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  作者: 神崎
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迎え酒



2 題未定


とある貧民街に、三学女という独自の概念が生まれて一週間ほど経ったころの早朝である。総令はやや急ぎ足で古びたビルディングの階段を登って行った。約束を取り付けていた瑯華が、結局来なかったためである。「203蕃昭」という木札のかかった扉をノックすると、中からは何も聞こえてこなかった。ドアノブを回すと中は暗がりに満ちており、総令は何か生々しいものを踏んづけたのを感じた。自らの身体を反らし、外の光を入れるとそこには酒瓶を持って倒れている長身の男がいた。大体の予想はつくが、奥へ進むとそこには気絶したように寝ている瑯華がいた。普段煙を吸っている、口の悪い長身の少女は今となってはただの屍のごとく横たわっている。よく見るとところどころに痣がある。とりあえず起こさなければならないため、軽く頬を叩いたらゆっくりと瞳を開けた。その瞳こそ世相をにらみつけているが、どことなく純朴な少女のそれがうつる。総令は「これを飲むと良い」と水筒を差し出すと、瑯華はそれを飲むかと思えば、口に目いっぱい含んだ水を男に向かって吐きつけて、「これが私の迎え酒だ。たんと浴びるがよい。私はここを出ていく。安酒をあおり、一生幻を見ているがよい。」とそこの男を足蹴にした。「外へ行こう」と瑯華が言ったので、外へ行くことにした。相変わらずどこか下卑た臭いのする埃っぽい町を歩きながら、瑯華は何か吹っ切れたように「あの男はこの国の紊乱にすっかり溺れた情けない男だ。親だとは思っていない。私の親は目の前で銃殺された母のみだ。」と言った。」例のごとく二人で図書室へ向かうと、そこにはもう広梅が自習に取り掛かっていた。広梅は「瑯華。貴女はなぜに涙を流す。」と言った。瑯華は頬を触り、その指が濡れているのに気づいた。長身の少女の、限界点を突破した瞬間である。その涙はさらに止まらなくなった。「判らない。もはや何も考えることができない。ただ、」と何かを言いかけたところで広梅は瑯華を静かに抱きしめた。その瞬間、瑯華は崩れるように倒れこみ、「これが人に寄ること、か。まさか齢16でそれに気づくとは。もはや何も堪えることはできない」言った。広梅は「堪える必要はない。それが今の気持ちだろう。今は総てを吐きだすが良い。」

と言った。総令はその様子を腕組をしてただ黙っていた。。最も、総令にとっては瑯華の事情などどうでもよく、むしろこの時大いに警戒していた。広梅のこの行動と、瑯華を抱き締めたことで気持ちが大きく瑯華に傾いてしまうかもしれないからである。



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