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思考実験室

悪役令嬢だけど先手を打って婚約破棄してみた。

作者:鬼影スパナ
(悪役令嬢、婚約破棄モノが書きたくなって私もかいてみた。流行りはだいぶ過ぎてる感あるけど。
 勢いだけで書いたかなり雑な作品なので色々ご容赦ください)
 それは学園の卒業パーティーでの出来事であった。

「マイオドール、お前に話がある!」

 パーティーで歓談を楽しんでいた卒業生の公爵令嬢、マイオドール・ツィーアの元に、同じく卒業生にしてその婚約者、シド・パヴェーラがやってきた。
 しかしその様子は婚約者に卒業のお祝いを言いに来た、という感じではなく、むしろ敵愾心(てきがいしん)をあらわにしている。
 マイオドールが振り向くと、シドの隣には平民出でドロスキャット男爵の養女となったメアリーの姿があった。
 思わず眉間にしわを寄せかけるマイオドールだったが、貴族として鍛えた表情筋でそれをとどめて笑顔を返す。

「これはシド様。お久しぶりです」

 2人は仲の悪くない、むしろ政略結婚の婚約者としては仲が良い方の関係であった。
 ただしそれは、この帝都の学園に入学するまでは、という但し書きが付く。
 この学園に入ってからシドは変わった。それはもう、悪い意味で。

 港を所有しており貿易が盛んなパヴェーラ公爵領。その次期領主であるシドには、金があった。そして、帝都には様々な娯楽があった。
 そう。シドは堕落したのだ。昔は神童と言われるほど頭の良かったシドだったが、見る影もない凡愚となり果てた。せいぜい見どころがあるとすれば親から受け継いだ顔くらいのものだ。
 一方のマイオドールは、コツコツと学業に専念し、首席とはいかないまでも上位にあたる成績をおさめていた。
 そんな優秀なマイオドールに対し、シドは激しく嫉妬した。

 そこに現れたのがメアリーだ。

 メアリーは平民から貴族の養女となった経緯を持つほどに優秀で、見目麗しかった。そして、持ち前の明るさと優しさをもってシドに接し、勉強も丁寧に教えた。
 そのおかげでシドはかつての影くらいは見える程度に、持ち直したのだ。

 そこまではよかった。
 だが、そこでシドはメアリーに依存した。……それはまぁ、マイオドールとの関係を考えたら当然の事とも言えた。

「わたくしに話ですか?……丁度いいわ。わたくしもシド様に話がありましたの」
「俺の話が先だ。……ここに居る皆を証人とさせてもらおう、皆も聞いてくれ! いいか、マイオドール! 俺はな、」
「シド様! 一言だけ言わせてもらいます!」

 マイオドールに向けて指を突きつけるシド。だが、マイオドールはそのシドに手の平を向けて制す。そして、一瞬止まったところでマイオドールが割り込んで口を開いた。


「あなたとの婚約、破棄させてもらいます!」


「ふん、何を言うかと思えば。だが何と言おうと俺はお前との婚約を破k……えっ、は、はああ!?」

 シドは思わず声を上げた。マイオドールの発言なんぞ、と思っていたが

「お、俺こそお前との婚約を破棄させてもらう!」

 一歩遅れてシドは婚約破棄を宣言した。
 そう、シドはマイオドールに対して婚約破棄を突きつけるはずだったのだ。
 しかし一手先にマイオドールに婚約破棄を突きつけられてしまった。

「そう。丁度良かった。……あなたにはほとほと愛想が尽きましたの。わたくしと言う婚約者がありながら浮気して……何か言い逃れはありまして?」
「それは真実の愛を見つけてだな」
「真実の愛! 真実の愛と申しましたか、このゴブリン男!」

 ゴブリン男。女性に見境がない節操なしのことを言う悪口だ。婚約者がありながらも、真実の愛とやらで隣に婚約者以外の女を侍らす男にはぴったりの言葉であった。
 現状、これを否定できる状況でないシドはたじろいだ。

「と、ともかく! 俺だってお前との婚約を破棄するつもりでだな」
「なら丁度良いですわね。ああ、もちろん違約金は払ってくださいまし。まさかパヴェーラ家ともあろうものが婚約破棄の違約金は払えない、などとおっしゃいませんよね?」
「なぜ我が家が違約金を払わねばならない!?」
「10:0でそちらが悪いという証拠はすべて揃っているのですよ。そもそも、この状況こそが決定的な浮気の証拠ではありませんか。この卒業記念のパーティーで婚約者のエスコートもせず、一体何をしているのです?」

