表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

さんしょう

大丈夫ですかぁ~

 声がこだまするように聞こえてくる。自分は確か疲れて神社の鳥居で寝てしまったはずだ。意識が定まると共に声もクリアに聞こえてくるようになる。この声は、ミーコかな。目を開け、起き上がる。案の定、自分の枕元にいるのはミーコだった。

「おはよう。」

「おはようございます。何があったんですか。ワサビさんは怪我だらけでしたが。」

 服は着替えさせられていた。服がなかったのか死装束だが。

「ああ、帰ってったと思ったらその日の夜に瀕死で現れるとは普通、思わないもんね。」

「ええ、創さんはともかくワサビさんがボロボロでしたから。お父さんがお客さんが来たと伝えて、玄関に戻ったらワサビさんが失神していましたからね。」

 そうか、ワサビは無理をしていたのだな。無理やり運んでしまって悪かった。

「それで、ワサビは大丈夫なのか?」

「ええ、寝ているうちに治療を終えたので、痛みに悶えることがなくてよかったと思います。それと創さんは、目立った怪我がなかったのでそのままです。」

「自分は筋肉痛だからいいんだけどね。ワサビは何処にいるの。」

「そこに。」

 ミーコは自分をはさんで向こう側を指さす。そこには頭に包帯を巻いたワサビが居た。

「頭から血が出ていたので包帯を巻いてから治癒魔法をかけておきました。」

「足は怪我してなかった?」

「してはいましたが、痣しかなかったですよ。」

 昨日のワサビは怪我をして動けないと言っていた。何故怪我の場所を誤魔化したのだろうか。それはそうと、頭部の怪我ということは脳震盪か。これは聞かなければ分からない。

「そうか。助けてくれてありがとう。それと、面倒事ばかり運んで申し訳ない。」

「いえいえ。また会えて嬉しいですよ。それより、もう少し寝たほうがいいですよ。水はここに置いておきますので自由に飲んでください。私はお祓いの依頼が来たので本殿に居ます。」

 忙しい時に駆けこんでしまい本当に悪いことをした。ミーコが尻尾を振りながら部屋を出ていくと、今度は上から声がかかる。

「おーい。大丈夫かー。」

 この声はイオドだ。

「多分、大丈夫。ワサビは分かりません。」

 返事をすると、イオドが天井裏から垂れてきた。なんとも訳の分からない登場の仕方だ。

「ワサビとやらが、夜遅くに血まみれで駆け込んできたから驚いたわ。何があったんだ。」

 この触手は自分の言う事を信じてくれるだろうと、街についてからの話をする。追い返された話、会談で黄昏ていた話、ワサビと合流した話、ワサビが転んだ話などだ。

「そうか、頭に大怪我していたから大事かと思ったが、嬢ちゃんが間抜けだった話か。」

「まさか足の怪我じゃなくて脳震盪だとは思わなかったし、血の事も汗だと思ってたよ。」

 イオドは溜息をついたようで、一呼吸だけ大きく収縮した。

「だが、衛兵に追い返されたってことは街に入れないってことだろ。十分大事だろ。お前生活基盤持ってないんだから。」

「それは確かに。今日はミーコの所に世話になろうと甘く考えていたけど、今後どうすればいいかなぁ。野営生活かな。」

 こうなってしまえば、火熊討伐で得たお金も使えない。使えなければ生活ができない。困った困った。

「ミーコの所に永久就職してくれてもかまわないんだぜ?むしろそうしてくれた方が嬉しいんだが。」

「流石に会って一週間もしないうちに永久就職はないだろ。」

「ううむ、駄目か。」

「でも、自分は家がなくて困っているからな。すいません。働くのでしばらく置いてもらえませんか。」

 自分が出せるのはお金と質の良くない労働力くらいだ。改まって土下座でイオドに乞う。

「まあ、いいか。嬢ちゃんはどうする。」

「火熊討伐で得たお金の余りを全て渡します。これなら暫らく泊っても金銭的には問題ないでしょうか。」

「普通ならここは宿屋じゃないから無理って言うが、街を追われたんだろ。それに昨日、娘が楽しそうな顔をしてたんだ。それならそれを守ってやるのが親心だからなぁ。仕方ない。永久就職も考えてくれるならいいぞ。」

 永久就職は流石にミーコが嫌なら無理なので考えるだけと伝えると、イオドは言う。

「聞いたからな。」

 外堀が埋められた気がしたが、気にしないことにした。

「じゃあ、またな!」

 そして、言うが早いか垂れてきた天井の穴に跳んで消えてった。ご丁寧に蓋もしめられていく。嵐のようなこの感じ。お爺ちゃんによく似ているな。と思っていると、隣の布団から、ズルズルという音がしたので振り向く。

「創殿。」

「おう。」

 そこには布団から出たワサビが居た。

「かたじけのうございます。それと、怪我の場所を騙して申し訳ありませぬ。」

「うんうん、きっと心配させないために言ってくれたんだよね。痣とか、外傷は治してくれたらしいけど痛まない?」

 腕や脇腹、足を確認した後に怪我をした頭の部分を触る。

「全く痛まないでござるよ。魔法というのはかくも便利なものですなぁ。」

 筋肉痛には効かないのかな。でも、ミーコの魔法は激痛が走るので全身で痙攣しそうだからしたくはないけど。しかし、便利なことには同意だ。

「そうだね。それより無事でよかったよ。どこから狸寝入りしてたの?」

「実はミーコ殿のお話からでござるよ。中々、時機が分からず起きるに起きられなかったでござる。」

 確かに、婿入りの話をしていたら話に入りにくいだろう。

「自分はこれから暫くここに住まさせてもらおうと思っているんだけれども、ワサビはどうするかい。また旅を続けるかい。それとも、自分がお金を渡しておくからここにいるかい。」

