よんしょう
龍狩りを決めた次の日からは毎日、山の中を歩き回ることにする。巣の位置、様々な植物の回収、地形の把握とやることは沢山ある。三人とも山を歩く装備だけはあったので、街に行かずとも山歩きができたのは幸運だった。
エンドたち六人組は身ぐるみ剥いで門の前に捨ててきたとイオドが言っていたので当分何もしてこないだろう。剣や鎧は使わないので蔵に入れておいたがそのうち売るなり捨てるなりすると言っていた。
「あの火熊は龍に追いやられて森の浅いところに来ていたんでしょう。」
「本当にいい迷惑だよ。でも、生き残れてよかった。ミーコありがとうな。」
神社から家出をしてから更にミーコと仲良くなった気がする。
「ええ、こちらこそ。」
「む。」
ワサビは自分とミーコが二人で火熊を討伐したのが気に入らないのか少しだけ、不愛想になる。
「これから熊殺しじゃなくて、三人で龍殺しだよ。熊じゃなくて龍だから。熊なんて霞んじゃうよ。」
「それならいいでござる。」
ワサビは少しだけ満足したようだ。
龍の巣の予想する場所は数か所あるが自分たちは、その中でも一番ありそうな場所に行く。箱庭で最も高い山の山頂近くの穴蔵だ。穴蔵と言っても龍の二倍ほどの大きさだが。そして一本の太い鍾乳石のような岩が天井を支えている。そこに着くと、ワサビが疑問を投げかける。
「創殿。龍が居ないのにどうしてここに来たのでござるか。」
「それはな、ワサビとミーコは多分大丈夫だと思うけど自分は間違いなく死ぬからだ。罠って言っても準備をしないと何もできないだろ。」
「創さん、龍の痕跡がありますよ。」
龍の痕跡は洞穴前の身体を引きずったような跡だ。巨体と鱗により草と地面が削り取られている。今回は洞穴には入らないが、この洞穴に住んでいるということが分かればよいのですぐに去る。
「ミーコありがとう。じゃあ、帰ろうか。」
「ええ、龍が戻ってきたらぶった切って終了では駄目でござるか。」
「それでもいいけど、ミーコの尻尾の毛を見てごらん。」
ミーコの狐尻尾は、毛が立って普段よりも太くなっている。見られたミーコは無意識だったようで、すぐに自分の尻尾を隠す。
「存じ上げました。準備は大切でござるな。」
本当はワサビがもっとごねると思っていたのだが、簡単に納得してくれたようで驚く。
「その顔、某が特攻するとでも思いでござるか。某は綺麗ではなく泥臭いということを二人から学んだでござる。汚くとも死は免れますからな。」
「生に意地汚いのはいいことだと思います。」
ミーコも泥臭いことに賛成している。
「ありがとう、じゃあ、退散!」
帰りは弾け栗の収穫だ。
自分は長い枝を持って栗をツンツンしながら爆発しないか地雷処理をする気持ちで集める。ワサビは自爆特攻している。だが一番採る速度が速い。ミーコは触手に収穫させて自分は後方で安全な場所にいる。
「某の剣の腕なら無傷ぅぅぅぅ!」
飛んでくる針を剣で散らす。一応、半身の姿勢で被弾面積を減らしているあたりが微笑ましい。というか、針が飛んできて痛い。
「ワサビ~。」
ワサビを呼ぶと一旦、栗の回収をやめて近くに寄ってくる。
「何でござるか。」
「針が飛んできて痛い。」
「それは申し訳ぬ。少し遠いところで作業します故お許しを。あと、集めた栗はどうすれば。」
獲物を自慢する猫のように爆発していない栗を懐から出してくる。
「じゃあ、自分の背嚢の中に入れておいてくれるかな。」
「入れたらまた集めるでござるよ。」
そう言ってワサビは今度は遠いところで栗を爆破選別していた。ミーコは触手に栗を載せて持ってくる。触手には沢山のいがが刺さっており見るからに痛々しい。
「これを集めるんですよね。」
「それ触手痛くない?無理しなくていいからね。」
「大丈夫ですよ。自分の触手ではないですし。呪文で呼んだ触手は自分と一体なわけではないので。」
ミーコがいいならそれでいいか。
「栗は自分の背嚢の中に入れておいてくれればいいよ。」
「はい。これって、ワサビさんが集めたものですか?」
「うん、殆どはね。自分の物も入っているから全部が全部というわけじゃないけど。」
「負けられませんね。」
なぜかミーコは急に対抗意識を燃やし始めた。そして触手の量を増やし今まで以上の効率で栗を集め始めた。
ミーコとワサビ二人のおかげで栗はすぐに集まった。
「これをどうやって使うでござるか。」
「そうですね、それは興味があります。」
二人とも何のために栗を集めていたかは分からなかったようだ。
「ああ、これはね罠に使うんだよ。羽が生えているから落とし穴の意味がなさそうだし、爆発させれば少しは効果がありそうだからね。」
銃も作れるかもしれないが技術力が足りないので諦めている。
「それはいい考えでござる。」
「でも、龍の鱗を貫通するほど爆発しないと思うのですが。」
「足止めくらいはできるかなって思ったんだよ。」
少しでも動きが止められれば行動に余裕が生まれる。余裕が生まれれば安全に気を割ける訳だ。命は一個だから簡単にベットするのは狂っていると思う。
