オーク再び
「またあのオークね」
刀ちゃんが言う。前方には、以前エルフちゃんを襲っていたオークが現れていた。
「うがあ」
勝てるだろうか。エルフの里から歩き、そこそこ離れた林までダイに案内され、道中雑魚モンスターと戦い、Lv 3 まで上がったとはいえ敵はHP 100 だ。
「やあオーク長!」
ダイがオークに声をかける。何をやっているんだダイ! 俺は思わずオークの前に飛び出した!
「お忙しいところ失礼いたします。またお会いできて嬉しく思いまグホアア!」
「このバカ!」
またも吹っ飛ばされる。なぜだ。「懲りないわねあんたも」という刀ちゃん。営業は粘り強いのだ。
「オーク長、こっちはユウ。俺の仲間だ」
「うがあ?」
ダイとオークが会話をしていた。いや、会話ではないか。
「うがあ」
オークはついてこいと言ったのか、林の奥のほうへ向かって歩き始めた。
「すまん、あのオークは敵じゃないんだ」
「なんだ……そうなのか」
にわかには信じられない。しかし、ダイの言うことだ。本当なのだろう。体を起こし、ダイと共にオークを追う。
道中、ダイから「あのオークはオーク長なんだ」とオークたちをまとめる長なのだと聞いた。オーク全体をまとめているのはまた別にいるらしいが。
★
オーク長の後を追い、到着したのはオークの村だった。肉を焼き、囲って食べていたり、槍や斧を研いでいたりしている。
「うがあ」
「ここだ」
オーク長が止まり、ダイが言う。村の一番奥。どうやらここがオークの村で一番偉いヤツがいるらしい。中に入った。
「うごあああああ!」
「な、なんだ!」
中に入った途端、雄叫びで耳をふさぐ。
「よう、ダイじゃねえかぁ! ん? そいつはぁ?」
でかい。オークもでかいが、さらにでかいオークがそこにはいた。
「オークキング、こっちは俺の仲間のユウさ」
「ふぉおおおん?」
オークキング。大きな目と口。威圧感が凄い。しかし不屈の営業たる俺は、しかとその瞳を見つめ返した。
「ほぉん……。気に入った」
どうやら好印象を与えたようだ。
「お前さんもダイと一緒に戦ってくれんのかぁ?」
「というと?」
「今、オレらオークはエルフと戦ってんだぁ! あいつら許せねえ!」
「ダイ、どういうことなんだ?」
オークキングは興奮している。ダイに話を聞こう。
「ああ、オークの中で喋れるのはオークキングだけで凄いことなんだけど、話はあまり上手く無くてな……」
ダイからオークの村について聞く。ダイの話によると、今オークの村はエルフと争いをしており、劣勢に陥っているそうだ。争いの種は、オークキングの子供をエルフに誘拐されたからだそうだ。
「あの耳長種族め……!」
オークキングが鼻息を荒くする。まて、だとすると、オークは敵ではないのか?
「オークキングの子供を誘拐し、自分たちのために働けと恐喝されているのが、オーク村の現状だ」
「なんと……」
衝撃だった。完全にオークが敵だと思い込んでいた。「信じられないわ……」と刀ちゃんも絶句の様子。そりゃそうだ。
しかし、エルフに監禁されそうになったことや、あの族長を思い出すとしっくりくるものがある。
「オーク長……申し訳ありませんでしたぁ!」
「うがあ?」
俺はオーク長に、謝罪した。勘違いとはいえ、切りつけてしまうとは何とも営業として情けない。オーク長はそんな俺を許してくれるのか、「うがあ、うがあ」と言ってくれた。気にすんなと言っているんだと思う。
「ああ……あのエルフ共、覚悟しとけよぉ!」
「うがあ!」
息まくオークキングとオーク長。怖い。
「ま、こういうことだ。そんでこのままだと勝ち目がないんだが……ユウが来てくれて助かった。この戦い勝てるかもしれない」
★
オークキングも興奮が冷めたようだ。ダイから話を聞く。
まず、戦力について。
オークの数は40名。 エルフの数は200名。
オークの武器は槍と斧で、力が強く体力が多いのが特徴だ。
一方、エルフは体力は少ないが、弓や魔法といった遠距離攻撃を仕掛けてくる。
1対1ならば勝てるだろうが、恐ろしいのはその数だ。連携をとって攻撃してくる。
もともとオークも数は100名くらいいたが、草原での小規模な戦闘で多数の同士を失ってしまったのだ。賢さも高いエルフには猪突猛進では勝てなかった。
「ここまではいいな」
教授さながらダイが促す。はい、ダイ先生。
「時間はあまりない。このままではジリ貧だ。そこで、一発逆転を目指す」
ダイ先生が、俺、オークキング、オーク長を見る。あ、ガイの奴、対戦ゲームするときの目だ。
「心して聞け。作戦名は一転突破だ!」
「いい名前だぁ! うおおお!」
「うがあ!!」
オークキングとオーク長が喝采をあげる。ダイが続ける。
「内容だ。まず、エルフの里を襲うが、目的地はあの神聖なる木だ。あの中心にエルフ族長がいる。だが、この戦力差では到底たどり着けない。そこで、オーク部隊を3隊に分ける」
「かなり少なくなるな」
「そう。だが、勝つためだ。3隊に分けた後、各隊は神聖なる木の後方、右側面、左側面より接近し、火の点いた槍を投げる。エルフの里は木が主に使われているからな。容易に燃えるだろう」
「だがぁ、エルフの奴らがすぐに迎撃してくるんじゃねぇかぁ?」
「大丈夫だ。そこはオークのスキル。≪土煙≫を使う。土煙は敵の命中率を下げるスキルだ。オーク10体が前に出て、土煙を使いながら火槍を投げまくる。しばらくは持つ」
「残りの3体は?」
「こいつを吹いてもらう」
そういって、ダイは音の出口が沢山分かれている竹のような笛らしきものを取り出した。
「うがあ?」
「この笛で攪乱する。これは見てもらえばわかるが、音の出口が複数ある。俺らのような人間じゃ無理だが、オークの肺活量なら楽勝だろう。土煙をあげ、この笛を吹けばオークが何体いるかは相手から判別できない。エルフからしたら、遂にオークが大攻勢を仕掛けてきたと思うだろう」
上がる土煙、飛んでくる火槍、いくつものオークの声。それが3方向より迫る光景が思い浮かぶ。これならエルフは少数で対応はできまい。相手200人がうまくばらけてくれることを祈るのみだ。
「そして、俺らの出番だ。エルフが3方向の処理に手間取っている間に、正面から突っ込み敵本拠地に乗り込むということだ。まあ少しはエルフの相手をすることになるだろうが、そこはオークキングの突破力でごり押しする」
「任せろぉ!」
オークキングが胸をたたく。低い音が響く。ごり押し武装だ……。
「あとは、エルフ族長と親衛隊をここの4人で倒すってすんぽうよ!」
「おおおお!」
ビシッとダイが空を指さし叫ぶ。果たしてどうなるだろうか。時間もないということで実行は1週間後ということになった。