第7話 バレちゃダメッたら、バレちゃダメッ!!
ボコン。
それは、ドレスの胸が思いっきりへこむ音。
いくら容姿をお嬢さまに見せかけったって、中身はあたし。
触ればその姿かたちが違うことは明らかで、だから触られないように、触ったところで、バレない部位だけって気をつけていたのに。
手とか腕なら、バレなかったのに、よりによって胸だよ。
お嬢さまなら、胸は大きくペンダントもその谷間に埋もれるというのに、あたしでは、なだらかすぎる丘陵にペンダントが野ざらしになる。大きな手だったら、両方いっぺんにつかめるんじゃないかっていう、ささやかな大きさだから。
だからドレスを着て、見た目は誤魔化せても、実際触れてみれば、そこはスカスカで。押さえられればボコンとへっこむわけで。
(ああああああっ。どうしよぉぉっ!)
魔力の使い過ぎで意識を失っている間はいい。
それを取り戻して、目が覚めてきた今が怖い。
不審に思われてない? まさかすでにバレてる?
というか、今どういう状況なの?
横になっている。というのはわかる。多分、前と同じ医務室の寝台の上。
だけど。
うす~く目を開けて周囲を確認する。
(いた――――っ!)
ベッドの脇には、アウリウスさま、そしてレヴィル先生。
アウリウスさまは腕を組んだまま直立不動で、こちらを見下ろしている。先生は、その手前、椅子に腰かけて、残った片目でジッとこちらを見ている。
(あああ、ど、ど、どうしよう……)
これ、起きなきゃいけないよね。ずっと寝たふりしてても、二人がどこかへ行ってくれる……なんてことはないよね。
「アウリウス、彼女の容態はどうだ」
軽いノックの音とともに、殿下がルッカさまを従えて入ってきた。
うわわ。また人が増えたよぉ。
「今のところ目覚めてはおりませんが、…おい。いい加減に目を覚ましたらどうだ」
うっ。うそ寝、バレてる。
「…………はい」
かなり迷ったけど、寝てますって言っても許してもらえそうにないから、目を開けて身体を起こす。
が。
「……ひぃっ!」
目の前に剣を突きつけられる。鼻と剣先の間、ほぼ無し。
「お前は何者だ。なぜ、ローゼリィさまのフリをしている」
アウリウスさまの声は、剣と同じぐらい鋭い。
「えっ、あっ、あのっ……」
「答えろ。さもなければ……斬る」
チャキッと剣が音を立てる。
「ひっ!」
怖い、怖い、怖いぃぃぃっ!
「アウリウス、そんなに脅してはダメだよ。仮にも相手は女の子なんだろう?」
殿下が、少しだけアウリウスさまをたしなめる。
「しかし、ローゼリィさまになりすまして、学園に侵入するなど。殿下の身をお守りするためにも、真偽を確かめねばなりません。それに、本物のローゼリィさまの身も気がかりです」
アウリウスさま、殿下に言われても自分の意見を少しも曲げない。頑固。
「さあ、正体を現せ」
剣が鈍く光る。剣に負けないくらい厳しい視線が、あたしに刺さる。
「うっ……」
怖さ、限界突破。
我慢できなかった涙がブワッと一気に溢れ落ちた。
「あっ、怪しっ、いっ、ヤツじゃっ、あっ、ありませっ……んっ!」
涙だけじゃない。鼻水も出てくる。
「あっ、たしっ、おじょ……さまのっ、ヒィック……、侍女のぉっ……、グスッ……、リュリッ……、ですっ……、ウッ……、ヒック」
しゃくりあげながら、どうにか伝える。
「リュリ? あのローゼリィの侍女の?」
「はっ、はいっ、そうっ、ですっ、ヒグッ……」
殿下が驚いたような声を上げた。アウリウスさまの剣先が少しだけ下がる。
ゴメンナサイ、お嬢さま。やっぱりあたしにはムリでしたぁ。
たった二日でバレましたぁ。
どうしようもなくなって、感情のままにオイオイ、ワアワワ泣き続ける。
そんなあたしを見て、四人がそれぞれ顔を見合わせる。
「でも、どうやって姿を変えているんだ?」
散々泣いた後、落ち着いたころ合いを見計らって、レヴィル先生が問いかける。
「そっ、それはっ、このっ……、ヒィック……、ペンダン、トのっ……」
首の後ろに手を回して外そうとするけど、上手くいかない。手がプルプル震えて留め金がうまく持てない。
「ルッカ、手伝ってやれ」
ため息混じりのアウリウスさまの声。
「あ、はい」
その声に従って、ルッカさまが留め金を外してくださった。
「うわっ!」
間近にいたルッカさまが、あたしを包んだ光に驚く。
最初に変身した時と同じく、光は一瞬で収束し、あたしは元の姿に戻る。
「……リュリだ」
殿下が、改めて驚きの声を上げた。
「はい、そうっ、ですっ」
グズグズと鼻をすすりながら答える。元の自分に戻ってしまえば、何も気にすることなくグイグイッと顔を拭く。
「このペンダントの力でっ、変身っ、してましっ、たっ」
手のなかに残ったペンダントを、先生に差し出す。
「これは……、水の魔法と……、光の魔法……、他にもいくつか感じるが」
「はい、お嬢さまが創られたとかで。えっと……、『モジャ』? 『モシャシャ』? とかなんとかいう魔法具だそうです」
名前、忘れた。も、も……、なんだっけ。
「ローゼリィ嬢が……」
先生は不思議そうに、それを窓からの光にかざす。
「でも、どうしてローゼリィは、きみに自分のフリをさせたんだい?」
「そっ、それはぁ……」
お嬢さまのニセモノの正体があたしとわかったからか、アウリウスさまは剣を仕舞ってくれた。けど……。
あたし、本当のこと、言ってもいいのかな。
下手なことをしゃべって、公爵家に迷惑をかけたらどうしよう。
何より、そのせいで、お嬢さまが「断罪コース」とやらに進んでしまったら。
ああああ。どうしたらいいんですか、お嬢さまぁっ!
「大丈夫だよ、悪いようにはしないから」
優しく殿下がおっしゃってくれた。
後ろのアウリウスさまは、納得してない表情だけど。
「あのっ、お嬢さまは今、ご領地に帰られています」
腹をくくって理由を、ありのままに話す。
こうなったら、殿下の優しさを信じるしかない。
第七話です。
ローゼリィとリュリの胸サイズ。
ローゼリィはDカップU70、リュリはAカップU65あたりでしょうか。(U=アンダー。意味がわからない人は、知り合いの女性に聞いてみましょう) もしかするとリュリは、小学生の女の子がつけるようなブラで間に合うのかもしれません。(初めてのブラ…みたいな!?) 貧乳です。未成熟な幼児体型。
まあ、それがいい!!というフェチもいらっしゃるのでしょうけど。
中身的にも、結構幼いし。泣き虫、べそかき。すぐにテンパる。
こんなリュリがいい!! こんなリュリでいい!!と言ってくれる殿方は現れるのか!?
これからもよろしくお願いします。