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第19話 信用されていたのは前の自分であって

「まずは俺たち新聞部が状況を説明してみせようか」


悪辣とした表情というか、少しドスの効いた低い声で手元のスタンドマイクの根元を持ち体を軽く乗り上げながら立ち上がる灰崎に僕の緊張は強くなる。


「まずはこの写真を見せもらおうか」


そういって体育館のステージにあるプロジェクターが下されていきそのプロジェクターに僕が夜宮さんを襲っている画像がでてくる。

具体的に言えば、体育用マットに僕が夜宮さんを押し倒して、僕の体の上に布団のようにもう一つの柔らかいマットが体の上に置かれてある。

また、夜宮さんの体操服は乱れており、肌も少しだけ見える状態で何も知らない人が見たら襲っているようにしか見えない画像で。

また、画像の右下には日付と時間が印刷されており、この写真は紛れもなく体育祭の途中に撮られたものだと証明できる。


そんな写真がプロジェクターに映れば必然的に周りの生徒は驚きの声や、本当にあったんだというような声が出てくる。



「写真を見ればわかるように生徒会副会長でもある東雲秋紗君は、うちの新聞部の部下でもある夜宮さんを襲ったんです。それも、体育祭の途中で」


灰崎は得意げに話を続けていく。


「初めは夜宮さんは体育倉庫にある物を一緒に取りにいくのを手伝って欲しいと言われたそうだ。それで彼に着いていくといきなり襲われたとのこと。なんとも野蛮な人だと思いませんか?」


あることないこと灰崎にでっち上げられている。

そんなことは事実ではない。それは僕がわかっている。その時の記憶はしっかりと残っているから。僕が失ってしまった記憶は体育倉庫内なだけ。


「まぁ、軽く簡単に説明しましたが、東雲秋紗副会長、弁明の機会をどうぞ」


司会の仕事を奪うかのようにいきなり灰崎に僕に向かって話を振ってくる。

まるで僕が何を言おうが勝利しか見えないといった顔、目、声、仕草で。


「さっきの灰崎君のことは事実なんてないよ。だって僕はまず体育委員長に体育倉庫に使う綱引きの綱をとってほしいと言われた。そして僕が1人で歩いて体育倉庫に向かっている途中で夜宮さんに話しかけられた。そうしたら夜宮が一緒に手伝ってくれるということで協力してもらった。だから、あの時僕たちは一緒に体育倉庫にいたんだ」


僕はあの時あった事実をただ誇張なくしっかりとみんなに伝えていく。

これが真実だ。信じてほしい……そう願うも



周りはそれが本当なのかどうかわからないといった声が上がってくる。

だって僕の話にはそれが真実だという証拠はない。でも、それは彼たちの意見も同じ筈。それなのに僕の話に他の生徒は信じたいけど信じれないといった表情をしている人もいる。

でも、なぜそうなのかは……夜宮さんを見ればわかる。


なぜなら、彼女はずっとすすり泣きして顔を俯かせながら捨てられた子犬のように淋しげに、悲しそうにしている姿があるからだ。

そんな彼女の心境は自分のことを襲った人が今目の前にいる。そうなればこんな態度になるのも当然だ。だから……僕の言葉は他の生徒にはあまり響いていない様子で。



『東雲君がそんなことするかなぁ……』

『夜宮さん、かわいそう…』

『でも、灰崎は怪しいしなぁ』

『襲っている画像はあるみたいだし…』


『でも、記憶を失った秋紗君って……どういう人なのかいまいちわかってないんだよね』

『前の秋紗君なら絶対そんなことしないよね』

『うんうん、前はすごいかっよくて、優しくて、頼りになったよね』

『でも、今は……』



僕が記憶を失って前みたいにみんなの頼りになるような人物になれないから僕は信用されていないってことか……


少しずつ灰崎ペースになっていく雰囲気に僕は恐縮していく自分の気持ちに嫌になっていって……



まだまだ続きます

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