ごーしょうっ!
神社に戻ると、温かい飯に風呂、布団までも用意されていた。わざわざイオドがヌメヌメウオを獲りに川まで行ったらしく、四人で舌鼓を打った。何でもカワキュウリを食べてからまた食べたくなったとのことだった。
次の日の朝からはとても忙しい。昨日も話したが龍狩りの後処理にかなりの時間が割かれるからだ。
「これで掘れるかなぁ。」
龍の洞穴まで着くと、ミーコが蔵から出してきたスコップを構える。年代物のようで、スコップの刃部分以外は木だ。結構重い。
「神社にあった掘る物はそれくらいでしたので、これで一度試してみてください。掘れなかったら、また考えます。」
「某の太刀を頼みますぞー!」
掘れなかったら二人から大バッシングが起きるだろうが試してみないと分からないのでアイテム化しろと祈りながらスコップを突き出す。目をつぶりながら掘ったのでどうなったか分からなかったが、二人の反応からうまくいったことが伝わる。
「おお~見事。」
「相変わらず凄いですね。」
目を開けると、結構な量の土砂が掘られ、目の前にアイテム化した土砂が落ちている。
「掘れたね。これなら、すぐに作業が終わるんじゃないか?」
「ええ。今日の昼にでも龍の肉が食べられそうですね。」
久しぶりにまた食いしん坊なミーコだ。
「某は逆鱗が欲しいでござるよ。」
太刀の事を忘れ、ワサビは早く龍が見たいようだ。
「じゃあ、頑張ろうかな。」
再度、洞穴が崩れてもいいようにミーコが触手の傘を作ってくれたので安心して作業ができる。ワサビは触手に対して耐性が着いてきたのか、興味ありげに触手を観察していた。途中に自分の折り畳みスコップがあったので持ち替える。土にまみれてじゃりじゃりする。
「壊れてなくてよかったよ。しっくりくるなぁ。」
「スコップが無事でよかったですね。さあ、どんどん掘りましょう。」
「創殿、某も創殿の魔法ができないか試してみてもよろしいでござるか?」
ワサビが自分にも掘れるのではないかと思ったのか掘ってみたいと言ってきたので折り畳みスコップを渡す。
「よいしょ。」
当たり前だが、ワサビが掘った一掘りは普通の一掘りだ。
「無理でござるな。某に何か手伝えないかと思ったのだが面目ない。」
ワサビがシュンとする。これは多分自分にしかできないので予想の範疇だったがここまで落ち込むとは思わなかった。
「剣術ができるじゃないですか。ワサビさん、洞窟の外に動物がいるので警備をお願いします。」
「某も役に立てるでござるか。それでは創殿、ミーコ殿洞窟を死守してくるでござるよ。」
ミーコの機転が利き、ワサビはすぐに元気になって洞窟の入り口に走っていく。
「ワサビは元気だな。」
「ええ。それよりも早く掘りましょう。お肉ですよ。お肉。昨日のヌメヌメウオもおいしかったですが、龍のお肉ももっとおいしそうですから。」
ミーコはお肉にご執心っと。
暫く掘ると今度はワサビの刀が出てくる。よく分からない粘液でべちゃべちゃだ。これはひどい。
「ねえミーコ。」
「なんですか。まだ龍は見つかっていないのですが。」
「この刀なんだけどさ。何か凄いぐちゃぐちゃでさ。ワサビに渡すのが忍びないよ。」
カワキュウリの粘液が周囲の土砂を絡めてそれはもう酷いことになっている。
「ワサビさーん!」
「おい。まて。」
呼ばれたワサビはすぐに走り寄ってくる。
「はい、何か御用でござるか。」
ミーコの方に用件を聞いている。
「創さんが刀を見つけたとおっしゃっていましたよ。」
全部丸投げをするつもりだろう。あと、いつもよりももっと敬語だ。
「かたじけのうございます。某が未熟ゆえに刀をなくしてしまって。」
くそう。恨まないでくれよ。粘液を用意するといったのは自分なので責任は自分にあると覚悟し、刀を渡す。
「ごめんね。凄く汚れてて。粘液を用意した自分が悪いよ。」
ワサビはプルプル震えている。怒ったのかな。
「傷はないでござるよね。」
そっと太刀を受け取り、懐から出した懐紙で拭う。
「ごめんよ。」
「すいません。触手でついでに運んでおけばよかったですね。気が回りませんでした。」
片膝をついて太刀を拭くワサビに対して、アセアセとした様子であたふたする。
「よかったでござる。無性にぬるぬるする以外は問題がないでござるよ。」
やっぱりヌメヌメするのか。そして、ワサビは鞘に刀を入れる。
「やはり二本あるとしっくりするでござるなぁ。」
「見つかってよかったわ。」
本心からそう思う。
「では、もう一度外で見回りをしてくるでござる。ミーコ殿、創殿を守っておいて下され。」
「言われずともそうしますよ。」
そう言ってワサビが駆けていく。
「さて、どんどん掘るか。」
龍はワサビの刀が出てきたあたりから、数回掘ったら出てきた。ただ、全部掘るのは大変なので、龍だけアイテム化する。
ゴゴゴゴゴゴゴ
龍の巨体がなくなったことで、支えられていた天井からパラパラと砂が落ちてくる。また生き埋めになりそうだ。ミーコの触手傘があっても、土砂の前には焼け石に水だろう。
「さあ逃げるよ!」
「はい!坑道ですね!」
なぜか、テンションの高いミーコの後に坑道に入る。
「ここのおかげで創さんは助かったんですよね。」
