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第19話 沼の底

 ソアレの魔法によって持ち上げられた巨大な岩には穴が空き通路の様な物が見えたが、特に気にせず動かし被害が少ない場所にゆっくりと置いた。


 つもりだったがあまりの大きさに木をへし折り地響きをあげながら倒れていきようやくそのばで止まった。


 大岩が無くなった事でソアレが言ったように中から溜まり淀んだ魔力がその場からあふれ出し近くにいたスティレとソアレを飲み込んだ。


「スティレさん!ソアレさん!」と二人を心配しテテノが駆け寄ろうとしたがカーディフに腕を掴まれ阻止された。


「二人なら大丈夫だし危ないから近寄らない。あんな感じの濃い魔力に当たったら狂うわよ」


「そうですけど……」


 テテノが心配する中、霧の様に濃い魔力がゆっくりと晴れていく。


 ぼんやりとシルエットが見え始めるとソアレがいた当たりの人影はバチバチと青白く発光し、スティレがいた辺りは何かに覆われていた。


 そしてようやく辺りが見渡せる様になるとソアレは青白く発光し背中には雷の様な翼が生え、バチン!バチン!と放電していた。


 ソアレが杖を動かすと雷を纏った氷壁が姿を消し中からスティレが姿を現した。


「ソアレ、助かった」


「いえいえ、仮にあびた所で魔界ほど濃くはないですから大丈夫でしたよ」そう言ってから大きく息を吐き出すと背中の翼も消え発光も収まった。


「カーディフ。テテノン。もうこちらに来ても大丈夫ですよ」とソアレがテテノ達に手を振ったので、カーディフが、ねっ?言った通りでしょと言ってテテノの背中を叩き向かった。


 テテノがスティレとソアレに大丈夫ですか?と心配そうに声をかけたが、怪我もしていなかったので本当に大丈夫そうだった。


「……何というか……ソアレさんはやっぱり凄かったんですね」


「ありがとうございます」


 大岩を動かしてできた穴を四人が覗くと明らかに人が作った様な階段が見えたので、ソアレが浮遊魔法をかけて皆を浮かしその階段へ向かった。


 階段に降り立つと死の沼の方向に伸びていたが光源が無く真っ暗だった。


「真っ暗ね……」


「真っ暗ですね」


 ソアレが魔法で辺りを明るくする魔法を唱えると周りの壁は石でできており、幾何学模様が描かれていた。


 その模様に心当たりがあったテテノは少し調べ始めた。


「何か分かったのか?」


「こっちがこうなってるから……これ通路を明るく照らす魔方陣ですね。見た感じ生きているので使えそうなので少し待ってくださいね」


 テテノははそう言ってアイテムバッグの中から錬金術で使う道具を取り出しすり切れた部分を書き直してから魔法を唱えると、テテノがいる場所から奥に向かって一斉に灯りが灯っていった。


「明るいな。古いようだがまだ使えたんだな」


「ほとんど密封されたのも原因で劣化しなかったんでしょうね」


 辺りが明るくなったのでソアレが魔法を消してから隊列を整え四人は長い階段を下へ下へと降りていく。


 長い階段を降りいくと途中に罠のような仕掛けがあったが、魔力も途切れ仕掛け自体も劣化していたので発動する事は無かった。


「五十年も経ってると結構劣化するものね……」とカーディフが呟くとソアレがの言葉を拾い話し始める。


「もっと古い遺跡とかでも罠が生きてたりしますから何とも不思議ですね」


「ここも魔力が供給されていたら動きそうですが……何というか変な場所ですよね」


 生物の気配も動く物も何もなく只ひたすらに階段を降りていくとようやくまっすぐで巨大な通路の様な広間が現れた。


 ようやく階段が終わり一息ついてからテテノが辺りを見渡すとその広間から幾つもの扉が見え部屋がある様だった。


 気にはなったが勝手に動いていいわけでもないのでテテノはリーダーのスティレに相談をする。


「スティレさんどうしますか?別々に探しますか?」


 スティレは腕を組み少しだけ考えてから、それは止めておこうと伝えた。


「まずは纏まってこの空間に危険な仕掛けが無いかを調べよう。カーディフは物理関係の仕掛けなら解除もできるが魔法関係はテテノかソアレに任さないと駄目だからな。全ての罠が死んでいるとも考えにくい」


