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第22話 開眼

「それではこの散らかっているということはもう関係なしでいいかな?」


灰崎はさっきまで俯いていた顔を上げ、どこか気分悪そうな表情で力弱くマイクに顔を近づけてそう話していく。

この灰崎の様子を見れば、もしかしたらこの散らかっていたことには新聞部の罠があったかもしれない。でも今は彼からこのことは関係ないと伝えてくるのであればそれを気にしなくても良さそうだ。



でも、こんな話をしたとしても僕の無実はまだ証明されない。

一つずつしっかりと証明していくしかないのだから。


「それで、まだ東雲秋紗副会長の無実の証明はできていないのだがそこんとこはどうなのかな?」


さっきまでとは違いまた表情を変える灰崎の言葉に僕はまだ口を詰まらせる。

その時の状況を語れる人がいなければ何も解決にならない。でも僕はその時の記憶はなく、夜宮さんも語ろうとはしない。

そして証拠の写真は存在していて。


「それは……」


「もう何も言えませんか?そうですよねぇ、この写真が存在してある限り貴方が他に無実の証拠を出さないと潔白を証明できませんから」


「証拠は……」


「もし前の貴方だったら貴方のことを信じる人はいたかもしれません。でも、今の貴方は記憶を失って周りからの信頼はゼロに戻りました。だから貴方のことを信じる人なんていないのですよ」


僕を信じてくれる人は……いない?


記憶を失う前の僕なら色んな生徒に慕われていた。それは何となく分かっていた。でも、僕は前の僕になんてなれない。自分がどんな人物だなんて知らないし、どんな性格なのかすらもわからない。

だけど生徒会メンバーみんなを救うことができていた。それだけはわかる。


今の僕には生徒会メンバー、自分すら救う力なんてなくて……

やっぱりできないんだ……僕には……


「秋紗君は私たちが信じています」

「そうそう、秋紗はそんなことするようなやつじゃない。それは記憶を失う前も、記憶を失ってからも」

「先輩はねぇー、そんな変なことしないですからぁー」

「秋紗先輩を私は信じています」


目を瞑りネガティブな考えしか頭に回ってこずに、諦めるという選択肢が少しずつ浮かんできたその時、黒く染まっていく僕の心を明るく照らしてくれる声がした。

左右から聞こえる生徒会メンバーの言葉だ。


彼女達は真っ直ぐな瞳で僕を見つめてくれて、僕のことを信じているというその言葉をかけてくれた。



生徒会メンバーの顔を見れば僕の使命を思い出す。

記憶を失う前の僕とか、今の僕とか関係ない。生徒会メンバーみんなを守る。それだけだ。

改めて思い出す自分の役割に、頭が割れるように痛く、自分の心臓の音が強く跳ね心拍音が体に響くように聞こえてくる。

前にもこんなことはあった。


頭が割れるくらいに痛い

心臓の鼓動がうるさい

息が苦しい


そんな苦痛な身体症状から逃れたい一心で僕は


無意識に体が動いて目の前に置いてある机に頭を勢いよくぶつけて




どれくらい眠っていただろうか。

久しぶりに開ける瞼はどこか労力を必要としていた。普通目なんて開けるくらい何も力を使わない筈なのにどこか力を必要としていて。

鼻からは少しツンとするような血の匂い。

それに感じる頭からの鈍い痛み。

その痛みの謎を知ろうと額に手を当て、その手を見ると血がついていた。


'俺'は今何をしていたんだ?


ふと顔を上げるとそこは体育館で。

いつもは腕につけているはずの腕時計がなかったため、体育館に掲げられている時計を見ると今は17時50分。放課後の時間のはず。

それなのに今は全校生徒が体育館にいる。それに隣には生徒会メンバーが座っている。

そして正面には灰崎と見たことない顔の少女が2人。


この状況から考えられることは、今は学校総会中ってことか?

ってか今は何日で何の議題だ?


「あのさ、'俺'にもう一度議題を振り返るためにも説明してもらっていいか?」


例え今の状況がわからないとしてもやることは一つだ。

生徒会みんなを守ること。


そう思い目の前にあるマイクを掴み低い声を上げると他のみんなの様子に違和感を感じた。


「……俺……?」


右側に座る純恋からは'俺'という単語だけ呟く声が、左側に座る残りの3人は少し困惑した表情で


「まさか……東雲秋紗副会長、記憶が……」


そして正面に立つ灰崎からは小さく低く声にならないような声、そして予想外だと言わんばかりの表情で。睨みつけるように俺を見ていて。


俺がいるってことは新聞部にとっては都合の悪いことなのか。

それならいいだろう。


「さぁ、議論を教えてもらおうか」



学校総会はまだまだ終わりそうになくて。


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