表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/44

第4話 今、一番会いたくない人たち。

 (あ……、あたし……)

 次に意識を取り戻したのは、真っ白なシーツのかかった寝台の上だった。

 糊付けされて、ピンと張ったシーツは、清潔感にあふれていたけど、ちょっと硬い肌触り。普通の寝台…ではないような。……あれ?

 鼻孔をくすぐる、かすかな薬品の匂い。これって、医務室?

 前後の記憶がボンヤリしてる。

 あたし、どうしてこんなところで寝ていたの?

 「ああ、気がついたんだね」

 声がした方に顔をむける。

 「ナディアード殿下……」

 「きみが、魔術の授業で倒れたって聞いてね。心配して見に来たんだ」

 寝台の上で放りっぱなしになっていた左手を、そっと包むように持ち上げられる。

 「気分はどう?」

 「えっ、あっ、もうっ、もう大丈夫ですっ!」

 だから、その手を離してくださいっ! 潤んだ目で見ないでくださいっ!

 心臓がムダにバクバクしますっ!

 あわてて身体を起こして手をもぎ取る。

 殿下は一瞬不思議そうな顔をしたけれど、すぐにいつも通りの笑顔に戻った。

 「無理をしてなければいいけど。そうだ。もう授業も終わっていることだし、屋敷まで僕が送るよ」

 ひぃえええええっ!

 でっ、殿下がですかぁっ?

 「え、いえ、そんなお手を煩わせるわけにはまいりませんわ」 

 控え目にやんわりと断る。

 「どうして? きみは、僕の大切な婚約者だよ? それぐらいのことはさせてくれないかな」

 ううう。そんなふうに切なげに見つめないでください。

 殿下のお優しさも、お気持ちも、よぉぉぉくわかっておりますから。

 リュリだった時にも、殿下はこうして分け隔てなく優しくしてくださっていた。普段は、その優しさがうれしかったけど、今は、その、ちょっと……。

 正直、困る。

 でも、それ以上断ることも出来なくて、どこか連行されるみたいに、医務室からエスコートされる。

 医務室の外に待機していたのは……。

 (やっぱり、いた―――っ!)

 そこに立っていた二人の男性に、心のなかで叫ぶ。

 「ご無事ですか、ローゼリィさま」

 そう訊ねてきたのは背の高い方。殿下の護衛騎士、アウリウスさま。心配という感じの言葉を投げかけているけど、声に表情はなく硬い。

 「ローゼリィをこのまま屋敷まで送る。ルッカ、馬車の手配を」

 「はいっ!」

 殿下の命にきびすを返したのは、従者のルッカさま。いつも通りの身軽さで、殿下の命に従う。

 ルッカさまの後を追うように、殿下があたしの腰を支えるようにして歩き始める。半歩下がってアウリウスさまもついてくる……けど。

 これは、よくあるお嬢さまと、婚約者の殿下と、その護衛騎士の風景。いつもなら、その半歩後ろに、チョロチョロとあたしがくっついていくのだけど。

 (た~す~け~て~)

 心のなかで叫ぶ。

 この二人に囲まれて、お嬢さまらしく歩くなんて、なんの拷問ですか。

 うっかりバレたらどうしたらいいの?

 王子殿下をたばかった罪で、即日断罪されそうですよ?

 たとえ、断罪はなかったとしても、お二人に、お嬢さまの事情を説明して納得していただける自信がない。多分、おそらく、絶対、きっと、「はあっ?」って大きく首をかしげられるに違いない。

 ――バレたら、その時はそのときよ。

 お嬢さまは、半ばヤケのように開き直っておっしゃっていたけど、あたしには無理です。

 そこまで図太くなれないし、ウソをつき続ける自信もない。

 で、どうなるかっていうと。

 肩痛い。首痛い。顔強張る。両手両足、一緒に動いちゃう。関節は折れることを忘れる。壊れたゼンマイ人形歩き。

 「ローゼリィ、大丈夫?」

 「大丈夫ですわよ」

 いけない、いけない。殿下に疑われてしまった。

 取り戻せ、歩き方。思い出せ、お嬢さま。

 何度も呪文のように「あたしはお嬢さま」と心のなかで唱えながら、歩いていく。

 