 ワサビは手を前に突き出し遠慮する風に言う。

「街に戻りま、出来ぬでござるなぁ。」

 まあ、街で追い回されたって言っていたからなぁ。今更戻ることなんてできないだろう。

「お金は払っておくから、しばらくここに居なよ。さっきも言ったけど使えないお金は死んだも同然だから。」

「うう、面目ない。」

 ワサビは何も言わずに受け入れてくれた。意地を張ると思ったのだが。何を声掛けしていいか分からず、沈黙が続く。困った僕は寝ることにした。

「自分は体が痛いから寝るよ。何かあったら起こしてくれればいいよ。」

 ワサビに背を向く状態で横になる。

 ワサビは何も言わず布団に入ったようで、布の擦れる音がした。

「かたじけのうございます、創殿。」

「ん?何か言った?」

「いえ、独り言でございます。」

「そうかそうか。さもありなん。」

 意味は分からないが適当な武家言葉を言って今度こそ本当に沈黙した。そして、また自分の意識は消えていった。

 次に起きた時、外は既に暗くなっていた。ワサビは寝ていたので起こさないように部屋を出る。そして、明かりの付いている部屋の外で入る挨拶をする。

「すいません。今日は申し訳ありませんでした。中に入ってもよろしいでしょうか。」

「入ってください。」

 中にはイオドとミーコがいる。座って口を開こうとしたらミーコが話をしてきた。

「創さん、ここに暫く滞在してくれるというのは本当なのですか。」

「もし、ミーコとイオドが駄目と言わなければ泊まらせてほしいです。」

 イオドはミーコに気付かれないように触手で〇を作っているから、後はミーコ次第だが。

「お父さん、泊めてもいい?」

「さっきも話したが永久にでもいいぞ。」

 ミーコに言っている。自分の首に冷たい汗が垂れた。

「本当にいいんですね。では、創さん好きなだけ泊まっていってください。」

「流石に何かお仕事はさせてください。凄い申し訳なくなってしまうので。」

「そうですね。神社のお掃除と、箱庭と、その時になったらお願いします。」

 自分がこの神社に泊まることは許してくれたようだ。後はワサビだ。

「それと、本当に申し訳ないのですがワサビも泊めてもらえませんか。お金は階段の途中に背嚢と共においてきたのですが明日、回収して渡しますから。」

 ワサビは自分の巻き添えで町を追われているので、何とか泊めてもらえないか懇願する。

「話は全部、お父さんから聞きました。無理のない範囲ですがどうぞ。あと、お金は良いですからね。」

 これは、直接手渡しても受け取ってくれなさそうだ。後でお賽銭箱に入れておこう。

「ありがとうございます。」

 人の心が温かい。ここは街とは違うな。自分は筋肉痛であったが、一日も休ませてもらって悪いので明日からはしっかり働こうと思う。

 その後、起きだしてきたワサビとミーコたちで遅い夕食を取った。昨日の夕飯から何も食べてなかったのでたくさん食べてしまったが、皆で食べるご飯のおいしさに舌鼓を打った。


 父と休みの挨拶をした後、ミーコはワサビの居る寝室に戻る。創さんの布団は別の部屋に用意したので元々創さんが寝ていた布団で寝れるのでミーコはひそかに喜んでいた。

 寝室の扉を開けると、まだ寝ていないワサビが居る。

「ミーコ殿かたじけのうございます。」

 いきなり土下座でお礼をされる。何も話せなさそうなので、まずはワサビに起きるように言う。

「頭をあげてください。それよりも、昨日の創さんについて教えてください。今日は仕事が多くて創さんのお話が聞けなかったんですよ。」

 お礼よりも創さんの方が気になる。なぜかは分からないがミーコはその感情に従うことにした。

「それならば。………」

 ワサビは、自分よりも会ってから短いはずなのに嬉しそうに語りだす。自分の知らない創さんの事を聞けて嬉しいはずなのだがどうしてか寂しさと悔しさを感じる。

「ミーコ殿?」

 自分の感情を聞いていたため、ぼーっとしてしまったようだ。

「あ、ごめんなさい。続けてもらってもいいですか。」

 ミーコはワサビが話し出した内容に耳を傾けながら、更に創さんと仲良くなろうと決心を固める。

 ワサビは格好いいだとか、情けの鬼だとか何とか言っていた。その言葉に相槌を打つが頭はどこか別の所にいるように感じた。

 そのうちに狐火を消し、二人で寝たがどうしても寝ることができない。ワサビは昼間も寝ていたはずだがすぐに寝入ってしまった。治癒魔法では損傷は治せても疲労や栄養状態などは回復しないので相当にダメージを負っていたのだろう。

 ミーコはワサビが寝静まったと思うと寝室から出て月明かりで仄かに明るい縁側に座る。庭には妙に艶めかしく光を反射する塊がある。いつの間にか庭が元通りになっていたのは父が夜中のうちに庭を手入れしていたからだろう。