「明日は、鉄蔓かな。他も色々用意しよう。」
「斬るのだけは某にお任せを。」
自信満々にワサビが言う。
「頼むよ。ミーコも出番があるからね。」
「本当ですか?私も頑張ります!」
自分にできることがないか考えていたような様子のミーコにも適任な素材があるので任せるよう言うと、非常に喜んだ様子で返事が返ってきた。
「メーラ。とんでもないことになったぞ。」
墓の前に一匹の触手がいる。その触手は墓石を優しい手つきで掃除している。
「お前さんが私と創様の封印を解いたんだからな。」
花を添え変える。
「まさかこんなことになるとは思わなかったがな。」
三人で神社に戻ると、イオドが神社の隅の小さな墓石に対して話しかけていた。三人で聞いているとイオドがこちらに気が付いたようで、もぞもぞ近づいてくる。隠れて聞いていたので自分たちはばれたことにぎょっとして硬直する。
「あなた方、今の話を聞きましたか。ちょっとミーコ、創様を借りていくよ。」
「あ、はい。創さん、また後で。」
少々、強い語気で押されてしまうとイオドに引っ張られて離れまで来てしまう。弾け栗が重いので早く片付けたいのだが。
「創様。お許しください。」
イオドと離れの部屋の中に入った途端、触手を全て平伏させて許しを請うように話し出す。
「何を?出来たら全部話してくれると分かりやすいんだけれども。」
話に追いつくことができない。なので、話の材料を求める。
「そうですよね。お忘れになっていますよね。神社の本殿の事など。」
イオドは事細かに過去に起きたことをかいつまんで話していく。重要なのはメーラがイオドの封印を開放する前に本殿最奥の開けずの扉を開けたということだ。
「恐らく、私と共に祀られていた創殿も解放されたのかと存じ上げます。」
思い出してきた。本殿の中に、イオドの封印箱のほかに自分を祀った祭壇を置いていたことを。自分が箱庭を作った神様のようなものだから祀られても不思議じゃないよね。という考えで設置したのだ。
「まあ、やっちゃったことはどうしようもないんじゃない?」
「いえ、創殿も前の生活があった訳ですし後悔とかしていませんか?」
後悔も未練もたくさんある。泣き叫んで暴れたいところだが自分ですら現実に帰る方法なんて用意をしていない。もうどうしようもないので諦めただけだ。
「いや、仕方ないし。それに僕が幸せだと感じているのなら両親もいいと思うし。」
残念ながらそれを伝える方法もないが。
「本当に幸せなんですか?」
「なんだかんだね。不自由ばっかりしてるけど、毎日毎日、生きているって実感があるんだよ。」
先ほど自然に口から幸せという言葉が出てきたので本心で思っていると思う。
「私は多分不死なので、その感覚は分かりませんが。」
「ごめんね。封印やら不死やら大変な役目において。」
自分がイオドに与えたロールには申し訳ないと思っている。
「いいんですよ。ここはあなたが作った世界ですから。お好きなだけ楽しんでくださいね。案外、素直に納得されていたので話が終わってしまいました。もっと長くなると思ったのですが。」
「まあ、イオドも最初深刻な雰囲気で話し始めたから早く終わってよかったでしょ。触手震えていたりしない?」
「はは、私には心臓なんぞございませんから緊張しませんよ。」
自分の言葉に軽く返される。
「まあ、自分はこの世界の中では全知であるかもしれないけど、全能ではないからね。」
怪我をしたので下手をしたら死ぬだろう。
「私はあなたが、この箱庭で何をなさっても何も言いません。よっぽどの事でない限りは。」
「そうかい。なら、できるだけ神社のみんなが喜ぶことをしようかな。もう行って良い?」
「話したかったことは話せたのでどうぞ。きっと二人も待っていますよ。」
話したことで気が楽になったのか、イオドはいつもぐらい蠢いている。
「ああ、じゃあまたな。」
「ええ、メーラをこの世界に創っていただきありがとうございます。」
イオドはこの世界の神は自分であるように言うが、それが少しむず痒い。
「馬鹿野郎。それはお前がやったことだろ。」
部屋から出ながら言う。メーラを作ったのは確かに自分だが、メーラに気に入られたのはイオド自身である。少しは自分の力も把握してくれよ。
部屋から出てミーコたちの居る屋敷に行く。障子などはイオドが頑張ったのか元の状態に戻っている。働き者な触手だ。栗の入った背嚢は重いが手荒く扱うと自分がハリネズミになってしまうので慎重に運ぶ。
「創さん、お父さんは何か言っていましたか?いつもと違ってちょっと迫力があったから怒られたりしていませんよね。」
「うん。ちょっと、深刻そうで深刻じゃない話だったよ。」
例え話で言うなら、角砂糖の入っていない乾パンのような話だ。
「創殿、もしよろしければ聞いてもよろしいでござるか?」
「ワサビさん。さっき話しましたよね。創さんが言うまでは待っていようと。」
二人も自分が何らかの秘密を抱えていることは分かっているようだ。言わなくとも今まで通りの生活が続くだけだろうが、それでは信頼してくれる二人に対して申し訳が立たない。きっかけがあったら言おう。
