第10話 劇の行方
そして始まる劇
ステージ上に立ち目の前にある暗幕が上へと上がっていき、目の前には椅子に座ったり壁によしかかったりして僕たちの劇を待っている人たちの目線が嫌でも目に入る。
しかし、学年劇とは比べ物にならないプレッシャーを感じた。
生徒会だからということで、色々と期待されていて、さらに生徒会メンバー4人はこの学校の美女としても人気のせいか、客は結構多く感じて。
いや、それだけじゃない。
学校祭が始まってから、視線をよく感じる気がする。
まぁ僕たち生徒会はどうしても目立つメンバーであり、それに僕が記憶喪失になったということでより組織としての名は広まっているはず。
それでもどこからかいつも視線は感じていた。っと、そんな考え事をしている場合じゃない。
僕は軽く深呼吸をすれば隣に立つみんなを見て心を落ち着かせる。
僕達がやる劇は細かく言うと、ある1人の男性が4人の魔女を助けることで、4人の魔女は男性に恋をする。
そして、1人妻を選ぶために魔女達はおしゃれをし、1番男性の好みに合う人が妻になるという劇だ。
そのためには皆は衣装作りを結構頑張っていたらしいし、放課後生徒会としての集まりもほとんどなかった。
そして劇自体は最後の方に盛り上がりがあって僕が4人の中から1人を選ぶということ。
話の作りとしては反響はなかなかにあり観客の人も結構楽しそうに見ている人は多かった。
やがて1番の盛り上がる場面へと切り替わって。
「さあ、秋紗さん!誰を選びますか?」
4人の魔女はセリフを揃えてそう言った。
4人は自分で手作りした衣装に着替えている。
その姿は僕にとっては刺激が強いくらい皆違って美しく、綺麗に、可愛く、素敵に、可憐に、愛らしく僕の心では感情の整理をつけれないくらいに素晴らしい出来だった。
純恋は白のワンピースを着ている。
佳織は白のドレスで、少し覗けば谷間が見えるくらい際どい衣装だ。
鳴霞は、どこかのお姫様が着てそうな黒いドレスで、1番魔女っぽく感じる。
最後に詩織は下はミニスカで上は普通の私服でいかにも、デートの格好見たいだ。
「僕が選ぶ人は......」
僕は自分のセリフを言っては沈黙する。
目を瞑り4人のみんなの顔を頭の中で思い浮かべる。
誰を選べばいいんだよ!全員服が似合っていて可愛すぎる。
学校では凛々しく、プライベートではよく笑う純恋か?
面倒見が良く、いつも細かいところまで見ている佳織か?
清楚で美しく、とても優しい性格をしている鳴霞か?
明るくて、いつもみんなを笑顔にする詩織か?
僕としての付き合いはまだ浅いが4人がみんなそれぞれに無いものを持っていて、それぞれに悪いところもある。
だから、みんなが支え合うのが1番いい。それは心からそう思っている。
でも、今回はそういうわけにはいかない。
目をゆっくりと開け、さっきまでの暗闇の思考から、明るく眩しい照明に思わず目を細めれば僕はふと4人の顔を見る。
皆んなはそれぞれが自分の手を握り拳を作るように強く握って目をつぶっている。
こんなにも真剣になっている姿は初めて見た。
僕は4人の顔を見て、中途半端な結果にしては絶対にいけないという使命感に襲われた。
4人がここまで真剣にやってきた物を壊したくない!
何を躊躇っているんだ。1番可愛い子を選べばいいんだ!ほら、みんなの衣装を見てみろよ!と自分に言い聞かせる。
それでも選べない。
選んでしまった時の残りの3人のことを考えてしまう。
「おい、誰だよ?」
「考えている時間長くない?」
周りからは少しずつ批判の声が出てきた。何分かは分からないが僕は長い間考えてしまっている。
時間がない!迷っている時間なんてない!
僕は……誰を……
『秋紗、お前は自由に生きろ。俺たちのような仕事のせいで、人間に嫌われるようなことになるな。お前の判断は自分で納得いくものにするんだ。それを肝に命じていなさい』
ふと、頭にある言葉が浮かんだ。
この言葉はなんだ?でも、どこか暖かい気持ちに変わる。
そして僕は選ぶ。
「僕は、鳴霞を選ぶよ。ずっと一緒にいよう、鳴霞」
僕は鳴霞を抱きしめる。こんなこと劇では決めていなかったことだがつい彼女の華奢で柔らかく小さな体を気づいたら抱きしめていた。
そこで、抱きついたまま劇は終わり、観客の方から拍手が上がった。
拍手は長い時間起き、暗幕のカーテンが閉じるくらいまで続いた。
僕は最低だ。
選んだ理由なんて別に鳴霞のことをちゃんと女の子として好きで選んだわけではなかった。っていうより今はそんなことは考えられない。
でも鳴霞は素敵な衣装だったことは本心で。4人とも皆んな綺麗だった。
だから僕はこれ以上決めることができずこれからのことを考えて合理的に判断した。
少しでも鳴霞と距離を近づくことができれば、前に言っていた僕との付き合った理由を知れるかもしれないから。
こんな理由で選んだことを知ったら皆んなは怒るだろう。だから僕はそれを隠して行くしかない。
そう心に鍵をかける。
ステージから降り裏側の出入り口から僕たち生徒会メンバーは体育館から出て行く。
「さすがたなー鳴霞は」
「やったじゃん!鳴霞」
「おめでとう、鳴霞」
詩織、佳織、純恋からそれぞれお祝いの言葉を告げられると鳴霞はどこか恥ずかしそうに顔を赤らめていく。
そんな姿を僕は見れずにいて。
後悔しそうだな。こんな理由で決めてしまったこと。
早くも心が折れそうにはなったが、なんやかんやで僕たちの劇を無事に終えることはできた。
僕たちの学校祭でもイベントとしてはこれでほとんど終わった。あとは明日の体育祭があるだけで。
体育祭自体は生徒会メンバーよりも体育委員の人たちが前に出ることが多いため実際の僕たちの仕事はそのサポートがメインにある。だからひとまずは休むことはできるはず……だったが、僕たちはそう簡単に学校祭を無事に終えることなんてできないことをまだ知らずにいて。
そんな生徒会メンバーの雑談を物陰からそっと覗く2つの影があって。
2人は生徒会メンバーを見つけるとメンバーにバレないように息を潜め会話に耳を傾ける。
「みつけたね、煠ちゃん」
「みつけたな、陽ちゃん」
白色のツインテール髪の少女は自分の髪をかきあげるようにして気合を入れていく。
もう1人の茶髪で黒い眼鏡の少女は自分の眼鏡を直す仕草を取れば気合を入れて。
じゃあ、始めようか……私たちの'新聞部'の仕事を
そして動き出す裏のグループ