「うん。まさか、また避難通路になるとは思わなかったけど。」
上機嫌なミーコについていくと洞窟から出ることができた。
「おお、出てきた出てきた。」
穴の入り口にはワサビが居た。まるで来るのが分かっていたようだ。
「案外楽しかったですよ。」
「某も一度通ってみたかったでござる。」
トンネルを通りたいのなら、また地盤のしっかりしたところで作ってやろう。
「それで龍はどうでござるか?」
ワサビはトンネルが通りたいとごねることもなく龍を早く見たいようで急かす。なのでアイテム化した龍をワサビに渡す。
「これだよ。」
「おおー。ちっちゃいでござるな。どうやって元に戻すでござるか?」
「広い場所に向かって投げればいいよ。ただ、ワサビにできるかは分からないけど。」
スコップで沢山掘れなかったのでできるかは分からない。
「一回やってみてもよろしいでござるか?」
「いいよ。誰も巻き込まない位置にね。」
土砂に押しつぶされなかったが死んだ龍に押しつぶされましたとかは嫌だ。というか情けない。
「では、森の方に投げるでござる。よいしょっ!」
ワサビは洞窟から遠くの方に投げる。ミニチュア龍は地面に着いた瞬間、もともとの沖差に戻った。
「お、元に戻すのはできるのか。」
「すごいでござるね。創殿の魔法は。あんな大きなものを簡単に運べるとは。戦闘はできないですが、機転は効くし輸送させたら戦で活躍間違いなしでござる。」
「やはり創さんは最高なのです。」
ワサビとミーコが二人で僕の事をほめちぎる。
「い、いやあそれほどでもないよ。それより自分は二人の触手魔法とか、剣術の方が凄いと思うけどな。」
「私も二人の特技ができたらいいなって思います。」
「隣の芝は青いですな。」
まったくだ。
「協力してよかったねぇ。三人とも活躍できたじゃないか。」
「そういえば誰かが欠けていたら、こんなことはできませんでしたね。」
「うむ。三人なら敵なしであろう。」
それぞれの尖った個性が、自分の領分を発揮した結果だ。
「それでは、剥ぎ取りましょうぞ。」
ワサビは待ちきれないようで、既に刀を抜いている。先ほどの剣は自分から見ても、土がこびり付いてぬるぬるしているので一旦抜こうとしてからやめていたが。
「ワサビさん、首の軟骨お願いします。」
ミーコが食べる肉の指定をしているので自分もそれに習って食べたい肉の部位を言う。
「じゃあ、自分は腹の肉かな。カルビとか食べてみたいし。」
「分かったでござるよ。では某が欲しかった逆鱗から剥ぎ取るでござる。」
ワサビは龍の首をいとも簡単に切り裂き目的の品を回収する。
「それでは私は火を用意しますね。」
「じゃあ僕はミーコを手伝おうかな。」
やることがないのでミーコについていき枯れた木材を集める。
「こんな感じの木でいいかな。」
「そうですね。後は穂口が欲しいところです。」
暫くすると木材は集まったが点火をするための燃えやすい木が中々ない。近くを見回すと、丁度よく竹があったのでミーコを呼ぶ。
「ミーコ。竹は使わないのか?」
「ええ、燃えやすいのですが切り倒すのに時間はかかりますしね。」
まあ、普通に燃やすのならそこらへんで拾った乾いた木や葉の方が楽だし早い。
「じゃあ、竹の削り節を穂口にしようよ。削るから受け取ってくれないか?」
この箱庭の竹は設定で現実のものと似せているので削り節はよく燃えてくれるだろう。
「分かりました。」
スコップの刃で盾を削ると螺旋状に巻いた竹の繊維が大量に取れる。よく燃えそうだ。
「これでいいかな?」
「ええ。戻りましょう。」
穂口が取れたので、ミーコと共に戻ると肉を取り終えたワサビが、肉に枝を刺していた。
「お戻りでござるか。肉の準備は直ぐにできますぞ。」
「ありがとう。すぐにでも火の用意ができそうだから少し待っていてくれないか。」
「おお、楽しみでござる。」
ワサビはとってきた最後の肉のかけらに枝を突き刺してから、逆鱗だと思われる鱗を見ていた。
ミーコの点火は火打石だったので難しそうに思われたが、ミーコは難なく一回で点火を終わらせ火を燃え上がらせる。見事な手前だ。
「創さん、木を沢山持ってきてください。細いものから順にお願いします。」
ミーコが火を見ながら言ったので最初は小枝からだんだん太い木材を渡す。十数分後に火は肉が焼けるほど燃え上がった。
「ミーコは火の扱いが上手だなぁ。」
「毎日、家事をしていますからね。」
ミーコは顔を赤くして照れる。
「ミーコ殿、顔が真っ赤でござるよ。うらやましいですな。」
現代とは違い、箱庭の中には電気もガスもないので火を使っている。なので、火の扱いが上手いというのは家庭的と褒めているのだろうかと思っている間に、ワサビが肉を火であぶり始めた。
ミーコの方を再度見ると、照れてこちらを向いてくれてはいないが尻尾が揺れているので考えたことは大体あっていると思う。
「ワサビ、どのくらいで焼けると思う?」
話の間が開くのでワサビと会話して間をつなぐ。
「そうですなぁ。結構かかるでござる。生で食ってもいいというのなら直ぐでござるが。」
「そ、そうか。なら、待とうか。」
流石に生で野生の動物を食うには覚悟が足りない。