「ごめん。言う勇気のない自分を許してくれるかい。」
「ええ。待ちますから大丈夫です。」
「某も秘密の一つや二つはございますからな。」
二人とも無理に秘密を明かすように強制してこない。これなら言ってもいいか。
「龍狩りが終わったら言うよ。なにか、どうしても知りたいことがあったら悔しくて死にきれないでしょ。」
「それを言われると意地でも生き残ろうと思ってしまいますな。」
「では一層生きて帰るようにしなくてはなりませんね。」
納得してくれたようだ。龍狩りの後、話ができるように生きて帰らなくてはなと思った。
考えるだけでは何もできないので、ミーコたちに手伝って貰って栗から爆発する組織を取り出す。具体的にどこかと言えば栗の身についている薄皮だ。
取り方は簡単。まず、いがぐりを火の中に入れる。すると、焼けて固くなる。普通の栗は爆発するので絶対にやってはいけないのでびくびくしながらやっていると、ワサビが背嚢の中身を全部、火の中に入れてしまって走って逃げたら笑われた。くそう、バカにしやがって。
次に、いがぐりを割る。これはミーコが役に立った。触手で押し開くのが速かったのだ。固くなっている、いがの付いた殻は簡単に割れていた。ワサビは斬って開けようとして、爆発させて固くなった針が刺さっていた。クスリと笑うと鞘に入れた太刀をブンブンさせながら追ってきた。自分は本気で逃げていたがワサビにとっては遅かったようでちょうどいいスピードで追い続けていたので自分が倒れて終わった。そして倒れたことに対して笑われたので一対二で負けたと思う。因みにミーコはずっといがを剥いでくれていたようだ。変なことをやっていてごめんよ。そう思っていると触手の枕が寄ってきたので寝ることにした。
「出来ましたよ。」
「何もやってなくてごめんよ。」
何もせずに遊んでいたので申し訳ない。
「いえいえ。触手を見たら穴も開いていたのでやらなくて正解かと思いますよ。」
思ったより硬くした針の威力が高かったようで怖い。
「ワサビのおかげだなぁ。」
「いやあ、感謝してもよろしいのでござるよ。」
限界の状態になるまで走らせやがって。
「すまん、それを感謝するほど自分は大人じゃないんだ。」
ワサビが刀を振り上げて走って寄ってくる。
「ごめん!ミーコ、助けて!小型戦車が走ってくる。」
自分はミーコの背に隠れる。
「ミーコ殿、退いていただきたい。」
「ここは矛をおさめましょう。どうどう。」
ミーコは正面にいるワサビを諫める。
「私は大人でござるからな。ここでやめておくでござる。」
武器を持って人を脅すのは果たして武士というのだろうか。疑問が残るが火に油を注ぎそうなので何も言わずに堪える。
「ありがとう。次の作業に移ろうか。」
「ええ、次は何をするのですか。この殻も剥ぐのですか。」
「うん。だからさっきと同じことを繰り替えすよ。」
ワサビが集めた、いがを取った栗をまた一気に火に入れる。
ヒッ!
自分は短い悲鳴を上げる。
「ああ、こっちの方が早く終わると思ったので入れたでござるよ。さっきもそうでしたが一言言ってから入れるべきでござったな。」
「思い切りが良すぎて私も驚きましたよ。」
ミーコもワサビの事に驚いていたようで、触手が硬直していた。
「それで焼いたらまた取り出せばいいでござるか?」
「そうだよ。火事にならないようにね。」
ワサビは流石に人の家を火事にするのは気が引けるようで落とさないように焼き栗を庭に運んでいく。
「ミーコ、冷めたら割ってくれないか。自分は中の皮を集めるから。」
「分かりました。これっておいしいんですか?」
ミーコが栗の中の身について興味を示している。
「おいしいよ。まあ、こんなめんどくさい事をしてまで食べるほどではないから珍しい味かもしれないね。」
「じゃあ、沢山剥きますね。」
「どんどん運ぶでござるよ。」
三人でどんどん薄皮と身を集めていく。背嚢にいっぱい入っていた栗に比べてとても少ない量になっていく。栗の実は大き目の皿に乗るくらいに、薄皮は茶碗一杯分くらいだ。思ってはいたが、全然取れない。まあ、秘めた力は大きいので、あと何回か集めれば十分な量が集まるだろう。
「おいしいです。」
「幸せでござる。」
夕食は栗尽くめであった。いっぱい食べる二人は可愛かった。
のちに集めた他の材料である鉄蔓の実や、カワキュウリも中々においしいものだった。
現実に帰れないと実感してから2週間ほどたった。帰れないと思ってしまえば慣れるもので箱庭の中が現実だと思うようになった。毎日、机に向かって寒天培地で植物を育てる、人権が植物以下の生活よりはとてもいい。龍狩りの準備も終わり、明日には罠を仕掛けに巣に行く。
「創さん創さん。」
部屋の外から声がかかる。
「ミーコ、どうしたの。」
「ワサビさんはどうにでもなるって言っていたのですが自分はどうしても心配で来てしまいました。」
自分も興奮で寝られない。恐怖で体が震えているよりはいいだろう。
「入っていいよ。」
ミーコは部屋の中に入ってくる。寝巻なのか、もこもこした着物で弱気なミーコの雰囲気に合っている。
