えぴろーぐ
「創さんはどんな庭を作ったんですか?」
エンドたちとギルドでごたごたを起こしてから一週間後、自分を含め三人とも庭が完成したのでお披露目会をしている。庭には三つの白い布を掛けた桶がある。
「見てのお楽しみだよ。」
「某は早くじゃんけんをしたいでござる。」
ワサビは既に手をブンブンして、じゃんけんの練習を一人でしている。見せる順番で揉めたので公平性を取ってこうなった。
「ワサビが待ちきれないようだから早く見せる順番を決めようか。」
ワサビの事を立ち台に出しているが実は自分も二人の庭が見たくてうずうずしている。
「賛成です。」
「御意っ!」
二人が手を出す。
「じゃあ、せーの。」
「「「じゃーんけーんぽん!」」」
合図に合わせ手を出す。結果はグーを出したワサビの勝ち。
「某の勝ち!一番槍の誉れを頂くでござる!」
相変わらずワサビは勝負ごとに敏感である。勝ったため尻尾を追いかける犬のようにはしゃいでいる。
「じゃあ、ミーコ勝負だね。」
「ええ、負けませんよ。」
火花が散るまなざしの後、一呼吸おいてから勝負する。
「「じゃーんけーんぽん!」」
「ンヌヌヌアアアアーーー!」
二回目のじゃんけんは自分が負けた。今回はグーを出したミーコの勝ちだ。じゃんけんをした右手を天に突き上げている。
「私の勝ちですから、二番目ですね。」
「おお、次はミーコ殿でござるか。よく分からない素材ばっかり使っていたから、どうなっているのかが楽しみですぞ。」
二人ともどんな箱庭かな。
「じゃあ、自分は最後か。二人の箱庭をじっくり見てから発表するよ。なんたって今回の箱庭は自信作だからね。」
「おお、これは楽しみでござる。」
「ええ、早くみたいですこと。」
ワサビは手を振りながら、ミーコは尻尾を振って応える。
「早く見たいが、前がつっかえているでござるか。ならば某の物を発表するでござるよ!御開帳!」
前振りもなく急にワサビが自分の箱庭にかかった布を取り払う。すると、水張桶の中に向かって落ちる火龍が表現されていた。
「どうでござるか。火龍を討伐した時に浮かんだでござるよ。」
「すごいなワサビは。落されたところを表現したのか。」
龍は尻尾から伸びる細い糸で水張桶の取っ手につるされており宙に浮いている。
「地面も、造り込みが凄いです。」
ミーコに言われて地面を見ると、踏み固められて固くなり凸凹とした地形となっている。
「そうでござろう。地面は、龍退治のときにカワキュウリの粘液がしみこんだ土を見て思いついたでござるよ。下に杉の樹皮を敷いて凹凸も完璧でござる。」
自慢げに話すワサビに更に聞く。
「龍も凄い造り込みだね。これは何で作ったの?」
「それを聞いてくれるとは。火龍の素材から作ったでござるよ。中身は粘土でござるが接着したでござる。ムラがあるのが残念でござるがな。それと、龍の喉元をご覧になっていただけぬか?」
ミーコと共に吊り下げられた火竜を見る。すると喉元に矢が刺さっている。
「細かいね。これは何なんだい?」
「逆鱗でござる。弓で撃ち落とすにはここしかないと思って刺してみたでござる。さあさあ、某の箱庭はもう見せたのでお二方の物を見せてくだされ。」
ワサビの箱庭はまた後でじっくり見せてもらうことにしよう。今度はミーコが自分の箱庭にかかる布を持つ。
「ワサビさんの物は凄い発想でしたね。まさか吊り下げるとは思ってなかったですよ。私の物も自信作ですからね。」
ミーコはワサビを誉めながら自分の箱庭の自慢を始める。
「そう言われると、期待が爆発するでござるなぁ。」
ニヤニヤしながらワサビがミーコに言う。ミーコの顔を覗き込むように言っているので煽っているのだろう。
「ふふふ、では私の箱庭もお披露目しましょう!」
煽っているワサビに向かって微笑み、自分の箱庭の上の布を払う。
「ん?」
最初にワサビがミーコの箱庭を見て言う。初見ではよく分からないようだ。自分もワサビに続いて箱庭を見る。
箱は、イオドが封印されていた箱で封印の札が沢山張ってある。内容は穴だ。黒く塗った石でできた入り口に囲まれている。中を見ると、キノコの光が見える。
「ミーコ、これは?穴だよね。」
黒くて幻想的な穴という事しか分からない。ワサビは何がすごいのか悩んでいる。
「はい、今から完成させます。」