「そうでござるね。脂が出てきたらおいしい具合だったと記憶しております。」
「以前になにか、野外で食べたの?」
「ええ。野営をしている頃にウサギを。生で食べたり焦がしているうちに、だんだんと食える味に近づいてきたので、その具合でござるよ。」
ワサビに肉の具合を見てもらうのは間違いだったかもしれない。でも、食べれるのだったらいいか。
時間がまだかかりそうだということが分かったので、昨日話せなかったことを話すことにした。
「じゃあ、時間がありそうだから、お話しするよ。ミーコ、聞いてくれるかい?」
「ええ。じっくり聞きますからどうぞ。」
まだ、ミーコが照れているので話していいか聞くと、こちらを見ずに返事が返ってくる。ワサビはこちらの話を聞くつもりだろう。時々、目が肉に行くが。
自分が分かる話は全部伝えた。流石にイオドとメーラに悪いので原因については伏せておいたが。自分がこの世界の者でないことを伝えても二人は動じることもなく。ただ、箱庭に入り込んだ話をするとワサビは“分からん”、ミーコは“納得”といった顔をしていた。
「というわけで自分はここに居る訳だ。何か質問は?」
「箱庭の中になぜ入ったのでござるか?」
理由は謎といったが知りたいようでワサビが聞いてくる。最初はイオドとメーラに悪いと言ったが、首をかしげて考え込んでいるワサビを見て気が変わった。
「理由は自分の口から言えないんだ。確証が得られているわけでもないからね。ただ、それらしい理由が知りたいのだったらイオドに聞いてごらん。」
「あの触手が知っているのですか。苦手ではないのですが、ちょっと気が引けますな。初対面で斬ってしまって申し訳ないのでござる。」
「神社で二人きりになってまで話していたのはそう言う事だったのですね。」
ワサビはイオドとどうやって話せばいいのか分からないようだ。また、ミーコは自分とイオドの言動や行動からなんとなく察してはいたものの自分からは聞けなかったみたいだ。
「ミーコは察しがいいな。ならミーコ。ワサビと一緒にイオドに原因を聞いたらどうだ?」
「ミーコ殿、お願いでござる。某と共に話を聞いてくださりませんか?」
ワサビからも懇願に近いお願いが伝わる。
「仕方ないですね。創さんがいいと言ってくれているので、そのうち聞きましょう。所でワサビさん、肉はまだですか?」
自分が深刻に考えていた話があっさりと終わり、驚くと同時に受け入れてくれた快感が全身をめぐる。
「ああっ!忘れていたでござるよ。ふむふむ。肉汁が滴っているので、もう食べられるでござるな。ミーコ殿は軟骨をお渡ししますぞ。創殿はあばらのあたりの肉でござる。」
三人ともそれぞれの肉が用意されたところで食事を始める。
「では、いただきます。」
「「いただきます。」」
ミーコの挨拶に連なって挨拶をする。
「肉汁が滴っておいしそうだな。」
自分が肉を観察しているうちに二人はもうかぶりついていた。
「固い!」
「旨い!」
ゴリッという音が聞こえた。何の音だろうかと、視線を這わせるとミーコが口を痛そうに隠している。
「あれ、軟骨でよかったでござるよね。肉厚に取ってきたでござるが。」
「これは骨だと思いますが。」
食べるまで気づかなかったミーコもどうかと思うが、骨を軟骨として持ってきたワサビにも言いたいことがあるらしいので聞く。
「鱗の生えた、地上の蛇のような生き物は骨ごと食べられるので龍も食べられると思っておりました。」
流石に龍の骨は大きすぎると思う。ミーコが食べるものがなくなったので自分の物を食べないか提案する。
「ミーコ、よかったら自分の肉を分けようか?」
「いえ、某がすぐに「はい!」」
ワサビが直ぐに肉を用意するといったが、ミーコはそれを聞き終えることなく肉を分けてもらう。
「申し訳ないことをした。追加の肉を焼いて置くでござる。」
ミーコには自分の肉を半分くらい斬って渡す。
「足りないかもしれないけど、お代わりしてね。」
「こんなに貰えました。お代わりもたくさん食べます。軟骨は食べないですが。では、改めていただきます。」
ミーコが食べ始めたので自分も食べ始める。食の事になると急にテンションの上がるミーコを見る。
「流石、創さんの選んだ部位は美味しいですね。」
ミーコの事ばかり見ていて、味の事は気にしていなかった。
「そんな風に言ってくれて嬉しいよ。」
龍の味は、淡泊だが脂がのっていてさわやかな矛盾したものが合わさった味だ。中々においしい。
「とってきたでござる。枝を刺して立て掛けておくので好きに取って下され。」
ワサビも食えないほど多く肉を焼き始めた。
「所でなんですけど。私、炊事場から塩と胡椒を拝借してきたんです。かけませんか?」
ミーコが枝を肉に刺しているワサビに言う。
「用意がいいですな。では、枝に刺したものからかけてくだされ。」
二人によって調理された肉は直ぐに食べることになる。ミーコに半分渡したのと、食べ易いであるがためだ。
「うま、うま。」
ワサビはもう肉に夢中だ。訓練ということはないのでどんどん食べさせていく。
「ほらワサビ。次の肉だよ。」
「かたじけないでござる。」
まるで、犬の餌を追加で与えているようだ。喜んで食べている。
