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深山凜・後編

今のところ、前後編だけしか書けていないので、一旦これで完結です。











 一週間ほどで本を読み終えて図書館に返却に行くと、本を借りるときに助けてくれた男子学生がカウンターにいた。二人とも「あ」と声を上げる。


「こんにちは。返却ですか」

「あ、はい。お願いします」


 本を返すのは手続き的には簡単だ。受付の人にバーコードをピッとしてもらうだけでいい。なのでもう用事はなかったが、凜は先日はまともに礼も言えなかったな、と思って口を開いた。


「高遠君、先日はありがとう。助かったわ」

「先日? ああ、先週のことね。別に。後が詰まってたし、俺は深山を見分けられたし」

「あ、うん。そうね……」


 いまだに、なぜ高遠が凜を見分けられたのか謎だ。凜の微妙な反応に、高遠は肩をすくめた。


「ごめん。実は、確証はなかった。でも、言動が俺の知ってる深山っぽかったから」

「な、なるほど……」


 確かに、顔では見分けられなくても、澪と凜を言動で見分けられる、という人は結構いるのだ。と言っても、高校時代、それほど高遠とかかわりもなかったはずだが。


「ごめん、本当はお礼にお菓子の一つでも持ってくるべきだったわ」

「そこまでのことはしてないだろ。俺だって確証なかったわけだし、早く列を流したくて口はさんだわけだし」

「そう?」


 まあ、確かに凜が嬉しかっただけなのだ。あの日は澪に間違われてばかりで、初めから凜を凜だと思ってくれたのは高遠だけだったので。


「そう。だから気にすることないって」

「うん」


 ちょっと微笑んでうなずき、図書館を出た。もうすぐ講義の時間だ。


「凜、凜!」


 帰りのバスで澪と一緒になった。凜のカバンを持っていない方の腕に抱き着いた。当たり前だが帰る家が同じなので、一緒に帰ることにする。


「図書館で男の子としゃべってたでしょ? 凜の好きな子? 彼氏?」

「あー……」


 周りに人がいるので、澪の声は小さいが、凜は少し周囲を気にしてから言った。


「高校の同級生。この前ちょっと助けてもらっただけ」

「それだけ? 好きだとか、告白されたとかは?」

「ない」


 きっぱりと言うと、澪は「なんだー」と詰まらなさそうにする。


「澪は私に何を期待してるのよ」

「だって喋ってる時の凜、楽しそうだったもの」

「気のせいじゃない?」


 笑って受け流したが、バスを降りて家まで歩いている間に澪はわりあい真剣な表情で言った。


「正直ね、凜が恋人を作らないのって私のせいなのかなって、ちょっと気にしてるわけなのよ、私は」

「……まあ、全く関係ないとは言えないけど」


 正直に言うと、澪は「でしょ」と苦笑を浮かべる。


「前から凜は警戒心が強い方だったけど、ほら、高三の春に、付き合ってた子がいたでしょ」

「いたねぇ」

「その子と、私が会った後にすぐに別れたじゃない? 私のせいなのかなぁって。自意識過剰だけど」


 駅で会った澪に、一目ぼれをした元彼氏君のことだ。凜も苦笑を浮かべる。


「きっかけはそうかもしれないけど、どっちにしろ、長続きしなかったと思うよ」


 それが今の凜の見解である。凜にはあの時、人に時間を割く余裕などなかったし、彼もそうだっただろう。彼も県外に進学して、自然消滅した可能性が高い。


「あれから全然、そういう話がないでしょ。大学に行っても、飲み会とか、行かないでしょ? まあ、私たちはまだ飲めないけど」

「いや、学科とサークルの集まりは行ってるけど……なんか、それ以外で誘われると、澪を連れてくることを期待されてるような気がして嫌なんだよね」

「んんっ。それって実体験?」

「実体験。そんなの、私だっていやだけど、彼氏がいるのに誘われる澪も嫌でしょ」

「そうね……ちなみに彼氏とは別れたわ。昨日の話だけど」

「そうなの!?」


 澪が彼氏と別れていたことに衝撃を受けて、話が流れたのでその日、その話題はそこまでだった。









 それを再び思い出したのは、澪に誘われてショッピングに行った時だった。駅前まで、夏服を買いたいと言う澪に付き合っていったのだ。澪は人をコーディネートするのも好きなので、凜の夏服を選ぶつもりもあったと思う。実際に選んでくれた。