「完成というと、これはまだ未完成なのですな。」
何か、手を加えるのだろうか。
「このお札を~入れます!」
ミーコを見ていると、懐から取り出したお札を入れてぶつぶつとつぶやく。札からは触手が湧き、激しく動き出す。穴の奥底で這いずりまわる触手を見ていると冷えた汗が出てくる。
「こ、これは?おぞましいものを見ている気分なんだけれども。」
「くわばらくわばら。」
ワサビはしきりに刀の柄をさすりながら言う。
「深淵です!どうです、よくできているでしょう。」
ワサビが偏執病になるくらいにはよくできていると思う。
「うん、表現したいものはよく伝わるよ。何か工夫はしたの?」
自分がミーコの庭を誉めると、喜んだ様子で答える。
「はい!この箱は中に入った触手系の生物を苦しめるらしいので触手を入れて躍らせました。どうでしょうか。」
ミーコ。考えることがえげつない。
「箱の特性をうまく使ったのか。触手が苦しむ話はイオドから?」
「ええ。箱を持ち出してきた時に言われました。自分にも何か影響があるといけないからって。まあ、結局、なぜか私には影響がなかったんですがね。」
イオドの力がそがれるのならそれほどまでに影響が強いのだろう。箱庭の制作者が言うのもなんだが、所々、設定していないところは辻褄が合うようになっていて面白い。これが世界の均衡化と考えてしまう。
「まあ、力の影響がなくてよかったと思うよ。結果論だけれども。」
「そうですね。所でワサビさんはずっと同じ言葉と行動を繰り返していますが大丈夫でしょうか。」
少々おかしくなってしまったワサビに声をかけると、ハッとした様子で応答が返ってくる。
「失礼。少々、心を失っていたでござる。ミーコドノノハコニワハコレイジョウナイデキデゴザルヨ。」
「ありがとうございます。ワサビさんの庭も十分いい出来だと思います。」
ワサビがカタコトでしゃべっているが、しばらくしたら直るだろう。
「それで、まだ庭を発表していないのは創さんだけですね。さあさあ、私達に庭を見せてください。」
ワサビも待ちきれない様子で残り一つとなった白い布の掛けられた物体の周りに集まる。ただ、まだ刀の上に手を当てているが。
「某も、創殿の庭が見たいでござるよ。」
二人とも待ちきれなさそうな様子なので布に手をかけ払う。
「ほぇ~。」「ほう。」
二人とも拍子抜けしたのか、反応が薄かった。どうしたのだろうか。結構自信作だと思っていたのだが。
「二人とも、もしかしてあまり面白くなかった?」
心配になってきたので、二人に対して質問をする。するとミーコが振り返って話す。
「いえ、まさか、私の家がミニチュア化されると思っていなかったので。よくできていますね。それに何か温かみを感じます。」
続いてワサビ。
「某から、小刀を借りていたのは、この工作のためであったか。見事見事。」
見せた時の反応があまりにも小さかったので受けがよくないのかと思ってしまったが、それは思い込みであったようだ。
「うん、ここは僕が居てもいい場所だと思ったから。それに、小細工は得意だったからね。」
「創さん。そんなことを言っていただいてありがとうございます。」
ミーコには沢山、大変な思いをさせたが見放さないでくれた。差しのべられた手を払うことなど、自分にはできない。
「こちらこそ。ミーコ。もし、よかったら…………」
ミーコは本心からの好意を送ってくれた。故に、素直に返す。
「ええ。居候ではなくなりましたね。」
恥ずかしくて風にかき消されるほど小さな声であったがミーコには伝わったようだ。
「私、初めて狐耳があってよかったと思いました。」
ミーコは仄かに赤らんだ顔でそう返す。
「永久就職おめでとう。」
後ろから声がかかる。イオドだ。いつの間にか近くに現れたようだ。ミーコは俊敏な動きでイオドを捕獲し、箱庭の穴に突っ込む。
「ちょ、それは本当に駄目な奴!あああぁぁぁぁ!」
イオドは触手を出して必死に出ようともがくが、ミーコが抑え込む。
「ミーコ殿。永久就職とはどういうことなのですか?」
永久就職の言葉で箱庭からこちらの会話に興味を移したワサビがミーコに聞く。
「後で話しますから!手伝ってください!」
「ぎょっ御意!」
勢いに押されたワサビはミーコと共にイオドを穴に突っ込んでいた。締まらないがこの日、僕は、、、、、