 スティレの考えに反対する理由もなかったのでテテノが頷くとカーディフやソアレもそれでいいと言ってまずは、今いる空間を調べ始めた。


 調べ初めてすぐに様々な罠が見つかり矢が飛んでくる様な簡単な罠は生きていたが、魔力を使う様な罠は全て停まっていた。


「この広間で最後の撃退をするような作りね……罠が連動するように作ってあるし」


「カーディフさんもそう思いますか?その罠に連動してこちらの罠も動くようになっていた感じですね」


「何というか……こういう罠の設置のしかたって魔道士が多いのよね……」


「私も錬金術師なので大雑把にみれば魔道士の端くれなので何とも言えません……」


 テテノとカーディフが話していると、建物の中の索敵を魔法でおこなっていたソアレが皆に話しかける。


「本当に何もいませんね。ネズミの一匹さえ本当にいません。罠さえ注意すれば問題無いです」


 ソアレの話を聞いてスティレはそうか、とカーディフが罠の解除が終わったら部屋を調べようと伝えた。


 そしてカーディフが罠の解除が終わったので四人で固まり一番近くの部屋に向かった。そしてソアレがドアに呪いがかけられている事もあるので私が開けますといいドアノブを掴んだ。


 ドアノブを掴んだ瞬間に物静かなソアレの表情が変わり大きな声を上げる。


「くっ!やはり罠が生きてましたか!皆さん離れてください!」


 皆がソアレを心配したが当の本人は「こういうのたまにやりたくなりませんか?」と言って古びたドアを静かに開けた。


「あんたって奴は!」とカーディフが怒りソアレをアイアンクローで軽々と片手で持ち上げた。


「カーディフ!普通に痛いですから!」


「カーディフ。かまわんやれ!」


「何故、私のパーティーは冗談が通じない!」


 ソアレの最後の問いかけにこめかみをヒクヒクさせたカーディフが無情に告げる。「面白くないからよ」と……


 気を失ったソアレをその辺に捨てて、同じぐらいイライラしたテテノはソアレの顔にとりあえずポーションだけはかけておいた。


 テテノ、スティレ、カーディフの三人でその部屋を調べていく。


 質素な部屋で非常食の様な物が箱に入れてあり、調理器具等も置いてあったのでここで簡単な料理などをしてような痕跡があった。


「特に何も無い感じだな」


「ええそうね。保存食も食べられる様な感じもしないし。もう長い間、人は入ってない感じよね」


「そうですねー」


 と三人で話しているといつの間にか復活したソアレがでは次の部屋ですねと言って部屋を出ていた。


 そして別の部屋に行き扉を開けると、そこは書斎の様な場所で大きな机に沢山の本が並べられていた。


「この場所の持ち主が五十年前にしでかした錬金術師ならあるとは思いましたが……やはりありましたか」


 テテノが何があったんですかと聞く前にソアレは一冊の血のように赤い本を本棚から取り出した。


「禁書です。これで確実に王宮騎士達に動いてもらえますね」そう言ってからソアレはパラパラとだがその禁書をめくり中身を確かめる。


 そしてある程度の所で読むのを止めてその本をテテノに渡した。


「錬金系の禁書ですね。読んでも良いですし読まなくても大丈夫ですが……読んだら国に報告しましょう」


「それ、読んだら駄目なパターンじゃないですか……」


「それでソアレ、内容はどんなものだったんだ?」


「ルディールさんがいないのが悔やまれますね。古代文字を使われているので全部は理解できませんが巨大な錬金釜の作り方。ここの事ですね。それと若返りの薬と半不老の薬の作り方があったのでこの死の沼で作れる物を記載されている感じですね」


「半不老って何よ、半不老って」


「半分不老不死になるみたいな事を書いてましたよ。詳しく知りたい時はルディールさんに読んでもらってください」


「とっとりあえず、この禁書はシャレになってないので……スティレさん持っててもらえますか?」


「分かった。責任を持って預かろう」


 スティレはテテノから禁書を受け取り自身のアイテムバッグの中に丁寧に仕舞ってから全員で書斎にある物を片っ端から調べ始めた。


 テテノは小さな魔道具が置いてある机の上が気になったで引き出しを空けると古ぼけた日記を発見したので中を確認する。


 その日記は最後までは書かれていなかったが、この施設の事や作った人物の名前が書かれていた。


「皆さん。日記を見つけましたそして、この場所を作ったのはやはり五十年前に行方不明になった錬金術師の様です」


「テテノン。お手柄ですね。死の沼で何を作っているか分かりましたか?」


「はい。不老不死の薬を作ろうとしていたようです。外で言っては駄目と言われたのですが……五十年前の事件は村人全員を生贄にして若返りの秘薬を作ったとお婆ちゃんは言っていました」


