講義の中に雑談を
「さて、今日の授業は少し全く違った話をしてみようと思う。この分野において、わたしは素人なので素人なりの浅はかな考えかもしてないが、聞いて欲しい。」
教壇に立つ教授が言い出した。
「まず、この中でノアの方舟のノアが何歳まで生きたか知ってる人はいるか?」
教室の中は静まりかえり誰も答えようとしない。
「まあそうだよな、日本だとそこまで聖書を読む事はないからな。ノアは長命種だったそうで700歳まで生きていたらしい。方舟を完成させたのが600歳というから洪水の後、100年生きたことになる。」
教室の中は“こいつ何話し出したんだ”という雰囲気になっていたが、教授は我関せずといった感じで話しを続ける。
「このノアよりも長生きした人物がメトセラ。彼は実に969歳まで生きていたそうだ。」
ここで一息つき教室全体を見回す教授。
「あの」
一番前の席に座るいかにも優等生といった雰囲気の女子が手を挙げる。
「はい、何でしょうか?」
「この話しって今しなければならない話しなんでしょうか?」
「あぁ、そうですね。別に今ではなくても良いのですが、ちょっと頭の体操だと思って聴いてもらえませんか?」
その言葉に静かにうなずく。
「では、続きを。神話の時代だから、物語の中だからと何百歳も生きることはそんなものだと考えてしまうのは簡単なこと。本当にこの年齢まで彼らは生きていたのかもしれない。物語が伝わるうちに誇張されていったのかもしれない。ただ、わたしは1年という概念に疑問を持った。この当時一年は本当に365日だったのかと。」
「え、それって一年が365日では当時違ってたということでしょうか?」
「当時文明がそこまで発展してなかったと仮定する。時計が無い時代、人が時間の経過を認識する最小の単位として考えられるものが日の出から日の出までの一日。次に月の満ち欠け。この単位で年齢を数えていたとするとノアの700歳は生後700ヶ月、700を12で割ると約58になり、ノアが58歳。この数字まで生きたとすると非常識な長命でもなくなる。また、メトセラも約80歳となり、当時としては長命だったかもしれないが、常識的な範囲になるだろう。」
「もちろんこの説に反論もできるし、そんなものと言って終わりにもできる。ただ、こうやって考えることから意外な発見に繋がる可能性もあるってことを知っていて欲しい。」
「では、本日の授業を始める。」
そう言って教授は教科書を開いた。