 少し休憩しよう、と飲食店のある通りまで来たところで、凜は見知った人を見つけて「あ」と声を上げた。かわいらしい系のカフェの前で、高遠が立ち止っていた。彼もこちらを見た。目が合う。


「あ、凜。私、買い忘れたものがあるから、先休んでていいからね!」


 澪も高遠が図書館で凜と話していた男子学生だと気づいたのだろう。凜の肩を押して身をひるがえした。


「ちょっと、澪!」


 足早に去っていく澪は一度振り返り、ぐっとサムズアップした。なんでたまに行動が古いんだ。


「深山?」

「こ、こんにちは、高遠君」

「ああ、こんにちは」


 声をかけられて無視するわけにもいかないので、凜は振り返って挨拶をした。凜の隣に並んだ高遠は澪が去っていった方を見て言う。


「今のって、お前の双子の」

「うん。買い物に来てたんだけど、置いて行かれた……」


 まあ、スマホも持っているし、合流はできるからいいか。澪が不審者に遭遇しないか心配だが、おっとりして見せて気の強いところもある澪だ。大丈夫だろう。たぶん。


「高遠君も買い物?」

「まあ、ちょっと本を買いに。ところで深山。今、暇?」

「まあ、そうね……」


 澪に置いて行かれちゃったからね。凜自身に買いたいものはちょっと思いつかない。


「じゃあちょっと付き合ってよ。そこのカフェ、気になるけど男一人で入りづらいんだよ」


 と、先ほど高遠が眺めていたカフェを指さした。ふわふわパンケーキのカフェらしい。中を見ると、確かにカップルか女性客しかいない。男一人で入ったら悪目立ちしそうではある。


「……私は構わないけど、高遠君はいいの?」

「いい。ってか、俺が頼んでるんだけど」


 高遠は笑って「入ろうぜ」と言った。二人で入ったらカップルと思われるのでは、と思ったが、異性の友達の可能性もワンチャンあるだろうか、と思って納得することにして後に続いた。店の奥の方の席に案内される。メニューを見て、種類の多さに驚きつつパンケーキを選ぶ。


「俺、クリームチーズとブルーベリーソースがけ。深山は?」

「ええっと、じゃあ、このアイスとフルーツのやつ、お願いします」


 店員にお飲み物は、と聞かれ、高遠はコーヒー、凜は紅茶を頼んだ。注文したものを待っている間に、高遠が口を開いた。


「付き合ってくれてありがとな。前から気になってたんだけど、一人じゃ入りづらくて」

「や……私も甘いものとか好きだから全然いいけど、同じ学科の子とか、誘えばよかったのでは」

「俺、理学部の数学専攻。女子学生なんて全体の一割から二割だぜ」


 笑いながら言われたが、つまり、気軽に誘える女友達がいないと言うことでファイナルアンサーでいいだろうか。


「中学生の妹に同行頼もうかと思ってたんだけど、深山の顔見たらお前の方がいいなと思って。図書館のことですごく感謝してくれたから、断られないだろうなって打算もあった。ごめん」

「あっ、そこまで考えてなかった……」

「は? なのについてきてくれたの?」


 怪訝な表情をされたところで、お待たせしましたー、と店員がふわふわのパンケーキを運んできた。それぞれ、凜と高遠の前に置く。これは……。


「……余計なお世話かもしれないけど、深山、全部食べられるか?」

「が、頑張る……」

「無理すんなよ……」


 高遠のパンケーキはクリームチーズとブルーベリーソースがかかっているだけだが、凜のものはバニラアイスが乗っているほかに、皿一杯のフルーツに生クリームもかけられている。カロリーの暴力だ。


