白神さんが体育倉庫内で夜宮さんが俺に襲われているところを見つける。そこで証拠を知ろうと写真を撮ったのが、唯一現存してある証拠の写真だ。

そこで白神さんに見つかった俺は彼女まで襲おうとしたが、長いこと体育倉庫にいたせいか熱中症になった俺は倒れてしまい体育倉庫内の記憶を失ってしまった。

そのため体育倉庫内での状況を語れるのは夜宮さんしかいないが、彼女はトラウマにより語れない。

まぁこれがそちら側の真実らしいが、俺はここから突っ込んでいくぞ」


軽く一息で淡々と言葉を告げる俺に周りの生徒は黙って俺の話を聞いてくれていた。

元々俺自身自分で言うのも何だが、結構色んな生徒に慕われてはいたし、みんな真剣に話を聞いてくれているのだろう


「体育委員長に俺は綱引き用の綱を持ってきてほしいと依頼されたが、その張本人が今日この場にいないのはおかしいと思わないか?ただの偶然か?」


そんな俺の問いかけに少しずつ周りは疑い声が上がってくる。

たまたま今日休むなんてそんなことあるわけがない。あるとしたら、新聞部が関与しているかもしれないこと。


「そこでいくら探しても綱引き用の綱は見つからず、諦めようとした時に体育倉庫の鍵は閉まっていたんだ。鍵自体外からしか閉めれず中からは開けれないため、閉じ込められることは可能だ。もし外に協力者がいたらだけど」


「でも、たとえ協力者がいたとしても、夜宮さんまで危険に晒すことになりますが?」


俺の言葉を遮るように灰崎は問いかけてくる。


「だからこそ夜宮さんはスマホを持っていたんだよ。彼女はスマホを使い、中の状況を伝えながら外からも状況を聞いていた。もし、彼女自体の体調が悪くなれば中からヘルプの連絡をすればいい」


「いや、そうだとしてもスマホを触れるわけがないだろう?君と一緒に閉じ込められているんだから。それに隠して触ることが可能としても、隠せるものなんてない筈だ」


「バレない方法はある。しかもその写真に写っているじゃないか」


「は、なにが……」


「マットだよ。証拠の写真には俺がマットに押し倒していて、その2人の体を覆うようにもう一枚柔らかいマットが敷かれているだろ?」


「それがどうしたんだよ」


「彼女は何らかの理由を付けてマットに横になって休むことを提案した。そうしてもう一枚体を隠すようにマットを被さればそのマットの内側でスマホを触ることはできる」


「そんなのただの空想だ」


「それでも……他の人はどう思うかな?」


ここまで中の状況は全く語られていない。

それゆえにどちらの証言を信じるかが大切になってくる。

少しずつ出現する新聞部のボロや、俺が一度記憶が戻ったことで周りの生徒も俺の言葉を信じる人が現れてきて。


「たとえマットで隠して操作したとしてもバレるじゃないか?マットの中でゴソゴソと体が動いたりしたら」


「いいや、バレずにできる。なんたって俺はその時体育倉庫内で物を整理整頓していたからな」


「は?整理整頓……?」


「だって前日に整理した筈なのにこんな散らかるのはおかしいだろ?だからせっかく閉じ込められてやることもないのだから俺は整理整頓していた。それはそっき体育倉庫に見た時にもわかったよ。散らかってはまだいるが整理されている部分もあった」


「そんな整理整頓なんて後からでもできる。その瞬間していた証拠はないだろ」


証拠はある。

終わらせよう、学校総会を


「俺は整理整頓していた。いや、しながら俺はある'モノ'をそのとき隠していた」


「ある……もの?」


そして俺はポケットに手を入れ、その'モノ'を取り出す。


それは……時計だ。


「時計……?」


俺は灰崎にポケットから取り出した時計を見せる。


「それがなんだって言うんですか」


「最近の時計って便利でさ、Bluetoothでスマホと連動することで、時計からスマホがどこにあるかわかったり、逆にスマホから時計がどこにあるかわかったりするんだ。だから体育倉庫で俺が後から見つける時にも隠し場所から見つけることができた」