「どうしたんだ。」

 父から声がかかる。しかし、どう答えていいか分からなかったので適当に返す。

「なんでもない。」

「そうか、寝れないんだな。夜中に街に忍び込んだことがあるが、そういう時人間は酒を飲むらしい。お神酒でも飲むか?」

 父に供えられたものだから、父がどうこうできるとは思うが、酒を飲みたい気分ではない。

「いや、いらないです。私は戻りますね。」

 結局、何もせずに布団の中に戻る。父が気にかけてくれるのは分かったが複雑な感情はおさまらなかった。どうすればいいのか考えているうちにミーコの意識は闇に沈んだ。


 次の日は掃除や、箱庭づくり、お散歩をした。ちゃんとワサビを止めてくれるためのお金は賽銭箱に入れておいた。ミーコは何をしている時も心あらずであったがどうしたのだろうか。ワサビは直接ではないが鈍い自分でも分かるように好意を伝えようとしてくれるのは分かる。が、気づかないふりをして過ごしている。

 そうして二日ほど過ごしていると、龍が街の方に行ったり来たりする回数も増えた。きっと街では疫病神である自分が居なくなっても、まだ龍が来て恐れているのだろう。そして街の様々な人が、神社によく来るようになる。自分とワサビは街から追放された手前、それらの人々に見られるわけには行けないので裏手の家で隠れていた。

「また、お客さんが来ているので少し行ってきます。」

 ミーコは狐耳を動かしながら言う。いつも閑古鳥が鳴いていた神社に人が来ててんてこ舞いだ。

「ミーコ殿は忙しそうでござるな。」

「なんか、それなのに居候の身になってしまって悪い気しかしないな。」

 少し待っていると、すぐに戻ってくる。忙しそうだ。裏方を手伝うと言ってもそもそも裏方がないと言って断られてしまい、悪い気しかしない。それよりも箱庭を教えてくれと言われているので自分のできる限りは教えようと思う。

「さーて、お仕事は終わりです。」

 本殿からミーコが戻ってくる。箱庭の進捗は三人共に順調だ。自分は木をワサビから借りた小刀で加工している。ワサビは木の皮を荒くほぐしたり削ったりして何を作っているのだろう。ミーコは石で大きな穴を作っている。本当に何を作っているのだろうか。

 暫くすると、また客が来たようだ。またかと思いつつ、ミーコに行ってらっしゃいと言ったが言う前に客が家の方まで来たようだ。

「ミーコォ!」

 ああ、この声はエンドだ。面倒くさい。そのまま、隠れようと思って見回したが隠れる場所がなく部屋に逃げ込む前に見つかってしまった。

「おまえは!街に来たら嬲ってやろうと思ってたのに来なかったな。怖気着きやがって!」

 衛兵さんは自分の事を思って街に入れなかったのだろう。ここで無下にしてしまった訳だが。それに、嬲られに来るドMはここに居ない。

「創さん!」

 ミーコが一足遅れて庭に来た。

「おお、こいつは創っていうのか。俺のお父さんは領主だからな。今から処刑だ!」

 そのまま剣を抜き走ってくる。訳が分からない、というか話すら通じない。鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていると、ワサビが二本の刀のうち長い方を抜き取り構えていた。

「それ以上、近づいたら斬るでござるよ。」

 剣を構えた途端、ワサビから強い気迫が感じられる。

「ウ!」

 直接、気迫を当てられたエンドは硬直し止まる。ミーコはそのうちに自分とワサビの居る方に来た。

「ミーコ大丈夫?」

 こんな頭のおかしい奴に絡まれるミーコの苦労は大きいだろう。心配して声をかけた。

「大丈夫です。直ぐに追い出しますから。」

「あああああ!お前ぇ!俺のミーコを何口説いてんだぁ!」

 心配して声をかけたつもりだがエンドが激高する。あーあー、ミーコも嫌がってるよ。

「私は私の物です!」

 ミーコはその声に反抗する。そして遂に懐から札をまき散らし触手を呼び出す。いつも隠したがっていたはずなのに出してしまった。ミーコに何らかの害が来るだろう。自分なら悪評が悪くなってもマイナスがもっと減るだけだ。

「よく言ったミーコ。触手を呼び出したぞ。どうする!」

 立ち上がり格好つけておく。自分が触手を呼び出したことにしておけばいいだろう。悪評が増えるだけだ。

「クッ!お前は邪魔しかしないな!」

 よし、勘違いしてくれた。刃物を持って怒り狂っている人の前にいるので膝が笑っている。

暫くの間、緊張する空気が漂っていた。そしてその空気は決壊する。

「人の娘をよくも不幸にしてくれるな。」

 イオドの怒った口調の声が聞こえる。

「な、なんだ。というか、誰だ!」

 イオドはこの場にいない。どこから喋っているのだろうと疑問に思っているとその答えは直ぐに示された。下から黒い触手が6本突き出してきたからだ。触手はそのままエンドを囲うように捻じれる。これでエンドは上からしか逃げられないと思ったが、剣をふるうと触手が幾本か切れる。

「ハッ!この程度なら何本でも切れるわ。」

 ああ、触手は簡単にきれるものだった。雰囲気に流されて失念していた。そのままイオドの囲いを突破したエンドは自分と、自分を心配するミーコの方に突進してくる。驚いているワサビは一瞬、反応が遅れたため間に合わない。

