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LN小話  作者: uka
4/6

4月20日 一晩中騒ぎ明かせば

TO:カナさん

そう言えばあの日結局夏芽さん見かけませんでしたね。

折角副司令官にお土産のケーキ山盛り買ってもらったのに………

 多分、ここの人はみんなアホなんだと思う。

 いや、本当に。冗談抜きで。


「カノくぅん~呑んでるかぁーい?」

「ナツメ、うざい」

「あー………誰だよボスに大吟醸呑ませたヤツ」

アカリ副司令官がボスの口に瓶を突っ込んでいた」

「止めなかったんですか?」

 傍らのクゥさんに問い掛けると、意外にもふるふると首を振られた。

「本格的に酒の入ったあの人を、止める術を俺は知らない。………物理以外」 


 なるほど。ぶん殴って黙らせる以外方法はないと。

 ホント、俺帰っていいかな?



 という会話を交わしたのが午前1時。携帯端末を片手に人知れず溜息を吐いたのが、午前4時。

 更に遡ること午後1時、昼食終了直後LN棟に嵐のようにやってきた灯副司令官が『今から新歓花見コンパだぜ! 酒持ってきなァ』と言うだけ言って嵐のように去っていってから、ものの一時間足らずでLNとレベルEとの合同新人歓迎会という名の酒飲み大会が始まった。名目上は新歓&お花見パーティーらしいが、ただ単に酒が飲みたかっただけだと思っている。


 考えてもみて欲しい。レベルEはどうだか知らないが、LNの新人は俺一人だ。

 

 その証拠に、一番最初に出来上がったのは灯副司令官だった。

 というかそもそもLN棟に来る前から飲んでいた。


 理由も分からず酒だ花見だとテンションMAXになった夏芽さんの指示により、俺とクゥさんはARIAまで他の課の方々と途中で出くわしたレベルEの方々と共に酒の調達に駆り出された。レベルEの方々の並々ならぬ気迫、あれは凄まじいものがあった。全ての酒を手に入れんばかりの勢いは流石は前身がレーヴァインの軍だけはある。上司の命令は絶対と教え込まれているのだろう。正直俺には理解できないが、素晴らしい統率力だった。『全ては副司令官の為に!』の合言葉を最後に散り散りになった。きっと各店舗に分かれて調達をしに行ったのだろう。

 俺達LN部隊はと言えば各々が飲みたいものをマーケットで購入するに止まった。ビールやワインを買えば良いものだろうに、何故かリキュール類ばかりを籠に入れる先輩方の姿を見て溜息が漏れそうになったが何だか楽しそうだったので何も言わずに従った。


 そして午後2時よりレベルE直下庭園で開催された新歓&花見大会は夜が更けて星が瞬く深夜を迎え、朝日が昇っても終わらなかった。

 午前7時を過ぎたところで俺はポチポチ携帯端末を弄り始めた。眠くはないが暇だったからだ。見上げた空はとうに明け太陽が優しく酔っ払い共を照らしていて、戦場(花見会場)は死屍累々。色とりどりのビニールシートには突っ伏して寝る者、腹芸のまま寝る者、酒瓶を持ったまま寝る者と未だ飲み続けている猛者とが8対2くらいの割合で青空の下無様な姿を晒していた。途中席を変え両組織入り乱れてのお祭り騒ぎだったから、最早この屍共の誰がどこの所属なのか判別不明だ。


「いつ終わりが来るんですかね。この地獄は」


 一際大きな桜の下、見渡す限りの屍の山を横目に俺は隣で同じくシートに座るカナさんに問い掛けた。

 

「あー、そうだな。そろそろだと思うぜ。あと2時間で業務開始時間だし」


 事もなげに言うカナさんは昨日より一睡もせずノンストップで飲み続けていた2割の方に属していた。度数の高いものを飲んでいたか否かは問題ではない。顔色にも声色にも変化なしでいつものカラッとした太陽のような笑顔をキープしている。この人実は妖怪か何かだろうか?