 言われて、シドはうぐっとたじろぐ。が、そういえばどうやって婚約破棄をしようとしていたかを思い出した。

「お、俺にだってお前がメアリーをイジメていた証拠があるんだぞ!」
「へぇ、どのような?」

 マイオドールは薄く笑む。

「目撃者がたっぷり居るんだ!」
「ですから、どのような、とお聞きしているのですわ。目撃するだけならウサギにだってできます。私がどのようなイジメをしていたという証拠なのですか?」

 ふん、とシドは胸を張って言った。

「メアリーに酷いことを言っていただろう!」
「泥棒猫に注意するのは婚約者として当然のこと、嫌味くらい言いますわ」

 実のところ、マイオドールはメアリーに対しかなりキツイことを言っていた。それも、クラスメイトの前でだ。目撃者には困らなかった。
 が、実際にマイオドールの言う通り婚約者に手を出した相手だから嫌味を言った、といえば、それは全くその通りとしか言いようがなく、そして全くの合法であった。

「メアリーはクラスで無視されていた!」
「人の婚約者に手を出すようなはしたない輩と話をしたいと思う者がこの学園におりまして? 皆がメアリーの所業を知っていただけですわ」

 これについては、ただシドとメアリーが周りから浮いていただけだ。シドについては男友達が居たから無視とまではいかなかったものの、メアリーは平民出であることや、マイオドールに激しく叱責されるところを見せつけられては……わざわざ進んで関わろうという者もいなかった。
 マイオドールはただクラスメイトの前で嫌味を言っていただけであり、前述したとおり合法である。

「ああいえばこういいおって。しかしこれは言い逃れできまい、教科書やノート、制服、さらにはメアリーの大事な、母親の形見のペンダントを壊しただろう! 目撃証言の他にも物証があるぞ!」

 ひび割れた価値のない魔石が埋め込まれたペンダントを取り出すシド。一度砕けた石を接着剤(にかわ)でくっつけた、銅貨1枚分の価値も無い魔石。ペンダントの地金の方が価値があり、魔石がその価値を下げている程の代物だ。
 メアリーはそれをみて、悲しそうな顔になる。シドはその顔を見て、さらに叫んだ。

「これが証拠だ! メアリーが砕けた魔石を拾い集める姿は、見ていてとても心痛いものだった……どうだ、言い逃れできるものならしてみるがいい!」
「あらあら、それらはうっかりしていた事故ですわ」

 壊したことを否定せず、マイオドールは事故と言い張った。
 これについてもクラスメイトの目撃証言がある。事実、マイオドールは足を滑らせるフリをしてペンダントを奪いとり、そのまま地面に叩きつけて魔石を砕いたのだ。
 教科書やノートについてもわざわざ紅茶を持ったまま近づいて足をつっかけたフリをしぶちまけたり、体操服も魔法の授業で誤射したフリをしたファイアボールを(かす)らせて穴を開けたりと、あからさまに嫌がらせをしていた。

 ……マイオドールは笑顔で続ける。

「しかしそれはもうとっくに謝罪して、それについてはメアリーさんも同意しましたよね?」
「……っ……!」

 じろり、とマイオドールに睨まれて、メアリーは肩を震わせる。

「メアリーは脅されて仕方なく同意したんだ! 貴様、自分の家の爵位が分かって言っているだろう! 今もこうして脅され、メアリーは怯えている!」
「だとしても、同意しました。同意した以上はもう済んだことですわ」

 貴族である以上、契約や約束というものはとても大事だ。たとえ意に反したものでも一度「許す」と同意した以上、しかるべき手順を踏まずに反故にすれば無法者扱いされる。
 この無法者は、すなわち裏切者だ。貴族としての信用は地に落ちるどころか、穴を掘って埋まるだろう。
 腹の中で怒りを燃え上がらせ後々対立するならばともかく、それ自体を理由に何かを言及することは、できない。

 これくらいは常識のはずだけれど、と、マイオドールはため息をついた。

「他にはないのですか?」
「ぐっ、な、ならこれはどうだ……昨日、メアリーを階段から突き落としただろう! 幸い怪我はなかったものの、これは俺が見ていた! 謝罪もしていないはずだ!」
「それは正しくない表現です。アレは立ちくらみしたのに巻き込んでしまっただけですわ。すぐ保健室に向かい謝罪する機会が無かっただけですの。謝ればよろしいのですね? ……怪我はありませんでしたか? 申し訳ありませんでした、メアリーさん」
「えっ? あ、はい……」
「はい、同意を得ましたわ。これで良いですわね」