「ひぃぃぃい!」

 悲鳴を上げてしまう。すると後ろにいるミーコが謎の呪文を唱える。

 そして、特大の触手が正面に飛び出す。いや、特大ではなく普通の触手が沢山絡まったものだった。

「オリャア!ンギャッ!」

 正面から触手の塊をぶつけられたエンドは半分にぶった切ったが質量には勝てず押しつぶされる。

 気が抜けてしまった自分はそのまま、座り込んでしまう。

「創さん大丈夫ですか。」

「大丈夫だよ。それよりありがとう。」

 ミーコが自分を立たせようと手を差し出す。それに手を差し出すが、普通逆ではないのだろうか。本当情けなくて泣けてくる

「創さん泣いているんですか?」

 これは涙ではない。目から出る汗だ。ミーコに手を引っ張られる。しかし、腰が抜けていて立てなかった。

「ごめん、腰が抜けちゃって駄目みたい。」

「創殿、火熊を倒したのではないでござるか。」

 ワサビが呆れたような声で言う。

「それはミーコがやったって言ったはずだけど。」

「創さんがほとんどやっていました。」

 何度も言うが必死であったためどちらが倒したかなんて重要ではない。生き残ったことが大切だと思う。二人で指をさしあうとワサビは困惑の表情になる。

「それはそうと、触手の事を誤魔化してくれてありがとうございます。」

「いいんだよ。それと、腰が治ったらここを出てくよ。今までありがとう。」

 ミーコは驚いた顔をする。ただ、自分は迷惑を一手に引き受けたような存在なのでそうするべきだろう。しかし、自分はもっとたくさんここに居たかったな。

「創さん、触手の事はいいですからここに居てください。」

 ミーコは泣きそうだ。

「創様、ここに居ても別に問題ないですよ。」

 イオドも引き留め始める。話が長くなるのは嫌いだから夜中に勝手に去ることにしよう。

「一日考えさせてくれ。それとイオド、また庭を荒らしてすまんな。」

「永久にここに居てくれてかまいませんからね。あと、庭はまた後で直しておくのでいいですよ。違う配置にするいい機会ですからね。」

 嫌な顔をせずに庭を荒らしたことを許してくれた。

「守れず申し訳ありませぬ。」

 ワサビは不意を突かれ守れなかったことを謝ってきた。そんな悔いなくてもいいのに。悪いのは全て怒って暴れて庭に転がっているエンドなのだから。

「いいんだよ。それと、火熊は偶然倒せたって言ったことに納得してくれた?」

「今まで無理に強くなるための秘訣を聞いて申し訳ありませぬ。」

 自分も、なし崩し的に箱庭仲間を増やそうとして悪いとは思っているから言い返せなかった。

「あの~、これ捨ててきますね。ミーコ、昼は完成してるから皆さんで食べてください。」

 きっとミーコの丁寧な口調もイオドから受け継がれた物なのだろうと関係ないことを考えていると、エンドは触手に引き摺られていった。庭を荒らされてか、とても雑に扱っていたのは見なかったことにしよう。

 エンドが去ってから食事をしたが三人とも必要最低限の会話以外はしなかった。仲が急に悪くなったからではなく、危なげない三人の関係をさらに悪くしたくないからだろう。自分は嫌われて出て言った方が後腐れがないとは思ったが、二人に嫌われるのは嫌だったのでどうしたらいいか分からなくなった訳だ。