「夜中遅くにごめんなさい。でも、一目見ておきたかったんです。」
自分はミーコの頭を撫でる。自分も死んでしまうかもしれないので何も言えないが、簡単に死ぬつもりはない。
「ミーコ。もし龍を狩ったら、いやもしじゃないな龍を狩ったら伝えたいことがあるんだ。」
「なんでしょうか。でも悪くない気がします。あと、ここに来たら落ち着きました。部屋に戻ります。」
ミーコが部屋から出ていく。
「おやすみなさい。」
障子の向こうからミーコの挨拶が聞こえる。決意のこもった強い声だった。
「ああ、おやすみ。体をしっかり休めてくれよ。」
返事はなく、部屋に戻る足音しかしなかった。ミーコが来てくれたおかげで自分も勇気か蛮勇か分からないが強い感情が湧いてきた。
夜は体が火照ってなかなか寝れなかった。
次の日、ミーコは昨日と様子が変わらなかった。いや、朝に会った時少し照れていた。
昼間なら龍が巣にいないだろうと罠を仕掛けに行く。
「では今日の夜決戦でござるな。」
「そうだね。しっかり準備してからね。」
ワサビはやる気満々なのでいい状態なのだろう。疲れていては困るので休んでいてもらう。自分も準備を手伝いたいと主張していたがワサビが居なければ今回の龍退治の計画が瓦解するので無理を言って休んでもらったが。
「創さん。鉄蔓は低い位置で張ればいいですか?」
「うん。少しでも龍が洞窟内で行動するのを阻害できればいいからね。」
ミーコも精力的に働いてくれるが、洞窟は広く作業はなかなか終わらない。他の素材はというと、ミーコの触手によって運んで洞窟入り口の中央の柱岩に立てかけて置いてある。
鉄蔓は、葉などを取り滑らかなロープ状になっているので軍手がなくとも怪我はしなかった。午後のおやつを食べるころロープ張り作業は終わった。
「創さん。時間は大丈夫ですか?」
「うん、厳しいね。作業中に龍が来たら急いでワサビと交代しようか。」
「某の出番でござるか?」
ミーコは作業の時間見積もりが甘く思ったより時間がかかったことで焦っている様子だ。
「まあ、来ちゃったら考えよう。」
準備が中途半端だとあまり意味がないので、できる限り進めようと提案する。それに、明日またやるとしても龍が警戒しているかもしれない。そうなったら龍狩りの機会が減るかもしれない。
「後は、カワキュウリを適当にばらまいて柱に渋皮爆弾を仕掛けるだけでござるね。」
「ええ。後は私の護符もまき散らすのでしたよね。」
柱の崩壊を促進するための爆薬と足場を悪くするローション状の液体だ。カワキュウリは見た目の数百倍の体積の液体を含みそれは傷つけた時に出てくる。粘液上の体液で簡単に足場を悪くできると思い持ってきた。ワサビがナマコに似ているから夕食で食べようと土間で切ったら悲劇が起こったので二人とも、カワキュウリへの信頼がありそうだ。
「そうだよ。カワキュウリは用意できると思うけど渋皮爆弾は分からないね。それと護符も忘れないでまき散らしとかないとね。」
カワキュウリを刃物で傷つけながら答える。とんでもない量の液体がまき散らされ大きな水たまりができる。洞窟内の地面は硬い岩なので滑って歩くのも大変だ。ミーコの護符は触手を出して足場にするためにまき散らす。
「一番苦労して採った素材が使えないのは悲しいですね。」
「いっそのこと背嚢ごと柱を爆破しちゃってもいいと思うよ。どうかな。」
「用意ができなかったらそうするのが最善だと思います。」
二人で相談しながら龍の洞穴の住み心地を悪くしていく。自分だったら部屋にこんなことをされたら、諦めて無気力になるだろう。
カワキュウリは直ぐに準備できたので岩に穴をあけようとワサビを呼んだ時だ。
「ワサビ~!岩に穴をあけてくれー!」
木陰で休んでいるワサビに声をかける。
「はーい、分かっているでござるよ!交代ですな!待っていたでござるよー。」
呼ぶと、一目散に柱で作業をしている自分とミーコのもとに走ってくる。
「ワサビさん、ここに穴をあけてほしいのですが。」
「二人とも後は某に任せるでござる。」
会話がかみ合わない。ミーコと自分は首を傾げた。すると洞窟外に大きな物体が落ちてくる。
「え?」「これは?」
赤い物体が落ちてきて、二人で驚く。心臓が破裂するかと思った。
「龍でござるよ。早く逃げたほうが賢明でござるな。」
軽く物体の正体を明かす。龍かぁ~。うんうん。作業を続けようとする。
「創さん!ワサビさんに交代です。龍が来ましたから。」
現実逃避をしていた自分の襟首をミーコに掴まれたことで、ハッとする。逃げなければと思い、渋皮爆弾を柱の自然にできたであろう穴の中に入れて走り出そうとする。
「ギュイッ!」
ミーコがネコ科動物を思わせる超加速で走り出したため首が締まって転ぶ。焦ってミーコの手にタップをするがお構いなしに引き摺られた。
「創さん、すいません。大丈夫ですか?」
林の中に入り龍から見て死角になったところで解放される。ワサビと龍がたてているであろう大きな金属音が聞こえる。