「おいしいけど、絶対太るやつ……」

「深山が太るとか、想像できないな」


 高遠が笑いながら言った。そして食べる。


「高遠君って、甘党?」

「甘いものは好きだな。量は食べられないけど」

「おいしいよね。なんか高遠君って、ブラックコーヒー飲みながら専門書読んでそう」


 高遠はイケメンではないが、そこそこ顔立ちが整っている。どちらかと言えばクールな、理知的な容貌で、凜の偏見にも「たまに言われる」と応じた。


「甘いもの食べるときはコーヒーだけど、普段は普通にカフェオレとか飲むぞ。深山は紅茶党?」

「どちらかと言えば。コーヒーも飲むけど」


 うちは澪も紅茶党だ。仲間がいるって素晴らしい。


「つーか、誘って食っておいてなんだけど、本当によかったのか? 買い物してたんだろ」


 某有名量販店のショッパーを見ながら、高遠が言うので、凜は口を開いた。


「ああ……私はもう終わったから。半分、澪に付き合ってたみたいなものだし」


 やはり大学生になって私服で動くことが多くなった分、服は多種必要だが、凜にそれほどこだわりはない。そもそも。


「見てもよくわからないというか……」


 おしゃれするのが嫌いなわけではないし、似合う、似合わないくらいはわかるが。さすがに少し勉強すべきか? 澪に教えを乞うた方がいいだろうか。


「気持ちはわからないでもないけどな。でも、今日の格好は似あってると思うぞ。可愛い」

「へっ?」


 今日の凜は細身のスラックスに裾が長めのカットソーだ。ウエストのあたりで絞っているので、細身の凜に似合っているが、可愛いと言うより綺麗という印象だ。唐突な誉め言葉に、凜は顔が赤くなるのがわかった。


「前のスカートも似合ってはいたけど……って、どうした?」


 高遠が凜を見て首を傾げた。まあ、突然相手が赤くなればびっくりもするだろう。


「ご、ごめん。その、可愛いとか、家族以外にあんまり言われたことなくて、その」


 何を言いたいのか自分でもわからないが、とにかく言われ慣れないことを言われてとても照れている、ということだ。対する高遠は平然としていて、「ふうん?」と首をかしげている。


「結構可愛いと思うけど、深山」

「そういうのは澪に言って……」


 テーブルに肘をつき、うなだれるように顔を隠しながら凜は言った。すると、高遠は真面目に「俺、ああいうタイプ苦手なんだよな」と言い放った。いや、双子の片割れが目の前にいるのだが。


「双子って言っても、やっぱり性格とか違うよな。違う人間なんだから、当たり前だけど」

「……うん」


 当然の話なのだ。どれだけ顔が似ていて、一卵性双生児だって、二人は別の人間なのだ。全く同じわけがない。


「食べようぜ。アイス、溶けてるぞ」

「うん」


 溶けたアイスはスプーンですくって食べた。結局、凜は全部食した。夕飯が入るか心配だ……。


「今日は付き合わせて悪かったな。ありがとう」

「ううん。私も話せて楽しかった」


 そう言って凜も笑いかける。カフェから出たところで、高遠が言った。


「なあ、深山。また誘ってもいいか。やっぱりこういうところ、男一人だと入りづらくて」

「うん、いいよ」


 普段の凜ならこんなに安請け合いしないだろうが、凜の中で高遠は高評価だった。何より、凜と澪を比べなかったのがよかった。我ながらちょろいのではないかと思う。


 連絡先を交換しようと言われて、スマホを取り出した。あまり連絡先交換をしないので、四苦八苦しながらIDを交換する。


「じゃあ、また連絡する。深山も、なんかあったら連絡してくれていいぞ」

「うん。わかった」


 手を振って別れたところに、待ち構えていたらしい澪が背後から抱き着いた。


「わっ!」

「どうだった? いい感じだったじゃない」

「別にどうもしない……ああ、また誘っていいかとは言われたけど」

「ふーん?」


 澪は興味深そうにしたが、それ以上は何も言わなかった。凜と手をつないで帰路につく。


「澪は何を買ってきたの?」

「んー、化粧品とか?」


 澪はこうした美容関係に熱心だ。凜も体型維持のため体幹トレーニングなどはしているが、そこまで手をかけられないな、と思った。









 一週間くらいして、本当にお誘いが来てびっくりした。最近この辺に進出してきたクレープを食べに行かないか、という誘いだった。そしてそのすぐあと、澪に同じ誘いを受けた。


「ごめん、高遠君に誘われて、行くって言っちゃった。まあ、二回食べに行ってもいいけど」


 クレープは嫌いではないので、二回食べに行くのはやぶさかではない。澪と、それと母が驚いた顔をしている。


「え、断ったほうがいい?」


 こちらも驚いて凜が言うと、行ってきなさい、と背中を(物理的に)押されたので、高遠と食べに行った。その後に、澪とも一緒に行った。流行りのものは大体澪から聞くので、凜が先に一度言ったことある店に行くのは、もしかしたら初めてかもしれない、と思った。