「創さん、私にも下さい。」
ミーコも肉を食べる速度が速く、どんどん追加で肉を渡していく。二人ともどこに食べたものが消えていくのだろうか。
「はい、7本目ね。」
三本目から肉を直接、触手で受け取り食べている。便利だ。
自分は肉を渡す隙間の時間に食べ進めていく。胡椒と塩がかかると、香りと、淡泊な味わいへのアクセントが付き飽きないので二人がどんどん食べる理由がわかる。
暫くののち、二人とも肉を食べ終わる。用意していた肉がなくなったからだ。自分は三本目で限界に達したので、先に食べ終わっていたが。
「「「ごちそうさまでした。」」」
挨拶は三人そろってからだ。
「後片付けも終わってしまいましたね。」
「龍を掘り出し、肉を食う。刀も戻ってきたでござるからな。明日、街に行けば英雄の出来上がり、と。」
「もっと時間がかかると思っていたんだけどねぇ。」
仕事が午前だけで終わってしまい、手持ち無沙汰だ。
「ワサビさん。そういえば某剣術ってどういった剣術なのですか?」
暇になったので、ミーコはワサビに剣術について聞いている。
「某剣術とは何でしょうか。」
某剣術で伝わらない。補足説明を入れる。
「ワサビって、掛け声に某を入れるから某剣術って言っているんだと思う。結構、キまってるよ。」
「そう言う事でしたか。掛け声は別として、この剣術は水を参考に創ったものなのですよ。龍の尻尾を切った時に参考にしたのは蓮の葉の上の水滴ですぞ。蓮の葉の上の水滴は潰せないので、真似をしてみたでござる。それと、自己流の剣術なのですが名前が気に入ったので、これから名乗りに使ってもいいでござるか?」
ワサビは喜んだ様子で言う。
「名前ならどうぞお好きにしてください。」
「おおっ!」
ワサビは感極まった様子で喜んでいる。なのがそんなに嬉しいのだろう。
「ワサビ、落ち着いて落ち着いて、どうどう。」
「すいませぬ。某の流派は、人に流派を聞かれるか名付けられたことによって免許皆伝となるのですよ。そして特に独自の流派を作った場合、それが新しい流派として派生したことになるのでござる。」
つまりワサビは一流派の開祖と。それは喜ばないわけがない。
「それでは、明日の夜は赤飯に決まりですね。」
「かたじけのうございます。」
話が飛躍してよく分からなくなってきたが、ワサビは凄い人になったという事か。
「よく分からなくなったから、神社に帰って箱庭でもやろうよ。最近弄って無かったし、片手間にでも話そうか。」
「それはいいですね。久しぶりにやりたくなってきました。」
「某はやっと作りたいものが決まったでござるよ。」
二人とも同意してくれたので、神社に戻って箱庭いじりをすることになった。龍狩りの凱旋は明日になりそうだが、そんな事よりもまた日常が始まったことへの喜びが勝っていた。
昨日の午後は、箱庭そっちのけで会話にいそしんだ。夜中も二人が部屋まで押しかけてきたので寝不足だ。自分は二人の会話を聞いているうちに寝落ちしてしまったが、二人はその後も夜を明かすほど話していたようで起きたころにも話をしていた。
「二人とも朝だけど大丈夫か?」
「ええ。私は半分触手ですから。」
「某は夜半歩き通しだったこともあるのでこの程度なら。」
自分とは壁があるほどの二人の体力の多さに羨ましさすら感じる。自分は講義で寝ないように早寝を心掛けていたから一日寝ないだけでもかなりきつい。
寝不足で痛む眼をこする。二人は今起きたかのようにより固まった体を伸ばす。
「朝ごはんを食べたら、街まで行きましょう。入れてくれなかったら龍を見せれば入れるでしょうし。」
そういえば、毎日森を歩き回っていたからか、かなり体が強くなってきた。
「存じ上げました。」
「忘れ物をしないようにね。」
二人は、朝食まで準備があると言って部屋から出て行った。自分は火熊狩りのお金を全てお賽銭箱に入れたので文無しである上に、背嚢も渋皮爆弾と共に吹き飛んだ。持ち物と言えば、シャベルとマントくらいなので準備は既に終わっている。
朝食後、三人で本殿の前に集まるので本殿前に行こうとすると玄関でイオドに呼び止められる。
「おお、創様。三人でお出かけだそうで。」
「うん。街で闇討ちに合わないか心配だけど、二人が居れば安心だよ。多分、リコスの街なんか数刻も待たずに落ちるんじゃないかな。」
「それは恐ろしいですね。我が娘ながら。所で昨日、二人で話が聞きたいと押し入られたので話しましたが、問題ないので?」
それ以外の話は大体したので、イオドの話程度なら驚くこともないだろう。
「ああ。封印を解いたのは原因かもしれないだけだからな。自分から言ってもよかったけど、メーラが関わるならイオドから話した方がいいかなって。」
「忖度していただきありがとうございます。二人が待っているようなので行ってください。では、私は仕事があるので。」
玄関の外を見ると、マントをかぶって顔しか見えないミーコが中を覗き見ていた。
「おとうさんと何を話していたのですか?」
「昨日、二人に押し入られて話したことを本当に話してよかったのかの確認かな。」
「そうなんですか。ワサビが怒って今度は四つに分割されていたので私からは何もしていませんが。」
また切られたのか。イオドは。