「ありがとう。助かったよ。自分だけだったら逃げきれなかったからね。」
「それで私は何をすればいいのですか?」
しまった、作戦を伝え忘れていた。
「ごめん、作戦を伝え忘れたんだけどどうしよう。」
「それはただ事ではないですね。どういう作戦だったのですか?」
ミーコはいつもと変わらず淡々と話を進めてくれる。本当に助かるなと思いながら話す。
「洞窟内でワサビが戦う。ワサビが洞窟が出るときに柱を破壊。崩落。終了。っていう作戦だよ。」
「では私が戦っている戦場を移動させればいいのですね。ここから創さんを守りながら戦えばいいですか?」
一応、スコップを持ってきているので、掘って土で壁を作れば何とかなるだろう。
「最低限の防御措置はできるから移動しても大丈夫だよ。」
「その言葉を信じますからね。」
ミーコは自分の言葉を聞いて自分が荷物ではないと思ったのか、足音を立てないように離れていく。なのでワサビと龍が戦っている場所を見る。すると、龍がこちらの方を正面に戦っている。恐らく、ワサビは龍の攻撃を逸らしたりいなしたりして凌いだので少しずつ向きが変わったのだろう。
「ちえすとー!」
ワサビの剣は龍の鱗は切れないようだが鱗と鱗の間は切れるようで龍から血が滴っていた。
「GYAAAAAA!!!」
ちょこまかと斬られ、中々倒せないワサビに苛立っているであろう龍は周辺の空気を根こそぎ剥ぐような咆哮をする。数秒間の間続き呆けて動けないでいると、全ての息を吐いたのか今度は一気に息を吸う。ワサビはこれ幸いと鱗の隙間を切っていく。のけぞった状態で息を吸っている龍の首から赤いものがきらりと輝く。
龍が息を吸い終わると、首をワサビの方に向ける。何かが来るのか分からないため、首が元に戻った時点でワサビは龍から離れていた。ワサビを見つけた龍は口をおきく開け、溜めもなしにブレスを吐く。ナパームのような燃えた液体がすごい勢いでワサビの元へ飛ぶ。
「きえぇぇ!」
危険だと思った時にはワサビは姿勢を下げてブレスをかいくぐり龍に切迫している。ただ、水鉄砲のように発射されたブレスが自分の居る場所に来ている。マントの中からスコップを取り出し、地面を掘ってブレスに土をかける。
ミーコも心配だったようで、触手が地面から生えてきたが、触手もろともブレスを押し流す。火熊の時にアイテム化した土をアイテム化せずにかけようと念じてやったのが成功したようだ。ぶっつけ本番は心臓に悪い。ミーコが去った方を見ると、ミーコが手を振っていたのでこちらも手を振って無事を知らせる。
「ワサビさん!拘束しました!」
ミーコは僕の安全を確認した後、ワサビに何らかの合図を送った。自分からは龍が見えないので状況が分からない。なので、土でできた小さな山と掘った穴を回り込む。
「相分かった!」
山の向こう側からは激しい金属音とワサビの返事が聞こえる。回り込んで龍を見ると、足に絡みつく触手を引きちぎった所だった。
「ワサビ!洞窟を崩すから洞穴に入れっ!」
人間と龍では基礎身体能力に大きな差があるのは明白なので短期で早く倒してしまいたい。
「御意!」
龍も、一番面倒くさいと思っているのか素直に洞窟に入っていく。
「触手を生やします!」
ミーコは足場のために触手を生やす。洞窟内はカワキュウリの粘液でよく滑るのでその対策だ。これで、両者ともに動きが鈍るが、触手で滑らずに移動できるワサビに地の利が渡る。
龍も、追って洞窟内に入るが時間をかけてしっかり張った鉄蔓と粘液によって動きが鈍い。
「ミーコ、龍が一番奥に行ったら爆破だ。ワサビは巻き込むなよ!」
「分かりました!」
僕は龍が洞窟から出にくくするために洞穴の入り口に土山を作るため、洞窟の方に走る。横を見るとブレスで吐き出された液体がまだ燃えている。これに当たったらと思うとぞっとする。
龍は走って洞窟に近づく自分には気づかずワサビを追って洞窟の奥へ行く。これ幸いと自分は山を作っていく。ただワサビが出られるように三メートルほどの堤防状にだが。
急いで作ったためふわふわな土でできているが即興物としては十分だろう。山の上に行き、ワサビを呼び戻す。
「戻れ、ワサビ!」
「そぉい!」
ワサビは返事をする余裕がないようだが聞こえていたようで触手を渡って戻ってくる。
龍はまた獲物が遠くに行ったため、息を吸い込む。ブレスを吐いたときワサビと自分は堤防の上に居た。ワサビは土が柔らかく堤防が登り切れなかったため自分が引き上げようとしていたので、飛んでくるブレスに目を瞑る。
「某は無視してくだされ!」
「気を付けてください!」
ワサビの肩手を両手で引っ張っていたことと、ミーコが触手で機転を利かせて引っ張ってくれたことが事態を好転させた。ワサビが刀を持っていない手で僕の手を引きはがそうとしていたができなかったので自分と一緒に引っ張られる。
自分とワサビは洞窟と反対側の堤防を転がり土を回収された穴に入り込む。
「点火ぁ!」
これなら爆破しても自分とワサビには岩の破片が飛んでこないだろうと踏んでミーコに合図をする。
「起爆です!」
DOGAAAAAN!!!