 次は和菓子、それからチーズケーキ。甘いものばかりだ。少し暑くなってきたからふわふわかき氷を食べに行こうとなって、必死に黒蜜のかかったかき氷を崩している凜に、高遠が尋ねた。


「深山って誕生日、いつ?」

「私? 一月。早生まれなんだ」

「ああ、だから名前、凜なのか。ってことは、まだ飲酒禁止だな」

「うん。って言うことは、高遠君はもう二十歳なの?」


 話の流れ的にそうなのかな、と思って尋ねると、高遠は「まあな」とうなずく。


「六月半ば。過ぎたとこだな」

「えっ。おめでとう。言ってくれればお祝いしたのに。何か欲しいものある?」


 今はもう六月の終わりだ。とっくに誕生日が過ぎている。それくらいの時期にチーズケーキを食べに行った気がするのだが、言ってくれればよかったのに。


「欲しいものか……」


 高遠の眼が凜の顔を滑った。気がした。


「今度、ランチに行かないか」

「え? いいけど……」


 そんなことでいいのだろうか。凜が首をかしげると、「本当は初飲酒に付き合ってもらおうかと思ったんだが」と言い出した。凜はそれでもかまわないが、一応凜は未成年なのでやめた方がいいだろうか。


 いつもの調子でうなずいたのだが、なぜか高遠に呆れた顔をされた。


「深山お前……もう少し警戒心持てよ」

「人並み以上に持ってると思うんだけど」


 少なくとも、高校でのことがあってからはかなり気を付けていると思うのだが。


「ま、もう試験期間はいるし、試験ひと段落してから行こう」

「うん」


 凜は文学部で、高遠は理学部なので試験期間は若干ずれているが、教養科目は共通なので、そこら辺は試験期間が被っている。七月下旬には、教養科目についてはひと段落すると思われた。









「凜、よく笑うようになったわね」


 ある日、夕食の最中に母にそんなことを言われて凜は目をしばたたかせた。


「特段、笑わなかった覚えもないんだけど」

「そんなことないわよ。彼氏でもできた?」

「彼氏!? 凜にか!?」


 これは父だ。父の隣に座っている弟が、「父さんうるさい」とジト目で容赦なく言った。


「私に彼氏ができたらそんなに驚くこと? まあ、いないけど」

「そうか……」


 なぜかほっとする父。まあ、凜の男運が悪い自覚はある。弟は我関せずでから揚げを食べまくっている。


「ええ? でも、いつも一緒にスイーツ巡りしてる子は……」

「お母さんストップ! 友達と行ってるもんね!」

「そ、そうね……?」


 勢いよく立ち上がって母を止めた澪に、凜が引く。澪が必死に母に目配せして何かを訴えていた。視線だけで会話は難しいのでは。


 正直なところ、母が言いたいことが分からないではなかった。凜は、高遠が好きかと聞かれたら、好きだと答えるだろう。だが、それが色恋に発展するのは怖い。ただの友達だから保てる距離感がある。それが崩れるのが怖い。何より、高遠に否定されるのが怖い。凜が告白することでその均衡が崩れるのなら、このままでいいと思ってしまう。臆病者、と人は言うかもしれないが、「澪じゃない方」として認識されてきた凜は、自分に自信が持てない。どうしても、自分を守る方に動いてしまう。


 よくない傾向なのはわかっているが、自分ではどうしようもなかった。










 教養科目の試験が一通り終われば、専門科目の試験日まで少し時間が空く。日程を確認したところ、今日は凜も高遠も昼で試験が終わるので、ランチを食べに行く約束を果たすことにしていた。


 凜が上の階で試験を受けていたので、下の階の高遠のところへ向かうと、彼は講義室の中で帰り支度をしているところだった。声をかけようか、とためらっている間に、彼の友人らしき男子学生が高遠に話しかけた。


「高遠、一緒に昼飯食べに行かねぇ?」

「悪いけど、先約があるから遠慮しとく。ありがとな」

「先約って、深山のじゃない方?」


 別の男子学生の声だった。思わず、カバンを抱えて隠れる。いや、凜は何も悪いことはしていないのだが。講義室を出て行く学生が、講義室側の壁に張り付いている凜を不審げに見ていた。


「じゃない方とか言うなよ。二人とも深山だろ」


 高遠、ちょっとずれてる。たぶん、そういうことじゃないと思う。


 なんだかこのシチュエーション、覚えがあるな、と思ったら中学生の時だ。馬鹿にしたように笑われたのを思い出す。澪と大喧嘩したことも。いや、あれは凜が泣きながら八つ当たりしただけだ。今回もそうなるかもしれない。早くこの場を離れるべきだと思うが、動けなかった。カバンを抱く手に力を籠める。