「ああ、それで自分が来なかったから見に来てくれたんだよね。行くよ。」
「自分たちはもう用意が済んでいるのでいつでもどうぞ。」
ミーコについていくと、本殿前でワサビと会う。ワサビの格好はいつもと同じような着物だ。
「待った?」
「いえ、全く待っていませんぞ。」
きょろきょろ見回していたので待っていたのであろう。
「見に行ったらワサビさんがお父さんを四等分にした話をお父さんから聞いていましたよ。」
「え、では切ったことを創殿に聞かれたのですね。」
ワサビは困った様子でこちらを見るので安心させるために言う。
「まあ、斬られて当然のことをしているし、斬っても生きていることが分かっているから斬ったんだろ。別にいんじゃないかな。」
「そうですよ。私もたまにはああされればいいと思っていましたし。」
ミーコもワサビを擁護する。
「まあ、こうやっていわれているくらいだし、忘れて街に行こうか。」
話を流せばそのうちワサビも元気になっているだろうと思う。
「ではワサビさん行きましょう。」
「御意。」
シュンとしたワサビを連れて階段を下りていく。
前に一緒に降りたのは箱庭の素材を吟味しながら降りた時だと思う。夜降りた時と違って、物寂しい様子がない。
「いい運動になるなぁ。」
「創殿は最初ひいこら言って登っておりましたからねぇ。」
「家にこもりっきりで全く運動していなかったらそうなるよ。」
この箱庭の中に来て既にどれ程の時間が経っただろうか。少なくともこの箱庭の中に自分の居場所が見つかり間違いなく満たされた気持ちだ。
「あ、キノコ。」
ミーコは話そっちのけでキノコを見つけ、駆け寄っていく。
「今はとらないでおこう。帰りに好きなだけ取ってもいいからさ。」
「ミーコ殿、カワキュウリの干物はどうですか。」
ワサビが干物を取り出す。ミーコはそれに駆け寄る。
「ああ、創殿もどうぞ。」
自分ももらえるようなので遠慮なく貰う。
「甘いのかな?でも、ほんのり苦い味です。」
ミーコは味が不思議だったようで首をかしげている。
「この間のカワキュウリをいじっていたら内臓を出していたのでそれを干したものでござるが。」
「不思議な味だよね。ご飯と食べたいくらいに。」
駄目ではないが、うん。内臓を取るために虐めたと思っておこう。
「私は、苦手です。街に行っておいしいご飯を早く食べたいです。」
階段も、どんどん降りていく。するとすぐに森の境目の道だ。イオドのかけらがいる。
「おお、お三方でお出かけか。お気をつけて。」
正直、違和感しかないが挨拶をしておく。
「イオドだよね。神社から走ってきたようにしか思えないけど、分身体でいいのかな?」
「はい。イオド二号とでもお呼びください。」
「お父さん、345号も増えたからね。」
「また増えたんですか。全く本体は何をしているんですかね。」
イオドは分身体にすら呆れられていた。
「こちらが増やした当の本人ですよ。」
思うが、ミーコは結構いい性格をしている。
「ミーコ殿、ここで某を二号殿に紹介するのでござるか?」
当のワサビも引いている。
「一応、悪いのはお父さんですからね。大切なことを隠しておいて。」
「そ、そうか。二人とも、こんな娘だがよろしく頼むよ。」
頼まれなくとも、そうするつもりだ。それに、ミーコはずっと気にかけてくれているのが分かるし、離れたくない。
「そのつもりでござる。」
「勿論。もう、裏切る理由もないしね。」
逃走劇の後に、捕まって甘やかされるなんてひどすぎる。原因となった龍もミーコのカバンの中にあるし。
「それならいいのですが。また見つけたら娘に密告ですからね。」
「お父さん。もう創さんは逃げないはずだから!ね、創さん。」
これは胸を張って言おう。
「はい!」
「ほら、大丈夫でしょう。」
「娘が心配になってきたなぁ。」
イオドが言う。自分もそう思う。
「もう、創さん、ワサビさん行きますよ!」
ミーコがイオドにプイッとそっぽを向いて歩きだしたので着いていく。後ろを見るとイオドが触手を振っていた。
「もうお父さんったら、私のことを何だと思っているのでしょうか。」
娘だと思う。
「某にも分からないでござる。」
「心配されているんじゃないかな。」
親心、なのかな。
街までミーコは口をきいてくれなかった。中々に扱いが難しい。
街の門では案の定というか、とめられた。
「本当にすいませんが、城壁の中に入れることができないのです。」
今回は自分だけでなく、ワサビまで入ることができなくなっていた。
「それは何故でござるか?」
「ええっと、領主から言われていまして。立場的にどうしても無理なのですよ。」
領主と言えばエンドの父くらいしか思いつかない。まさか本当に領主の息子だったとは。ミーコが口を開く。
「では門を破壊して入ればいいのですよね。」
結構物騒なことを言っているが自分たち三人は一人でできると思う。だが、それでは平和的でない。
「ミーコ、流石にそれは物騒だよ。龍を見せておいた方がいいと思うんだけれども。」
「創さんがそう言うならそうします。ワサビさんも刀の柄から手を放していいですよ。」
ワサビの方を見るとワサビは刀の持ち手からちょうど手を離したところだった。
