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  作者: 神崎
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嘔吐

いつも通り3人は図書室へ向かおうとしていたところである。早朝、そしてこの町ではまず聞くことのない静かで気品のあるエンジン音が聞こえてきた。見ると向こう側に黒いセダンが止まっている。総令は「あれは、高官の車だ」と言った。「ほう。初めて見たが、やはり良い暮らしをしているらしいな。見たまえあの肥え太った体を。軍服が今にもはち切れそうな勢いだ」と瑯華が言ったあとすぐに広梅が「しかし、なぜあのような上級人民がここにいるのだ。この街には何もない。あるのは紊乱のみだ」と言った。総令は「父はこういったことを非常に嫌っていたが、父の友人が話していたことがある。おそらく女を買いに来たのだろう。兎嶺院や鶴宴では党や国家警察の目があるから、貧民街くんだりまで出かけて女を安値で買い叩くのだ。」と話していたら、黒いセダンから高官の側近がおりてきて、「君たちの中で国家のために尽くす精神をもったものは誰だ」と言った。瑯華は「さらに注文があるのではないか。処女だとかな。」高官の側近は全く予想していたように「そうだ。処女でなければならない。最も、その垢ぬけぬ見た目からすれば全員処女のように見えなくもないが」そう言った高官の後ろで、「早くし給え。もはや人の形をした女なら何でもよい。その三人の中から一人適当に連れていけ」と言った。高官は「もういい。お前を連れていく。避妊はしてやるし、それなりの金ははずんでやるから来い」と広梅を引っ張った。

瑯華は「このような横暴が」と駆け寄ろうとしたが総令は「待て。中に乗っている男の胸にある勲章の数を見よ。さらに中央に光る金の勲章は『国家大貢献記念勲章』だ。あれは相当な権力を持っている。おそらく高官の中でも党に相当近い人間だろう。下手に歯向かったら最悪この場で銃殺刑だ。」と諭した。

瑯華は「では、このまま指をくわえて見ていろというのか」と言った。瑯華は「ならば、こちらにも手がある」と言い車に駆け寄ると「待て。それでは、私が付き合おう。私の膜を破るが良い。その女を解放せよ」と言った。広梅は「私に構わなくてもよい。学を修めるため図書室へ急ぐが良い」と言ったが瑯華は「それならば、願うことはこの少女のことが済んだら、午後6時までに金海総合高校の門前に返してほしい」と、発進しようとする車に向かっていった。運転手の男は後の肥えた男に何か話すと、運転手は「それは約束しよう。さて、早くどかなければこのまま轢き殺すぞ」

と言った。瑯華がさらに何か言おうとした瞬間、車は急発進し、とっさによけることに成功したが瑯華は身体を地面に強く打った。車は猛スピードで空いた道路を去っていった。総令は「身体は無事か」と駆け寄った。「私などは大したことはないが、最も広梅が心配だ。愚かな高官ども、馬の屑肉にも劣る存在だ。畜生め。」と叫び、道に向かって唾を吐きつけた。総令は「とりあえず、図書室へ向かおう。時間はもはや7時を迎えようとしている。」と言い、再び学校へ向かって歩き出した。図書室で自習をしながら瑯華は「だめだ。今日はまるで学に没頭することができない。畜生。あの下卑た男は、本当に広梅を返してくれるのだろうな。」と言った。総令が「確証はできない。」と言ったとたん瑯華は机上に身を乗り出し、「ふざけるな」と言い総令に飛び掛かりかみそのまま倒れこんだ。総令はずれた眼鏡をかけなおしながら、「落ち着くが良い。あくまでもわずかな可能性として有り得る、という話だ。いくら党に近い高官といえど、見ず知らずの貧民街の少女を一生の女にしようなどとは到底思うまい。ましてや、ああいった身分の連中はみな数人、所謂『妾』がいるものだ。広梅は言い方を過ぎれば、その場のみの遊女に他ならない。」と言った。瑯華は煙草に火をつけると、」総令から退いて「それならば良いが、結局広梅の身体は傷つくことになる。まだ16の少女には重いことだ」総令は起き上がると、「そろそろ約束を取り付けた時間だ。外へ行ってみようか」と言い、二人で外へかけていった。門の前でしばらく待っていると、向こうから物凄いスピードで黒いセダンがやってきた。しかし、まったく停車する気配はなく、門の少し手前でドアが開き、そこから何かが突き落とされて地面を転がった。駆け寄ってみると、それは広梅である。何をされたのかは想像に難くないが、見るとその顔は青ざめて、もはやどこかの虚を見つめている。とりあえず広梅を図書室へと運び、机の上へと寝せた。総令の鞄を枕にし、しばらく寝かせていると、発作のごとく起き上がり、周囲を見渡した。そして安堵の表情を浮かべ、また倒れこんだ。瑯華は真っ先に駆け寄って、「身体は」と言った。広梅は「大丈夫だ。漸く解き放たれたか。もはや恐怖だとか、憎悪だとか、事はそういった次元をとうに超えている。今の気持ちはただ、ここに私がいる。ということだけだ。」と言った。だが、その直後に広梅は窓の外へ走り、激しく嘔吐した。瑯華は「吐瀉物にまみれた口元を自らの手で拭い、広梅を抱き締めた。

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