 火食い鳥に余所では言わない様に頼み、祖母から聞いた話をテテノは伝えた。


「なるほどな……私達は生まれていなかったがそんな事があったのか……」


「それで若返りの薬で若返った後に、不老不死の薬を作って若い体のままという様な事が書かれているんですが……」


 テテノはそこまで言って歯切れが悪くなったのでカーディフにどうかしたのと尋ねられたので見せた方が早いとその日記を開いて見せた。


 テテノの開いたページは血の様なものがこびり付いており、全く読めず、付いていない所も白紙だったのでそれ以上の事は分からなかった。


「なるほどねー。こっちの本棚も錬金術関係の本ばかりだったから一番の収穫はその日記ね」


 どんな錬金術の本かとテテノは気になったので本棚から一冊とりだすと目の色が変わった。


「こっこれは!数十年前に廃版になった本!?しかも状態がこれ以上無いぐらいに良い!!」


 そういって目を輝かせながら他の本も探すと危ない本もあったが貴重な本ばかりだった。


「スティレさん。この本ってもらえたりするんですか?」


「禁書が出てなかったらもらえたが禁書が出たからな……国のお偉いさんが全く無関係と証明した後にどうなるかは不明だな」


「…………禁書。ここで燃やしません?」


「テテノン。残念なおしらせです。私の得意な魔法は雷なので禁書を消滅させるのは無理なのです。誰が作ったか知りませんがかなりの防御魔法が張られているんですよ」


「そんな~……」と言ってテテノが膝から崩れ落ちたのでカーディフがドンマイと肩を叩いた。


「一冊ぐらいなら分からないはずですから……こそっと持って帰ってもいいのでは?」と貴重な錬金術の本を持って帰りたいテテノは諦めきれずしぶとくスティレに尋ねる。


「王宮騎士や宮廷魔道士が来てごまかせると思うか?試してもいいが……オススメはしないぞ」


「ですよねー……」


 そんな話をしながら元王宮騎士のスティレが誰がどの本を見たとか触った等をアイテムバッグから取り出した羊皮紙に書き込んでいく。


 他の部屋も調べたが寝室のような所や壊れた錬金器具などが置いてある部屋なども調べたが本当に危ないものはスティレが持っている禁書だけだった。


 大方調べ終わり残りは奥にある部屋だけとなったので、もう一度気を引き締めてから全員でその部屋へと向かった。


 その部屋に入ると今までの部屋とは比べものにならないぐらいに広く、中央にはテテノの身長の倍ほどもある巨大な錬金釜があった。


 そしてその錬金釜には天井の模様を伝わり一滴、一滴と液体がピチョン、ピチョンと落ちていくのだが、錬金釜ははその液体でいっぱいであふれ出した液体が部屋の隅へと流れていた。


 釜の下に何かが見えるが不用意に近づいて良い物ではない雰囲気が出ていたのでスティレは日記や禁書を読んだテテノとソアレに話を聞いた。


「不用意に近寄らない方がいいか?二人とも何か分かるか?」


「直接触らなければ大丈夫ですが……あの液体全部が若返りの秘薬のはずですよ」とソアレがそう言うとテテノも同じ意見だった様で頷いてから見た方が早いですねといってアイテムバッグの中を探した。


 そしてアイテムバッグの中から少ししなびた薬草を取り出し見ていてくださいね、と言ってその薬草を投げた。


 放物線を描きしなびた薬草があふれて床を塗らしている液体の上に落ちた。


 しばらくすると淡く発光してから薬草はゆっくりと小さくなっていき最後は種へと戻った。


「若返りの秘薬か……」


「そういう事です。あの液体を釜いっぱいに溜めてそこからさらに錬金して不老不死の秘薬を作ろうとしていた様です」


 テテノがそう言った後に禁書を読んだソアレが付け加えるように伝える。


「この真上は死の沼の中心になっていて死の沼で少しずつ取り込んだ魔力で若返りの秘薬を作っていたようですね。釜がいっぱいなのであふれ出した若返りの秘薬がまた死の沼に吸収されてかなりややこしい事になってシャドウワイパーを呼び寄せたんでしょう」


「なるほどな……王宮騎士達を信じない訳ではないが……貴族達が絡んで来た時の事を考えるとこの装置はもう止めた方がいいだろうな」


「不老不死って人を狂わすのよね……その響きだけで」


「テテノ、ソアレ。この装置の止め方はわかるか?」


「私は錬金術は専門外なので無理ですね。どうしてもと言うなら破壊はできますが……どうします?」


「だめですよ!錬金釜なら私が止め方が分かるので任せてください!」


 そう言ってテテノが前を歩き、足下に気をつけながら巨大な錬金釜へと向かっていく。


 濡れないように近づくと大きいだけでテテノが知っている錬金釜と作りはほとんど同じだった。


 装置を止めようと釜の裏に回り込むと釜の影に滴る若返りの秘薬にかかる小さな骨を見つけた。


「……骨ですよね?実験で使われた魔物かな?」


 テテノがそう言ったのでソアレは濡れない様に杖でその骨の頭蓋骨をつつきながら確認する。



「……人の赤ちゃんの骨ですね」


「え?どうしてこんな所に赤ちゃんの骨が……」


 テテノがそう聞くとソアレは手と足の骨がないのでそういう事ですよと言った。


「お婆ちゃんの言った通りだった……」と呟いてからアイテムバッグの中から一輪の花を取り出してその赤子の骨の上にそっと置く。


 そしてテテノは死の沼と呼ばれた強大な錬金釜を止めた。

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