 あっさりと謝られ、反射的に許してしまったメアリー。これで、階段から突き落とした件も合法となってしまった。
 たとえ階段から突き落とした後、元気に走り去るマイオドールをシドが目撃していたところで、だ。この件についてはシドしか目撃者が居ない。
 ……シド1人が何を言った所で、他の関係者全員の間で事態は収拾されている。

「さて。もうよろしいかしら。……婚約者が居ながら他の女性をエスコートしている浮気者様? 何、違約金さえ払っていただければどうぞご自由にしてくださって良いのですよ。それが、約束ですから」

 どこに持っていたのか、マイオドールは婚約破棄についての同意書を取り出した。
 さらりとマイオドールは自分の名前を書き入れ、シドに差し出す。
 ……周囲の生徒たちが証人となり、シドは渋々と同意書にサインした。

 その後、無事に婚約破棄は成立した。


  *


 後日。ツィーア領にあるツィーア家の屋敷。マイオドールの実家にて。

 そこにメアリーはやって来ていた。
 先日無事にシドと婚約し、メアリーはパヴェーラ領の次期領主の婚約者となった。卒業パーティーで騒ぎを起こしたシドだったが、幸いにも次期領主の座はそのままだった――もう後は無いぞ、と現領主に脅されたらしいが。

 そして今日、メアリーは故郷(・・)にいる「お世話になった人」に挨拶をしに帰って来たのだ。

「このたびはご苦労だったわね、メアリー」
「いえ、マイオドール様こそお疲れ様でした」
「もうシドとは婚約破棄したのだから、昔みたくマイ、でいいのよ? それに、今後は婚約者も居ない、家を継ぐわけでもないただの公爵令嬢の私とくらべたら、領主夫人になるメアリーの方が上の立場になるのだから……ああ、メアリー様って呼んだ方がいいかしら」
「滅相もありません!」
「ふふ、ならメアリーも……」

 くすり、とマイオドールは笑う。
 メアリーも、つられて笑い、「はい、マイお嬢様」と答えた。

 メアリーは、かつてマイオドールが支援する孤児院に居た、孤児の1人だった。
 マイオドールが孤児達に施した教育を経てメアリーは商人見習いとなり、その結果貴族の目に留まり、ドロスキャット男爵家の養女として引き取られたという経緯を持つ。
 つまり、2人は学園に入る前からの仲だった。幼馴染、と言ってもいいほどだ。

 要するに、メアリーは最初からずっとマイオドールの味方だったのだ。

 報酬としてメアリーが居た孤児院への追加支援を要求されたが、マイオドールはもとよりそのつもりなので実質タダみたいなものである。

「それにしてもメアリー。教科書やノート、あとペンダントも……本当にごめんなさい」
「いえいえ、マイお嬢様にお世話になった恩を思えばあの程度。それに、ああして守って頂けたからこそ、余計なチョッカイを受けずに無事に卒業できたわけですし」
「わたくしにもっと力があれば、こんな手間なことをしなくても良かったのですけどね」

 男爵、という比較的弱い後ろ盾しかもたず、根回しも(対外的には)せずに婚約者にちょっかいを出すような輩が何もされずに無事でいられるわけがない。そこで、マイオドールはあえて見せつけるようにメアリーをイジメていた。
 被害者であるマイオドールが直接手を下してみせることで、他を牽制していたのだ。他から手伝いの打診を遠回しにされても、マイオドールは明確に、断固として断っていた。

 もっとも最後の決め手と決意させた階段の突き落としについてはシドだけに見せたわけだけど。……パーティーの席でうっかり許した? 貴族に養女と求められ、マイオドールが自信を持って推薦する程に優秀なメアリーがそんなミスをするはずがない。計画通りである。

「それにしても私、あのペンダントを形見とは一言も言っていないんですけどね。母親のように大切な人から貰った、とても大事なものとしか……事前に聞いていたとはいえあれを壊された時はさすがに涙出ましたよ」
「親だなんて。せめて姉と言って欲しいわ、孤児院から出るときにわたくしがあげたペンダントじゃないの。……そんなに大事にしてるとは知らなかったけれど」
「マイお嬢様の手作りペンダントですよ!? たとえ何の効果のないお守りでも、孤児院出身者は皆家宝にしてますから! あ、そうだ。ダメージ加工って考えればマイお嬢様の手が新たに加わった、他の皆のより一段上なペンダントってことになりますね。ふふふ」
「……懐かしいわね、みんなでペンダント作って売ったのも」