 午後の箱庭づくりも進まなかった。考え込んでしまってなかなか進まない。イオドが戻ってきた時も気づかなかった。

「ミーコ。」

「おーいミーコ~。」

 イオドはミーコの肩を叩いてミーコを呼ぶ。

「はいっ!何でしょうか。ってお父さんですね。」

「三人ともボーっとしてどうした。」

 急に触手で指され話を振られたので答える。

「はい、ちょっと考えていて。なんか、凄くお世話になったのに申し訳ないことばっかりしているなって。」

 違う、本当はここに居たいのに離れようとして悩んでいるなんて口がさけてもいえない。

「某は強いとは何かということを考えておりました。」

 ワサビは武について思考を巡らせていたようだ。難しそうだ。そしてイオドは最後にミーコを触手で指す。

「いえ、ちょっとここでは言えないといいますか、あのその。」

 ここでは言いたくないそうだ。

「そうか、もう大丈夫だぞ。ちょっと何かないか探してくるから縁側で座っていてくれ。」

 言いたくないことを強制することもできずにイオドは話をやめ、玄関の方へ向かった。三人とも、作業をやめ縁側に座る。

「創殿、某の箱庭はどうでしょう。」

 ワサビは顔色を窺うように小さい体をさらに小さくして聞いてくる。まだ地面しかできていない箱庭を差し出してくる。荒れた木の皮でできた地面は荒野のようだ。

「荒れ方が不均一で荒野みたいだよ。灰もかけてあるんだよね。」

「はい。樹液で灰と炭を地面に固定したでござるよ。」

 荒野といったのが気に入ったのだろうか、細かい点についても説明を受ける。

「では私も見てもらえないでしょうか。」

 ワサビに続きミーコも自分の箱庭について問いてくる。

「こ、これは穴かな。しかも黒い。」

 ミーコの箱庭は黒い穴だった。反応に困る。

「はい。後で光ってるキノコの胞子をくっつけます。」

 穴の中は陰でよく見えないので光っているところが強調されて見えるのだろう。中々きれいに風景になりそうだ。

「へー、もう完成予定図ができてるんだね。」

「そうです。ただ材料がないので、また回収しようと思います。所で創さんの庭はどうですか。」

 どうしたらいいのか分からず沈黙をしたが、話すだけで悩んだことが無駄だったと思った。

「これだよ。土と砂利を入れてコケを生やしただけだよ。」

「先ほど某から小刀を借りて作った、この棒は何でござる?」

「秘密だよ。これがないと作れないものがあってね。」

 自分はワサビに小刀を返しながら答える。天然の石でも面白いものが作れることは作れるのだが、人工物はこうやって手を加えないと作ることが難しい。

「そうなのでござるか。それでは完成まで楽しみにするでござるよ。」

 まだ二人が作りたいものが分からないので、完成するまでテーマは秘密という約束事は守られているだろう。

「おーい、ミーコはこぶのをてつだってくれー。」

 イオドからミーコに声がかかる。

「少し手伝ってきますね。」

 ミーコは立ち上がり、玄関の方に行った。尻尾が揺れていたので少しは安心してくれただろうか。だからこそ、夜中に抜け出すのが悔やまれてしまっている自分がいる訳であるが。ミーコが居なくなったのでワサビの方を見ると、少し微笑む。

「どうしたでござる?」

 ミーコが居なくなってしまったので、向いただけなので特に深い意味はなかった。

「いや、こっちにしか人が居なかったからさ。あと、本当に火熊の事は騙していたみたいでごめん。」

「そういう事でござるか。それならば見ても減らぬのでお好きなだけ拝見くだされ。それと、火熊の件はもっと凄いことが分かったので別に気にしておらぬ。」

 本当はもっと色々と文句でも言われそうであったが何も言われずに済むのであればそれでよい。

「それならよかったよ。」

 自分がワサビに対して返答をすると、廊下の奥から足音がする。

「おやつの時間です~。」

「あ、ありがとう。」

「かたじけない。」

 ご機嫌なミーコがお盆に何かを載せてきた。後ろにはイオドが着いてきていた。ミーコは元に居た場所に座りなおし、皿を分ける。皿の中には、自分が渡したそうめんが入っていた。

「まだ暑いので食べたくなったそうです。」

 イオドの上にそうめんを載せながらミーコが言う。用意をしたのはイオドなのでイオドが食べたかったのだろう。というか、触手に暑いなんて感覚がある方が驚きだ。

「ミーコ殿、この透明なのは何なのでござるか。」

「一口食べればわかりますよ。」

 ワサビは既にそうめんにくぎ付けになっていた。自分もそうめんを見ると、半透明の細長い食べ物がそうめんに混じって入っている。

「こ、これは、ところてんですな。」

 入っていたのはところてんだそうだ。まあ、合うかはどうかとしてそうめんに入っていても違和感はなさそうだ。

「そうです。わさびがあいますよ。創さんも、ほらどうぞ。」

 自分もミーコにすすめられてそうめんを食べる。そうめんはコンビニで買ったものであるのでごく普通のものだ。ただ、ところてんは砂糖が多めに入っているらしく甘い。しょうゆベースのめんつゆによく合う。

「これは、おいしいな。食事では食べないけど、間食にいい。」

「かさ増しのつもりで入れただけですから、そんなに褒めなくてもいいです。」

 そこそこ腹にたまる。

「私は部屋で食べますね。」

「洗い物は部屋に置きっぱなしにしないでください。」

 ミーコと自分が会話をするのを横眼から見ていたイオドは何を思ったか推し量ることはできなかったがミーコの言葉に触手で答えながら去っていった。

「もう、心配性なんですから。」

 ミーコはイオドが去っていった方に向いて言う。とても心が痛い。なのでわさびをかけたかさ増しそうめんに入れて食べる。ワサビの辛さと香りで中々においしかった。ミーコは何も言わずに自分の方を見ていたので恥ずかしかった。


 昼のエンドの襲撃以降、特に何も問題はなく事は順調に進んだ。夕食も取り、既に消灯もしている。

「さて、行くか。」

 イオドは何処にでも這いずり回っているので、しっかり誰もいないかは念入りに見ておいた。とても名残惜しいが、汚名を着るのは自分で十分だ。ミーコには幸せに暮らしてほしい。

 これから一人で旅をすると考えると、お金、体力、どこに行けばいいのかなどの心配が浮かんでくる。しかし、それ以上にミーコと会えなくなる寂しさが思い浮かぶ。だが、自分が去らなければここに迷惑がかかる。もう十分すぎるほど迷惑はかけている。

 布団をたたみ、造りかけの箱庭以外の物を持つ。箱庭も持っていきたいがこれを持って移動できるほど自分の体力に自信はないからだ。幸いにも自分の荷物は背嚢に収まりきっているので、大方、物は持っていける。

 寝巻はたたんで布団の上に置いて置く。

 自分は最後にも一度だけ部屋を見回してから出発した。靴は玄関にあるのでミーコとワサビの寝ている部屋に影が映らないように歩こうとすると、明かりがついているのに気が付いた。縁側に降りてしまうと、砂利の音が大きくたってしまう。ミーコは耳がいいからすぐに来てしまうだろう。

 少し考え込むと単純な解決法が思いついた。それは、部屋の中が明るければ月明かりで障子に影が落ちないということだ。当たり前だが、焦っていると思いつかないものである。

 そうして自分は問題なく、ミーコとワサビの居る部屋の前を突破した。

 玄関から先は、音を立てることもなく鳥居まで進む。玄関から本殿前まではイオドの趣味だろうか、岩が埋まっているのでそれを通っていった。本殿前からは石畳なので砂利を踏む心配はない。