「お前先帰っとくか? メシ………はいらねぇかもだけど、風呂は入っておきたいだろ? まだ1時間半はあるしついでに寝とけ。いくら徹夜に慣れてるっつってもまだ未成年だしな」

「カナさんは?」

「オレはコイツ連れて帰るわ。一回寝たらなかなか起きねぇからなー」

「夏芽さんは捨てておいてもいいですかね?」


 カナさんの左側にはクゥさんが苦悶の表情で、俺の右側では夏芽さんが心地良さそうに眠っていた。ローズさんは午前2時を迎える前に『ねむい』と一言残し寮へと帰っていった。

 先に帰らせて貰えるのは非常にありがたいが、カナさんがクゥさんをお持ち帰りするのであれば夏芽さんは俺が運ぶべきなのだろうが、如何せん体格差もあり出来れば遠慮したい。そんな俺の心を見透かしたようにカナさんは言った。


「いーよボスは。放っときゃどうせ後でアカツキが引き摺って帰るだろ」


 問題ない問題ないとカラカラ笑うカナさんは本気で夏芽さんを置いて帰る気だ。そして当然のように暁さんが面倒を見るのか。寝ても覚めても暁さんに付きまとう夏芽さん。ご愁傷さまです暁さん。


「ではお言葉に甘えてお先に失礼します」

「おー、また後でな」


 せめてもの償いとして(勿論暁さんに対してだ)夏芽さんにそっとブランケットを掛けてやった。せいぜい今のうちにいい夢を見てくださいと耳元で呟いた。後程暁さんの鉄拳制裁が待っているはずだから。



***



 ピッと隊員証をスキャナーに通して入室する。流石に今日は揃って朝食を取ることもなく、寮から直接特能課に来た。案の定室内には別れた時と変わらないカナさんと、いつも以上に無表情なクゥさん、もそもそと惣菜パンを頬張るローズさんがいた。だがぐるりと視線を彷徨わせるも、煌めく銀髪は見当たらなかった。


「ボスはあれだ。医療課」

「ああ、二日酔い…」

「酒に弱い訳ではないが、場の空気に飲まれやすいんだ」


 苦笑するカナさんに続いて答えたのはクゥさんだった。クゥさんもそれなりに飲んでいた筈だが寝不足なだけでアルコールが残っている訳ではないらしい。存外皆酒には強いらしい。


「カノにはつまんなかったか? まだ未成年だもんなぁ」

「ノンアルコールカクテルを作ってもらってましたし、騒がしいのは苦手ではありますけど催し物は楽しかったです」

「そっか?」

「はい。なかなか興味深かったです。あの人には困りましたけどね」


 俺の酒が飲めないのか! なんてどこの三文芝居なんだと思うようなセリフを吐き出しながら無駄に迫って来たナイスミドルを思い出して人知れず溜息を吐く。本当、あれは迷惑だった。

 日中から飲んだくれているだけあって相当強いらしく、次々と部下を撃沈させていったあの膵臓だけは尊敬する。それ以外ははた迷惑なおっさんだ。


「迷惑極まりない人だが、公然的に部下とああやって飲める機会はないからな。まぁ大目にみてやって欲しい。良い人ではないが悪い人でもない」


 意外だった。数える程しか副司令官とクゥさんのやり取りを見たことがないけれど、常に冷ややかな態度を崩さなかったのに、今のクゥさんは何だか困ったような苦笑を浮かべている。


「あれだ。オレ達は灯さんとも付き合い長いしな。ガキの頃から知ってっからさ、色々とあるわけよ」

「へぇ…」


付き合いが長そうだとは思っていた。敬語なんてあってないようなものだし馴れ馴れしいとは違う、もっと何か………ああ、そうだ。距離が近いと思ったんだ。家族に近い、そんな空気。


 チリリと胸を掠める痛みは見ないフリをした。



***



「よぉ、昨日はお疲れさん」

「灯副司令官………今は俺しかいませんよ」

「真顔で拒絶すんのやめてくれる? おじさん泣いちゃうぞ」


 暇なんですか、とは聞けなかった。俺の中の社会人としての常識が感情を上回ったのだ。喜ばしいことである。相手は夏芽さんじゃない、レベルEのNO.2だと言い聞かせた。


「卸したてのハンカチを常備しています。どうぞ」

「お前強いな」

「上司の教育の賜物です」

「ツメとお前の関係が何となく分かった」


 聞き慣れない単語に首を捻る。ツメ、とは?


「ああ、ナツメの事だ。ナ、ツメ。だからツメって呼んでる。アイツ可愛くねぇからツメじゃ返事もしねーけどな」


 俺の疑問に気付いた副司令官が答えてくれた。


「仲良いんですね。昔から皆さんのこと知ってるってカナさんが言ってました」

「ん? ああ、そうだな。LN全員ってワケじゃねぇが、特能課の4人と暁、武器課のデコボココンビはガキん頃からレベルE所属してっからな。アイツらは多少歳の違いはあるが幼馴染ってヤツだ。俺もレベルE発足時からいるんで、まぁアイツらにとっては親戚のおっさんみたいなモンじゃねぇか? あの頃は俺も若かったしよく遊んでやったからなァ」