 どこか恍惚として遠くを見るメアリーに対し、目を逸らすマイオドール。そういえば昔からこの子はそういうところがあった気がするわね、と、思い返していた。

「ただ、マイお嬢様との学園生活というのを楽しみにしていたんですが、そこは残念でした」
「本当に、苦労を掛けたわね。もっとお友達を作ってあげられたらよかったのですけど」
「そんな! マイお嬢様だけいれば私は! むしろ罵倒されて嬉しかったですし! 罵倒されたり蔑まれた目で見られるたびにゾクゾクしちゃって、顔がにやけるのを抑える方が大変でした!」
「そ、そうなの?」

 思わず半歩分、距離を取るマイオドール。
 2人の関係を考えれば当然だが、シドを巡って対立していたはずの2人の会話は、始終和やかだった。


 今回の卒業パーティーでの茶番劇は、マイオドールとメアリーが組んでシドと婚約破棄をし、かつ、ついでに違約金を搾り取るためのものだった。
 遠慮? 金がたくさんあるところから分けてもらっただけだし、むしろ次期領主が道を踏み外そうとしたのを助けたのだ。正当な報酬ですらあるだろう。
 そこそこ派手になってしまったが、まぁ、人目を集めるのは想定内のことである。

 本来、マイオドールはこのように一方的に搾取するようなことはする気はなかったのだが――シドが堕落したのが悪かった。
 その頃になると最初からあまり興味のなかった婚約者(シド)に対し、マイオドールは婚約破棄したいと思うようになっていた。まさかこれほど使えない男だとは思わなかった、といったところか。

 しかし、結婚前の夜遊びくらいではまだ婚約破棄するには弱い。政略結婚のための婚約で、改めて契約書を見直してもせいぜい半々の責任、良くて6:4だ。

 そこで、折角なのでそのままメアリーに篭絡させ、ついでに再教育させつつ婚約破棄に合意させる流れを作ることにした。7:3くらいを目標にしていたのだが、シドがいい場所できっかけを作ってくれたおかげで10:0(完全勝利)まで勢いでゴリ押すことができたのだ。

 それもこれも、メアリーの献身的な協力があってこそである。
 道を踏み外しかけていたシドを救った件もちゃんとマイオドールが報告していたので、パヴェーラの現領主にも「よくシドを助けてくれた、これからも息子を頼む」と褒められたらしい。
 近い将来、メアリーはシド相手に手綱(たづな)を取り、パヴェーラに損のない程度にツィーアに利益を多めにもたらしてくれることだろう。

「メアリーはよかったの? あれと結婚して」
「案外可愛いとこもありますよ、マイお嬢様ほどじゃありませんが……」

 2人はツィーア領の今後の発展を思って、笑い合った。
 その光景はとても貴族らしく、少しだけ黒かった。


「それにしても、この程度の茶番を見破れないとは……シドも凡愚になっているし、これから苦労しますわよメアリー?」
「当初よりはマシです。ですが、これほど大事にする必要があったのですか?」
「ふふふ、シドには悪い事をしましたが、平民出のメアリーが次期領主と結婚するにもシドの評判が落ちておけば釣り合いがとりやすくなってたでしょう?」
「それはいいんですが、マイお嬢様にも悪評がたっちゃいましたよね」
「むしろ望むところです、私は他に好きな人がいますからね」
「え、マイお嬢様いつの間にそんな人が? ちょっと気になります、誰ですかソレ。昔からマイお嬢様って冒険者が好きでしたよね……はっ、まさか孤児院から冒険者になったリュート?」
「違います。あんな鼻クソ小僧、頼まれてもお断りですよ。……ふふふ、あの方は貴族の噂には疎いですし、そもそもそのような色眼鏡で私を見ません。あの方の側に居られるなら嫁き遅れることも辞しません。むしろあの方に貰っていただくまでどこにもお嫁に行きたくありません!」
「マイお嬢様がそこまで言う程ですか!? ……ええと、まぁその。頑張ってください?」
「はい! 正妻の座は既に埋まっているので側室を目指して頑張ります」
「妻帯者なんですか?!」


(尚、この短編は私の別の連載とは全く関係ありません)


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