「お世話になりました。」

 僕は鳥居の下で本殿の方に向かって挨拶をする。きっと伝わることはないが言っておく。少しだけ気が楽になった。神社からステルスで去ることに緊張していたからだろうか。

 石の階段から先は誰にも見られる心配はないだろうと、下っていく。前に暗闇の中、登ったが不注意で怪我をしていたので注意して下る。

 途中、下から松明を持った集団が来たので階段の脇の草の中に隠れる。

「おいエンド。本当にあの男が居たんだな。」

「ああ、あいつは触手で俺を制したんだ。あんな邪法が使えるってことはミーコが洗脳されているかもしれない。」

「それは困るな。神社の巫女さんがいなくなれば、神事を取り仕切ることもできん。」

 6人ほどの集団が自分のすぐ隣を歩いていく。中にはエンドもいたが自分が居なければ発狂する理由もないだろう。少し心配だったが灯が見えなくなるのを確認してから階段に戻る。もし出会ったら、全員が武装をしていたので自分が殺されたかもしれない。ホッと一息をついてから階段を下る。

 しばらく下っていると、ミーコやワサビが心配になってきた。まあ、ワサビなら全員、斬り伏せるだろうから大丈夫だろう。そう思い込むことにした。

 心配事が胸で渦巻いているのを感じながら階段を降り切ると、階段前の池が見える。階段前の池には月があいも変わらず映っている。ただ、雲に隠れ自分の心の不穏さを表しているようだ。

 登りと同じように、池を見ながら少し休むことにする。

 だが、静寂が自分の孤独を強調しているように感じ、休む間もなく出発することにした。

 街とは別の方向に歩いていく。こちらの方向には何もないはずだが、街には行けないので仕方がない。


 夜半、ミーコ殿と話す。ミーコ殿は創殿の好意を受けていると思う。自分は、どうだろうか。階段で転んで運んでくれてから、創殿を見ると心が躍る。ただ、創殿には一歩引かれてしまっている。はしたない女だと思われているのだろうか。そういった点で、ミーコ殿には仄かに嫉妬してしまっている自分がいる。

 ミーコ殿も、自分が創殿の話を沢山していることに何か思っているのだろうか。

 剣術をしていると、相手の様子を見ているだけでなんとなく、どんな状態になっているか察することができるようになった。師匠にも、駆け引きをする点において有利だと褒められたが、こんな気持ちになるのだったら分からない方がよかったと思う。

 二人できゃっきゃと、話しているとミーコ殿が急に話を止めた。

「誰かが神社に来たようです。一応、玄関を閉じてはいますが縁側から入られるでしょうから挨拶をした方がよいでしょう。」

 こんな夜遅くに神社まで来るということは何かあったのだろうか。少なくとも普通ではないということは分かる。というわけで、二本の愛刀を自身に寄せておく。

 暫くののち、玄関が乱暴に叩かれガラの悪い声が響く。

「こんばんはー!開けてくださいー!開けろぉ!」

 扉には閂がかけられているが、ちゃちなものであったのですぐに壊れるだろう。

「ワサビさんは縁側から玄関へ続く廊下に陣取っていてください。私は玄関の相手をします。」

「創殿はどうするでござる。」

「創さんはお父さんが気に入っていたので何とかしてくれるでしょう。自分の身を守る方が先決です。ではいきますよ。」

 ミーコもタンスの中から大量に紋様の描かれた懐紙を取り出し、臨戦の構えになると玄関に向かっていった。

 自分が廊下に陣取り、陰に潜んでいると三人の男が縁側から上がり込んでくる。全く賊には罰が必要だなと思い、抜刀の構えをする。ミーコの知り合いを殺してはいけないとは思ったので鞘ごと斬りつけるつもりだが。

「おらぁ!あの男は何処だぁ!」

 あの男とは創殿の事でござるかと、心の中で叫ぶ。しかし、今は隠れているので声は出さない。どたどたと、無礼な客は部屋を荒らしまわる。

 暫くたつと、男たちは創殿を発見できなかった様で玄関の方に歩いてくる。この短時間に創殿は何処に隠れたかなどと、関係のない疑問は捨て、待つ。ワサビは精神を統一し目を瞑る。不注意なまま歩いてくる三人組など訓練を重ねた自分に及ばない。そう自分に暗示をかけ、不幸な一人目の顎に鞘を当てる。

「ぐぎゃ」

 バキッと音が鳴る。掠るような手ごたえに決まったと、判断する。

「某は正々堂々を信条としているでござる。故に卑怯な手がありならば某も泥臭く戦うでござるよ。」

 一人目が倒れ茫然としている二人に向かって口上代わりに一言言い、低姿勢で襖を弾き飛ばしながら部屋の中に入る。ミーコ殿には申し訳ないので後で謝っておこう。

 二人目と三人目は判断速度が違った。二人目は部屋に入った自分を直ぐに追ったが、三人目の男は二人目が動き出してからハッとしていた。

「ちょこまかとぉ!」

 生憎、接近戦は苦手なのでしたくはない。なので急に方向転換し、追ってくる二人目の男に向かう。男はそれが好機だと思ったのか、抱き着くような姿勢で走ってくる。

「ソイヤッ!」

 だが悲しいかな、ワサビは刀を槍と見立てて鳩尾に突きをする。

「グフッ!」

 男は肺の空気が一気に抜けて苦しそうだ。これで短時間、行動が制限されるはずだと思ったが、その男は鞘を握りしめる。

「へへ、武器がなけりゃこっちのもんよ。」

 刀をがっしりと掴まれる。引っ張れば本身になってしまう。本身にしては殺してしまうので武器を手放す。そうしたやり取りの中、三人目の男が駆けてくる。そして三人目の男は自分の腰に抱き着き動かないように押さえつける。