ミーコは触手を渋皮爆弾に叩きつけ起爆すると大きな音共に堤防の一部が消し飛び土の雨が降る。
「やりました!」
ミーコはうまくいったことに喜ぶ。だが悲しいかな、岩の柱は折れていなかった。亀裂が酷く入っているものの不動だ。
「くそう!折れてない。戦略的撤退!」
自分の作戦はここで折れて終わる予定だったので折れなくて困った。
「いえ、某が斬り飛ばしまする。」
そう言い、ワサビは柱に近づき穴から飛び出ると、陶物切りの要領で柱を峰打ちする。ワサビの人並外れた膂力はひびの入った柱を崩すに事足り、刀を振り切ることができていた。
「よくやった!」
人外の域に入っているため、羨むということもないが惚れ惚れする。
「いえ!崩落していません!」
もしかして、この洞窟は柱がなくとも天井を支え切れるのか。ということは穴を広げるくらいしか崩落させる手段がない。その手段は、、、、少し考えて思いつく。自分が掘ってしまえばいいのだと。
「ワサビ、洞窟を崩壊させるから、もう一回、龍を抑えてくれないか?」
もともと柱があった所に居たワサビに声をかける。
「某が切り殺しまする。」
ヤる気満々だ。既に刀を二本抜いている。目が血走り構えも日本古来の剣道の物ではなくオリジナルなのか西洋の武道であるサマリーに似ているものだ。武器は片刃だが堂に入っている。
「洞窟が崩壊したら逃げてくれよ。」
「どちらが速いでございますかな。」
ワサビは今まで手加減していたのだろうか、龍のブレスよりも疾く、膝よりも低く駆けて行った。
ミーコは唯一森の中から二人を支援していた。
「ミーコ!自分も行ってくるからワサビを支援していてくれ!」
「分かりました!生きて帰ってください!」
自分の魔法はとんでもなく痛いが死んでなければ何とかなるほど自信がある。先ほど洞窟を崩落させると言っていたがどうするのだろう。無駄な考えを頭の片隅に置き去り、ワサビの居る洞窟の入り口に急ぐ。目標が見えなければ魔法の照準もできない。
「某斬り!」「某突き!」「某逸らし!」
ワサビは洞窟内でよく分からない掛け声を叫びながら龍と戦っている。流水的で滑らかな太刀筋だ。龍がお手踏み付けをすれば、水滴を潰したら横からにゅっと出てくるように受けをする。自分がもし適当な位置に触手を生やせば、それはワサビの邪魔になるだろう。なので支援の魔法と遠距離で龍の気を散らすのが最善手だろう。
「ワサビさん、支援します!受けて!」
「相分かった!」
ワサビに向けて筋力ドープ、幻惑、軟体化の魔法をチョイスし発射する。
ワサビはしっかりと受け取ってくれたようで、更に速度が上がり、残像が見えるようになった。軟体化は筋肉が柔らかくなるだけの地味な魔法だが、筋力ドープの魔法で怪我をするのを防いでくれる気がするのでかけた。
創さんの姿は洞窟の中にはなかった。まさか逃げたのかとは思ったが、その考えをぬぐう。あの人は、自分たちに気ばかり使うお人よしだ。逃げるなんてことはしないだろう。
直ぐに考えを切り替え触手で龍の動きを邪魔する。直接的な火球や水球の魔法は一発ずつ撃ったが気にもされなかった上、誤射が怖いので触手一辺倒にする。
「きぇぇぇええ!」
ワサビも体面を整える余裕がないようで狂乱していた。これまでか。そう思った時だった。
某は龍と正面から戦っている。あの龍だ。生態系の頂点に位置し某の村を荒らした因縁の相手と。
ミーコの魔法はとてもすごい。今まで本気で出していた速度が八割の力で出せてしまうのだ。その上、体がしなる。技のキレが数段上の次元へ引き上げられる。だが、龍の鱗は硬くて刃が通らない。鱗の隙間を中心として狙うが、刃こぼれし始めた太刀に切り裂く力はない。時間さえあれば勝手に修復するので再戦をしたいのだが、創殿に任されてしまったので、ここは持ちこたえる。彼の罠も非常に役立った。ただ、触手の上を足場にするのには困った。必死なので気にしてはいないが、感触がどうにも慣れない。
某は、己の剣術を里の師匠にすら使ったことがない。剣術の形にもなっていないと笑われるであろうからだ。しかし、その剣術は龍に通じぬが龍からこちらにも通じない。
「きぇぇぇええ!」
ミーコ殿の触手の妨害が一瞬なくなったのをいいことに龍が大振りの攻撃をしてきた時だった。急に龍が落ちたのだ。
それでも龍は自分から目を離さずに噛みついてくる。上顎と下顎に挟まれたところを押し出されるようにニュルっと抜け出したつもりだったが着物の端が引っ掛かり、頭を洞窟の入り口側に振った龍に飛ばされる。
「ワサビっ!」
創殿の声だ、きっとこれから何とかしてくれるのだろう。いや、某がそれを助けるのだ。スッと集中することができた。空中で激しく錐もみし地面に叩きつけられるが体を自然に回転させ受け身を取る。左肩から先が激痛で刀を離してしまう。
「問題ないでござるっ!大技を使うでござるよ!」
大技はないが、少し時間を稼ぐ。
「分かった、やったら逃げろ!ミーコ、サポートよろしく!」
創殿が見せ場を作ってくれたのだ。ここでやらなければ。精神も肉体も既に極度の疲労状態だ。
龍はまだ倒れない自分に対し、まだ穴の外に出ている尻尾を振る。当たれば良くて瀕死、他は即死だろう。
最後にまだ残っている気力を全て注ぎ込む。
「某は水の理。」
折れていない右手だけ構えを取る。構えは自分オリジナルのものだ。半身、上段、切っ先は地面に。
凄まじい速度で飛来する龍の尾をしっかりと見据える。当たれば危険だが、ただそれだけだ。攻撃のみに集中すれば他の事など関係ない。そう思えば、いつの間にかゆっくりと龍の尻尾が目の前にある。
感触はなかった。自分に龍の攻撃は当たらなかったことが結果を示す。
「ワサビ!行け!」
確認する間もなく創殿の指示が聞こえる。痛む体に鞭打ちながら必死で洞窟の外に走る。地面に触手の道があったのはミーコ殿が用意してくれたからだろう。もう鉄蔓の下を通るほど疾く走れない。ありがたい。
「創さん!いいですよ!」
自分が洞窟の入り口の堤防を抜けるとミーコ殿が自分の安全を伝える。そのまま自分は堤防向かいの穴に落ちて気を失った。最後に聞いたのは龍の咆哮よりも大きい破砕音だった。
剣術の事は分からないが、それが隙のない構えだという事だけは分かる。それを証明するかのようにワサビさんはたいして動いていないのに攻撃したはずの龍の尻尾は二つに分かれ本体を失った方は壁まで飛んでいった。
「ワサビ!行け!」
間髪入れずに創さんの指示だ。既に触手の道は作ってある。後はワサビさんが早く堤防まで来れるように踏まれた触手の角度を段々と変えていく。
「創さん!いいですよ!」
ワサビが洞穴から出ると創さんに合図を送る。
合図を送った時には龍は既に穴から出ており、一番近い創さんを狙っていた。合図を聞いてすぐに創さんはシャベルを天井に向かって投げる。
創さんは何をしているのだろうか。唯一の武器らしきものを手放して。
龍はこれ幸いと噛みつきをするが創さんには当たらなかった。何故かと考えると、ワサビが尻尾を切ったので体のバランスが取れなかったからだろう。ドキッとしたがホッとする。
カンッ!
