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.7話 夢と現実、そして妄想

「えッ!? あぁぁ~ん、ダメだって、歩夢ってばぁ……」

「何でだよ、ナツは俺のこと嫌いなのかよ!」


 そう言って織田が制服の胸元からスッと手を滑らせブラウスのボタンを外すと、私の胸にそっと手を添えてきた。


「ダメだよ…… 私達まだ高二だよ……」

「なに言ってんだよ、もう高二だろ」


 いつもであれば冷静な織田のその言葉の口調が、今は少しだけ息を荒げているように感じ取ることができた。


「あぁぁ~ん、そこダメぇぇぇ……」


 言葉とは裏腹に、織田を素直に受け入れる自分がそこには居た。初めてのその感覚は全身の力を奪い、織田に全てを委ねる事しかできない。抵抗することなど微塵もなく、優しく心地よい静かな時間トキが流れてゆく。


「──えッ!? ここ何処? 夢!」


 真っ白にぼやける視界に歪む蛍光灯がゆっくりと映し出されていった。見覚えのないベッドに横になっている私が居る。膝が痛い、寝返りを打ったその時にシーツと擦れた膝の痛みだった。


「あら、お目覚めかしら? 早川さん大丈夫?」


 落ちついた女性の声だ。聞き覚えのある柔らかく優しく優雅な声の主、それは保健体育の先生、眞知子先生だった。


 「生きてる? 大変だったのよ、体育館で倒れちゃって」


 取り戻す視界とほぼ同時進行で記憶も蘇ってくる。あッ! そうだ校長先生の話……


ホームルームを終えて体育館に移動した。そこで始業式恒例の、いつもの長い長い、出口の光すら見えないトンネルぐらいに長い校長先生の話が始まってどのくらいの時間が経っただろう、記憶を失った。視界を漆黒の闇が覆い、それが次第に色濃く染まった瞬間、私の時間は止まった。


 後は覚えてないんだけども……


「膝、大丈夫? 倒れた時に擦りむいたみたいよ、消毒だけしておいたから」


 そう言って眞知子先生がベッドに歩み寄り言葉を投げてくる。


「早川さん、今日はちゃんと朝ごはん食べたの?」

「食べなっかです、寝坊しちゃって……」

「そうなんだ…… 貧血かな、体育館暑かったし、暑さのせいもあったのかしらね」


 うぅ……ん、説得力があると言えばある、ないと言えばない、微妙だ。柔らかい眞知子先生の口調や仕草にくわえ、白衣姿のこのエロボディー、……女の私でも優しくして欲しい、何でも言うこと聞いちゃう、奪って欲しいと思わせるほどの大人の色気を漂わせていた。それが例え微妙な問診であったとしても安心という一言で覆い包み込まれてしまうの。


 世の男がこの素敵で、ちょっとエッチな大人の女性を放おっておく訳がない。私も放ってはおかない、何それ……


『バンッ!』保健室のドアが勢いよく開くと同時に、耳に刺さる大きな声が穏やかだった部屋の空気を劈き轟いた。


「やだぁー!! 大丈夫なのナツぅ…… 」


 エリカだった。


「う、うぅ……ん、自分では良く覚えてないから、ちょっと膝が痛いだけ」


 どちらかと言えば、エリカの声の方が耳に響くし痛いんだけども。でも、こうやって心配して飛んで来てくれる友達が居る私は幸せなんだと思う。と、青春の1ページにこれを刻み、高校生活の思い出のアルバムに焼き付ける。には少しばかり黒歴史に近い思い出を刻んだようだった。


「てか、なんで歩夢だったわけ!!」


 何のことですか? エリカの言葉に首を傾げていると眞知子先生がエリカの言葉に補足を付けくわえてきた。


「そうそう早川さんが倒れた時ね、ここままで運んで来たの織田くんなのよ」


 えぇー!! 私、臭くなかったよね、ヨダレとか垂らしてないよね? あッ! そうだハミガキ粉、ブラウスに垂らしてたんだ…… めっちゃ恥ずかしいんだけども。


「そ、そうだよ、なんで歩夢なわけ、担任のハゲマルで良かったじゃん!」


 ちなみにハゲマルとは私のクラス担任のあだ名である。あだ名の由来はご想像のとおり。


「しかもぉ! お姫様抱っこって何!! 意味わからないよ、あんた歩夢とどういう関係よ! ナツはちょっと重めなんだからね!」


 いぃー!! お姫様抱っこって…… なにそれ、知らんし。──あの夢!? アイツ、私の胸触ったんか!? きっと、たぶん、そうに違いない。だからだ、あんなエッチな夢みたんじゃん、ただの思い込みである。そして『ちょっと重めとは!?』所々に入れるその嫌味、ヤメなさい。


「わ、私だって知らないよ! な、何で織田だったのかなんて……」


 お姫様抱っこに動揺していた事もあり、そう言い返した言葉の節々は何処かぎこちないものとなって切れ味悪く私の口から零れ出た。


「まぁまぁ、そんな事どうでもいいんじゃない、早川さん、元気になった事だし」


 一触即発の事態を察した大人の発言、眞知子先生の言葉で部屋の空気の色がスッと入れ替わり、その場が和んでいってた。


「そうだね、歩夢に限って浮気とかないから! じゃぁ私、先に帰るから」


 そう言うとプイッと私に背を向け綺麗に巻かれた栗色の髪を翻すと、大股で肩で風を切りながらブイブイいわせて部屋を出ていった。


…… エリカ…… 何しに来た!? それだけか、そして自分の言いたいこと言って帰ったのか? 何より織田とエリカは付き合ってるのか? 初耳だぞッ、そして何時も一緒に帰ってないし、私の心配じゃなくて織田の心配かぁーい、意味わからん。


「ねぇ、あの娘って何時も ああなの!? 良く疲れないで一緒に居れるわね」

「もぅ慣れました、17年一緒ですから……」


 眞知子先生の言葉に半ば諦めきった言葉で返事を返した。


「あッ! そうそう、織田くんがね、早川さんが起きたらコレ渡してくれって」


 そう言って眞知子先生から手渡され小さな紙切れに見えたそれは名刺だった。


『coffee & bike shop ~ Mahal kita. ~』


「そこに来ればバイクの事、親切に教えてくれるから、とか、言ってたわよ」


 コーヒー・アンド・バイク・ショップ…… あとは読み方がわからん。てかコーヒーとバイクの関係性がいまいちピンとこないんだけども……


 今度のお休みに行って見ようと思う。マジ、膝、痛いんだけども、あッ! 青アザできてるぅー。

読んでいただき有難う御座います。

ブックマーク、ポイント、感想などをいただけると嬉しいです。

宜しくお願いします。

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