 デコボココンビが誰を指すのか知らないが、昔を懐かしむ副司令官が口元を緩めているのを見て口を噤んだ。会う度に見る不敵な笑みではなく優しい表情に、そんな表情も出来るんだとマジマジと眺めてしまった。


「ところで今日の御用向きは? 見ての通り今の時間は俺しかいないですが」


 今日も俺は一人特能課で留守番だ。

 書類整理も済んだ、他課ヘルプ分のデータ処理も済んで提出した、副司令官が来る前は部屋の掃除をしていたのだ。余りにもすることがないので暁さんのところへ仕事を貰いにいこうとしていたくらいだ。あの課はいつも忙しいので、手が空いたらデータ入力を手伝っている。

 今日はどこも昨日というか今朝までの酒盛りで余り仕事に身が入らないようで、暁さんから各課に宛てたメッセンジャーが火を噴いていた。恐ろしい。


「お前に用があったから丁度いい。暇だろ? おじさんがおいしいケーキをご馳走してやろう」

「喜んで!」

「お前………まぁいいや。ツメとトゲには言っとくわ」


 ケーキ、という単語に副司令官が人知れず苦笑いを漏らしていたことを俺は知らない。



***



 おいしいケーキ、という言葉通りそれはとても素晴らしいものだった。

 

「よくこんな甘ったるいモン食えるよな。カナ坊も相当甘党だがお前も負けず劣らず………ま、そんだけ幸せそうな顔が見れんだったら安いもんだが」


 次々と運ばれてくる色とりどりのケーキにうっと顔を顰めた副司令官は唯一自身が注文したアイスコーヒーを掻き混ぜた。カランカランと半分溶けた氷が音を立てる。

 この人にはケーキは似合わない。どちらかと言えば辛いものが好きそうだとフルーツタルトに手を伸ばしながら考えた。ナッツ、さけとば、イカの塩辛、たこわさ………うん、酒のツマミがよく似合う。

 ところで何で俺はこの人とおやつタイムを一緒に過ごしているのだろうか。

 ケーキに釣られて目的を聞くのを忘れていた。LNでは話し辛いことなのかと問うと、そうではなかったらしい。片肘をついていた右手を振ってそんな大層なことじゃないと言われた。


「連れ出したのは俺の気晴らしも兼ねてだ。今日は純粋にお前に会いに来ただけ。こんなのでも一応お前らの統括でもあるからな。指示系統はちと違うがウチの所属。だから俺の部下でもある。レベルEの新人連中とは昼メシ食ってきた。で、次はお前の番」

「そんなことしてらっしゃるんですね」

「まーな。どうしたって普段は構ってやれねぇから、時間が許す限り毎年この時期は一緒に過ごすようにしてる」


 何というか意外だ。と同時に昨日の酒の買い出しを思い出す。合言葉は『全ては副司令官の為に』だったか。あれは新人ではなかった。つまりそれだけ慕われているという事なのだろう。

 何度か顔を合わせているが、この人がどんな人物なのかよく知らない。酒好きという事と、その肩書に似合わない軽い態度、総じてレベルE(LNも含んで)上下関係が微妙に緩いとは言えかなり上の地位にいるにも関わらず一新人をお茶に誘うその気さくさ。

 悪い人ではないというクゥさんの言葉の意味はこういうところを言ったんだろうなと思った。

 ただ、何と言って良いのか分からずとりあえず頭を下げた。


「恒例行事なんだよ。俺が俺の意思で勝手にやってるだけだ。一応な、副司令なんて職を拝命して数百人の命を預かってる。いざって時に守ってやらにゃならん相手の顔と名前が分からないなんて無様な真似したくねぇだろ」

「真面目なんですね」

「意外にって思ったろ」

「副司令官を見掛けるタイミングが悪いんです」

「俺の所為じゃなくてクゥが図ったようなタイミングで来るのが悪い」

「普段は真面目なんです?」

「雅がいるからな」

「総司令官ですね」

「まだ会ったことねぇよな? アイツなーめちゃくちゃ忙しいんだよ。お前に会いたいって言ってんだけどな。こっち戻ってくんの夜になることが多い」


 その内嫌でも会うけどな、と人の悪い表情をする辺りが『良い人ではないが悪い人でもない』と言われる所以なんだろうなと思った。


 ただ、ケーキをたらふく食べさせてくれたから、俺の中では割と良い人に分類することにした。

TO:カノ

あー………暁の回し蹴りが良い感じに後頭部にめり込んだらしくて目覚めなかったんだってよ。

起きたら次の日だって言ってた。

つーか灯さん完全にお前の財布になってんじゃねーか!

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