 判断が遅れたと反省の念が生まれるが、そんなことを考える時間もなく次の行動に移る。

「おおおお!」

 小柄な自分の身体をタックルしたまま運ばれる。踏ん張ろうとしたが、持ち上げられ地に足がない状態では意味がない。そして三人目の男は、縁側から外に出て、ワサビを下にするように地面に接地する。

 カハッ

 肺から空気が漏れ、非常に苦しい。下に箱庭用に集めていた大き目の石が下敷きになっているのを感じる。背骨に当たっていれば危険だった。しかし、その石はワサビの肋骨を割った。

「ざまあねぇな!」

 男は体勢を変え馬乗りになってくる。抵抗をしようと殴りつけたものの腕の長さが足りず空振りに終わってしまう。

「死ねぇ!」

 空振りに終わったワサビのゲンコツを見た男は嗜虐を楽しむかのような顔で殴りつける。初撃は顔にいれられたものの、それ以降は腕で受け流す。ワサビは数秒の間激しい攻撃を捌き続けた。

 その拮抗は直ぐに破られる。理由は簡単。肺臓に肋骨が刺さっていたからだ。激痛を感じてはいた。耐えられるからと甘く見ていたのが大きかった。血でおぼれる。まだ片方の肺が残っているが限界に近い。

 防御の甘くなったワサビに数発の殴打が当たる。

「お、弱ってきたじゃーん。」

 声色が愉悦に浸っている。抵抗をしたいが、体が歯車の壊れたからくり人形のようにうまく動かない。

 そして、男が無駄に大振りに殴りかかろうとした時、上の方からイオドの声が聞こえる。

「おっと、それ以上はいけませんよ。」

「今いいとこなんだよっ!邪魔すんなっ!」

 男はイオドの忠告を無視し、再度腕を振り上げる。

 ワサビは拳に備え身体を固くしたがそれをする意味はなかった。

「ウッ!」

 三人目の男の脇腹に触手がめり込み、弾き飛ばされる。それだけで自分が苦労した男は倒されてしまった。

「ワサビさん、部屋の中の男もしっかり倒しておいて下さいよ。起き上がってきてましたよ。」

 イオドは、自分の詰めの甘さを責めているようだった。確かに助けてもらったので礼を言おうとする。

「ゴポッ」

 気管に血が流れ込み、上手く発声できない。

「あ、大変だ。」

 自分が血の泡の返事をしたのでイオドが焦って屋根から落ちたのを見たのまでしか記憶には残っていない。


 月も傾き、肌寒く感じてきた頃、自分は歩き疲れて少し森の中に入った場所に居た。寝るための道具は何もなかったが、土やマントのおかげで快適だ。最近は歩いてばかりでよく疲れる。そしてお腹もすく。

 森際の川で水を一飲みし、空腹を紛らわせてから適当な場所に腰を落ち着ける。

 近くでがさがさと音がしたが、疲れで気にする気も起きない。

 何に対してか分からない、そして今日何回目になるかもわからに溜息をついて目を瞑った。


 寝心地は悪くなかった。寧ろ最高だ。周囲が明るくなっていたため目が覚めた。動こうとすると体が動かない。首は動いたので周囲を見回すとミーコがいる。そして自分はミーコの触手に雁字搦めにされていた。

「おはようございます。どうして何も言わずに出て行ったんですか。」

 起きた自分に気付いたミーコが質問をしてくる。触手の方も力が弱まり無理に動けば逃げることもできるだろう。ただ、言葉に怒気を感じるので大人しく答える。

「あれ以上居ても迷惑にしかならないと思ったから。それに、何か言っていたら全力で引きとめられていただろうから。」

「馬鹿ですね。」

 まあ、やったことは馬鹿なので否定はしない。触手が絡みつくように締め付けてくるが苦しくはない。

「どうしてここが分かったの?」

 深夜に一人で出て行ったので場所が割れている理由が気になるので聞くとミーコが教えてくれる。それをまとめるとこういうことだ。ワサビが二つにしたイオドの身体は、いまだに二つある。両方とも適当なものを食べて体積的には同じだからくっついただろうと錯覚させておく。エンドを街に捨てに行った個体は神社の階段の下に配置しておく。何か暴漢六名が来たから神社に伝えるため階段を上がっていたら自分が居たから気づかれないように隠れていた。そして隠れて着いてきて寝たから神社に何処にいるか伝えられた。ということだ。