「お前真面目だよな。てか、ああいうのが好み? たまに一緒にいるの見かけるけど」

「俺の好みがどうだろうと、お前に関係ないだろ」


 スパンと高遠が切り捨てる。凜も高遠に同意である。よほどまずい相手でないかぎり、余計なお世話だ。


「えー、でも、どうせ声掛けるんなら断然深山の方だろ。あ、去年の準ミス・キャンパスの方な」


 そういえば、澪は去年一年生ながら準ミス・キャンパスに選ばれていた。さすがである。


「もう一人の方ってなんか地味だし、愛想もないじゃん。双子なのにそんなに美人じゃないし」

「同情なら止めといたほうがいいんじゃないか」


 高遠の友人だか同級生だかの言葉が心に痛い。やっぱり、無理やりにでも足を動かして立ち去るべきだった。今からでも遅くないだろうか。


「双子だからって全く同じなわけないだろ、別の人間なんだから」


 いつだったか聞いた、高遠の言葉だ。


「お前らは、凜が地味で愛想がないから澪の方がいいって言うけど、それって、双子のどっちも美人で愛想がよかったら、『どっちでもいい』ってことだよな。それって、どっちにも失礼なんじゃねぇの」


 なかなか鋭い指摘である。双子にとって、『どっちでもいい』は禁句だ。


「少なくとも俺は、お前らみたいなのにひどいこと言われても、腐らずにいられる深山凜をすごいと思うし、好きだ。多少愛想がなくても、自分の前だけで笑ってくれると思ったら可愛いだろ。じゃあ、俺は約束があるから」


 一方的に言って講義室を出ようとした高遠は、出入り口で「うわっ」と声を上げた。すぐ近くで、凜が顔を伏せてうずくまっていたからである。


「み、深山?」


 大丈夫か、と背中を支えられる。


「今の、聞いてたよな……悪い。嫌なこと聞かせた」


 むくっと凜は顔を上げた。泣いているし、むすっとしている自覚もある。泣いているのを見て高遠は手を触れようとして、ひっこめたように見えた。


「ほんとにごめん」


「違う」


 震える声で、凜はきっぱりと言った。


「嬉しくて、泣いてる」


「は」


 虚を突かれた顔をした高遠に、凜はうるんだ目で笑って、抱き着いた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ふと思い立って、ノリと勢いで3日くらいで書き上げたので、誤字脱字が多いと思います。すみません。暇つぶしにでもなったら幸いです。短編でも行けるくらいの文章量ですが、もしかしたら続きをちょろっと書くかもしれん、と思って連載にしました。お付き合いいただき、ありがとうございました。


深山みやま りん 十九歳

 大学二年生。双子の澪と比べられて生きてきた。姉妹仲は良好だが、双子なのに澪の方が美人で頭もよくて運動もできる、と比べられてきたためにちょっと自信喪失気味。性格は温厚な方。身長百六十四センチ。文学部考古学専攻。Fa〇eが思い浮かぶ名前だが、別に赤い弓兵を召喚したりはしない。


深山みやま みお 十九歳

 大学二年生。双子の凜と同じ大学に通う。凜が自分と比べられているのを知っているが、いつも凜の方が可愛いのに、と思っている。根暗な凜に比べ、朗らかで明るい。やや天然が入っているが気が強い。身長百六十センチ。文学部国際交流専攻。並べたときに、凜と同じような漢字になるような名前にしたかったのだが、よく見たらサンズイとニスイだった。


高遠たかとお 成海なるみ 十九歳

 大学二年生。凜とは高校一年生の時同じクラスだった。おとなしめの理系男子。大学図書館でバイトしている。身長百七十四センチ。理学部数学専攻。高遠さんだが、別にじっちゃんの名にかけて!の高校生探偵に出てくる犯罪の人ではない。本編で名が出てきていないので、ここが初出。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] それでも、可愛くなってから近付いた感がするのは気のせい……?
[良い点] 後編の高遠君の最後の方のセリフ全てが特に大好きです。凜ちゃん良かったね…! [気になる点] めちゃくちゃ良い所で終わった事。 [一言] 後編終わった所で、つい「続きは?!」と声が出てしまい…
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