「そうでござるな。もし、それでもダメと言われたなら斬りますぞ。」
「いいですよ。」
自分の知らないところで門の処遇が話される。
「門番さん。この門が締まっている理由は何ですか?」
「それは最近、龍が飛んでいるだろ。それだ。後、二人に関してはさっきも言ったとおりだから理由は分からん。」
「では、龍の討伐した証を出します。それを通行証代わりに見てください。」
「まあ、本当に龍だったらな。トカゲじゃないんだぞ。」
衛兵の目に自分は嘘をつくような奴に見えているのだろう。驚かせるのが楽しみだ。
後ろを向くとミーコが龍のミニチュアを両手で持っていた。
「ミーコ、やれ。」
「分かりました。」
ミーコに目配せをすると、龍のミニチュアを門に向かって投げつける。門にぶつかった瞬間、龍は本来の大きさに戻り外壁から門だけ剥ぎ取る。衛兵は固まっている。
「衛兵さん。通行証代わりを見せましたから行きますね。」
固まっている衛兵の隣を三人で通っていく。後はギルドに行ってお金を貰うだけだ。しっかりと龍をミニチュア化してからギルドに向かった。
門の中では注目されたが、あまり近寄ってこなかった。まあ、門を破壊した危険な人であるから仕方ないのかもしれないが。ギルドまでは特に問題なく行くことができた。ただ、周囲に衛兵がいるのが気になったが。
「あらミーコ。久しぶりじゃない。今日は何をしに来たの?」
ギルドに入ると先日、火熊の受付をした受付嬢がいる。
「こんにちは。今日は龍を売りに来ました。」
「ごめんなさいね、ミーコ。私、耳がおかしくなったからもう一回言ってくれない?」
まあ、信じられないだろうな。
「ギルド長呼んで。」
「そうね。私の頭がおかしくならないうちに呼んでおくわ。」
今日はスムーズに事が運ぶ。マッスルな体系のおっさんと受付嬢がギルドの裏倉庫に来た。
「創さん創さん、私がさっき言われた言葉を創さんでやりたい。」
なんか言ったっけ。と思い出すと門の前のやり取りを思い出す。
「いいよ。龍を先に貸してくれるかい。」
用意が終わるとワサビはちょっとだけ格好つける。休めの格好で右手を前に出す。
「創さん、やって!」
合図とともに龍を投げると格好がついた。ギルドの裏倉庫は訓練場とつながっていたので壁を貫通してそちらまで流れ込んだが。
「某、某もやりたいでござる。」
ワサビもやりたがっているが、流石にこれ以上物を壊すのは控えたいので諦めるように言う。
「ごめんね、これ以上物を破壊したら流石にいけないと思うんだ。文無しだし。」
「あれ、創殿は火熊を倒したときの報奨金があるのでは。」
「ワサビさん。財布袋ごと賽銭箱に入っていたのですよ。創さん、あれは全財産ですよね。」
まあ、もう街に行くことがないと思ったので全財産を突っ込んだ訳だが。
「うん。まあ、今はやりすぎたと思ってる。」
ミーコはワサビにしか聞こえない声で話をする。
「そうなのですか!某、創殿のおかげでミーコ殿の家においていただいていたのですか!」
「施しじゃないからね。返さなくていいよ。」
慌てて、財布を出してくるワサビを止めて言うと、ワサビが泣く。
「ふええぇん。」
自分はどうしたらいいか分からない。
「創さん。貴方は優しすぎますよ。」
「いや、いらないものを渡しただけなんだが。」
ミーコは何故か分からないが肩をすくめた。何故だろう。
「分かりませんか。」
「あのー。」
「うん、なんか悪いことをしたのなら謝るよ。」
「あのぉ。」
「いい事ばかりしているのに自覚がなくて困っています。」
「ミーコ!」
「ひゃい!」
先ほどから、受付嬢に声をかけられていたが無視していたため、会話が止められる。
「これは何なの!」
「山で狩った龍です。」
「訳が分からないわ!」
受付嬢もミーコの肩を揺らして質問攻めを始めていた。
「創といったかの。」
ミーコを揺らす受付嬢を見ていると後ろから声がかかる。
「ええ、そうですよ。ギルド長さん。」
「おう、この短期間にとんでもない獲物を持ってきてくれたな。」
「買い取ってもらえます?」
ギルド長はガハハと笑いながら答える。
「勿論。払いきれなかったら、領主からふんだくるわい。」
「必要以上にふんだくってやってください。迷惑をかけられたので。」
龍を狩れない衛兵隊が居ても意味なんてないのだから、龍を倒した自分たちに還元してほしい。
「そうじゃな。お金の方は清算してからでいいかの。今すぐにと言われると無理があるわい。」
「いいですよ。後でミーコに交渉させますけど、今お金をいくらかもらえませんか。文無しなので。」
「あれだけの金を何に使ったというんじゃい。」
「必要なくなったから神様に捧げた。」
ギルド長は納得した様子になる。
「やはり、願掛けは重要だからの。神頼みでも何でもして三人で生きて帰れてよかったと思うぞ。」
そんな意図なんかないのだが、ギルド長は勝手に考えた意見を言う。
「金の方はいくらか出す。それは今すぐ売れる部位の物じゃ。あと、領主からお金をふんだくるから交渉なくとも最高の報酬を出すぞい。旨い飯でも食ってくるといい。」
「あ、創さん。肉は全部解体した後に持って帰れるように伝えておいてください。」
