春の出会い
まだ肌寒い風が吹く四月。1学年15クラスある碧英高校ではクラス替えは無く、次の年も変わり映えのないメンバーが揃っていた。
それでもクラスの雰囲気はどこか浮いていて、何か新しい出会いを感じさせるかのような賑わいをみせていた。
そんな中、窓際の席で外を眺めていた俺に近づいてくる人物がいた。
じゃがいもの様な丸い身体の男は、俺が最もよく知る奴だ。
「なんだよ凪。こうゆう雰囲気は苦手か?」
「なあキラ、自己紹介やってみないか?」
「初めまして符灯凪君。俺の名前は田中煌巡好きな物はぎゅうにゅーーーー」
「はいはいもういいよ知ってる。お前も変わらんなーキラ」
このノリノリで自己紹介した奴はきらめくとかゆう超きらめいた名前だが本体は全くきらめいてない。
ぽっちゃり体型だし髪薄いしきらめいてる要素が無い。なんでこいつの親はこの名前にしたんだか・・・・・・まあ生まれてきた時点ではどう育つかなんて分からないんだけも。
「なぁ凪、お前部活には入ってなかったよな。今日俺らの同好会で遊びに行くんだが一緒にどうだ?」
「やだよ、お前らの同好会ってあの妙に神々しい名前した奴の集まりだろ。俺の名前普通だし」
そんな感じの返事だろうと思ってたキラは、まあそうだよなーと言って去って行こうとしたが再びクルっと向き直った。
この流れはいつもの事なので俺は机の上に既にアレを用意していた。
「宿題な、分かってるよ」
「話が早くて助かるぜ〜。流石学年トップを争う凪はちげーな」
そう、俺は頭が良い。この人数が半端なく多い高校でもトップレベルにだ。
一人で高らかに笑っているとクラスメイトが引き気味に俺を見ている事に気づく。かなり恥ずかしい。
いや、うん。こんなに人の注目を集められるなんてキラよりきらめいてる。
そんなことを考えて恥ずかしいのを誤魔化しながら席に着くと、宿題を移し終わったキラがありがとなと言って自分の席に戻って行った。
それからしばらくすると担任が教室に入って来て、クラス全体もいつも通りの雰囲気に戻って行った。
それから、1日何事もなくいつもの様に過ぎていき、ホームルームを終えた生徒達はそれぞれ部活に向かったり帰宅したり、教室に残って騒いでいる者もいる。
キラもさっさと同好会の方に行ってしまい、いつも通りの手持ち無沙汰ぶりである。
「さて、今日はどうするかな」
いつもならさっさと帰るところだが、クラスの雰囲気にやられたのか自分でも気持ちが浮ついているように感じる。
ただ、教室に残っていても変に目立つだけだ。早急に次の行動を取る必要がある。
「けどこれといってすることも無いし、やっぱり帰るか」
教室を出る時クラスメイトに挨拶をして廊下に出る。
何だかんだ気さくな奴が多いクラスだけあって、あまり話したことのない俺にもしっかりと返事をしてくれた。
廊下に出る。新鮮なのは教室だけではない、廊下の景色も同様だ。
しかし流石に慣れもしてくる。いつも通りなら左に向かうのだがーーーー
「まあたまには学校を少し見てから帰るのもありか」
碧英高校はその校舎もとてつもなく大きい。たとえ教師でもその全てを把握してるとは思えない程には。
「それじゃあ行きますか」
まるで始めてくる土地で、好き勝手に行きたい方に歩いて行く時のようなワクワク感を微かに感じていた。
第三棟の二階に位置する場所にやって来た。
そこは人の気配が全くなく、しんと静まりかえっており心無しか肌寒く感じる。
なんだよ、図書館なんかよりよっぽど勉強に集中出来そうなとこだな。
普段は図書館などで勉強するのだが、静かといってもかなりの音はする。
それに比べてここは、聞こえるのは自分の足音くらいだった。
部活をしている部も多いだろうが、隔離されたようにその音も聞こえない。
何に使われているかも分からぬ教室を横切りながら、先に進んで行く。
遂に終わりが見えて来た。しかしここに来て、この静かな空間に音が割り込んできた。
「ーーーーーーーーすわ。ーーーーです。」
「!?」
突然、微かに聞こえてきた女性の声に体がはねる。
その声は一番奥にある教室から聞こえてきているようで、何を言っているかまでは聞き取れない。
「・・・・・・行ってみるか」
怖さを紛らわすため、あえて声に出す。
そのままゆっくりと近づいていくが、相変わらず何を言っているのかは、はっきりとは分からない。
そして遂に声が聞こえる今日の前までやってきた。依然として声は聞こえる。
「開けてみないと分からないか」
恐怖を抑え込み、意を決して扉に手を掛ける。
ゆっくりと開けるのは更に怖さに拍車がかかると思い、一気に扉を開けた。
ぶわっと風が吹き荒れ一瞬顔を背けるが、すぐに顔を上げる。ーーーーそして目が合った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そこにいたのは、見覚えのない女子だった。
長い黒髪に前髪を揃えた賢そうな見た目。顔立ちはまだ幼さを残したまま大人びた陰もある。口調はなんとなく敬語でお淑やかな感じかのかなとか妄想を膨らまされる。
先程までの恐怖はもう無く、勝手な妄想に耽っていると、遂にその子が口を開いた。
「な、なんでしょうか・・・・・・ですか? 私に何か御用でございましょうか」
「・・・・・・?」
なんだ今のは!?
まず思ったのはそれだった。
違和感のありすぎる敬語。例えるなら天津飯にカレーがかかってるイメージ。美味しそうだ。
そんな下らない事を考えて笑いが込み上げてくるのを我慢していると、再びその女子が口を開く。
「もうめんどくさい! 猫被るのも案外難しいものね。ーーーーそれであなたは?」
「・・・・・・」
なんだコイツ・・・・・・突然口調が変わったぞ。
そして見た目と口調のミスマッチ、訳が分からなくなってきた。
本気で別人格なんじゃないかという豹変ぶり。本人が猫被ると言ってなかったら本気で疑うレベルだ。
訳の分からない俺はとりあえず自己紹介しておくことにした。
「俺は符灯凪だ。好きな物はぎゅうにゅーーーー」
「いや、別に好きな物とか聞いてないけど」
くっ、すまないキラ。お前のネタは世間では通用しなかったようだ。
しかし、普通に自己紹介とか恥ずかしいのでどうしたものかと考えていると、その女子は何か納得したように口を開いた。
この時のセリフを俺は生涯忘れることはないだろう。
「さては凪、あんた頭悪いわね」
俺にとっては最大の侮辱をさらりと吐いた美少女は清々しい迄のドヤ顔をしていたのだった。
こんばんは雪風蒼です!
自分のミスでこんな時間からの連載開始になってしまい申し訳ございません。
今作は少し前から書こうと思っていた二作品とうちの一つです。
もう一作品の方も遠くないうちに連載開始しようと思っているので、頭の片隅にでも覚えといて頂けるとうれしいです。
こいつが語る頭の良さとはを書くにあたって心がけていることは読みやすさです。
ミストライフとは違い、緊張感のない頭を空っぽにして気軽に読めるようなそんな作品に仕上げていくの目標に今後頑張っていくので是非よろしくお願いします!