第16話 甦る夢の記憶
続きます
「椎名生徒会長、美園副会長、責任をとってもらわないといけませんねぇ」
灰崎のネチっとした言葉に夢でありながらも怒りが湧いてくる。
これが夢だとしてもどこか懐かしさを感じていく。きっとこれは過去の記憶なんだと思う。なせがそう言い切れる自信があった。
「くっ、卑怯だぞ…」
灰崎の言葉に言葉を詰まらせながらも美園副会長は椅子から思い切り立ち上がり言い返していく。でも、どこか煮え切らないような言い方でまるで言い返すことができてなさそうで。
「まぁ、証拠はたくさんありますしね。でも、そちら側にはそれを否定する証拠なんてない」
「それはっ……」
美園副会長は下を向き俯いた顔には悔しさが滲みでていて。
そんな美園副会長に椎名生徒会長は彼の肩にポンと優しく手を置く。
その仕草はとても優しく思いやりを感じながらも、弱々しくこれ以上は何を言っても無駄だ。諦めるしかない。といった様子で
そんな状況に僕たち現生徒会メンバーは何も言えずにいて。
佳織も純恋も詩織と鳴霞も何も言い返せなくて、ただ下を向き涙を堪え悔しさに耐えるのに必死だった。
僕…俺はなんで何も灰崎に言い返すことができない。
俺は…椎名生徒会長、美園副会長に何も恩返しができていない。
今ここで灰崎を打ち破って2人に恩返ししないといけない。だから、僕、いや俺は……
「さあ、これで賛成の方は手をあげてください」
そんな自分自身の葛藤に終わりを告げるように灰崎は最終判定に入ろうとしていた。
学校総会は最終的に議論の結果に賛成か反対かを挙手制で決めていく。賛成が7割あればその議論は通ることになる。
挙手された数は生徒のほとんどで数えなくても7割は超えている。
最後に言い返せるのは今しかない。
俺は言うんだ、なんでもいい。とりあえず言いながら何か考えるしかない。
「ま、まてよ……まだ話は……」
俺は慌てて立ち上がり、膝を机にぶつけ大きな音を立てて俺の目の前で机が倒れる。その振動でマイクは床に落ち、体育館内に耳を割るような響く音が響き渡る。
その怪我の功名か、周りの人は一度手を下げ俺の方を向く。
俺に注目が集まった。今こそ言うしかない…
「あっ……」
このときの俺は何も言えなかった。いや、言えない。
灰崎が完璧すぎた。
今何を言っても、言い返される自信しかなくて
「秋紗君、もういいよ。大丈夫」
そんな何も言えずに狼狽える俺を見れば椎名生徒会長はそう優しく声をかけてくる。
その表情は、俺が今までに見たいことがない椎名生徒会長の表情で。言葉には言い表せない。その表情は諦めなのか、悔しさなのか、悲しさなのか、哀しさなのか、切ないのかわからない。でもどこか暖かさを感じる。
それでも……この人にこんな表情させたくなかった……
「秋紗君、これからは……君がみんなを助けていくんだよ?もうすぐ夏休みに入るし灰崎たち新聞部は一度動きは止まるだろう。でも、君たちを潰すことは止まらないだろう。その時はみんなを支えてね」
校門の前で全ての荷物を持った椎名生徒会長と俺は2人たって話していた。
今は7月ごろだろうか。夏の暑さを感じるはずなのになぜかは今寒気しか感じない。心が寒く、冷たい。
今まではこの人と美園副会長が生徒会を引っ張ってきてくれた。でも、この2人は退学することになった。
そして自然と2年生でありなからも純恋が生徒会長、俺が副会長になった。
「椎名生徒会長…俺は…みんなを引っ張っていけるでしょうか」
「……ふっ、それはどうだろうね。でも秋紗君ならできるはずさ。君は諦めるのが嫌いだろう?」
「でも、俺は…椎名生徒会長と美園副会長を救うことができなかった」
「それは仕方ないさ、新聞部の証拠が強すぎだ。それでも君は最後まで諦めなかっただろう?それは君の強さだ。その強さでこれからもみんなを助けてあげなさい。佳織、純恋、詩織、鳴霞を最初に救ったのは君だろう?」
椎名生徒会長に言われてハッとする。
佳織、純恋、詩織、鳴霞の顔が頭に浮かぶ。
この4人だけはもうこんな別れ方なんてしたくない。
「だから……頼んだよ秋紗君」
その言葉には強い意志を感じ、俺に勇気を与えてくれた。
彼女が今まで背負ってきた生徒会長としての器を俺が背負っていかなければならない。
生徒会長は一応純恋がやることになったが、俺は副会長で。
「椎名生徒会長…今までありがとうございました。そして、絶対に俺は……」
「みんなを支えていきます」
椎名生徒会長の目を見つめ俺はそう決心をする。
そんな俺に彼女は……ほっとしたかのような、安心したかのような表情で俺に微笑みかけてくれて俺の体を優しく抱きしめた。
「はっ、はっはっは、はっ……」
僕は体を思いっきり起こす。
ここまで没入感のある夢は初めてだった。
いや、夢っていうよりもこれは記憶なんだろう。そんな予感しかしない。
「俺……僕は…みんなを支えると誓ったんだ。だから、僕は……」
みんなを支えると誓った約束。
それを守れないなんて椎名生徒会長に顔を向けることなんてできない。
みんなを支えるためにも僕は次の学校総会で灰崎を打ち破るしかない。
その時聴き慣れた音楽音が耳に入ってくる。
メールだ…それも鈴音先輩から?メールを開く際に時間も確認する。
今は9時か……いつの間にか寝ていたのか。
『秋紗氏、新聞部のことできっと悩んだいるだろう。もしよかったら、今日の14時に私と椎名との3人で少し話をしないか?』
鈴音先輩からのメールに少しだけ疑問を感じる人物の名前があって。
この椎名って…もしかして、前生徒会長?
今は9時で待ち合わせの時間は14時。時間は余裕にある。
佳織、純恋、詩織、鳴霞……ふと4人の顔が頭に浮かぶ。今までに何度この4人の顔が頭に浮かんだだろうか。少し簡単に思い浮かべられるくらい頻繁だ。でも、それくらい4人のことが大切だ。
そのためにも、会うしか…ないよな。
俺…僕は、みんなのためにも灰崎に打ち勝つ。
俺…僕は、出かける準備を始めた。




