第25話 新たなる証言
「さぁ、第2ラウンドといこうか」
俺は体育館から自分の元いた席へと歩いていく。
周りからの視線が少し気にはなるが今は周りは関係ない。
ここからは俺が新聞部を追い詰める番だ。
俺が自分の席へと着くと灰崎はさっきまでの威勢とはうって変わって少したじろぐ様に受け身でいて。
「第2ラウンドって……貴方に何ができるのですか?東雲秋紗副会長、無実の証明はできないはずだ」
「いいや、ここからが俺の番だ」
灰崎の言葉に対して余裕そうに答える俺に灰崎自身には声に震えがあって。
なんだよ、ビビってんのか灰崎。
さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ。
ここから俺が無実を証明してあげようってところなのによ。
「まず一つ確認だが俺は熱中症になって倒れてしまったが夜宮さんは熱中症にはならなかったのか?」
俺の問いかけに少し灰崎はキョトンとする様な反応を示した。てっきり俺がいきなり自分の無実の証明をするのでも思っていたのではないかという反応だ。
「えっと、彼女は熱中症というまでには行きませんでしたが、さすがに軽い脱水にはなりましたね。
「脱水か……わかった、この話はもういい」
「え、何の質問だったんですか」
そんな灰崎の無邪気な問いかけに答えるほど俺は親切ではない。
俺の質問の意図が読めなければそれだけで俺はまた一つ優位に立てるのだから。
「じゃあ、次の質問だ。夜宮さんはずっとその長い間襲われ続けたのか?」
「……何でそんなこと聞くんですか。それは、彼女と貴方しか知らないはずです。彼女はその時のことを語ろうとしない、貴方は覚えていない。だから知る由はないのです」
「次、夜宮さんは新聞部だよね?じゃあ白神さんと同じように体育祭では写真撮影の仕事があったのか?」
「…ありましたよ」
俺は少しいつもより低い声を意識する。こうすることで灰崎は萎縮し嘘偽りなく灰崎は答えるしかない。
今の俺なら嘘をついても見透かせると思わせるくらいで。
まぁこれが嘘ついていたかどうかなんて調べればわかるから嘘をつく必要はないが。
それでも灰崎に牽制でき、奴が調子に乗らないことにはできる。
今まで俺が灰崎を何回倒してきたと思っているんだ。それを利用してやつにはこのまま萎縮したままでいてもらおう。
「なら白神さんみたいに夜宮さんはその時カメラを持っていたか?」
「はっ……?だからどうなんです」
「だから、夜宮さんは新聞部と体育祭の写真撮影としてカメラを持っていたのか?」
「彼女の体格を見ればわかるだろ?白神さんに比べればどちらかといえば細くすらっとした体格だ。だから彼女が白神さん見たくデジカメとか常に持ち歩いていると思うか?」
白神さんは女子にしては少し筋肉質っぽい体格でぱっと見の雰囲気では運動神経が良さそう。また、力持ちっぽくも見える。それに比べて夜宮さんはどこか小動物を想像させるような細い体型で。とてもデジカメを持って歩き回れそうな体格には見えなかった。
「じゃあ、彼女はいつもどんな写真を撮っていたんだ?」
「それはここには写真とかはないが……」
「じゃあ彼女から見せてもらおうぜ?それくらいいいよな?別に」
体育倉庫の時の状況を語れといってるのではない。ただ普段どんな写真を撮っているのか聞くだけだ。それくらい教えてくれてもいいはずで。
「そんな無理には……」
俺の主張を必死に止めようと灰崎はしてくるがそんなことは関係ない。
「それができないなら、彼女がここにいる意味も無くなってくると思うがな。語れないなら何でこの戦いの場にいる?」
「そんな言い方……生徒会副会長として失礼じゃないですかぁー?」
「別にそんなことはない、ただ何も語らない人のことを周りはしっかりと信じるかな?」
俺の言葉に他の生徒たちも少しずつ頷いてくれている。
ここまで状況整理はしてきたが、肝心の被害者である夜宮さんは何も語らないし語ろうともしない。
そんな人のことを完全に信じることができないのが人間だ。
何も言わないのだから。その人のことを知ることができない。そんな人を信用できない。
「……わかりました、見せますよ」
学校総会が開かれて以来ずっと開かなかった重かった口がようやく開いて。
夜宮さんは立ち上がり渋々とポケットからスマホを取り出す。そのスマホは最新機種でカメラも高性能らしく、最近はこのスマホをカメラ代わりとして使っていたらしい。
そして彼女のスマホとプロジェクターを接続して体育館のスクリーンへと映し出す。
最新の高性能のカメラを搭載しているおかげか、彼女の写真フォルダーにある写真たちはとても綺麗で鮮明、まるでそのまま切り取ったかのような解像度で。
その写真の中には体育祭の写真も残っていて。
「体育祭の日はこれで写真を撮ってたってわけ?」
「……そう……です」
彼女の言う通り体育祭の写真はある。
それも、写真の日付を見れば最後の写真だと13時30分。僕たちが閉じ込められる直前の写真もあって。
「へぇ、そのスマホってずっと持ってたの?」
「……」
俺の質問に彼女は答えない。
3分ほどの長い沈黙の後俺は続けて質問をする。
「俺たちが閉じ込められていた間、夜宮さんはスマホを持っていたんじゃないのか?」
俺の言葉に夜宮は明らかに反応した態度を見せた。
一瞬ではあったが彼女の背筋が少し伸びたように見えた。気のせいかもしれないが、この揺らぎは大切な筈で。
「なぜそう思うのです?」
「彼女は新聞部で体育祭の写真撮影をしていた。それならばスマホを肌身離さず持つべきなはず。だから閉じ込められていた時も持っていた筈」
「彼女はその時は…」
夜宮さんの方に顔を向けて俺は質問を投げかける。
そんな俺の質問を遮るように灰崎が代わりに応えようとする。でもそんなことは許さない。
「俺は夜宮さんに聞いてる。灰崎は当事者じゃないから知らないだろ?」
「えっと……」
俺の投げかけに夜宮さんは口を開けようとしない。
答えられないのか?考えているのか?それとも……
「私は、持って……いました」
彼女は答えた。
閉じ込められていた時スマホを持っていたと。
その答えに周りは反応が現れていく。隣の人と真実はどうなのか話し合う生徒、俺の夜宮さんの攻めに可哀想だと思う人、灰崎が怪しいと思う人。
ここまで何も語らなかった彼女から新たなる証言が出たのだから。
「夜宮……」
そんな彼女の答えに灰崎は伐が悪そうな顔をすれば俺たちから顔を背け下を向き俯いて。
「へぇ、持っていたんだね」
俺は繰り返し事実の確認をする。
彼女はスマホを持っていた。
それが分かるだけで大きく変わる。
そして学校総会は佳境を迎える。