 「ナディアードさま」


 あと少しで玄関ホールといったところで、背後から声をかけられた。

 「ミサキさま……」

 そこに立っていたのは、淡いストロベリーブロンドの少女。線の細そうな顔立ちで、彼女が動くと、フワリとその輪郭を髪が縁取る。すごくカワイイ。

 「あ、あの。お借りしていた本をお返ししようと……」

 手にしていた本を差し出しながら、その蒼緑の瞳は、視線をそっとずらす。

 ああ、そっか。あたしが殿下に抱き寄せられた格好になっているから。普通、レディならそういう反応よね。男女が寄り添っているのを見るのは、恥ずかしいわよね。

 いつも、お嬢さまと殿下のそういうお姿を見慣れていたから、そういう感覚を忘れていたけど。ミサキさまの少し赤くなった頬に、普通はこういう反応を示すものなのかと、感心してしまう。

 「わざわざありがとう、ミサキ殿」

 殿下が、何気なくその本を受け取る。

 別にいつでも構わなかったのに。殿下は軽く笑った。

 「いえ、あの、貴重な本をお借りしたのですから、そういうわけには……」  

 「いやいや、この国の聖女となったあなたのためなら、誰だってお手伝いいたしますよ」

 そうなのだ。

 このミサキさま。この国に突如として現れた聖女さまなのだ。

 お嬢さまからお聞きした話だと、伯爵家の娘ではあるものの、幼いころに誘拐され、自分が何者であるかを知らずに、地方の孤児院で育ったのだという。そして、今年になって、突然不思議な力に目覚め、神殿からも聖女として認められたのだそうだ。この国では、魔力は貴族でしか持ちえないから(それも、聖女級の力)、どこかの令嬢か? ということとなり、十八年前に行方不明になっていた伯爵令嬢だと判明し、この王立学園に編入してきた……というわけ。

 お嬢さまは、このミサキさまがこの世界にやってきた「ぷれいやぁ」で、お嬢さまを破滅させる人物だっておっしゃっていたけど。

 (とてもじゃないけど、そんな風には見えないわ)

 もし、お嬢さまが困っていらしたら、この方なら、きっと助けてくださる。そんな気がする。ヒドイことをするようには、到底思えない。

 「あの、その本、とても参考になりました。けど、どうしても理解できない部分があって……」

 ミサキさまが、軽く眉根を寄せ、頬に手を当てる。

 「どこですか?」

 パラパラと殿下が本のページをめくる。

 「ああ、そこですわ。わたし、どうしてもそこが理解できなくって……」

 ミサキさまが本を覗き込む。気がつけば、アタシの腰に回されていた殿下の手がなくなっている。

 「殿下」

 本に夢中になり始めた二人に声をかける。

 「わたくし、先に帰らせていただきますわ。殿下はミサキさまとお話しなさってください」

 「え、いや、それは……」

 あたしにとっては、殿下から離れられる最高の機会だけど、殿下にとってはそうでもないらしい。弱ってるあたしをエスコートするのが婚約者としての責任ならば、聖女の相談に乗ってあげるのも王族としての義務でもある。

 「大丈夫ですわ。帰るだけですもの」

 あたしより、困っていらっしゃる聖女さまの助けになってあげてください。

 その方が、気が楽だし。

 「……では、アウリウス。ルッカとともにローゼリィを屋敷に送ってやってくれ」

 うえええええっ!

 上手く離れられたと思ったのにぃ。

 エスコート役が代わっただけじゃない。

 「では、こちらへ」

 アウリウスさまは、殿下のように腰に手を回したりはしない。手を取ることすらしない。

 キビキビと、先導してゆくだけだけど。

 うえ~ん、失敗したぁ。

 ホントは、こうして出会ってる人たち全員、会いたくなんてなかったんだよぉ。

 第4話です。

 この作品を書くにあたって、攻略対象者は何人ぐらいが妥当なのか悩みました。私が知ってるネオロマ系だと、9人、8人、7人(すべて、第一作目をカウント) 職場で、別の乙女ゲームについて触れることがあり、そちらでカウントしてみたら、9人、10人、11人、12人、17人、17人、17人……!!

 うっひゃああぁっ!! そんなにたくさんの男性とっ!? スゲー、逆ハーじゃん。

 容姿とか、性格とか、差別化してキャラクター作れるのっ!? (声優さんが違う……はナシだぞ☆)

 いつも、最低催行人員で小説を書いちゃう私にはムリだあ。大人数を書いてもブレない作家さんを、本気で尊敬します。そして、それだけの大所帯の中から推しを捜し出す乙女の皆さまにも脱帽。

 ということで、この作品のゲームのキャラは「7人」と決まりました。これが私の限界値。長~い物語にすれば書けるのかもしれないけど。

 これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