シャベルが天井の岩に当たる音がした。創さんが投げ上げたものだ。何の意図があったのだろうと見ると、上から岩が落ちてくる。そして柱という支えをすでに失っていた洞窟はあっけなく大きな音を立てて崩落する。
「創さぁぁーーん!」
龍共々創さんも崩壊に巻き込まれ見えなくなる。ミーコは必死に叫ぶが崩落音でかき消されてしまい何も聞こえなくなる。砂埃が上がり、弾かれて跳んできたであろう石がミーコを直撃する。ミーコは堤防の上で姿勢を崩してしまい穴に落ちていく。
「うっうぅぅ、、、、」
痛みからだろうか。それとも創さんともう会えないからだろうか。うずくまって泣いてしまう。これしか方法はなかったのだろうかと、後悔する。だが、起こってしまったことは覆らない。体中から冷えた汗が出てきておかしい。
ミーコは現実を受け入れることができず、人型を失ったときにどうしても聞きたい声が聞こえた。
「大丈夫かー。ってワサビ!」
その声が聞こえたほうを向くと、死んだはずの創さんがいる。何やら気を失っているワサビの胸に頭を当てている。破廉恥だ。
「怪我はしているけど心臓が動いてるからセーフかな。」
創さんに手を伸ばそうとしたが定型を失っているミーコにはできなかった。心臓が動いているのを確認した創さんはこちらを見て信じられないものを見る様子で言う。
「えっと、ミーコかな?」
破廉恥が目的じゃなくて、生命確認が目的だったのかと安心する。そして形を失った自分を見て絶望した顔になる。創さんは走り寄ってきて不定形になった自分の身体を支えるようにして抱きかかえながら泣く。
「ミーコォーー。なんでだ、なんで死んだんだよぉ。、、、、、ごめんなさい。ごめんなさい。」
自分が既に死んだものとして把握してしまったようだ。創さんの膝の上は居心地がよかった。泣き叫ぶ創さんを包むように動く。触手を生やし頭を撫で、不定形から再び首だけを獣人型の身体へ徐々に戻していく。
撫でられたことに気が付いた創さんは叫ぶのはやめたが、更に大粒の雫を目から出す。口がパクパクしている。何を言えばいいか分からなかいのだろうか。
獣人の身体に少しずつ戻っていき、頭部が創さんの膝の上に変形出来てから創さんを労わる言葉をかけようとする。
「創さん。ミーコです。」
しかし、自分も何を言ってもいいか分からず自分の無事を伝えるだけにとどまった。二人でどうしていいか分からず、そのままの状態で撫でられ続けた。
暫くののち、起きだしてきたワサビによって固まっていた二人の時間が動き出す。
「あ、あのぉ。二人でですね、何をなさっているのでござるか?」
自分は急に声かけられたことに驚き頸が鳴るほど勢いよく振り向く。
「ワサビは頑丈だな。」
「私もですね、女の子でござるから少しくらい心配していただいてもいいのですよ。」
不満げにワサビが頭をこちらに出してくる。
「よしよし、よく頑張ったな。龍の尻尾を斬り飛ばしてたじゃないか。他の誰にもできないと思うぞ。」
撫でながら言う。ワサビは自然な風を装っているようだが、首が揺れて痛いようだ。でも、えへへと笑う様子は小動物を愛でているようで可愛い。
「痛そうだけど何処か怪我をしてない?」
「実は、受け身に失敗したでござるよ。無様でござろう。」
「ああ、牙に服が引っ掛かって飛ばされた時ですね。元の姿に戻ったら治癒魔法をかけます。痛いですが我慢してください。」
正直に怪我をしていることを教えてくれる。まあ、どうせ後でミーコによる強制診断で体中激痛の治癒魔法を貰ってやせ我慢がばれるのだから隠しても意味がないだろうし。
「創さん、創さん。もしよかったら、森の方に行ってもらえませんか?」
首以外が不定形のミーコが言う。
「いいけど何で?」
「元の姿に戻りたいのですが、服が脱げていることにお気づきですか?」
恐らく、不定形になった時に脱げてしまったであろう服が近くに散乱している。下着が見えたが見えなかったことにする。うん、水色か。
「ごめんね。そこまで気が回らなくて。ワサビ、ミーコの事は任せたぞ。」
「御意に。」
ワサビの返事がどんどん部下の様になっていくが、気にしない。そして、暫く林の中で暇をつぶしているとワサビから呼ばれる。
「いいでござるよー。」
特にエッチなイベントもなく、三人で集まる。
「創さん、下着を見ましたか?」
「いいや。」
「ピンクの下着ですよ。」
「水色じゃなくて?」
誘導尋問に引っ掛かる。疲れていて脳みそに糖分が足りない。
「見ましたね。ですが今回は地面に散乱させた私が悪いので、どうして生きていたか教えてくれたら許します。」
「某も聞きたいでござるよ。というか、堤防を越してから気絶したので詳しいことが分からないでござる。」
下着の事を言わなくても、心配させたから言ったのに。それに自分も某剣術について聞きたい。
「ああ、それはねちょっとついてきて。」