そう、俺は今目覚めた時少しの違和感に感じた。

いつもは付けていたスマホと連動させていた時計を身につけていないこと。

防水で寝ている時でも目覚まし代わりに使っていたため外すことなんてほぼなかった。家ではまだしも、学校にいるのだから外す理由なんてない。


だから時計がないのはどこか別の理由で使っていたということ。

でもその使用の役割を終えたら回収する筈だ。それでもしていないのはその時の記憶がないから。つまり、俺が体育倉庫内で仕掛けたが、熱中症で倒れたことで仕掛けたこと自体を忘れていて回収をまだしていなかったということ。



「で、その時計がなんなんですか」


「今時の時計って便利でさ録音できるんだよな」


「ろく……おんだと?」


灰崎は声にならないような小さな声でそう呟くしかなかった。

そう、今まで俺から証拠が出てこなかったが、この時計が新しく証拠として出てくるというもの。


「閉じ込められた時俺は夜宮さんのことを完全に信用できていなかったんだろう。だから念のため録音することにしたんだ。何があるかわからないからな、そのためにも念のためとして」


そして俺はその録音のデータを再生する。




『煠ちゃん、早く写真を撮ろう?目が覚めないうちに」

『そうだね、早くしようか。それより体調はどう?大丈夫?』

『うん、私は平気。事前に水もたくさんとっておいたし大丈夫だよ』

『これでようやく灰崎先輩から解放だね……』

『そうだね、やっと……私たち……しょうがないことなんだよね』

『うん、もう戻れない……早く終わらせよう?』




「とまぁ、録音のデータはこんな感じだが異論はあるか?怪しまれないようにこのデータの日付も見せるが間違いなく体育祭の日だから」



「な、ばかな……そんなこと……」


「もう何も言えないよな?これでわかっただろ?最初からこの写真は俺が倒れた後撮られたもので、俺は新聞部の策略に嵌められたってことだ」





そして1時間30分にもわたる学校総会は幕を閉じた。

もちろん審議の結果は俺は無実ということで灰崎達新聞部は2週間の停学となったそうだ。

これをまず実行するよう命令したのは灰崎で、俺を退学にまで陥れようとしていたものらしい。

そこでここまでのシナリオを考えた上で俺を学校総会で叩き潰すというもの。

記憶を失い、他の生徒からの信頼が少ない状態ならば俺の言葉を信じる生徒も少ないだろうという理由で、優位に立てると思ったらしい。

もちろん体育委員長もグルで彼は命令させられただけで、何か弱みを握られていたらしく仕方なくしてしまったということ。でもここまでの事になるとは思っておらず、詳しい説明はされていなかった。その理由からか彼は3日間の停学となった。



そして俺は……



「みんなおはようー。僕昨日の記憶全然ないんだよねぇ……学校総会の途中までしかないんだけど」


「え、秋紗……戻っちゃったの?」


「昨日の秋紗は久しぶりに秋紗してたぜ」


「僕してたってどういうことさー」


いつも通りクラスに入っていくと佳織と雅也が僕に近づいてくる。そして僕の言葉に2人はポカンと口を開けた表情で驚いていた。

僕は学校総会の途中までしか記憶がない。

みんなの言葉を聞くと僕は急に記憶を取り戻して灰崎達をやっつけたという事。



どうやってあの状況から逆転したのかはまだ詳しい理由を聞いていないから分からないが、自分でも記憶はないため不思議な感じだった。




でも僕は見逃さなかった。


僕がまた記憶を失った後に見せた佳織の哀しそうな表情に。

さらっと学校総会を解決したり、生徒会メンバーから確実に信頼されていたりと……僕は何度僕に嫉妬すればいいのだろうか。

心臓が締め付けられるように痛くなり、朝から気分が少し悪くなる。そんな考えに至るのは良くない事だとわかってはいるが。



僕の力じゃ生徒会メンバーどころか、自分すら救えなかったかもしれない。

このまままた新聞部が来たらちゃんと倒せるのだろうか。



不安だ……そんな自分が自分で嫌になる。

ひとまず第1章でもある初めての学校総会編は以上になります。

第2章をお待ちください。

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