ミーコが受付嬢と話し終わったのか、寄ってくる。
「だそうです。」
「分かったわい。正直、竜骨と鱗だけで領主の懐を殻にできるからの。」
いろいろと話した後、ギルドの受付に戻る。
「ワサビ、さっきは放置してごめんな。」
「いえ、胸が耐え切れずに泣いてしまったのでござるよ。本当にかたじけない。これからも某をよろしく頼むでござる。」
「はいはい。」
土下座で頼まれると周囲の目線が気になる。小さな女の子を土下座させてるとか聞こえてるし。無理に起こしてからミーコと会話する。
「お昼はどうする?あと、買い物していくかい?」
「たくさんお金があるので行きたかった店に行きます。それと、久しぶりなので消耗品とか食料を買って帰ります。階段の下にお父さんがいるので、いくら買っても階段まで運ぶだけで済みますしね。」
イオドは荷物運びとして使われるようだ。なんというか、扱いが雑だ。溜息をついて三人で座っているテーブル席から立ち上がろうとすると、ギルドの入り口が大きな音を立てて開く。
「つくるドコだぁ!」
ドアは吹き飛ばされる。嫌だな。怖いな。そしてエンドを含めた6人組が入ってくる。
「じゃあ、行くか。」
「ええ、そうですね。」
「それが一番平和でござる。」
気づかれないうちに出て行こうとする。
「お前、神社で見た剣士だな。他の二人は、こいつらか。」
ワサビが男に目をつけられた。
「何のことかさっぱりでござるよ。見間違いではないでござるか?」
「あの恨めしい創とかいうやつをぶっ殺すために俺たちはここに居るんだ。それと、ミーコと結ばれにな。っと、そのマントを着た二人組だな。」
話を聞かないのは変わらないな。エンドが剣を抜くと他の五人も各々の武器を抜く。出口も抑えられ仕方がない。
「ワサビ、前衛を頼む。合図で僕からの投擲を避けてくれ。ミーコは何かできるかい?」
「ほらミーコじゃねぇか!」
あ、やらかした。
「筋力ドープ!幻惑!軟体化!」
ミーコが急に叫んだが、多分強化する魔法だろう。
「ミーコ以外殺せ!領主の息子が命じる!」
エンドが叫んだ途端、他の六人が動き出した。
「ミーコ、アイテム化した机をアイツらの足元に投げてくれ。」
自分が追ってくる男から逃げながら机やいすをアイテム化し始めると同時に、ワサビはエンドののどに向かって鞘入りの剣で突きを放つ。殺意が高い。
ガン!
刀が横入りしてきたブロードソードにより目的の場所に行かなかったが、エンドの首の皮をズルっと剥いでいく。
「この間はよくも鳩尾に入れてくれたな!」
この男はワサビに何かされたのだろうか。それはともかくエンドをワサビから三人がかりで抑えるあたりワサビの実力がうかがえる。
「いでぇ!」
エンドはワサビそっちのけで首を抑えて外に出て行った。弱くない?
「ミーコ!まず、追ってくる奴になげて!」
アイテム化した机と椅子はおっとくる二人に一気に投げられる。地面に当たった3、4個の机とそれについていた椅子は一気に大きくなり二人は一発で気絶した。全く、後衛を狙うなんていけない奴らだ。二人が気絶したのを確認しワサビの方を再度見る。
「創殿、援護はいりませぬ。某の剣術の門出を見てくだされ。」
ワサビはこちらを見ていないが、こちらが片付いたことを把握し見るように言ってくる。
「創さん、ワサビさんを見ましょう。」
「そうだな。しっかりこっちは身を守っておこうか。」
ミーコは見るつもりのようだ。自分も同じ意見なので、ワサビから敵が漏れないか警戒しつつもワサビを見ることにした。
「おぬしらも運が悪い。龍斬りの餌食になるのだからな。」
半身になったワサビは体勢を段々と低くし急に飛び出す。
「どりゃああああ!」
一人目はブロードソードを持った男だ。ブロードソードで全力の一撃を放つも、ワサビの上に右手で構えた長めの太刀で少し逸らされる。半身になっていないワサビでは当たったであろうが、小柄で半身まで取ったワサビにその攻撃は当たらない。ブロードソードを振った勢いと左の太刀の突きにより、男に鞘ごと刀が刺さる。肝臓の位置に刺さっているので生死が不安だ。
刀が本身になるのを避けたのかワサビは次の男は長い太刀で相手する。
「そい!」
次の男は上半身ほどの大きさの盾に片手剣だ。体を盾で隠しているのでどうするのかと思ったら一瞬だけ盾を開き剣で攻撃していた。片手剣はいとも簡単にワサビに防がれているがワサビからも手が出せないと思っていた。が、ワサビはここで超低姿勢での駆け込みで盾を潜り抜け気づいた時には次の男も倒れていた。
最後の男は両手に小手を付けていた。拳で戦うのだろう。盾の男から、小手男へワサビは対峙しなおす。刀を構える。
「なにがしぃ!」
初撃はワサビが放つ。
「これはいい剣!」
袈裟懸けに叩きつけられる刀をいとも簡単に小手ではじく。前の二人と違って速度が速い。
次に仕掛けたのは小手男だ。ボクシングの構えでワサビを正面にとらえ連撃が入る。全てを受けきれずワサビは刀を落とした。男はワサビの1,5倍ほどの身長があり、明らかにワサビが不利である。
「おっ!ほっ!そいっ!」
タイミングよくリズミカルに放たれる拳は直ぐにワサビを壁際まで追い詰める。ワサビも急所にはいる攻撃は対応できているようでまだまだ戦えそうだ。