自分が生き残ったからくりは見たほうが速い。三人で話している穴の底から死角になっている所に案内する。
「この穴をね、掘ったんだよ。」
「あの短時間の間に、この穴を掘ったというのでござるか。」
「ああ、それで洞窟の中に急に現れたわけですね。龍が突然穴に落ちたのはなぜでしょう。」
ミーコは全体を俯瞰していたので、なんとなく僕が何をしていたか思い出しているのだろう。ワサビは穴を掘ったからくりを言った方がいいかな。
「先にワサビの質問に答えるよ。そっちの方が応える量も少なくて済みそうだし。じゃあ、、、、」
ワサビに自分がスコップで見た目以上に効率よく掘れることとアイテム化する能力を伝える。
「それは驚きですな。突然、野戦建築が終わっているところを見た時、驚きましたぞ。」
「まあ、火熊も龍もこれで生き埋めにしたからな。やってることは土をかけるか、土砂を誘発させるかだけど、本質的には変わらないよね。あと、龍の足場がなくなったのは地下で凄い振動が起きてたから適当に掘ったら当たりだっただけだよ。」
龍も火熊も死因は窒息死だろう。倒したという実感は沸かないが、安全に倒せたのはいいことだ。龍の足場がなくなったのは掘り進めた坑道が崩落したので、そこを崩しただけだ。生き埋めにされそうで焦った。
「ではなぜ、崩落の中生き残ったのですか?」
「次はその質問か。スコップを上に投げたのは見た?」
「ええ。龍が噛みつきを外した時ですよね。」
これは本当に死ぬかと思った。ちびった。ワサビが尻尾を切ってくれたお陰でバランスが取れなくなっていたのだろう。
「あれは、走馬灯が走ったね。ワサビのおかげで助かったよ。よしよし。」
撫でるために手を出すと、素直に頭を出してくるので、土に汚れた頭を撫でる。
「某は強いでござるよね。フンス!」
腕自慢をワサビがするので褒めておく。
「うんうん。後で某剣術について教えてよ。あれってワサビのオリジナルなの?」
「そうでござるよ。ミーコ殿の質問が終わったらたっぷり自慢するでござる。普段は自惚れるなと教えがあるので言えぬが、龍狩りした今なら少しくらい自慢しても罰はないでござろうしな。」
自慢気なワサビを強めに撫でてから手を離すと凄く満面の笑みだった。
「恥ずかしながら、あの龍に噛みつかれた時に足がもつれて自分が掘ってきた穴に落ちたんだよ。凄いかっこ悪いだろ。穴の中にいたから崩落に巻き込まれずにいたわけだよ。」
「スコップの方に集中していて創さんの事を見れていませんでした。あとかっこ悪くても生きたもの勝ちですよ。」
かっこ悪い場面は見られずに済んだらしい。
「後は、坑道から這い出して倒れている二人の所に戻ってきたわけだ。」
「創さん。もしかして自爆特攻するつもりでしたか?」
少し考えたミーコは自分に質問をする。
「ばれた?でも三人共々死ぬよりはいいかなって。それに結果的に生きてたから本当に幸運だよ。」
坑道に足がもつれて落ちるという幸運はもう起きないだろう。人生で一番、奇跡的な瞬間だと自分は思う。
「そんな軽々しく言わないでください。もしかしたら、もしかしたらがあったんですよ。」
ミーコに強い口調で責められる。確かに自分の事を顧みない行動であった。
「まさかそんなに心配されるとは思ってなかったんだよ。」
嘘だ。きっとミーコなら嘆き悲しむと思う。だが、二人が助かってほしくてやったことだから後悔はしていない。
「創殿を責めるのをやめるでござるよ。結果的に上手くいったのでござるから。」
ワサビは責めずに自分の事をかばった。こちらを見て頷いているので理解してくれているのかもしれない。
「そうですね。ただ一言だけ言ってください。もう捨て身の特攻はしないと。」
次やろうと思ってもできないし、こんなに悲しませるのは散々だから素直に同意する。
「ああ、これからはミーコとワサビを極力悲しませることはしない。」
「それならいいのですが。」
「うむ。これからの事を考えましょうぞ。」
二人とも納得してくれたようだ。話が落ち着いたので次の話に入る。
「そういえば、二人に秘密を話すって言ってたよね。」
龍狩りの後に話すといったので今ならいいだろう。
「はい、今していただけるのですか?もうすぐ暗くなりますが。」
まだ明るいが、空を見ると星々が見え始めていた。
「機会があればいつでもいいよ。ワサビの怪我も、洞窟の掘り起こしも、またしなきゃいけないけど。」
龍を狩ったと言っても、その処理は大変だろう。
「某の怪我は気にしなくともいいでござるが。」
ミーコはワサビの耳元で何か言ってから
「そうですね。落ち着いてから聞きましょう。今日はきっとお父さんがご馳走を用意してくれているはずですから早く帰りましょう。」
「そ、そうでござるな。あれほど痛いのは勘弁でござるよ。ミーコ殿。」
ワサビは少し涙目でミーコを恐る恐る見ている。それを見たミーコはにっこりと笑って頷いていた。