「あと、草を揺らしたのを見に来られたらばれてたと言っていました。」

 昨日、見る気力のなかった草の事だろう。だが、ここまでしてミーコが追ってきてくれたのだ。謝ろう。

「遅れてごめん。勝手に出て行って申し訳ない。」

 触手に体の自由を奪われ情けのない状態での謝罪だがミーコは真摯に受け取ってくれたようだ。

「いえ。いいんですよ。ええ。」

 涙がミーコの頬を伝う。本当に悪いことをしたなと、反省する。ミーコが落ち着いたようで泣き止んでから話が再開された。

「所で六人の暴漢はどうしたんだ。エンドもいたけど。」

「ああ、それはですね。全員捕縛しました。触手を見られたので全員処そうか話し合う予定です。」

 ワサビが居れば全員倒すのも訳ないだろう。

「それは良かった。怪我とかはないの。」

「怪我ならかすり傷だけです。二人とも。」

 この世界は治癒魔法があるから大怪我もかすり傷だったりしないのかな。

「生きているなら、大丈夫だよ。」

「はい。じゃあ、帰りましょう。」

 ミーコは帰る間も自分が逃げるのか心配だったようで触手でおんぶされながら運ばれたのであった。後ろから四足歩行で追いかけてくる触手もいたが気にしたら負けだと思う。


 神社に着くと、ミーコの家は大荒れだった。物がそこら中に散乱し部屋を仕切る障子や襖が壊れていたのである。

「六人は縛って本殿に入れておいたから大丈夫ですよ。」

 急にイオドに声掛けされる。自分はミーコの触手が足についているのでミーコから遠く離れることはできないので見に行くことはできない。

「それは安心です。ワサビは大丈夫ですか。」

「ええ。生きてましたから。」

 なんか原形をとどめているか不安になってきた。イオドにミーコについていく旨を伝え去る。

「まあ、その様子だったら娘に相当気に入られてますね。では。」

 ミーコに悪いことをして心配させてしまったので好きなだけ掴まれていようと思っている。

 ワサビが居るという部屋にミーコに案内される。

「ワサビ、大丈夫か。」

「某、目測が甘く不覚を受けました故。次からは全力でことを成すでござる。所で創殿は何処にいたのでござるか。」

 自分はこの神社に居なかったことをワサビに告げたらどうなるだろうか。近くに座ったミーコは何も伝えていないようだ。なので、自分は神社に居なかったことを素直に伝える。

「そうでござるか。創殿が無事でよかったでござる。」

 何も起こられなかったどころか、身を案じてまでくれていた。

「何も言わずに去らなくてもいいですのに。」

「そうでござるよ。言っていただければ某もついて行ったでござるのに。」

 女子二人は、二人共々意見が同じようである。

「すいませんでした。不利益を被るのは自分だけで十分だったと思ったので。」

「次からはしっかり言ってください。」

 何か言われると思ったのでふとワサビの方を見るとワサビは何も言わずに考え込んでいる。

「あれ、ワサビどうしたの?」

「ええ、今くだらないことを考えていたでござるよ。」

「どのようなことですか?」

 ミーコがワサビに聞く。

「本当にくだらない考えでござるよ。聞いても何も言わないで欲しいでござる。」

 そうワサビは前置きしてから話し出す。

「すべての元凶は龍でござるよね。それなら息の根を止めてしまえば創殿には不利益が出ないでござるよ。それに某なら龍狩りの誉れが手に入るので言われずともついていくでござるよ。」

 火熊を討伐するのでも必死だったのでそんなことは狂気の沙汰だと思う。

「それって、龍に責任転嫁するってことだよね。」

「まあ、原因の一つでござるからいいでござるよ。」

「それに、自殺でもしにに行くのかい。」

「まあ、何とかなるでござるよ。」

 ここでミーコが口を開く。

「いいですね。最近、神社によく人が来て大変ですから私もついていきます。」

「おお、これで三人でござるな。」

 既に頭数に入っていたようだ。どうやって生き延びようか。それと、ワサビは寝ているものの怪我がない様子なので安心した。そうして龍狩りの作戦会議が始まった。

 作戦会議では自分が罠を仕掛け、ミーコが妨害し、ワサビが首を斬り飛ばすといった抽象的なことしか決まらなかった。何とかなるやろ。知らんけど。


 会議後に昼食をとる。昼ごはんののちワサビは昼寝、自分とミーコは縁側でお茶することになった。家は荒れているが、全部取っ払えばいいと言われ片付けはさせてもらえなかった。

「ミーコさん、ミーコさん触手を取ってもらえませんか。」

「え、分かりました。」

 今日は会ってからずっと触手狐モードだ。触手を取ってもらうように言うと悲しい顔をしていたが、すぐに解いてもらえる。

「ありがとう。それとまた触手に囲まれてもいいかな。」

 ミーコは先ほどまでの悲しそうな顔から花が咲いたような嬉しそうな顔になる。

「いいの?」

「いいよ。」

 ミーコの触手は恐る恐るだが大量に絡まってくる。生暖かくて気持ちいい。

「ありがとう。」

 触手に大人しくなされるがままにされていると、ミーコから感謝の言葉を受ける。

「何が?」

「えっと、私を受け入れてくれて。」

 きっと、触手がコンプレックスだったのだろう。自分では悪いと思う点も案外悪くないことがある。間違えた、最高なこともある。

「ああ、なんかもうミーコのヒモになりたい。」

「なんですか、ヒモって。」

 独り言で言ったつもりだがしっかり聞き取られていたようだ。

「ミーコは耳がいいなぁ。」

 とりあえず、ヒモについて説明したら全力で駄目人間製造に取り掛かられそうなので適当に話をずらす。

「狐ですからね。それよりヒモとは何ですか。」

 これは追及から逃げられそうににない。

「ミーコの触手は心地いいなぁ。」

「仕方がないですね。」

 そのまま自分は寝た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