「オリャア!」
壁を背にしたワサビに大振りの一発が放たれる。当たったら悶絶しそうだ。ワサビは急に半身になり男の拳を腹ではじく。
「キュッ!」
まともに攻撃は入らなかったようだが、それでも対格差が厳しい。ワサビは声にならない息を吐く。が、右腕で小手男の右腕を絡め、体をそのまま小手男に絡める。男は剥ごうと左腕を寄せたがそれよりも早くワサビが男の肘を逆に曲げた。
「あぎゃぁぁぁぁぁ!」
変な方向に曲がった腕は違和感しかないが、それを見るだけでも痛みが伝わってくる。
「創殿、終わったでござるよ。」
「後はエンドだな。外を見に行こうか。」
エンドの取り巻きは既に全員、継続戦闘が不能だ。ワサビを先頭にギルドから出るとエンドが首を抑えて道端にうずくまっていた。五人が時間を稼いだのだから必死に逃げればよかったのにと思うが、こちらとしては逃げ切られなくて万々歳だ。
「エンドは私がケリを付けます。」
ワサビがギルドの中で回収した長い方の太刀を振り上げながらエンドに近寄ると、ワサビが止める。
「ミーコ、大丈夫かい?」
今まで、迷惑ばかりかけられてきたのは街でのエンドの動きや神社焼き討ち未遂事件を見ればよく分かる。これが氷山の一角かもしれないが。
「ええ、大丈夫です。ワサビさんも手を出さないでくださいね。」
「御意に。」
ワサビは、ミーコが本心からそう言っているのか分かったのか、残心を解き僕の方へ歩いてきた。エンドはワサビが背を向けて去ったのにも関わらず反応がない。
ミーコはエンドに近寄る。うずくまるエンドに恐る恐る背中を叩くと、一回叩いただけで、立ち上がり振り向く。
「きゃぁ!」
「やっぱりミーコ。俺の事が好きなんだな。証拠に他の二人を止めてくれてる。」
ミーコは悲鳴を上げた時、後ろに尻もちをついてしまっている。それに対して肩を掴み、確認するように聞いていた。これはまずいとワサビの方を見ると、何もしていない。ただただ見届けるつもりのようだ。自分が何とかしなければ。どうしようどうしよう。
「いえ、嫌いです。この際だからはっきりいますが、私の目の中に二度と入れたくない気分です。」
ミーコはエンドに掴まれた両肩を払う。正直に嫌いだと伝えられたエンドは放心していたのか簡単に手を放す。
「嘘だ嘘だ嘘だ!そうか、この男が誑かしたんだな。絶対に許さない!ぶっ殺す!」
脳内の回路がどうつながったんだろうか。ミーコを突き飛ばし、走って寄ってくる。その顔は先ほどうずくまっていた時の死んでいた顔ではなく、目が血走った修羅の形相だ。
「うわっ!」
自分はエンドに狂気を感じ、逃げようとしたが、後ろに進もうとした時、方向転換もしようとしたのか、足がもつれて後ろに転ぶ。好機だと思ったのかエンドは剣を大きく振り上げて跳ぶ。
だが悲しいかな、視界のから既に自分とエンドを結ぶ線の上にワサビが移動している。
「南無三。」
「ギュッ!」
跳んでいるうちに懐に入られたエンドは空中にて、強い衝撃を受けたのか剣を手放し、走ってきた方向に飛ばされる。悲鳴がとても強く短かったので鳩尾に決まったのだろう。
「創殿は関係ないでござろう。」
ワサビがすごくイケてる。ホレてまいそう。
「創さん!大丈夫ですか?」
ミーコは突き飛ばされた自分の心配もせずに、僕の所に来た。
「うん、自分でもつれて転んだだけだよ。怪我もしてないから心配しないで。」
ミーコを安心させるために言う。ミーコはそれで納得いったのか、エンドの方を見て、マントのフードを取る。そして、街の人に見られてはまずいであろう触手を出して言う。
「私は私です。それに、創さんが好きです。素の自分を認めてくれない人はどうでもいいです。今後、一切近寄らないでください。」
エンドは息も絶え絶えだったが、ミーコの言葉を聞いてから気絶したので聞こえていただろう。多分。というか、ある程度、察してはいたがミーコは自分の事を好いてくれていたのか。確信が持てずに、中々言い出すことができなかったが、ミーコの本心が聞けて嬉しい。エンドは悪い奴だったがこれだけは褒めておこう。
「行きましょう。お腹がすきました。」
もう、触手も耳も尻尾も隠す気がないのか、ヴィブールの中から出ている。
「某も変なのに絡まれて疲れたでござるよ。甘味を所望するでござる。」
丁度、金貨が手元にある。是非行くべきだ。
「そうだな、適当なものを食べに行こうか。」
三人でギルドから去るとすっかり気が抜けてしまう。そこに後ろから声がかかる。
「おい!こいつらはどうする?」
ギルド長の声だ。苦労をさせてしまうが、これもよい交渉材料だろうと思う。
「煮るなり焼くなり切り刻むなり好きにしてください。」
ギルド長の問いかけにはミーコが応える。街で自分の正体が明るみに出てしまったことでふっきれたのか、明るい声だった。
もちろんの事、エンドは交渉材料に使われましたとさ。ギルド長のその後の話を聞くに、領主との交渉は非常にうまくいったと満面の笑みで言われた。ミーコを見ると“あっそ”みたいな顔で聞いていた。まあ、散々大変な目にあわされたので、その後勘当されたと聞いてほくそえんでしまったが。




