第15話 もし前の自分なら
続きます
「わかったよ、'学校総会'を開こう。それでこの話の決着をつけよう」
僕はほぼ無意識に灰先に向かってそう宣言していた。
現状では彼に勝てるようなことなんて何もない。でも、みんなの前で無実を証明できれば僕たちの勝ちだ。
だから……こうするしかない。
「無実の証明ってどうしたらいいんだ……」
僕は自分のベッドに寝転がりながら何かいい対策はないのか考えていく。
僕の無実を証明するものはなく、彼女を襲ったときの写真はある。その写真がある以上こちらも証拠を提出しなければ話にならない。
って、僕は本当に襲ってないと言える...のか?
無実をひたすら模索する頭の中である一つの仮説にたどり着く。
もし本当に僕が夜宮さんを襲っていたら……
いや、そんなことあるわけない。僕はそんなことするような……人じゃない……はずだ。
自分自身に言い聞かせたくてもそれはなぜか自信はなくて。
自分自身というものがわからない。記憶を失ってからまだ1ヶ月とちょっとが経っただけ。
僕が元々どういう人物だったのかなんて詳しくわからない。
わかるとすれば、生徒会メンバーを過去に救ったことがあるような気がするのと、他の生徒からも結構慕われていたこと。
でも今の僕は違う。
それは前の僕がやっていた功績であって今の僕にはできないことだ。
「やばい……だめだこんな思考」
一度ネガティブな思考に入ってしまえば、その思考を止めることはできずただひたすら闇の中へと頭が深く思考が入っていき。
夜宮さんが本当に襲われていて本気で泣いていたら……
なんで僕は夜宮さんを疑っているんだ……?
あんな真面目な子を……
もしこれが本当だったら生徒会のみんなはどう思うだろうか……
こんなの前の僕に顔向けできない……したくてもできないが……
「もし前の僕だったら、こんな現状をひっくり返すことができるのだろうか」
これだけは口にしたくなかった。他の人に言われるならまだしも、自分でこう思ってしまうのは避けたかった。でも、枯れるように痛い喉から焼けるように心が熱く自分自身無意識で一人つぶやいてしまう。前の自分だったらこんな現状をひっくり返せるかもしれないと。
なんの根拠もないのにそう思ってしまう。それはきっと前の自分の功績があるから。
学校総会は今日体育祭が金曜日にあったため、土日を超えた月曜日の放課後にすることになった。
対策を考えられる時間は2日しかなく学校祭明けということで土日は学校の部活動や委員会活動など、全ての活動が休止になっているため学校は開いていない。そのため学校に行くことすらできない。
ひさすら自分自身が闇に染まっていく思考に止まる気配はなく、永遠にこのままネガティヴ状態になるのではないかと思いかけたとき、携帯の着信音が鳴り目を開け、ずっと目を瞑り暗闇の中にいた目は部屋の照明に少し痛みを覚えながらも携帯を取る。
着信先は黒鷲鈴音と名前が書かれてあった。
前の僕は鈴音先輩と連絡先を交換していたのか。
鈴音先輩と話したらもしかしたら今のこの暗い思考を少しでも光に変えられるかもしれない。そう思い、出るボタンを押そうとした瞬間3年生の劇を思い出す。
3年生の劇はなんとも醜く、悪役の鈴音先輩を男子生徒が退治するという名目で殴ったり叩いたりするものだった。実際男子生徒は本気で殴っているような感じではなかったものの、その力は女の人に対しては強いものだったと感じた。
それ以来鈴音先輩と会う機会はなかったため、まず初めに彼女と話す時なんて言えばいいのかわからなかった。
劇の話をしない方がいいのだろうか。
それとも……
そんな悩む思考に気付けば彼女からの着信は切れていて。
「あ、出れなかった……」
すぐ掛け直した方がいいか?
でも、なんで話せば……
はっきりしない自分に自分自身で嫌になる。
前の僕なら……
また同じ思考の繰り返しだ。
前の自分なら、前の自分なら、前の自分なら
いい加減脳も飽きてきただろう。
何も考えられなくなってただひたすらにベッドに横になって目を瞑り考えるのを僕はやめた。
『ほらほら、椎名生徒会長さん、何か言い返すことはないんですかぁ〜?』
これは……夢か?
体が少しふわふわしたように軽く、思考もゆっくりとして自分自身のものではない感覚に陥る。
夢を見ているときの感覚だ。
僕は今体育館の中央の椅子に座っておりそれぞれ自分の前には机があり、テーブルマイクが設置されていた。
隣を見ると佳織、純恋、詩織、鳴霞に僕が見たことない人が二人座っていた。
その内1人は女の人であっても座っていてもわかるくらいの長身でそれに合わせるように綺麗な黒髪が長く細っそりとした体型にそれに反比例するように豊満な胸。男なら目が釘付きになるくらいの。純恋をさらに凛々しくしたような雰囲気だろうか。リーダーシップを取るような人にも見え、この人ならなぜか見ただけで信用できるくらいの感覚に陥る。その人の隣には、その女性とは反対に背の低い男の人が座っていた。背は160ないくらいだろうか。座っているため正確な判断はできないが、女性に比べると身長差が強く見える。でも、存在感は強く黒髪に赤のメッシュが入っており、それはとても綺麗で似合っており中世的な顔をした男だ。
そして、対岸を表すように僕たちの反対側に座っている人物が4人いた。
一人は……灰崎だ。彼が座っていた。その隣には青髪に髪の長さはミディアムくらいでどこか丸っこい女の人のような感じだ。その彼女と、黒いマスクをして顔のほとんどはわからないが黒いメガネに黒いマスク、黒髪に制服の上に黒いジャケットを着ているため、黒としか要素がない男。
そして、椅子に座って足を組みどこか態度のでかい女の人がいた。その人は別に見た目は普通で黒髪ロングに肩までの長さで。でも彼女の瞳はその黒髪以上に真っ黒で、その目を見つめていればその瞳の闇に飲み込まれそうになる程気持ち悪さを感じ、慌てて目を逸らした。
って、なんだこの状況……夢……だよね?
夢なのにどこかリアルに感じる。
夢っていうより、過去の'記憶'のように。
「さぁ、椎名生徒会長さん、美園副会長さん、責任をとって退学してもらいますかぁ」
灰崎自分の机の前にあるマイクを掴み体を乗り上げながら、テンション高く告げていく。
椎名生徒会長と美園副会長。名前を聞くだけなのにそれがどっちなのか感覚的にわかった。
女性の方が椎名生徒会長、中性的な男の人が美園副会長。
2人の顔を見るとどこか懐かしさを感じていく。
なぜ懐かしさを?
僕はこの光景を見たことがある……これは、過去にあった学校総会の……記憶だ。
そうだ、この時決めたんだ。
もう2度と……生徒会メンバーを失ったりしない。新聞部に負けないと……。
過去の記憶




